名無しの英雄

夜廻

2話

ランが地下から出ていった後、俺はまだ震えていた
「様子を見るだけだからすぐに帰ってくるよね…」
そう1人呟いた
しかしランは帰ってこない…
何分たっただろうか…?
頭が働かないせいで詳しい時間はわからない…
しかしランは帰ってきそうにない
「まさか…いや…そんな事は…ないよな……?」
悪い予感がする
俺は震える体を手で支えながら地下から出るべく立ち上がった
暗い地下から出るためにゆっくりと歩く
意を決して俺は地下から出た
そこに広がっていたのは無数の人の成れの果てと盗賊に壊されたであろう建物の数々だった。家の壁は所々壊され、ドアも破壊されている
死体はよく見ると死体は全て首から上がない。死体によっては臓器が出ているモノまである
「うっ…うぇぇっ」
気持ち悪くなって吐いてしまった
「はぁはぁ…ランは…?」
盗賊の姿は見当たらない
ランの姿は見当たらない
少し歩いてみる
しかしランの姿は見当たらない
まだ歩いてみる
しかしランの姿は見当たらない
「ラン…どこ…?」
少し歩いて行くと道路の真ん中に2つの死体がある
男性と女性の死体だ
どうやら盗賊と戦闘をして負けてしまったようだ
その2つの死体の横を通り過ぎようと近寄る
しかし俺の足は動かなくなってしまった
俺にはわかる
確かに頭はない
だがわかってしまう
だってこれまで12年間もの時間を過ごしてきた大切な人だから
頭がなくてもわかる
その死体の腹から臓器が飛び出ていようが
腕が1つ無くなっていようが
服が血で真っ赤になっていようが
わかってしまう
「父…さん……母…さん…」
そう呟いた瞬間俺は意識を手放していた


「……だ……団……生き……」
声が聞こえる
頭が割れるような頭痛の中で確かに声が聞こえる
どうやら気絶したようだ
声の主は盗賊か…?
いや、盗賊は辺りにはいなかった
じゃあ誰だろうか……?
そこまで考えて俺は再び暗闇の中に沈んでいった


ゆっくりと瞼を開ける
見えたのは豪華な天井だった
ぼんやりとした頭で考える
「確か俺は…」
「!!…目が覚めた!」
声が横から聞こえる
なんだろう…?
「団長に報告しなきゃ!」
声の主は急いで部屋から出ていった
遠くから喋り声が聞こえる。どうやらこの部屋に近づいてきているようだ
部屋に入ってきたのはメイド服を着た美人な女性と豪華な刺繍がされているマントを羽織った緑の髪の男性だった
「やぁ、私はこの王国の騎士団長をさせてもらっているギル=マナディという者だ。意識はしっかりとしているかい?」
この男性はどうやら騎士団長様らしい
「はい…意識はしっかりとしています。すみません、まだ立ち上がれなくて」
「あぁ、別に構わないよ。楽な姿勢で話してくれたまえ」
どうやら騎士団長様はやさしい人みたいだな
「まず、謝らなければならない事がある。君たちの町を助けられなかった。本当にすまない…」
俺たちの町を助けられなかったのはしょうがないことだと思う。別に騎士団長様が悪いわけではないと思うんだけど…
「いえ、こちらこそ助けて頂いてありがとうございます…。すみません、1つ質問してもいいでしょうか…?」
「なんだい?」
「俺の町で生き残っている人は俺以外にもいるのでしょうか…?」
「……」
騎士団長様は黙ってしまった
「すまない…生き残っているのは我々が確認した中で君だけだ…」
俺だけ……?
ランは…どうなった…?
死んでしまったのか…?
「ランは…俺と同じ年頃の少女の死体はありましたか……?」
「いや、我々が埋葬した中には君と同じ年頃の少女はいなかったと思うが…」
ランは死んでいない?
じゃあなんでここにいないんだ?
連れ去られたのか?
なぜ?
「その子は…連れ去られた可能性はあるのでしょうか?」
「あぁ、十分にあると思う。小さな少女は奴隷として売るのであれば高値で売れるからな」
奴隷として…?
なら生きているのか…?
「わかりました…ありがとうございます」
「今日は疲れているだろう?ゆっくりと休みたまえ」
「はい…」
そうして俺は眠りについた






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