スキルを使い続けたら変異したんだが?

クルースニク

第二十五話 奥の手

『ら、乱入だあああぁ!
 え、誰⁉ ってレベル50⁉ ゴーレムのユニーク装備持ち⁉ 一体何がどうなってんの⁉』

 混乱する実況を捨て置き、レナは大地の杖の名を冠する武器を掲げる。

「ヨルムンガンド」

 何の感慨さもない。淡々とした声で、彼女はスキルを発動させた。
 二度目の爆発。成す術もなく、アイズはそれを受ける。

「ヨルムンガンド」

 三度。

「ヨルムンガンド」

 四度目。
 敷かれた砂が凄まじい熱量に溶け、アイズの周辺のフィールドはマグマの海と化していた。

 ――容赦ねえ……。

 凄いイキイキとしたレナの横顔に、俺は恐怖すら覚える。
 アイズの純白の装甲は無残に焼け焦げ、至る所に亀裂が入っていた。HPはバッドステータスの影響もあってか、すでに二割を切っている。
 あと一発、ヨルムンガンドを放てばギリギリ倒し切れる。

 レナも同じことを考えたのだろう。
 何の躊躇もなく、五度目のスキルを発動させようとする。
 その時、俺は見た。無表情を貫いていたアイズの口元が歪むのを。

 ――待て!

 制止の言葉は、しかし言葉にならない。状態異常の影響か。
 五度目。MPの関係上、最後の一撃となるスキルをレナは発動した。

「ヨルムンガンド」

 大地が割れ、灼熱の業火が噴き上がる。それに飲み込まれる寸前、

『重度の損傷を確認。修復を開始します』

アイズの体が光を纏う。その光景に、俺は強烈な既視感を覚える。

 ――自己再生……‼

 HPバーが徐々に回復していく。
 これではヨルムンガンドで、致死させるには至らない。
 咄嗟に俺はレナの顔色を窺う。

 彼女もまた、愉しそうに口元を歪めていた。

「なるほど。HPが一割を切った時に発動するパッシブスキル。
 文字通り、最後の手段ね。
 奥の手は最後まで取っておくんじゃなかったのかしら?」

『最初に奥の手を使ったのはあなたです。
 ウイルスの排除を確認。これより、反撃に移ります』

 瑠璃色のエフェクトが消え去る。耐性はなくても回復はできるのか……!
 呪縛から解き放たれた天使は、並び立つ火柱の間を駆け抜け、レナへ迫る。
 それでも、彼女の笑みが崩れることはない。

「――“マジック・エンチャント、ヨルムンガンド”」

 ローブから覗く手首のブレスレット、その碧玉が煌く。
 唐突に、ヨルムンガンドのスキルが終了する。煉獄の焔が、嘘のように掻き消えた。
 代わり、レナの持つ杖が瑠璃色の輝きを纏い――身の丈を超える大剣と化す。

 アイズの顔色がはっきりと変わる。
 彼女は理解したはずだ。レナの間合いに、完全に捉えられたことを。
 避ける間などない。

 軽々と真横に振るわれた巨大な光刃がアイズの胴体へ触れ、抵抗もなく上下に切り分ける。
 それはレナへぶつかる寸前、光の粒子となって宙へ散った。

「奥の手は最後まで取っておくものよ。
 さようなら――って言っても、もう聞こえないか」

 剣士が血を払う様に、杖を振ってエフェクトを消し去る。
 俺たちの前にタブレットが出現し、戦闘終了を告げた。

経験値:0
ゴールド:0
ドロップ:
ヨルムンガンド:―――――――
アイズ・コア:ユウト・カミシロ

 ドロップ装備のヨルムンガンドが空欄なのは、すでにレナが有しているからか。
 アイズ・コアってなんだ、前倒したときはこんなのなかったのに。モードチェンジした状態を倒さないと手に入らないものなのか。

 文字色からしてユニーク品なのは確かだが、装備ならリアナに弾かれているはず。

 ――ああ、迂闊! ユニーク装備だけじゃなくてアイテムを落とす奴も一体だけ居たんだ。普通に忘れてた。

 装備じゃなくてアイテムでしたか。
 っていうか、さっきから俺の頭の中でうるさいんですが。何当然のように会話してくれてんの。

 ――暇だったからつい……っていうのは、冗談として。ほら、あの子が例の優等……。

 プツリと。電話が突然切れたようなノイズを残し、不意にリアナの言葉が途切れる。
 恐らく、優等生。彼女と対を成す存在のことを言おうとして、それにバレかけたのだろう。
 まあ、大体見当はついているが。

 それにしても、いい加減バッドステータスが辛い。
 HPもそろそろ一割を切りそう――うぉ⁉

 俺の体が突然輝き出す。
 途端、今までの不調が嘘のように手足が軽くなり、力が戻ってくる。
 HPも徐々に回復していく。
 これは、まさか……?

「自動発動に自動回復。制約は色々あるだろうけど、超レアアイテムね。
 私が欲しかったけど……、まあ、これでようやく借りが返せたかな?」

 こちらへ歩み寄ってきたレナが口元に微笑を称えて、俺に手を差し出す。

「……ああ、そうだな」

 笑い返し、俺はその手を掴んだ。

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