クラスにハブられた僕は罪を背負いながら頑張ります

煮干

ヴァンスだよー

 食堂の扉を開けると、豪華な料理がテーブルを埋めつくしていた。ポテトチップスやお刺身など、僕の世界でよく見なれた料理もある。


「懐かしいだろ、望」


「うん!」


 僕がイスに座ると同時に腹の虫がなる。パブールさんも優もリアもみんな僕を見る。恥ずかしい……体がどんどんと火照る。


「ねえねえ、早く食べよ!」


 だが、珍しいことにリアが意地悪をせずになかったことにしようとする。


「そ、そうだな。みんなお腹がすいてるみたいだし食べるか」


 優は手を合わせて「いただきます」と言う。パブールさんも手を合わせて口を動かす。たぶんいただきますと言ったんだろう。


「いただきます」


 僕もさっきのできごとを忘れ、食べることに専念しよう。まずはなにから食べようかな……。


 そう考えている間にもリアは手を止めずに口にかきこむ。うかうかしていられない。とりあえずお刺身から食べよう。


 僕はフォークをのばして赤身魚をとる。そして、一口で食べるとあまりの美味しさに驚愕した。


 しっかりとした歯ごたえにこの塩加減がたまらなくいい! これでご飯があったらさぞ進むことだろうなぁ……。そんなことを思うと日本が恋しくなってきた。


 残念なことにこの世界にはご飯も醤油もない。主食はいも、ただそれだけが残念だ。


「どうだ? 刺身みたいだろ?」


 優が自慢げに聞いてくる。


 刺身みたい? じゃあこれはお刺身じゃないの?


「え、じゃあこれは?」


「焼き魚かな……少しあぶったし。この世界の魚は何がいるか分かったもんじゃないからな。ごめんな」


 優は両手を合わせて、軽く頭を下げる。


 優は僕のために日本で見慣れた料理を作ったんだ……。そう思うと、僕の口から自然と感謝の言葉がでた。


「ありがとう、優」


 言った後、恥ずかしさがこみ上げて下を向く。チラッと優を見ると、優も少し頬を赤らめてそっぽを向いている。


「それよりも! どうだこのポテトチップス、なかなか似てるだろ?」


 そう言って優は、話題を変えようとする。そして、ポテトチップスをつまむと目のあたりでチラつかせた。


「ポテチは芋を切って揚げただけじゃん!」


 そう返すと、僕と優はゲラゲラ笑う。その時、パブールさんが突然立ち上がった。僕は悪いことをしたのか不安になるが、優は気にした様子もなく食事を続ける。


「望、落ち着け。パブールさんは愛しのヴァンスを迎えに……痛っ!」


 パブールさんの鉄拳が優の頭に振り下ろされる。優は目尻に涙をうかべ、殴られた場所をさすりながら口をとがらせた。


「殴ることないだろ……」


「ご丁寧に嘘までついてどういうおつもりなのかしら……ねえ?」


 パブールさんは笑顔で首を傾ける。怖い……生まれて初めて殺気というものを直に感じた。


 再びパブールさん拳を振りあげる。


「待った! 謝る! 謝るから!」


 優は青ざめた顔で必死に叫ぶ。イスから落ちても後ずさりするその姿があまりにも滑稽で、僕は思わず笑ってしまった。


「まったく……謝るくらいなら言わなければいいのに……」


 パブールさんボソリと言った正論に僕はさらに笑った。あまりにも笑いすぎて、過呼吸になるとこだった……。


「ごめんなさい。これでいいだろ、ほら行ったいった」


 優はさも不満アリ気な顔でシッシッと手を振る。パブールさんは大きなため息をついて食堂を出ていった。


「二人って親と子供みたいな関係だね……」


 リアに耳うちされると、「たしかに……」とつい、口から出てしまった。



「どうもー、ヴァンスだよー。ヴァンスって呼ぶことと、敬語は禁止ー」


 森であった時のイメージとはまるで違う。ニコニコしていて、優しそうな人だ。


 ヴァンスは軽く一礼すると、イスに座る。手を合わせて、「いただきます」そう言ってリアに負けないぐらい食いっぷりを見せる。


「二人がリアと望だろう?」


 そう言われて僕とリアはうなずく。


「二人の自己紹介も聞きたいなー」


「僕は望です。優の双子の弟です」


 すると、ニコニコしていた顔が驚いた顔へと変わる。目を大きく見開いて、僕をじっと見つめる。


「この子が優の弟かー。優よりもちゃんとした子だなー」


 そう言ってゲラゲラと腹を抱えて笑う。優はムスッとした顔で小さく「うるさい」と言って、不満をあらわにした。


「僕はリア! エルフの女の子で、ノゾムの将来の妻だよ!」


 気管支にいもがはいって僕はむせた。急にあんなことを言われて驚かない人間はいない。


「いいねー、モテてるね望君。大事にしなよー」


「違います! ただの友達です!」


 僕が声を荒らげると、リアが僕を見つめる。悲しそうな表情で、こっちが悪い事をした気分になるけど、僕は悪くない。


「えー、今日からベッド一緒だよね?」


「おおー、不穏だー」


 ヴァンスは笑顔で僕の状況を楽しんでいるようだ。


「だって、空き部屋がないからしょうがないじゃん」


 そうだ、あの時たしかに優は言った。空き部屋はないと。


「そうだっけー?」


「ううん、空いてるよ」


「ええ!?」


 思わずすっとんきょうな声がでる。つまり……僕は騙された……。


「優のバカ!」


「なんと言われようがかまいません。俺は二人の間をもっただけだからね」


 そう言って優はあっかんべーをする。腹ただしい……もう我慢の限界だ!


「優のガキ! 子供!」


「なんだと!? 弟の分際でなにを!」


 優といがみ合っていると、食堂に手を叩く音が響いた。


「兄弟喧嘩はよそでしてください。今は食事の時間、場所をわきまえなさい」


「ごめんなさい……」


 僕は素直に謝った。だが、優ときたら……。


「望が悪いんだ! 俺は悪くない!」


 どこまでの人の神経を逆撫でするつもりなんだ。


「そういうとこー、やっぱり優よりも望がお兄ちゃんだよー」


「お前は関係ないだろ!」


 そう言われてもヴァンスは気にすることなくヘラヘラ笑っている。その時、悪寒がした。


「優……ちょっとお仕置きが必要かな?」


 パブールさんは拳を自分の顔近くまで上げる。すると、さっきまでわめいていた優は静かになりイスに座る。顔は青白く、小刻みに震えている。


 ここで一番強いのはパブールさんか……。下手に逆らわないようにしよう……。僕は肝に銘じた。


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