能力殺しの能力者

皇神凪斗

First 1.能力

突然だが、この世界には『能力者』というものが存在する。
それはその名の通り『スキル能力』を持つ者の事である。
スキルを持つ者能力者は人間の半分程だと言われている。
生まれながら持っている者、何かの拍子で現れた者、気がついたら使えていた者。
皆、それぞれで特徴は無い。
しかしながら1つ共通点がある。スキル能力は1人に1つで世界に1つである。
同じスキルを持つ者は1人しか存在しない。
その者が死んだ時、また新たな命に顕現すると言われている。



そんな世界で1人の少女が歩いていた。
「ふっふ、ふーん♪」
彼女は機嫌がいい。理由は今日、願いに願った夢の仕事にたどり着けたからだ。
『対能力対策政府』
それが彼女の夢の仕事である。
いつの世も悪は存在する。それはこの世界でも変わらない。スキルなどの異質な『力』があればなおさらであろう。
スキルを使い、犯罪を犯す者を裁くのがこの対能力対策政府である。
彼女が小さき頃、とある能力者の男に助けられた。この時男が着ていた軍服のような物。
それだけを頼りにこの仕事を見つけ出した。
「いやぁ〜ほんと私ってツイてる!スキルまで持っていて、夢の仕事に就けるなんて!」
彼女の名は、コノハ・クレイル。普通の暮らしで普通に勉強して普通に就職した、何処にでもいる少女だ。
────今はまだ・・・。────

コノハが歩いていると、声が聞こえてきた。
「おい、大量じゃねーか!これでしばらく食っていけそうだな。」
「あぁ、あいつが上手く誘導してくれたからな。」
通りかかった駐車場で2人の男が大きなバッグを覗いていた。
中身は──金。

強盗!?何とかしなくちゃ。え?でもこれ私の仕事?あの人達能力者?いやいや!犯罪者を見つけて逃げるわけには!でも2人だし・・・。あ!通報しよう!

バッグの中から携帯を取り出す。しかし、画面は真っ黒だった。
「電池・・・切れ・・・。はぁ、見なかったことに───」
「ちょっとお嬢ちゃん?」
肩を掴まれた。後ろから。前を確認すると確かに男は2人いた。
そう言えばさっきあいつとか言ってたような?
そう思ってももう遅い。恐る恐る振り返ると、スキンヘッドの大男が厳つい顔で肩を掴んでいた。
「えっと、どうも?」
「見ちまったな?」
「何がでしょう?」
「とぼけるか・・・。おい!ガキが見てるぞ。」
終わった・・・。もう逃げられない。スキルを使いたいが、この状況ではどうしようもない。
「うお!マジか、助かったわー。」
「今回はお前の分け前を多くしとくぞ。」
「おう。で、どうするこいつ?」
片手で猫のように持ち上げられるコノハ。
誰か・・・助け──。
バンッ!
と轟音。それに気づくより早く、大男は吹っ飛んだ。ついでにコノハも離されたものの、勢いで転んだ。

痛い!膝擦りむいた!っていうか

「・・・銃声?」
そう。銃声がした。さらに後ろから。振り返ると、やはりというか、まだ煙を吹き出している拳銃を構えた男がいた。
後で聞いたがその拳銃はグロック18Cと言うらしい。
そして───
「い、イケメン・・・!」
ニヤッと笑みを浮かべ、全身を覆うコート含め真っ黒な服で、両腿には拳銃のホルダー。腰にはバックパックが巻きついていた。
「な、なんだお前!」
「け、拳銃なんて!卑怯じゃあねぇか!」
「別に?3人で女の子を囲むほどじゃ無いと思うけどな。で?まだやるかい?」
その言葉を聞くと、2人の男はコノハの腕をつかみナイフを喉に突きつけた。
「えぇぇぇ!?ちょ!危ない!」
「うっせぇ、動くな!・・・お前!こいつがどうなってもいいのか?」
するとイケメンは拳銃を下げた。
「ったく。面倒くさ。・・・スキル発動。」
次の瞬間、コノハと男達の、後ろから『 時計』のような音が聞こえてきた。
「え?時計・・・?」
3人で振り向く、そこには予想外の物。
タイマーのついた『爆弾』が転がっていた。
6、5、4・・・とタイマーが進んで行き。
「ひぃぇぇぇぇ!!」
「たすけてぇぇぇえ!!」
男達は逃げていった。・・・コノハを置いて。
「ちょっとぉぉぉぉおお!!私を助けてぇぇ!」
1、0・・・

もうダメだ。やっと夢が叶ったのに・・・。
お父さん、お母さん・・・。先に逝く我儘を許してくださ────

『バーン!ドッキリ大成功!!ドッキリ大成功!!・・・騙された?』

・・・・・・。

爆弾は爆発せず、飛びたしたピエロの人形が奇妙な声で『ドッキリ大成功』と喋るだけであった。玩具だ。よく見ると、どこかの店で見たことがある。
「おい、大丈夫か?」
「あの、これ、スキルですか?」
「あぁ、まあな。」
「心臓に悪い・・・。でも助けてくれてありがとうございました。えっと、私はこれで。」
なんか疲れたので家に帰ろうとしたが、また肩を掴まれた。
「まあまあ、ここで会ったのも何かの縁だろ。夕飯、付き合えよ。」
「いや、私疲れ────」
た。という前に肩に担がれた。
「良いもん食わしてやるからさ。」
「ちょ、ちょっと!離して!私帰りたい!!」




結局、全力の抵抗も虚しく、小さめの飲み場に連れて来られてしまった。
中にはごっつい男と少人数だが確実に大人の女性しかいなかった。
「あの私、飲んだ事ないんですけど。」
「大丈夫。俺も飲めないから。」
「いや、何が大丈夫なんですか?」
そんな会話をしていると、1人の女性が近づいてきた。女性にしては背が高く、スタイルもいい。黒髪をショートにした、クールな雰囲気の女性だ。
「クロ?女の子に乱暴しちゃダメよ?」
「別に乱暴はしてねぇよ?」
「確かに乱暴はされてませんが、肩に担がれて街中を歩くという羞恥プレイを受けました。」

今頃Tvvitterには『やんちゃしすぎて親が迎えに来てしまった娘w』なんて投稿されているだろう。きっとコメントには『私もこんなお父さん欲しいw』『過保護やなw』『この女の子可愛い!天使じゃないか!?』とかついているのではないだろうか。

そのままバーの真ん中のデーブルに座らされ、クロと呼ばれた男と黒髪の女性が座った。
「マスター、いつもの2つ頼む。」
「うむ。」
丸刈りでグラサンをかけた。どう見ても裏の人間のマスターが頷いた。
「私、お金ないって言うか。そんな払えないんですけど。」
「俺が奢ってやるよ。」
「いや、そこまで世話になる訳には。ていうか帰りたいんですけど。」
「そう言えば、なんであんな所歩いてたんた?」
「私の話聞いてます!?」

ダメだ。これは食べないと帰してもらえない流れだ。イケメンなのに、だからだろうか、きっとナンパだ。適当なところまで付き合ってさっさと帰ろう。

「はぁ、普通に帰り道ですよ。今日内定が決まって、明日から仕事です。あ、やっぱり帰してもらえませんか?疲れてるんです。」
「ふぅ〜ん。あそこは犯罪者の逃げ道によく使われるからあんま近づかない方がいいぞ?」
「チッ・・・。ところでクロさんのスキルって何ですか?まさかドッキリ箱作るスキル、なんて言わないですよね?」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はクロエ。スキルは物質変化だ。」




クロエ
男(26)

スキル『物質変化』

攻撃性 ?
耐久性 ?
適応性 ?
回避性 ?
成長性 ?

総合ランク ?

『物質変化』
触れたものをあらゆる物質へ変化させる。
1度触れ、『登録』することで、好きなタイミングで好きな物に、好きな状態で変化させることが出来る。
しかし、登録する物、変化させる物はクロエの体重以下でなければならない。
変化させる際、その物が収まる空間がなければ変化させることは出来ない。(袋に登録したビー玉をいれ、直径1mの大玉に変化させることなど。)
応用として、銃弾を登録し、銃に取り込んだ後、銃本体を指輪などに変化させることで携帯することができる。




「おー、便利ですね。体重って事は62kg以下って事ですか?」
「そうそう。・・・って、なんでお前俺の体重知ってんの?」
「あの、趣味なんですけど。男の人なら服の上からでも筋肉の付き方とか体重とかわかるので。ぐへへ〜・・・。」
スキルの説明をしてる内に料理とコーラが運ばれてきたが、コノハの口から垂れる涎は腹が減っているからではない。
「こいつ・・・!!男の敵だ!」
「あ、今私の前では男に近づかないようにしようとか思いましたね。無駄ですよ。もう大体の想像はついてりゅので。おっと涎が・・・!」
「クソォ!!なんてこったぁぁ!!」
クロエは頭を抱え呻き出した。
形勢逆転、いじる者がいじられる者へ。
「全く何やってんのよ・・・。」
コノハは黒髪の女性がいることを思い出し、顔を覗く。
「あ、私?私はリナール。リナール・マルテルよ。よろしくね。」




リナール・マルテル
女(29)

スキル『紐使い』

攻撃性 A
耐久性 C
適応性 A
回避性 A
成長性 B

総合ランクA

『紐使い』
あらゆる紐状の物、縄やワイヤーを生み出し自在に操ることが出来る。
右手から左手に掛けて紐を繋いだり、体の1部と一体化する事で固定することが出来る。
ワイヤーをピシッと伸ばし槍のような物にできたりもする。




「おぉ、皆さんのスキル、便利な物ばかりですねぇ。」
そう言うと、クロエはニヤッと笑った。
なんだろう、少し悪寒がした。

「・・・お前のスキルも便利じゃないか?
────テレポート瞬間転移。」
コノハは固まるしかなかった。

え?なんで私のスキルを?人に見せたのなんて数える程、家族と政府の人間のだけのはず。
今さっきあったばかりの人達が何故?

危険を感じ、スキルを発動する。
とりあえず、離れるだけ離れて───

・・・転移できない。

「嘘!?テレポートが発動しない!!」
そこでさらにクロエは笑みを深める。
「いい事を教えてやる。そこのマスターのスキルは一定範囲内の『スキル無効化』だ。」




マスター
男(37)

スキル『スキル無効化』

攻撃性 D
耐久性 S
適応性 B
回避性 S
成長性 A

総合ランク S

『スキル無効化』
一定範囲内にいる人間のスキル発動を無効化する。
しかし、射程外で能力を発動し遠距離攻撃をされた場合は無効化できない。
発動中に無効化を使った場合は範囲内のスキル発動を強制的に中断させることが出来る。




「そんなことって!?」
でもたったの3人、いくら能力者でも必死に逃げれば───
「何処に行くんだ?お嬢さん?」
その声はクロエではなく、もちろんリナールでもない。近くの席に座って飲んでいたおっさんだった。
「この人も仲間!?」
「そいつだけじゃない、このバーにいる全員が仲間さ。」
ハメられた!とかかっこいいセリフを使っている場合ではない。どうしよう?とりあえず考える時間を稼ぐ。
「どうして私のスキルを知ってるの?」
「俺は、いや俺達は────」

クロエは一呼吸置いてこう言った。

「────レジスタンス反政府組織だぜ?政府の新しい戦力を調べないとでも?」

更なる絶望。1番危険な場所。これでは獅子の縄張りに迷い込んだ兎だ。
「私をどうするつもり?どうせいやらし──」
「仲間になってもらう。」
「い?な、仲間?」
「あぁ、レジスタンスになって政府を潰す手助けをしてくれ。」
「そんなこと!政府の人間の私がすると思うの!?」
「拒否権があるとでも?」

ぐぬぬ・・・。
諦めるしかない。まあ、隙を見ていつでもテレポートすればいいか。




コノハ・クレイル
女(20)

スキル『テレポート』

攻撃性 D
耐久性 D
適応性 B
回避性 S
成長性 C

総合ランク C




こうして私───コノハの普通の人生は

────儚く崩れ去った。

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