異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

55話 ダンジョンクリア




あれから1時間ほどして、ようやく声が戻り、ミスラの回復魔法もあって、ようやく立ち上がって最低限動けるところまで回復した祐。


「もう、いいノ?」


 いつの間にか、魔力切れも回復して意識を取り戻したシュナが、心配そうに声をかけてくる。

「あーうん、正直まだだるいし、フラフラするけれど、多少歩き回るくらいは大丈夫っぽい」



 シュナに支えられながら立ち上がり、周りを見渡す。


「ん?あんなドアあったか?」


 見るとそこには、入口にあったような大きなドアより一回り小さくなったドアがあった。


「この龍を絶命させたことで現れたんでしょうね」


「なるほど.....あ、それとミスラ」


「なんですか?」


 まだ少し目が赤いミスラは、顔を合わせないように祐に応答する。


「F○は神ゲーだよな」


「えぇ、そうですね。あれは素晴らしい作品です。音楽、ストーリー、作画、操作性。全てが面白いです。私も日本にいた頃どれだけあれに助けられたか.....」


「........」


できる限り平常心で、何気なーく聞いたら、簡単に暴露しやがった。


「......ん?あ、あれ?私は何を..........」

「いや、いいんだ。分かるぞその気持ち。あの感動を共有したい気持ち....ずっと誰かに言いたかったのを我慢してきたんだもんな.........」

「え?.....あ............いや違うのです!こ、これはその!そ、そう!日本という国の文化を知ろうと!様々なことをしていただけでで....!」

「んじゃ日本の首都は?」


「.............北海道?」


「東京だよ」


 大きさで選んだな....



「うぅ〜...やっぱあれは黒歴史です......誰にもバレないよういつも言葉には気をつけていたつもりだったのに.....」

 めちゃくちゃショックを受けてる。でも何故だ?そこまで悲観するべき事でもないと思うんだが。

「お、おいミスラ?俺は別にゲームにハマっていたからって幻滅なんてしないぞ?寧ろゲーム仲間ができてウェルカムだ!」

項垂れているミスラに慰めの言葉をかけると、チラッとこちらを見て一言。

「..........根っからのゲーム脳に言われても嬉しくないです」


「うぐっ!」



 これは割と地雷踏み抜いたかも知れない。と後悔し始める祐。


 各々おのおの自爆し、なんとも言えない空気の中、シュナだけはよく分からずに首をかしげていた。




***



 それから時が経ち、突如出現したドアが地上へ繋がる出口とは限らない為、休息を取る事にした。


 龍を倒してからというもの、あんなに騒がしかった100層はシンと静まり返り、ボス部屋に入ってくる魔物は一匹もいなかった。


 そして、十分な休憩を取り魔力もしっかり回復した祐達。


「よし....んじゃそろそろ行くか」


「ですね」

「うン」


 そして、おそらくダンジョン最後の扉に向かおうとして、立ち止まる。

「あっと、その前に」


 まだここでやることがあるのか?と言うように疑問の顔を浮かべるミスラにシュナ。

「ずっと灰になってないあの2匹。そのままってのも、なぁ?」


「あー」


「?」



 共感してるミスラを他所に、やはり理解出来ないシュナは、不服そうに頬を膨らますのであった。




***




「ふぅ、よし。今度こそこのダンジョンともおさらばだな!」



 どこかホクホク顔の祐は満足げにそう言った。


「ん?」


 隣を向くと、裾を掴んで不思議そうな目をしてるシュナの姿。

「あれ、何に使うノ?」


「気になるか?」


「うン」

 即答するシュナ。


「まぁ..ワクワクするものに、かな」

「ワクワク.....」

「そうそう」


 シュナはぐらかされたことに気づかずに、満足げに鼻歌を吹いているのを確認すると、



「さて、んじゃ行くか」


 3人揃ってドアに手を置き、開ける。


「お、おぉ...」


 期待してなかったといえば嘘になる。正直ここまで来て報酬なしは有り得ないのでは、とは思っていた。だがこれは......


「まさしく宝の山....ですね」


「どうすっか...これ」


「入れられるだけ入れちゃえばいいじゃないですか?」


「...それもそうか」


 財宝の山は小部屋いっぱいに積まれていた。1番多そうなのは金貨。それに何個もある宝箱や宝石。壁には数々の武器が掲げられていた。


 次元水晶の上限がわからなかったので、取り敢えず価値のわからないものは後回しに金貨からどんどん入れていった。




***



結果から言って、全部入った。次元水晶、恐るべし。


 すっかり輝きを無くし、広くなった小部屋の床にあるものが描かれていた。


「これは...魔法陣か?」


 「刻印魔法ですね」


 龍を出現させた時の魔方陣にもそんなこと言ってたな。


「普通の魔法もこんな風に仕込むことが出来るんじゃなかったか?何が違うんだ?」


「効力自体に大した違いはありませんよ。ただ、魔力量と特徴が違うんです」

「特徴?」

「例えば、普通の魔法を仕込むのが10の魔力を必要とするとします。それに対して、全く同じ魔法を刻印魔法で仕込むとするならば、倍の20の魔力が必要になります」


 一見損しているように見える。だが、それを補うに余りある『特徴』がある。という事だろうか。


「多大な魔力を必要とする代わりに、刻印魔法は発動するまで消えることはありません」


「....何があってもか?」

「えぇ、たとえ刻印自体がなくなって、原型を留めていなくとも、刻印魔法は残り続けます。まぁその場合は発動はほぼ不可能ですが」


「なるほど」


 刻印魔法の特徴はよく分かった。確かに、2倍の魔力を必要とするほどのものではある。

 そこで次に問題になるのが、この小部屋には財宝以外にこの刻印魔法しか無かったという事だ。

「....この刻印、転移魔法だと思うか?」


「正直、分かりません。としか言えませんね。たとえ私でも、刻印だけでその種類を判別することは難しいです」


「.....転生のスペシャリストだろ?何とかしろよ...」

「転生のスペシャリストだからこそ魔方陣なんか使わないのです」

 そうきたか....

十中八九地上に戻るための刻印なんだろうけど、1%でも罠という可能性があるだけで、行動が詰まってしまう祐。

「でもまぁ、大丈夫ですよ?もし罠だったとしても発動する前にすぐに分かりますので、召喚でなければ刻印から抜け出せばいいだけです」


「....じゃあ召喚だったら?」

「んーと、それもまぁ大丈夫だと思います。今の祐なら魔王でも来ない限り対処出来るでしょう?」

「え?」

 何故そこで俺が?と理解が及ばず疑問で返してしまう。

「何をぼけてるんですか、使ったのでしょう?『進化』」

 でなければあんな重傷で動けるはずが無いのですから、と付け足すミスラ。

「......あ、あはは。ソウダッターオレイマツヨインダッター」

「なんで急にカタコトになるんですか.....不安なら別に無理に戦わなくともいいですよ」

「...そう....だな」

「そうですよ。その先に地上に戻る術がないなら、引き返すしかないのですから、逃げればいいんです」

「...あぁ......そりゃそうだ........」


「.....あ、あの、なんですか?さっきからボーッとして」


 あれ、そんなつもりじゃなかったんだけど、そう見えてたか。でも、何故かと聞かれればそれは───


「強くなったなー、って思ってさ」
 

 前は直ぐに自分を犠牲にしたりしてたってのに、今じゃどうだ。頼りにしていた転移がもし無理だったら、上に引き返せばいいなんて簡単に言ってのける。迷いなど一切なく。

「......それは貴方の──はっ!?、い、いえ!そんなこと今はどうだっていいでしょう!」

(い、言えません、「貴方のお陰です」なんて..!)

「まぁ、そうなんだけどさ」


「ねぇ」

 そんなふたりのやり取りをずっと見ていたシュナが、口を開いた。

「早く行こうよ」


「「あ、はい」」


 この何が来ても構わないと言う顔の少女を見て、色々考えるのをやめた2人であった。



***



「.......じゃあ、やりますよ?」


3人で刻印の上で円のように囲み、手を握る。

「ちょっと待ってくれ」

「? なんです?」

「まぁ、ちょっと確認なんだが、シュナ」

「なニ?」

「ここまで来て今更だけど、確認してなかったからさ........シュナは、地上に行きたいか?」

 シュナにとってこのダンジョンは故郷だ。地上に行きたくないのであれば、強制はしたくない。

「......私は、危ない存在、でショ?」

 やっぱり、口には出さずとも、少なからず引っかかっていたらしい。

「あぁ、間違ってはいない」

 それに対して俺は、正直に答える。

「.........」

 ミスラは黙って見届けることにしてくれたようだ。

「シュナは世界にとって危ない存在だ。けどな、今は違う。俺はシュナと一緒に戦って、助け合って、その中で1度も危険な奴だとは思わなかった」

 真っ直ぐとシュナと目を合わせながら、会話を続ける。

「1度、シュナに剣を向けたことがあったな。シュナは魔王だから、倒さなければいけない存在だからという、馬鹿な固定概念に囚われていた俺の弱さだ。前世とか、別人格とか、関係ないんだ。実際、俺はその馬鹿な固定概念に納得してしまっていたから。本当にすまない。」

 シュナは何も言わずに、俺の話を聞く。


「あのあと、よく考えたんだ。でも、魔王は倒さなければいけない存在。その考え方は、何故かどうしても消せなかった。けど、少なくとも──────仲間であるシュナは、倒すべき存在なんかじゃない」


「.......」


「だからもし、シュナが1人でここに残りたいと言っても、地上で一人で生きていくと言っても、なんら俺は否定しない。たとえシュナを否定するやつが現れても、俺がシュナを肯定してやる。世界がシュナを敵と決めつけても、俺は......いいや、俺とミスラはお前の味方だ。だから、安心して自分がしたい事を決めてくれ」


 シュナの視線は俺とミスラを行ききする。

 ミスラは迷うことなく頷く。


「......そっか....なら私は、地上に出ル。二人と一緒ニ」

 そう言ってみせるシュナの顔からは、満面の笑みが浮かんでいた。





「確認は済みましたね。じゃあ、そろそろ行きますよ」


 期待と不安を持ちながら、だがどこか晴れ晴れとした表情で見つめ合う3人。



「〝顕現せよ〟」


 ミスラが刻印を発動させるためのワードを口にする。すると次の瞬間、刻印が青く光り出す。


 ミスラの反応を待つ.......


 そして発動寸前で、ミスラは頬笑みを浮かべた。


 その笑みを見て、全てを理解した祐とシュナは安心した顔をして力を抜いた。




 光は段々強くなる。もう目の前は光で埋め尽くされ、何も見えなくなる。眩しすぎて目を瞑ってしまう。






 そして次に、を感じた。ダンジョンのジメジメした風ではない。清々しく、気持ちの良い風だ。



 ゆっくりと目を開ける。そこに広がる景色は見渡す限りの草原。そして上を向くと、天井はなく、どこまでも上へと続く空。



停止していた思考が、ようやく動き出す。



「戻ってきた......戻ってきたぞぉぉぉぉぉ!!!」


 思わず叫んでしまった。多分周りに人はいなかったと思うが、例えいたとしてもこの感情は抑えられない。


「これが、空.......すごイ。大きイ!」



「はっはっはっはっはー!!!」


 家族で山にピクニングに行った時、親が言ってた「空気が美味い」という言葉が、今なら死ぬほど共感できる。


「はっはっはっはーー!!!」



 草むらを走り回る。ずっと硬い地面を走り回っていたせいか、草原の柔らかい地面に足を取られて転んでしまう。だが直ぐに立ち上がって走り出す。

「はっはっは──────」


「〝サンダー〟」



「ぎゃああ!」


 全身に凄まじい痺れを感じて、またもや転んでしまう。

「いい加減にしてください....気持ちはわかりますが、完全にキチガイで───」


「気絶、してるヨ?」



「.............」







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