僕はみんなの死期がわかる。

大津 千代

第4話 想う人。

綾人が読書を続けている中、呼びに行った生徒が2人の先生を呼んできた。1人の先生は救急だろうか、電話をしている。教室には泣く声が響いている。








1人の先生が電話をしてから20分くらいが経ち、ようやく救急隊員が教室の中に入ってきた。その間も綾人は読書を続けている。女子生徒の体を起こす。お腹の部分付近に持っていたハサミが刺さっている。そして血がポタポタと制服から垂れていた。その血が床に出来た血溜まりに落ちている。そしてその女子は担架に乗せられて、救急隊員に運ばれ教室を後にした。


その後、生徒たちが床に出来たその女子の血溜まりを拭き取った。完全に拭き取れず、血溜まりの跡が少しだけ床に残ってしまった。昼休みの中、校内放送で綾人のいるクラスが全員を集め緊急のHRを行うと放送が入り、クラスの人たちがぞろぞろと戻ってきた。


綾人の前の席に、1人の女子生徒が座る。そして綾人の方を見た。


「ねぇ、何読んでるの?」


唐突に話しかけられて驚いたが、本を置きその女子の方を見た。彼女の名前は、音海おとみ 結菜ゆいな。黒髪ショートでクラスでは真面目な方で成績も良い方だ。ただし運動は大の苦手。そして、密かに綾人が想いを寄せている人だ。


「え…ら、ラノベだけど」


「ラノベかぁー…ねぇどういう内容なの?教えてよ」


そう言った結菜は机に伏せて置いた綾人の本を持ち覗き込もうとした。綾人はそれを押さえ見させないようにした。


「だ、だめ。音海さんが見るようなものじゃない」


「えぇーなんで。いいじゃん別に。私だってそういうの気になるの」彼女はそう言い綾人の手に持っていた本を無理やり奪った。そして本の中をまじまじと見た。結菜は本の挿絵を主に見ていた。


「へー…こういうの好きなんだね。私も読んでみようかな?」


「え!そ、そういうのは男子向けだと思うけど…」


「女子がこういう本読んじゃダメってルールある?」本を閉じ綾人の机に置く。綾人をみる結菜の瞳はなぜだかキラキラとしている。


「いや…無いけど…」


「ならいいじゃん。今日の帰り買ってこ」


結菜は微笑みながらそう言い、前を向いた。少しの時間のやりとりだったがものすごく長く感じた。それと同時に綾人の心臓は激しく動いている。思わず「好きだ」と言いそうになってしまった。







しばらく経ち、担任が来た。重々しい空気の中担任が話した。あの女子は病院に運ばれ緊急手術を受けたが、すでに遅くその女子は亡くなってしまった。1日でクラスメイトが2人も死んだ。異常事態とも思えるが綾人にはそれが前々からわかっていた。言っても救えないのだから仕方ない。



担任から今日は午後の授業を受けずに帰るように言われ、HRは終わった。クラスの人たちはそれぞれに帰る支度をしている。綾人は帰る支度を終わらせ誰とも話さずにそそくさと教室を後にし昇降口へと向かった。









いつも乗る時間では無い電車に乗った綾人。電車にはあまり人が乗っておらず珍しく電車の席に座る事が出来た。家に帰っても父親は帰って来ていない。また1人ぼっちだった。しかしその生活にはもう慣れていた。




綾人は食事を終え、この日はお風呂に入り綾人はリビングのソファで眠りについたのだった。

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