スキルを使い続けたら変異したんだが?
第十六話 可愛いは正義
「立てるか?」
とりあえず聞かなかったことにして俺は少女に手を差し出した。
彼女は右手を伸ばそうとして……なぜか途中で止める。
「手、汚れてるかも……」
「いや、ゲームなんだから気にしなくていいよ」
伸ばされた手を掴み、立ち上がらせる。
よく小さい時に妹が駄々こねて座り込んだ時は、こうして起こしたものだ。
……って、あれれ?
「あの、手、もう大丈夫だよな?」
俺は手を離しているのに、少女が握ったまま離してくれない。
まだモンスターとの遭遇のショックが抜けずに、気が動転しているのかな?
彼女は、さらにもう片方の手も添えて、ひしと握り締める。
「かっこよくて、強くて、優しい……! やっぱり王子さまだ」
間近であどけない笑顔を向けられ、俺はたじろいだ。
思い返してみれば、異性に手を握られたのは生まれて初めてかもしれない。
しかも、こんな可愛い女の子に――っ?
唐突に 少女の体が微光に包まれ、俺は目を疑う。だが数秒ほどで消え、彼女はくすりと笑った。
「嬉しいです。あたしのこと、可愛いって思ってくれたんですね」
「え、いや、あの……」
図星をつかれ、しどろもどろになる。
なんでわかったんだ……顔に出てたのか?
「あたし、ナツメっていいます。ナツメ・カミツキ」
「俺は、ユウトだ。ユウト・カミシロ」
名乗られて、思わず名乗り返してしまう。
しかし、俺とレナ以外にも本名をつける人間が居たとは。
VRMMOでニックネームを名乗る恥ずかしさに負けた人間か、それとも本当にSNS感覚でこのゲームを楽しんでいるのか。彼女は恐らくは後者だろう。
「あの、そろそろ手を……」
ぎゅっ、と握る手に力がこもる。
「やっぱり、本当だったんだっ! 近いうちにあたしの前に王子さまが現れるって、超有名な占いサイトで言われたんです! 名前はあたしに似てるって」
似てるって、名字のカミしかあってないし。
しかも王子が現れるとか、随分メルヘンな占いだな。
「いや、あのさ」
「まさかゲームの中で出会いがあるなんてっ。
あたしのお母さんとお姉ちゃんもネットゲームで知り合ったお父さんやお義兄さんと結婚したし、ああ、やっぱりこれも血筋なのかな~」
聞きやしない。
どうして俺の周りにはこんな女の子ばかりなんだろう。
嘆く間にも少女の妄想は止まらない。
「やっぱり最初は友達から? でもでも、彼氏持ちってバレたらこのゲームのアイドルになるって夢が……。
あ、王子さまをマネージャーにして、許されない恋愛っていうのも燃えるなぁ」
とんでもない夢に、しかし俺は新しいかもしれないと感心する。
VRMMOならでは、と言えるかもしれない。
道理で服装に気を使っているはずだ。
とりあえず後半の話には触れずに、俺はナツメに訊ねた。
「ナツメさんは……」
「ナツメでいいですよ、王子さま」
彼女が訂正する。ならば、俺も。
「俺もユウトでいいよ」
「いえ、王子さまが良いです」
「いや、ユウトで」
「王子さまが良いです」
「だから」
「ユウトさまでどうですか?」
…………。
一瞬それで妥協すべきか悩んでしまう。それが命取りとなった。
「では、ユウトさまで」
反論しようとして、やめる。
なんかどう言っても聞かなそうだし、これ以上変な名称になるのも嫌だった。
「……ナツメはどうしてこの森に来てたんだ?」
そして、いつまで俺の手を離さないつもりなんだ。
「調合素材を集めにきたんです。
ほら、ここって素材がいっぱいあるじゃないですか」
「そりゃそうだけど……、その装備で来るのは自殺行為だぞ。
さっきみたいなモンスターもよく出るし。というか、今まで会わなかったのか?」
彼女の話からして、今日初めて来た訳ではないだろう。
「いつもなら、ババッて倒しちゃうんですけど。今日はスキルの調子が悪くって」
スキルの調子が悪いとか初めて聞いた。
え、スキルって生き物みたいに調子があるの? そんな疑問を浮かべる中、彼女はようやく俺の手を離してタブレットを呼び出した。
「そうですよね。これからのことを考えたら、隠し事なんてしちゃいけませんよね」
これからってなんだ。
なんかどんどん彼女のペースに飲まれて取り返しのつかないことになりそうなのは気のせいだろうか。気のせいであってくれたらいいな。
「はいっ。なんとなんと、あたしユニークスキルをゲットしちゃってるんです!」
は⁉
ユニークスキルという単語に、思わず俺は彼女が差し出したタブレットをのぞき込む。
言葉に違わず、そこには赤いスキル名とこんな説明文が並んでいた。
エモーションハート
パッシブスキル。
心を揺れ動かしたプレイヤーの人数と振れ幅により、一定時間毎にステータスが変動。
俺は数秒その画面を眺め続け、そのスキルの意味を考える。
心を揺れ動かすってなんだ……? まさか、このゲームってプレイヤーの感情を数値で計測できるのか?
考えてみれば、俺も感極まって涙が出そうになったことがあるし、そういうシステムが組み込まれている可能性も大いに考えられる。
しかし、自分ではなく他人に依存するというのは、珍しい。
まるでこれは、
「たぶん、可愛いは正義ってスキルだと思います!」
うん、俺もそう思った。
とりあえず聞かなかったことにして俺は少女に手を差し出した。
彼女は右手を伸ばそうとして……なぜか途中で止める。
「手、汚れてるかも……」
「いや、ゲームなんだから気にしなくていいよ」
伸ばされた手を掴み、立ち上がらせる。
よく小さい時に妹が駄々こねて座り込んだ時は、こうして起こしたものだ。
……って、あれれ?
「あの、手、もう大丈夫だよな?」
俺は手を離しているのに、少女が握ったまま離してくれない。
まだモンスターとの遭遇のショックが抜けずに、気が動転しているのかな?
彼女は、さらにもう片方の手も添えて、ひしと握り締める。
「かっこよくて、強くて、優しい……! やっぱり王子さまだ」
間近であどけない笑顔を向けられ、俺はたじろいだ。
思い返してみれば、異性に手を握られたのは生まれて初めてかもしれない。
しかも、こんな可愛い女の子に――っ?
唐突に 少女の体が微光に包まれ、俺は目を疑う。だが数秒ほどで消え、彼女はくすりと笑った。
「嬉しいです。あたしのこと、可愛いって思ってくれたんですね」
「え、いや、あの……」
図星をつかれ、しどろもどろになる。
なんでわかったんだ……顔に出てたのか?
「あたし、ナツメっていいます。ナツメ・カミツキ」
「俺は、ユウトだ。ユウト・カミシロ」
名乗られて、思わず名乗り返してしまう。
しかし、俺とレナ以外にも本名をつける人間が居たとは。
VRMMOでニックネームを名乗る恥ずかしさに負けた人間か、それとも本当にSNS感覚でこのゲームを楽しんでいるのか。彼女は恐らくは後者だろう。
「あの、そろそろ手を……」
ぎゅっ、と握る手に力がこもる。
「やっぱり、本当だったんだっ! 近いうちにあたしの前に王子さまが現れるって、超有名な占いサイトで言われたんです! 名前はあたしに似てるって」
似てるって、名字のカミしかあってないし。
しかも王子が現れるとか、随分メルヘンな占いだな。
「いや、あのさ」
「まさかゲームの中で出会いがあるなんてっ。
あたしのお母さんとお姉ちゃんもネットゲームで知り合ったお父さんやお義兄さんと結婚したし、ああ、やっぱりこれも血筋なのかな~」
聞きやしない。
どうして俺の周りにはこんな女の子ばかりなんだろう。
嘆く間にも少女の妄想は止まらない。
「やっぱり最初は友達から? でもでも、彼氏持ちってバレたらこのゲームのアイドルになるって夢が……。
あ、王子さまをマネージャーにして、許されない恋愛っていうのも燃えるなぁ」
とんでもない夢に、しかし俺は新しいかもしれないと感心する。
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道理で服装に気を使っているはずだ。
とりあえず後半の話には触れずに、俺はナツメに訊ねた。
「ナツメさんは……」
「ナツメでいいですよ、王子さま」
彼女が訂正する。ならば、俺も。
「俺もユウトでいいよ」
「いえ、王子さまが良いです」
「いや、ユウトで」
「王子さまが良いです」
「だから」
「ユウトさまでどうですか?」
…………。
一瞬それで妥協すべきか悩んでしまう。それが命取りとなった。
「では、ユウトさまで」
反論しようとして、やめる。
なんかどう言っても聞かなそうだし、これ以上変な名称になるのも嫌だった。
「……ナツメはどうしてこの森に来てたんだ?」
そして、いつまで俺の手を離さないつもりなんだ。
「調合素材を集めにきたんです。
ほら、ここって素材がいっぱいあるじゃないですか」
「そりゃそうだけど……、その装備で来るのは自殺行為だぞ。
さっきみたいなモンスターもよく出るし。というか、今まで会わなかったのか?」
彼女の話からして、今日初めて来た訳ではないだろう。
「いつもなら、ババッて倒しちゃうんですけど。今日はスキルの調子が悪くって」
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え、スキルって生き物みたいに調子があるの? そんな疑問を浮かべる中、彼女はようやく俺の手を離してタブレットを呼び出した。
「そうですよね。これからのことを考えたら、隠し事なんてしちゃいけませんよね」
これからってなんだ。
なんかどんどん彼女のペースに飲まれて取り返しのつかないことになりそうなのは気のせいだろうか。気のせいであってくれたらいいな。
「はいっ。なんとなんと、あたしユニークスキルをゲットしちゃってるんです!」
は⁉
ユニークスキルという単語に、思わず俺は彼女が差し出したタブレットをのぞき込む。
言葉に違わず、そこには赤いスキル名とこんな説明文が並んでいた。
エモーションハート
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心を揺れ動かしたプレイヤーの人数と振れ幅により、一定時間毎にステータスが変動。
俺は数秒その画面を眺め続け、そのスキルの意味を考える。
心を揺れ動かすってなんだ……? まさか、このゲームってプレイヤーの感情を数値で計測できるのか?
考えてみれば、俺も感極まって涙が出そうになったことがあるし、そういうシステムが組み込まれている可能性も大いに考えられる。
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