異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

65話 シュナの試練 II



 私の名前はシュナ。種族は魔物。そしてその中でも1番強い魔王っていうやつだ。

 シュナと言うのは、ユウに付けてもらった名前。大事な名前。




 今日は私にとって特別な日、1人でぶ....ブドウ派最強決定戦というものに挑むのだ。この姿になってから、様々なことを知った。

 楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、怖いこと。

いい事ばっかじゃなかったはずなのに、私は嫌なことでさえ、知れて嬉しかった。元の体じゃ絶対にこんな感情分からなかったと思う。


 そして、私は感情を得てから初めて今日、1人で何かを成し遂げる。


「ん、なんだお嬢ちゃん。観戦入口はこっちじゃないぜ」

「観戦じゃない、出場するノ」

「あぁ?.....ガハハハハ!やめとけやめとけ!飴ちゃんあげるから早くママの所へ帰りな!」


 後半何を言われてるのか分からなかったけど、多分馬鹿にされたってのは分かった。

「私の名前はシュナ」

「んぁ?なんだ、名前なんか.....えっ?」


 急におじさんの顔が強張った。私はおじさんが見ている紙を見る。そこには、『シード枠、シュナ』と書いてあった。


「....通っていい?」

「.......あ.........あぁ」




 次は簡単に通してくれた。なんでだろう。あ、私の名前があったからか。そっか。





***







『さぁさぁやってきました!武闘派最強決定戦!!今年はどんな熱い試合が見れるのでしょうかァァ!!!』



 司会の始まりの合図によって、360度観客で埋め尽くされた会場は、始まる前から凄まじい熱気が支配していた。


「ビールはどうですか〜!1杯3銅貨だよぉ!!」

「さぁ今年は強そうなのがいっぱい居るよぉ!賭けた賭けたぁ!!」



 『盛り上がってきたところでぇ!まずは大会のルール説明に入ります!主なルールは3つ!武器の持ち込みは一切なし!障害が残るほどの怪我を負わせるのは禁止!魔法は、自身を強化する魔法以外は使用禁止!1つでもルールを破ればその時点で反則負けとなります!そして勝利条件は相手に「降参」と言わせるか気絶、または立ち上がれなくなるまでです!!』


 ルール説明が終わると、野次馬が「早く始めろよー!」と急かしはじめる。



『いい感じに場も暖かくなったところで、早速第1試合を始めましょう!まずは選手紹介です!第1試合!ブロックリー=イエーズ選手対カリフロアー=ガイザー選手です!!では、ご入場ください!!!』








***




うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!


会場から震えるほどの歓声が聞こえてくる。


「始まっタ....」


 敵情視察もしておきたかったけど、この大会は公平を期す為に選手は基本待機する事になっているらしい。仕方ない。正々堂々の勝負ってことなら異論はない。


「あ、終わっタ」

 思ったより早かった。どっちが勝ったんだろう。ブロックリーとカリフロアー。どっちも美味しそうな名前。......私はブロックリーの方が美味しそうな気がする。



「始まっタ」











30分ほど経過した。



「.......まダ?」

 もう1周くらいしてるはずの試合数だ。なのに私の番が全然来ない.......なんでだろう。




.......早く戦いたいなぁ





***



 シュナと別れてから、俺とミスラはギルドへ向かっていた。


「でも、シュナ一人で行かせて大丈夫だったのかね?」

「なんでですか?」

「いや、一人で行ったら迷った子供としか思われずに、会場に入れてもらえないんじゃないかなー....と」

 ただでさえ小さいのに、少しだけカタコトな言葉遣いは、まだ言葉を話し慣れてないようにしか見られない。

「そこは抜かりありませんよ。シード枠にしてもらいましたから」

「え?シード枠....?そんなのどうやって...」

「別に、普通に頼み込んだだけですよ。レイラさんから聞いた話なのですが、この大会のシード枠は少し特別な仕様なんです」

「特別?」

「はい、単純な強さが基準になるのでは無く、特殊であればあるほどいいんですって。それが強さ的にハズレだったとしても、余興として観客は捉えるらしいですよ?」

...幼女がシード枠.........確かに特殊だな。


「今年のシード枠は大当たりってわけだ」


「そういうわけです」




***



『大会も中盤に差し掛かったところでぇ!ここでシード枠の紹介です!!』

「うぉぉ!待ってましたぁ!」と盛り上がる会場。血気盛んな男達が楽しみにしていたかのように大声をあげる。


『クレアド=トール選手対!今回のシード枠!シュナ選手です!!それではご入場くださいっ!」


 司会の進行と共に、二人の選手が闘技場に姿を現す。


「な、なんだあれ!子供じゃないかっ!」


「お、おいおい嘘だろっ!?シード枠だからって子供を嬲るのは反対だぜっ!?」



 予想外過ぎたシード枠の登場により、会場の観客が驚きを隠せず、批判の声が上がる。

『えー今回のシード枠として出場されたシュナ選手は、道場に通ってるらしく、エントリーを申し出た者からは、「見る前から弱いと決め付けるな、黙って見とけ」と少々乱暴な言伝を受けていますっ!』


「言ってくれるじゃねぇかっ!」

「確かにそうだな....子供だからって強いか弱いかは見た目じゃわからねぇ」

 こうして会場の脳筋野郎達は簡単に言いくるめられた。




***



 やっと私の番。と思って闘技場に出ると、まず見えたのは沢山の人。そして、皆私を見て何故か驚いていた。



『色々と言ってても仕方がありません!私達は熱い戦いを見に来たのですっ!例えそれが子供であろうと強ければ大歓迎!では、試合開始っ!』



 試合が始まった。けど、クレアドとか言う人は一向に向かってくる気配はない。


「おい」



「.....なニ?」




「チッ、マジでガキじゃねぇかよ.......おいガキ」



「ガキじゃない  シュナ」


「うるせぇ、それよりガキ。提案だ、最初の一撃は受けてやる。それで自分の身の程を知ったら降参してとっとと帰れ」


「........いいノ?」

「はっ!男に二言はねぇ」


『なんとクレアド選手!ハンデを申し出ましたっ!』

 会場の観客が見守る中、私はゆっくりと近づく。

 舐められてるのにはイラッときたけど、落ち着いて初撃を放てるのは力の加減の再確認も出来て助かる。遠慮せずハンデを貰っておこう。


「じゃあ、いくけド、せめて防御 しテ。やりずらいかラ」

 未だに加減が難しいと言うのに、全く防御されないとなると、最悪骨を折ってしまうかもしれない。

「はっ!言ってくれるじゃねぇか。わったよ。ほら、早く来い」


 ムッ、馬鹿にして.......


 ユウとの特訓の成果を見せてやる。


 やがて男のすぐ目の前まできたシュナは、1度深呼吸し、いつもの様に左手を前に出し、右手を体へ引っ込めるように構える。




 闘技場に緊張が走る中、シュナは動いた。



 ドンッ!



そんな音とともに、クレアドは軽々と壁に吹っ飛び、衝突する。


 一瞬、時間が止まったのように会場が静かになる。そして今の状態をようやく理解した観客達は───



うぉぉぉぉぉぉ!!

「やるじゃねぇかガキ!見直したぜ!!」

「こりゃ今年は大当たりじゃねぇか!?」

 はち切れんばかりの歓声をあげた。

『.....なっ......な、なんということだぁ!?シュナ選手が蹴り・・でクレアド選手を壁まで吹き飛ばしたぁーー!?凄まじい怪力だぁぁぁ!』


 私の蹴りは拳より少し弱い。それをユウが教えてくれて、急遽蹴りの練習に切り替えた。でも、それでも期待値までは足りなかった。だから最終手段に出た。



 それは──絶対に気づかれないほどギリギリの寸止め・・・


 今クレアドを襲ったのは脚ではなく、その余波だ。



『さぁクレアド選手!自らがハンデを与えた事で大ダメージを追ってしまったぁぁ!....え?あれ、どうしたんでしょうか、急に医療班が闘技場に出てきました』


 医療班と呼ばれた人達は、担架たんかを持って駆け足でクレアドに近づく。そして、容態を確認するように心臓に耳をあてたり、口に手を翳したりしている。

 一通りの確認が済んだのか、医療班のひとりが手をクロスさせてバツのサインを実況席に送る。





.......も、もしかして、やりすぎた...?あんなに練習したのに.......?



 ルール違反という文字が頭によぎる。




『な....なななんとクレアド選手。今の一撃で完全に気絶してしまったようですっ!』



気絶...?よくユウがなってるやつ....?じゃあ重症じゃない??



 会場にこれでもかと言うほどの声援が響く。





***




 ミスラとギルドに行くと、受付にはシスティさんがいた。


「うっ......」

(気まずい.....昨日あの場で謝れなかったからさらに気まずい........)

 俺に気づいたシスティさんは、眉がピクっと動いた気がするが、特にこれといった表情に変化が見られない。


(もしかして、あの反応の無さはお互い昨日のことは忘れましょうって合図なのか?)

 まだそうと決まった訳じゃないが、取り敢えずはそれでいってみよう。他にも受付は何個かあるが、システィさんを露骨に避けてるみたいになってそれはそれで気まずい。そして、昨日の件を少しでも口に出すことがあったら即座に土下座しよう。


 決意を固めると、不思議な人を見る目で俺を見ていたミスラを連れて受付の方へ向かう。


 目の前まで来たところで、未だに無表情...いや、営業スマイルのシスティさんに俺から口を開く。

「えっと..金ランク昇格の件で改めてきたんですけど.....」

「はい、昇格ですね。伺っております。こちらへどうぞ、うじ虫さん」




 謝る隙もなく俺の評価はどん底へ落ちていたのだった。

 

 

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