僕はみんなの死期がわかる。

大津 千代

第6話 仲良い2人。

読み溜まっていたラノベを一通り読み終え、それを机に置いた。浴室へ向かいシャワー浴び、パジャマに着替える。いつも通りの事を終えその日もソファに横になり眠りについた。父親はその日も帰ってこなかった。















スマートフォンのアラームを止めソファから体を起こす。昨日の食べ残った食パンの袋からパンを1枚取り出し、食べた。食べ終え浴室へと向かい歯を磨きワックスで髪形を整える。この作業はいつもやっていた。









スマートフォンをポケットに入れバッグを持ちいつもの時間に家を出て学校へと向かって行った。いつも通る道を歩く綾人。そして昨日通学途中にあったあの事故現場に差し掛かる。歩行者用の信号が青になり横断は歩道を渡り出す。ビルの工事現場前を通り過ぎる時、昨日の事を思い出す。その工事現場で工事をしている様子はない。無言のままそこを綾人は通り過ぎた。







電車に乗りいつもの場所で学校近くの駅へ着くのを待った。車内にはサラリーマンもいれば学生もいる。同じ学校の生徒も車内にはいたが挨拶や話したりはせずにいた。電車が止まりドアが開く。綾人を含むいろいろな人がそこから降りた。


改札を抜け、駅を後にし学校へと向かう。視線をあげると色々な人の死期が目に入ってくるため視線を少しだけ下げ歩いていた。










いつもとほとんど同じ時刻に学校に着き、靴を履き替えた。生徒同士の挨拶や話し声などが綾人の耳に入ってきたが聞かないふりをして教室へと向かって行く。教室にはクラスメイトが10人弱の人数がいた。それらの人を無視し自分の机の横にカバンをかけ席に座った。前の席を見ると、横にカバンがかけられていた。結菜はもう来ていたようだったが、教室にはいないようだった。





机の中に入っているラノベを1冊取り出し、しおりの入っているページを開き読み始めた。友達もいないので本を読むことくらいしか無いのだ。本を集中して読んでいた綾人。少し後ろから来ている結菜には気づいていなかった。



「綾人くん、おーはよ」


綾人の肩からヒョコッと顔を出し耳元でそう言った。綾人は体をビクッとさせる。


「お、おはよう、結菜さん。ビックリしたよ…」



「ごめんね。綾人くんまたラノベ読んでるの?あ、そういえばね!私も買ったんだー!」


結菜がそう言うと席へと向かいバッグからブックカバーのされていない本を取り出し綾人の机に置いた。それは綾人が今読んでいる本のシリーズの1巻だった。結菜は同じ本を買ったのだった。


「私もね綾人くんと同じやつ買ったんだ〜!52ページ目の部分とか面白いよね…」


結菜は綾人にそう話している。綾人の視線は本ではなく結菜に向いている。結菜が笑顔で話しているがその話は耳に入ってこない。綾人の目には結菜の笑顔だけが映っている。



2人は朝のHRが始まるまでその小説の話をしていた。話はかなり盛り上がった。綾人は付き合っているような感じがして、結菜の話を顔を赤らめながら聞いていた。









その後の2人は、休み時間と昼休みと帰りのHR前まで、その小説の内容の話をずっとしていた。話すとは思っていなかった2人を見てクラスメイトの人たちは少しだけ不思議な目をしていて見ていた。










しかし、結菜と綾人がこうやって会話をするのは今日で最後だった。


2人はその事を知らない。


死期が見える綾人でさえそれは予想出来ない事だった。

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