泡沫〜ウタカタ〜

透華

不思議〜フシギ〜

彼が表情を崩して、薄く微笑んだ瞬間。

私は緊張の糸が切れた様に、その場で大声

で泣きだした。

こんなに泣いたのは果たしていつぶりだろ

うか…?

彼は驚いた様に私を見つめた後、私の頭を

優しく撫で始めた。

すると、不思議なことに涙は急に底をつい

た様に流れなくなる。

「名は何と言う?」

そのタイミングを見計らったように、銀髪

の青年は口を開いた。

「悠」

さっきまで泣き喚いて居た筈なのに、声は

いやにはっきりと出た。

「悠か…。では悠、何故、こんな所にいる?」

こんな所と言われても…。

私は辺りを見回して溜息をついた。

綺麗ないつもの大木、それから緑の深い周

りの木々達。

いつもの森と変わらない筈なのに、何故が

いつもと違う気がする。

明確に違うところといえば、眼下に広がる

大きな水溜りだけだ。

あとは…。

大木に目線を戻してみると、私がいつも

しゃがんでいるのとは逆の根元に小さな箱

が置かれていた。

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