戦術騎兵ウィザード

芽中要

第01話 「ウィザード、始動」 No Welcome.

 第一話 「ウィザード、始動」 No Welcome.

 戦闘パート・三人称視点

 時に西暦二〇××年。
 それは突然現れた。
 正体不明の飛行物体。
 それが未知の侵略者だという事人々は知る由もなかった。

 生物なのか機械なのかも解からない独特なフォルムをしたその物体は『戦闘力』という点において地球上の兵器を遥かに凌駕した。
 人々はその未知の襲来者を畏怖の念を込めて『アニヒレーター(Annihilater=殲滅者)』と呼称した。
 その後、対アニヒレーター迎撃部隊として『SODE(Special Offence Department on the Earth areas=地球圏特殊攻撃隊)』が設立された。
 そして、それと同時に汎用人型機動兵器の開発が開始された。
 アニヒレーターは何故か市街を中心に襲来した。
 それはまるで人間を優先的に殲滅するのが目的であるかのようだった。
 その為、核兵器等の広範囲にわたる兵器は人道的に使用しうるものではなかった為である。
 しかし、『戦術騎兵(Tactical Trooper=通称T2(ティーツー))』と呼ばれるその兵器も絶大な力を誇るアニヒレーターの前ではあまり有効な兵器とは言えなかった
 アニヒレーターは『障壁』と呼ばれる特殊なバリア・フィールドを有しており、精度の低い攻撃ではかすり傷一つ付ける事が出来なかった為である
 そして、アニヒレーターが襲来してから約二十年……。
 日本の首都・東京がアニヒレーターの襲撃を受けていた。
 翼を有した巨大な異形の怪物達が意思を持っているかのように、規則正しく布陣を組み、空中で爆撃を行っていた。
 早々に避難勧告が出ているので、人死にこそ出ないものの、建物等の物的被害は甚大だ。
 その様子をモニタリングしていたショートカットのオペレーターが叫ぶ。
「アニヒレーターⅠ(ワン)、出現! 街を攻撃しています! 数は十五!」
 その声が届いているかどうかは定かではなかったが、おそらく高い階級にあるであろう指揮官風の男は静かに呟いた。
「来たか……」
 男は森本正もりもと ただし
 三十七歳という若さにしてSODE一課・司令である。
「出撃準備は出来ているわね? 予定通り二人を出撃させて」
 セミロングの聡明そうな妙齢の女性が命令を下す。
 彼女は英田蓉子あいだ ようこ
 歳若く、女性の身でありながら既に中佐である。
「本当に二機だけで出撃させるんですか?」
 心配そうなもう一人のオペレーターに対し、蓉子がこう返した。
「問題ないわ。あの二人なら」
「シミュレーションでは九〇%以上の勝率です。問題はありません」
 「あの二人」の片割れのナビゲーターである銀光流しろがね ひかるが口を挟む。 彼女の声にも不安の色はない。相棒の勝利を疑っていないようだ。
 彼女も十七才という若さですでに曹長という才媛である。
「危険だと判断したらすぐに増援を送り込むわ。配置は完了しているわね?」
 物事に「絶対」という概念は「絶対」に存在しない。
「あの二人」を信頼しつつも、蓉子は保険をかけておいた。
「地下施設に配置完了済みです。いつでも動けますよ」
 即座にオペレーターが返答する。
「まあ、必要ないと思うけれどね」
 その言葉は二人の勝利を確信していた。
「御神少尉、東准尉」
「ああ」
 「御神」と呼ばれた男が上官に対してはぞんざいな返事をする。
 若い男だ。
 まだ、成人には達していないだろう。
 その不躾な口調とは裏腹に女性と見紛うばかりの美しい顔をしている。
 彼は御神有志みかみ ゆうじ
 齢十九にしてSODE一課・少尉であり、T2『ウィザード』の専属パイロットだ。
 火兵戦を得意とするが、白兵戦が不得手という訳ではないオールラウンダーなSODEのエースパイロット。
 搭乗する機体のカラーリングから「しろがねの閃光」と呼ばれている。
 が、当人はそれを誇りに思っていたりはしない。
「はい」
 「東」と呼ばれた男は対照的に礼儀正しく返事をした。
 上背が高く、日に焼けており、精悍な風貌をしているにもかかわらず、どこかさわやかな印象を受ける。
 彼らを知らない者が通信だけを聞けば、この二人の応答が反対だと思う事だろう。
 彼は東雷牙あずま らいが
 SODE一課・准尉であり、T2『サバイバー』の専属パイロット。
 有志とは対照的に白兵戦を得意とし、SODEでも数少ない白兵戦のみでアニヒレーターを倒せる程の実力を持ったパイロットでもある。
 有志と同様、機体の色から「くろがねの迅雷」と呼ばれ、有志とは異なり、その二つ名に矜持を持っている。
「システム、オールグリーン。進路クリアー。御神機・ウィザード、出撃します」
 計器等のチェックを済ませた光流の心地良い声が響く。
 地下施設から地上に姿を現すウィザード。
 運動性能を重視したとしか思えない繊細なフォルム。
 そして、機体からは「自分が囮だ」と言わんばかりの鮮やかな白銀の光を放っていた。
「好き勝手やりやがって……叩き潰してやる!」
 怒りを瞳に宿らせ、有志が憤る。
「東機・サバイバー、出撃します」
 牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけた、SODE一課・伍長である武田電磁郎がアナウンスする。
 程なくサバイバーも姿を現す。
 白兵戦に特化されているのか、装甲は分厚いが愚鈍なイメージはまるでない。
 ウィザードとは対照的に隠密性を重視した黒を基調にカラーリングされている。
 左肩には稲妻を模したマークと二つ名を意訳した「BL(Black Lightning)」の文字が入っている。
 大小の近接武器を持ち、その姿は正に侍のようだ。
「准尉、頑張りましょう」
 激励する武田。
「ああ」
 短く返事をする東。
 かくして、新型T2二機とアニヒレーター十五体の戦いが幕を開けた。
「新型のお目見えだ! 覚悟しやがれ!!」
 早速見つけた獲物を強襲しようとするアニヒレーターⅠに対して、一早く有志が攻撃を開始する。
「障壁ごとブチ抜いてやるぜ!」
 光学兵器であるハイパービールライフルの閃光がアニヒレーターⅠを障壁ごと貫く。
 その刹那、爆音とともにその巨体が消し飛ぶ。
「アニヒレーターⅠ、完全に沈黙!」
 興奮気味に叫ぶオペレーター。
「新型機の性能はまずまずのようですね」
「ああ……」
 オペレーターの興奮はよそに冷静な二人。
「なかなかいい調子じゃねェか。これで本調子じゃねェんだからな」
 有志が呟く。
 出撃前に運動性能は万全ではないと聞いていた。
 それでも、有志は新型機の性能に概ね満足なようだ。
「運動性の出力は八〇%程度ですが、兵装は百%稼動していますから」
 それに対し、具体的な数字を提示する光流。
 そんな会話も束の間、今度はサバイバーが攻撃に晒される。
「そうか……。そんなに新型機の性能が見たいか……」
 紙一重で攻撃をかわす。
 むろん、ぎりぎりという訳ではなく見切っての事だ。
「それなら、嫌だと言っても見てもらおう!」
 咆哮をあげつつ、新兵装のバーニングブレードでアニヒレーターⅠを障壁ごと真っ二つにする。
 間もなく四散する巨体。
「悪くない……。特に武器の性能はウォーウルフとは段違いだ」
 東も新型機の性能に文句はないようだ。
「それはそうですよ。東准尉に合わせて格闘武器の性能をアップさせてありますからね」
 武田の言葉によると、東専用にカスタマイズされた武器であるらしい。
「東、このまま俺達だけでカタをつけるぞ」
 いける、と判断した有志が東に言う。
「了解です」
「張り切るのは良いけれど、無理は禁物よ」
 一応釘を刺す蓉子。
「英田中佐のおっしゃる通りです。慎重に任務にあたって下さい」
 二人の勝利を信じつつも、光流も同意見のようだ。
 しかし、パイロット二人は確信した通り、特に危なげな事もなくアニヒレーターの数を半分ほどまで減らした。
「どうだ、東。新型の調子は?」
「悪くありませんね。まだ触ったばかりなので、細かい事はこれから確かめていきますが」
「相変わらず、優等生だな。面白味のない奴だぜ……」
 そんな会話をしている有志にアニヒレーターⅠが襲い掛かかった。
 が、その攻撃の方向はあらぬ方を向いていた。
 ウィザードの特殊兵装である「ファントムドライブ(Phantom Drive)」が発動したのだ。
 ファントムドライブとはパイロットの戦意が高揚している時に限り、ランダムで相手に幻影を見せるシステムである。
 発動条件は厳しいが、発動すればかなり有用なシステムだ。
「どこ狙ってやがる!」
 その隙を見逃さず、ビームライフルで易々とアニヒレーターを沈める有志。
 その後も二人は「殲滅者」という名前を冠したアニヒレーターを反対に殲滅し続けた。。
 ……。
 ………。
 …………。

「敵機、殲滅を確認」
 オペレーターが戦闘の終了を告げる。
「終わりましたね」
「ああ……」
 作戦の責任者である二人は最初からこの結果を予想していたようで、実に淡々としていた。

 戦闘パート・三人称視点
 SODE一課・地下施設内

 万が一に備え、T2・ガードドッグ、T2ウォーウルフに搭乗して待機していたSODOの隊員達は勝利に沸いていた。
「どうやらオレたちの出番はなかったようだなッッ」
「キャロラインに心配をかけずにすんだよ」
「ヴィンナムジディヨカッダ(みんな無事で良かった)
「たった二機であれだけの数のアニヒレーターを殲滅させてしまうなんて、さすが『銀の閃光』と『鉄の迅雷』……。SODE一課のツートップですね!」
 興奮覚めやらぬ様子のオペレーター達。
 今までは量産機とはいえ、たった数機のアニヒレーター相手に苦戦を強いられていたのが、たったの二機で十五体ものアニヒレーターをいとも容易く屠ったのだ。
 彼女らがはしゃぐのも無理はなかった。
 それとは対照的に冷静な指揮官二人がいた。
「あの二人の戦闘能力の高さは分かっていたつもりでしたけれど、この戦果は想像以上でしたね」
「連中相手に人的被害ゼロ。今後もかくありたいものだな……」

 日常パート・一人称視点
 東京・市街内

「お疲れ様でした、御神少尉」
 一仕事終えた俺に銀が通信で声を掛けてきた。
「別に疲れてねェよ。軽く捻ってやっただけだ」
「……」
 ぶっきらぼうな俺の対応に言葉をなくす。
「素晴らしい戦いぶりでした。東准尉」
「まあ、機体性能のおかげもあるが、まずまずといったところだな」
 東も俺達と似たようなやり取りをしている。
 俺とは違ってナビゲーターとの関係は良好なようだが。
 そんな二人の会話に俺は水を差す。
「解かってるじゃねェか、東。まあ、俺の足元にも及ばねェけどな」
「おっしゃる通りです。今後も精進します」
 どこまでも愚直なこの男らしく、そんな風に答えを返す。
 本当に見た目通りじゃない奴だ。
「……」
 そんな俺の言葉に武田は見るからに不服そうだ。
「おい、武田。お前、何か言いたそうだな」
「いえ、何もありませんよ、御神少尉」
 そうは言いつつも、そんな風にはまったく見えない。
「任務遂行ご苦労だった……。全機帰投してくれ」
 帰投頭命令が下され、作戦は終了した。

 日常パート・一人称視点
 SODE一課・作戦司令室

「新型T2・ウィザードとサバイバーの性能は予想を上回るものだった。ものの数分であれだけの数のアニヒレーターを殲滅したのだからな。御神と東には後で新型機に関するレポートを提出してもらう」
「レポート? 面倒臭ェな……」
「了解しました」
「そう面倒がるな、御神。T2を開発する事も我々の重要な仕事だ」
「解かったよ……」

 日常パート・一人称視点
 SODE一課・施設内

「凄かったな、さっきの新型の性能……」
「ウォーウルフじゃ歯が立たないアニヒレーターⅠをたった数分で殲滅させやがった……。とても人間業とは思えねぇ」
「新型機の性能のおかげだろ? あれに乗ればオレだってあれくらいやってみせるぜ! 大体なんであんな若造共が新型機に乗ってるんだ? オレたちみたいに熟練したパイロットが乗るべきだろう?」
「あんたは1課に来たばかりだから知らないんだろうが、御神少尉は若いが四年以上のキャリアをもっている。東准尉は二年足らずだがな……。まあ、『銀の閃光』の二つ名はダテじゃないってことだ」
「『銀の閃光』? なんだ? そりゃ……」
「銀色の機体で戦場を閃光のように駆けることからついた通り名さ。こんなご時世だし、周りも英雄を求めてるのかもな」
「ふーん、そんなもんか?」
「『銀の閃光』・御神少尉、『鉄の迅雷』・東准尉。一課じゃ間違いなくこの二人がツートップだ」
「そんなにたいしたもんなのか? 特に御神とかいう若造はどう見てもハタチ前だろ? しかもあんな優男だ。そんなヤツがどうして四年もT2に乗ってるんだ?」
「四年前に坂本少佐とたったの二機でアニヒレーターの小隊を殲滅させた事がきっかけでSODEに入ったらしいんだが、面白い噂もある」
「面白い噂?」
「森本司令の隠し子じゃないかって事だよ。司令の御神へのご執心は普通じゃないからな……。まあ、あの戦闘センスは実際大したものだと思うが」
 森本のおっさんも若い頃はエースパイロットとしてならしていた。
 「血は争えない」。その辺りの事もそんな噂が流れる原因になっているようだ。
 兎に角、そんな雑音が俺の耳に入ってきた訳だが。
 放っておく事にした。昔からやっかまれるのには慣れてる。こんな噂話は今更だろう。

 日常パート・三人称視点
 SODE一課・休憩室

「東准尉、お疲れ様でした」
「今日も大活躍でしたね」
「ありがとう。でも……まだまだだ。『鉄の迅雷』なんて呼ばれても、オレはまだ御神少尉には遠く及ばない……」
 周囲からは同列のように扱われてはいるが、有志との明確な実力の差は東自身が誰よりも切実に感じていた。
「東准尉……」
「ホント、東准尉って真面目ですよね。その御神少尉に勤勉さを見習わせたいくらいです」
「……御神少尉を悪く言わないで欲しい。あの人はいい加減なようで自分がやるべき事を分かっている人だ」
 東自身は有志を嫌ってなどいない。むしろ自分よりも三つほど歳若い身でありながら、あれ程の実力を持った有志を尊敬さえしていた。
 そして、有志が何だかんだ言いながらも自分の事を認めてくれている事も薄々感じていた。
「ご、ごめんなさい……」
「元気を出して下さい、准尉。あなたは僕達の誇りなんですから」
 パイロットになる事さえ出来なかった武田にとって、トップクラスのパイロットである東は憧れの存在だ。否が応でも、応援したくなる。
「すまない、武田。パイロットのオレが弱気になる訳にはいかないな」
 自分に言い聞かせるように自身を奮い立たせる東だった。

 日常パート・一人称視点
 SODE一課・T2格納庫

「よう、御神。また機体の調整か?」
 ここの主である武藤が俺に声を掛けてくる。
 武藤慎吾。
 T2のチーフメカニックをやっている、三度の飯より機械弄りが好きな眼鏡をかけた変わったおっさんだ。
 変わり者なのは確かだが、その腕も確かだ。俺が信頼する数少ない人間の一人でもある。
「ああ。こいつばっかりは他人任せには出来ねェからな」
 OSを弄りながら、答える。
「どうだ? ウィザードの調子は」
「悪くねェよ。運動性も装備もウォーウルフとは段違いだしな」
「だろ? 特にハイパービームライフルは自信作だぜ」
「けど、エネルギー消費が激しくて何発かしか撃てねェ。破壊力は及第点だけどな……。奴等の障壁を簡単にブチ抜ける」
「でも、お前の腕ならビームライフルだけでもいけるだろ? 恐ろしいほど正確な射撃をしやがるからな、お前は」
「まあな」
 謙遜するでもなく、俺はそう答えた。
「ところで、ファントムドライブは上手く作動したみたいだな」
「ああ。敵に幻を見せるとかいうシステムだろ」
「こいつの優れてるところは相手が機械でも騙せるってところだ」
「機械でも? 機械が幻を見るって言うのか? 冗談にしては笑えねェな」
「『機械が幻を見る』。そいつは比喩的な表現だけどな」
「正確には膨大な量の偽データを強制的に送り込んで、ないものをあるように錯覚させてんだな、これが」
「機械すら騙してるって訳か……」
「それにはすげぇ処理速度が必要だけどな。それだけに完全にブラックボックスでこれ一台きりっきゃねぇし、量産も無理だしよ。その一台しかねぇ貴重なブツをウィザードには搭載してあるってワケだ。大事に扱えよ」
「まあ、お守り程度に考えておいた方が良さそうだな」
「そうだな。あんまりアテにし過ぎんのはよくねぇ」
 そんな会話をしていると武藤が珍しく神妙な顔つきで俺に訊いてくる。
「なあ、御神……」
「なんだ?」
「お前はオレ達人類がヤツらに対して勝算はあると思うか?」
「……つまらねェ事訊くな。相手が何だろうが負ける気はねェよ」
 そして、負ける訳にはいかない。あいつの仇を討つまでは。

 日常パート・一人称視点
 SODE一課・男子宿舎
 御神有志・私室

 一日の仕事を終えて、自分の部屋に戻ってきた。
 大した広さがある訳じゃないが、それでも自分だけの空間というのは落ち着く。
 さすがに全員に個室が与えられている訳ではなく、個室が使えるのは尉官以上の隊員だけだ。
 俺の所属するこの小隊では俺を含めても十人にも満たない。
 それだけ士官の数は少ない。
 下っ端は狭っ苦しい部屋に八人も押し込まれたりする。俺も入り立ての頃はそうだった。
 正直、個室が与えられているというのはありがたい。階級が上がって良かったと思うのはこの待遇くらいだ。
 そんな事を考えていた俺だが、今日はやるべき事があるのを思い出した。
「おっさんの言ってたレポート、とっとと片付けるか……」
 独り言を呟いて、パソコンの電源を点けた。OSが起動し、数秒でマシンが起ち上がる。
 いくら俺達が荒事専門と言ってもデスクワークと無縁という訳じゃない。
 何をするにしても書類がついてまわる。
 何かを報告するにも書類。何かを申請するにも書類。組織なんてのはえてしてそんなものだ。
 そんな事を考えながら、キーを打ち始める。
 カタ、カタ、カタ……。
 キーを打つ無機質な音だけが部屋の中を支配する。
 機体の長所、短所、機体の調整具合等を細かく羅列していく。
 もちろん、この程度の事は俺の前に乗っていたテストパイロットも気付いているだろう。
 しかし、そういった感じ方には個人差がある。俺向きに調整する為にもこういった作業は必要な訳だ。
 ……。
 ………。
 …………。

「こんなもんか……」
 小一時間ほど作業に没頭していた俺はそこで手を止めた。そして、誤字、脱字のチェックを行って作業を終えた。
 あとはメールに添付して送るだけだ。
 本当は手渡しの方が良いのだが、おっさんも多忙だからな。僅かな時間でも無駄にさせる訳にはいかない。
 送っておけば、手の空いた時にでも目を通してくれる事だろう。
 やるべき事を終えた俺はベッドの上に横たわった。そして、色々な事をぼんやりと思い出していた。
 ついにロールアウトした新型T2・ウィザード。
 細かい調整はこれからだが、今日乗ってみた感じでは兵装・機動性ともにウォーウルフとは段違いだ。
 奴等との戦いで俺の頼もしい相棒になってくれる事だろう。
 そして、それと同時に俺達が戦っている相手の事も思い出す。通称「アニヒレーター」と呼ばれる巨大戦闘群。
 この世界を闇に包む厄災。それが奴等だ。
 この世界に逃げ場所なんてない。奴等は人口密度の高い都市を中心に人類を殲滅して回っている。俺達が生き残る術は奴等を殺す事だけだ。
 奴等を殺す。それはとても困難な事だ。過去には街ごと核で焼き払った記録も残っている。人類にとって奴等の存在は恐怖そのものだ。
 だからこそ存在する組織がある。それがSODE。世界で唯一アニヒレーターを殲滅させる事が出来る組織。
 だから俺はSODEに入った。奴等を根絶やしにする為に。あいつの敵を討つ為に。
 そんな事を考えながら、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。

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コメント

  • amegahare

    アニヒレーター強いですね。視点が変わっていく物語構成はとても面白かったです。凄いバトルが展開されていく予感を感じました。また、物語を彩る単語たちがかっこよかったです。

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