スキルを使い続けたら変異したんだが?
第十三話 明かされる事実
「それなのに、なんで削除されたんだ?」
俺は純粋な疑問をぶつける。
「超優秀なリアナにしてみれば、このゲームのステータスやスキル、ドロップアイテムを弄るぐらい朝飯前だったんだ。
それで、デバックの最中に色々好き勝手やってたら……ね。ゲームの納期とか、クライアントとの契約とかで大変だったみたい。まあ、知ったことじゃないけど」
ああ。それは消されるだろうな。超優秀な人工知能と、世界初のVRMMOによる収益を天秤にかければ、会社としては後者を取らざる負えないだろう。
まあ、それよりも問題は。
「じゃあ、なんでお前は今ここに居るんだ?」
消されたはずの存在が、なぜ今こうして俺たちの前に姿を見せているかということ。
彼女はふふっ、とイタズラな笑みを浮かべた。
「あなた達人間もよくやるでしょ? 死んだふり作戦。削除される前に、この場所にバックアップを残して置いたんだ」
少なくとも俺はやったことはない。
というか、それは死んだふりというより、本当に一回死んでいるんじゃないだろうか。
バックアップから蘇るというのが人間の俺からは想像できないから、何とも言えないんだけど。
「でも念には念を入れてたみたいね。エリアごとにステータスの上限値を決められて無双できなくされちゃった。
まあ、どっちにしろ存在がバレたら消されちゃうから派手には遊べないんだけど」
さっきまでの戦いは派手の内に入らないらしい。
というか、ステータスを変えて無双って、もうそれ本当にチートじゃん。
どうしよう、このまま無事に返してもらえるのかな。
「そんなあなたが、私たちに一体何の用があるの?」
レナがリアナに問いを投げかける。
赤髪の少女の目が、不機嫌に細められた。
「リアナが用あるのは、ユウトだけだから。
あなたはもう帰っていいよ」
幼い彼女から放たれる恐ろしいほどの圧に、知らず俺は身じろいでいた。
それを真正面から向けられたレナは――。
チラリと隣の少女の様子を伺うと……彼女は笑顔を浮かべていた。
「私も用があるのは、ユウトだけだから。
もう帰っていいなら連れて帰るけど?」
いや、レナさん? 相手は超優秀で超身勝手な人工知能ですよ。チーターですよ。
マジで消されかねないから大人しくしておいた方が良いんじゃ……?
そう俺は二人の間へ入って、止めようとする。
それが、できない。
身動きが取れない。まるで蛇に睨まれた蛙のように。
喉がやけに乾く。肌がチリチリと痛む。さらになぜか胃が痛む。
「身の程知らずね。
今すぐスタート地点に飛ばしてあげようか?」
「身の程知らずだよね。
今すぐ運営にチクって今度こそ存在を抹消してあげようか?」
視線がバチバチとぶつかる。
しかし、分はレナにあった。
リアナは忌々しげにレナを睨み……嘆息を漏らした。
「あーあ、迂闊。やっぱり最初に消しておくんだったなぁ。
……でも、リアナを消して困るのは、あなた達プレイヤーだよ」
そう告げた彼女の声に、先までのからかいや挑発の響きはなかった。
意図を計りかねている俺たちに、リアナは続ける。
「このゲームには、私と同じことをできる存在がもう一人居るの。
リアナがユウトを呼び出したのは、ソイツのことを警告するため。
あとちょっと憂さ晴らしに」
憂さ晴らしの方が先だったんですがそれは。
というよりも、リアナみたいなチーターがもう一人?
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ソイツも同じことをしたなら消されたんじゃないのか?」
「同じことができるってだけで、デバック中は何もせずに優等生を演じていたわ、あの女。
だから、普通にこのゲームに実装されている」
「あなたと違って本当に優等生だったんじゃないの?」
弱みを握り、遠慮がなくなったレナが辛辣に訊ねる。
リアナはしばし黙考した後、聞き返した。
「……例えば、あなたが一つの世界を自由にできる力を持っていたとして、それを使わずにいられる?」
…………、
「……無理かも。逆に何もしない方が異常だよ」
ッ⁉
「でしょ?」
なんとなくだが、二人はどこか似ている気がした。
ではなくっ。
欲望に忠実な少女たちの間へ、俺は割って入った。
「いやいや。力を使ったら消されるんだろ? だったら使わないのが普通じゃないか」
きょとんとした顔が二つ、こちらを見た。
なんだ、その何言ってんのこいつみたいな顔は。
こっちのセリフだ。
「……まあ、ずる賢いところがあるから、バレるようには使わないかな。
でも、少しずつ。確実にこの世界に異変は現れていくとリアナは思うな」
その存在と会っていないのだから、俺には何とも言えない。
だが、可能性がゼロでないことだけは確かだろう。
しかし。
「なんでそんな大事なことを俺に? 他にもプレイヤーはごまんといるだろう?」
「それは、あなたがリアナのスキルの継承者だから」
また話はそこへ戻るのか。
今度こそ核心へ至れることを願い、俺は訊ねた。
「その継承者っていうのは、一体何なんだ?」
「このゲームのユニークスキルや装備には全て、由来となるキャラが存在しているの。
あなたがさっき使ったクリムゾンブレイズはリアナのもの」
初耳だった。
いや、それはもしかしたら、このゲームのかなりシークレットな部分の話なのだろう。
ようやく納得がいったが、また新たな疑問が浮かぶ。
「でも、お前はゲームから抹消されたことになっていたんだろ?
なのにどうして、ユニークスキルだけ残ってたんだ?」
「気まぐれにしては習得条件が厳しすぎるから、多分リアナが存在した証として残しておいたんじゃないかな?
というか、本当によくユウトは習得できたよね。
ブレイズソードの使用回数五千。
スキルポイント未使用。
死亡回数0。
初期装備でユニークモンスターと戦闘。
その戦闘中にブレイズソードを使用。
こんなのサービス終了後に笑い話として明かされるレベル……というか、多分あの人たちもそのつもりだったんだと思う」
「いやいや。流石にそんな滅茶苦茶な条件満たせるわけが……」
「ユニークスキルのフラグが建つと知らせるシステムがあるんだけど、身に覚えない?」
リアナの話に、まさかと俺は思い返す。
そういえば、ブレイズソードを使いまくってレベルが10に上がった時、聞きなれない電子音が響いた気がする。
ゴーレムにブレイズソードで斬りかかり、戦闘が始まった時にも。あの時音が大きく感じたのは、二個同時に条件満たしたからか。
そしてスキルポイントは未使用だったし、装備も次の拠点で揃えようと初期装備のまま。雑魚狩りをしていたので当然死亡回数は0。
え、嘘、本当に条件を満たしてた?
俺は純粋な疑問をぶつける。
「超優秀なリアナにしてみれば、このゲームのステータスやスキル、ドロップアイテムを弄るぐらい朝飯前だったんだ。
それで、デバックの最中に色々好き勝手やってたら……ね。ゲームの納期とか、クライアントとの契約とかで大変だったみたい。まあ、知ったことじゃないけど」
ああ。それは消されるだろうな。超優秀な人工知能と、世界初のVRMMOによる収益を天秤にかければ、会社としては後者を取らざる負えないだろう。
まあ、それよりも問題は。
「じゃあ、なんでお前は今ここに居るんだ?」
消されたはずの存在が、なぜ今こうして俺たちの前に姿を見せているかということ。
彼女はふふっ、とイタズラな笑みを浮かべた。
「あなた達人間もよくやるでしょ? 死んだふり作戦。削除される前に、この場所にバックアップを残して置いたんだ」
少なくとも俺はやったことはない。
というか、それは死んだふりというより、本当に一回死んでいるんじゃないだろうか。
バックアップから蘇るというのが人間の俺からは想像できないから、何とも言えないんだけど。
「でも念には念を入れてたみたいね。エリアごとにステータスの上限値を決められて無双できなくされちゃった。
まあ、どっちにしろ存在がバレたら消されちゃうから派手には遊べないんだけど」
さっきまでの戦いは派手の内に入らないらしい。
というか、ステータスを変えて無双って、もうそれ本当にチートじゃん。
どうしよう、このまま無事に返してもらえるのかな。
「そんなあなたが、私たちに一体何の用があるの?」
レナがリアナに問いを投げかける。
赤髪の少女の目が、不機嫌に細められた。
「リアナが用あるのは、ユウトだけだから。
あなたはもう帰っていいよ」
幼い彼女から放たれる恐ろしいほどの圧に、知らず俺は身じろいでいた。
それを真正面から向けられたレナは――。
チラリと隣の少女の様子を伺うと……彼女は笑顔を浮かべていた。
「私も用があるのは、ユウトだけだから。
もう帰っていいなら連れて帰るけど?」
いや、レナさん? 相手は超優秀で超身勝手な人工知能ですよ。チーターですよ。
マジで消されかねないから大人しくしておいた方が良いんじゃ……?
そう俺は二人の間へ入って、止めようとする。
それが、できない。
身動きが取れない。まるで蛇に睨まれた蛙のように。
喉がやけに乾く。肌がチリチリと痛む。さらになぜか胃が痛む。
「身の程知らずね。
今すぐスタート地点に飛ばしてあげようか?」
「身の程知らずだよね。
今すぐ運営にチクって今度こそ存在を抹消してあげようか?」
視線がバチバチとぶつかる。
しかし、分はレナにあった。
リアナは忌々しげにレナを睨み……嘆息を漏らした。
「あーあ、迂闊。やっぱり最初に消しておくんだったなぁ。
……でも、リアナを消して困るのは、あなた達プレイヤーだよ」
そう告げた彼女の声に、先までのからかいや挑発の響きはなかった。
意図を計りかねている俺たちに、リアナは続ける。
「このゲームには、私と同じことをできる存在がもう一人居るの。
リアナがユウトを呼び出したのは、ソイツのことを警告するため。
あとちょっと憂さ晴らしに」
憂さ晴らしの方が先だったんですがそれは。
というよりも、リアナみたいなチーターがもう一人?
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ソイツも同じことをしたなら消されたんじゃないのか?」
「同じことができるってだけで、デバック中は何もせずに優等生を演じていたわ、あの女。
だから、普通にこのゲームに実装されている」
「あなたと違って本当に優等生だったんじゃないの?」
弱みを握り、遠慮がなくなったレナが辛辣に訊ねる。
リアナはしばし黙考した後、聞き返した。
「……例えば、あなたが一つの世界を自由にできる力を持っていたとして、それを使わずにいられる?」
…………、
「……無理かも。逆に何もしない方が異常だよ」
ッ⁉
「でしょ?」
なんとなくだが、二人はどこか似ている気がした。
ではなくっ。
欲望に忠実な少女たちの間へ、俺は割って入った。
「いやいや。力を使ったら消されるんだろ? だったら使わないのが普通じゃないか」
きょとんとした顔が二つ、こちらを見た。
なんだ、その何言ってんのこいつみたいな顔は。
こっちのセリフだ。
「……まあ、ずる賢いところがあるから、バレるようには使わないかな。
でも、少しずつ。確実にこの世界に異変は現れていくとリアナは思うな」
その存在と会っていないのだから、俺には何とも言えない。
だが、可能性がゼロでないことだけは確かだろう。
しかし。
「なんでそんな大事なことを俺に? 他にもプレイヤーはごまんといるだろう?」
「それは、あなたがリアナのスキルの継承者だから」
また話はそこへ戻るのか。
今度こそ核心へ至れることを願い、俺は訊ねた。
「その継承者っていうのは、一体何なんだ?」
「このゲームのユニークスキルや装備には全て、由来となるキャラが存在しているの。
あなたがさっき使ったクリムゾンブレイズはリアナのもの」
初耳だった。
いや、それはもしかしたら、このゲームのかなりシークレットな部分の話なのだろう。
ようやく納得がいったが、また新たな疑問が浮かぶ。
「でも、お前はゲームから抹消されたことになっていたんだろ?
なのにどうして、ユニークスキルだけ残ってたんだ?」
「気まぐれにしては習得条件が厳しすぎるから、多分リアナが存在した証として残しておいたんじゃないかな?
というか、本当によくユウトは習得できたよね。
ブレイズソードの使用回数五千。
スキルポイント未使用。
死亡回数0。
初期装備でユニークモンスターと戦闘。
その戦闘中にブレイズソードを使用。
こんなのサービス終了後に笑い話として明かされるレベル……というか、多分あの人たちもそのつもりだったんだと思う」
「いやいや。流石にそんな滅茶苦茶な条件満たせるわけが……」
「ユニークスキルのフラグが建つと知らせるシステムがあるんだけど、身に覚えない?」
リアナの話に、まさかと俺は思い返す。
そういえば、ブレイズソードを使いまくってレベルが10に上がった時、聞きなれない電子音が響いた気がする。
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