異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?
52話 俺が求めるもの
 寒い。それにすごく眠い。目を開けてるはずなのに視界は暗い。
──あれ、俺....何してたんだっけ.......
 確か、龍と戦ってて....えっと、龍と戦ってたはずなのに、なんで俺は今戦ってないんだ?
 そもそも、なんでそんなやつと戦ってたんだっけ。
***
 俺は...元々平凡な生活を送る一般人だった。それが、自分の事を神とかいうおかしな少女に会って、半ば無理やり異世界に連れてかれた。
 最初は不安はあった。家族も心配してないかとか、蓮や香山にも心配をかけてるかもしれない。なのに、何故かあの神に苛立ちを覚えることはなかった。
 それから色んな出会いを経て、俺を異世界に連れてきた張本人、ミスラと再会した。
 サポートに来たとか言って、レベル1とか言うし、なのにめちゃくちゃ強いし、知識面で言えば、何度も助けられた。
 神の仕組みを聞いた時、俺は初めて苛立ちを覚えた。神にじゃない。俺含め、人間にだ。
 ミスラは言った。神は人の願いによって生まれたものだと。
 そもそも、自分たちでどうにかするべき事を、神に頼んで救ってもらおうとする方が筋違いってもんだ。
 だからこそ腹が立って、今も人間達のエゴによって苦しんでいるミスラを、救ってやりたいと思ったんだ。
***
 俺は、死ぬのか?
 また、大切な人たちを失って?
────そうね。あなたはまた失うの。何も出来ないまま、孤独になって。
 久しぶりだな、幻聴。聞いたことのない声。なのになんとなく懐かしい。
────このままでいいの?失って、後悔して、死ぬの?
 わかったようなことを言ってくれる。何も知らない癖に。
────貴女の事を知ってる知らないは今問題ではないんじゃないかしら?
 なんだよ、今回は妙に俺の言葉を拾うじゃないか。
────それも今は関係ないわ。私の知りたい答えはそれじゃない。
............
────きっとこのままじゃ、貴方の大切な仲間はあっさり死ぬわよ?
....じゃあ!どうすればいいんだよ!!
 俺はもう魔力も無ければ、指一本動けやしない!自分がどのような状態さえわからないんだぞ!もう手遅れだ!
────あなたの欲してる力というのは、魔力かしら?
 ....え?
────それとも筋力?または朽ちぬ体?
ちょっと待て..何を言って──
────そんな目に見える力が欲しかったのかしら?
...........
────私は貴方のことを知らないわ。でも、貴方が欲してる力は知っている。
 なんだよ、それ。
────あら?欲しいのかしら?
 .....あぁ、欲しいよ。そりゃ俺が欲しいとと思ってるなら欲しいに決まってる。
────ふふっ、そうよね。そうだったわ。私とした事が、いらない質問をしちゃったわね。   ならその力、私があげようかしら?
お前が、持ってるのか?その、俺が欲してる力ってのを。
────えぇ、持ってるわ。というか、私しか持ってないわよ。
......じゃあ、くれよ。
────んー、そうねぇ、タダではあげられないわね。
代償か?いいぜ、なんでもくれてやるよ。俺のものなら全て。
────あら、強気ね。じゃあ代償は後で貰うことにするわ。直接会ってから、貰いたいしね。じゃあ.....いくわよ?
 あぁ、頼む。
────ふぅ...よしっ........『頑張って!私の愛おしい、愛おしい、勇者様』
***
 寒い。暗い。けど、眠くは....ないな。
 俺は立ち上がる。
「....ゴホッ!....はぁ..はぁ..........こりゃ、すげぇな...」
 目を開けて、自分の体を見ると、そこには生きているとは思えないほど血だらけだった。というか左腕が無くなってた。
「───....さて、いくか」
***
 ミスラは絶句していた。
祐達が黒竜を倒したと同時に白龍が神威を無視して祐に向けて極光を放ったのだ。咄嗟に叫んで、神威全開で祐を守った。
 極光は祐を飲み込み、この部屋の壁を突き破って見せた。
 いままで結界のせいでビクともしなかった壁が、ここにきて壊れたのは別に、白龍の攻撃力が上がった訳では無い。少し前にシュナが岩石をせり上げた時、結界は壊れていたのだ。
 ふと目に入ったシュナの顔は、きっと私と同じ顔をしてたと思う。
 そしてシュナは動いた。
「絶対に..!絶対に許さなイ!!」
 それを白龍は迎え撃つ。かと思いきや、翼を広げ、空へと飛び立った。恐らくシュナの『魔天魂蒼』を警戒したのだろう。
「〝破掌〟!!」
 飛ぶと読んでいたのか、すかさず『破掌』で白龍の翼に当てて地面に落とす。
「〝魔天魂蒼〟〝天変蒼火〟」
 ここでシュナが勝負に出た。一瞬だけ炎を纏う『瞬・魔天魂蒼』ではなく、常時発動型の方を発動した。そして2つ目のスキル名を口にした瞬間、シュナの手から1本の蒼い炎の剣が具現化した。
 シュナは一瞬で落ちてくる白龍の下へ移動すると、持ってる剣を構える。
 白龍はもちろんシュナが何をしようとしてるのか分かってるため、どうにか避けようと翼を動かす。が──
「〝神威〟!!!」
 ミスラが残りの少ない力で白龍の動きを止める。
 白龍は動揺する。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 迫ってくるシュナの炎の剣は、自らの頭を狙っていることに気づいた白龍は、どうにかして、頭だけを動かし、死を免れる。
 炎の剣は頭を通過し、白龍の腕をバターのように斬った。
 地面に落ちると共に、ミスラの『神威』の効果が切れ、切れた腕など無視して距離を取ろうとする白龍。
「逃がさ....なイ!」
 シュナは炎の剣にどんどんと炎を加え、形状を変える。
 塚が伸び、刀身が肥大化し白龍をまるごと潰せるほどの大きさになった。見てみれば、それはもう剣では無くなっていた。どちかと言えば、ハンマー。
 白龍はその大きさに再度命の危険を感じ、シュナの覚悟した目を見ると共に、光を溜める。
 その時間を与えないように、ハンマーのデカさを感じさせないほどのスピードで、白龍の背後に回る。
 『グァァッ!』
 それと同時に、白龍がドーム状の光の守りを張った。
「そんなもノッ!」
 シュナは守りなど関係ないと言うように、ハンマーを掲げて、振り下ろす。
 白龍の硬い鱗を軽々切ったシュナの炎が、光のドーム如きで阻まれるわけがない。本来であれば。
 ドームを飲み込むほどのデカさのハンマーは一見軽々とドームを壊すかと思われた。だが。
「え......?」
 遠くから見ていたミスラは、ありえない光景を見た。巨大ハンマーはドームに当たるとともに、ドームの中にハンマーが吸い込まれた。その次の瞬間、光のドームの中から蒼い炎のハンマー出現し、持ち主であったはずのシュナを襲った。
「ッ!?」
 シュナは直ぐにそれに気づいて、無理やり身をよじって回避しようとするが、それでも間に合わないと悟ったのか、残りの魔力を使って蒼い炎を纏って防御する。
 ズドォォォォンッ!
轟音。吹き飛ばされるシュナ。蒼い炎を纏っていた為、大した怪我はしていないが、魔力切れにより動けなくなってしまった。
 最大の攻撃をカウンターでしてやられた。ここまで最悪な状況もないだろう。
 だが、ミスラは諦めない。だってまだ皆生きてるから。シュナも、もしかしたら祐だって。
「ふっ!」
 ミスラは腰に下げていた短剣を手に取り、投擲する。
 音もなく飛んで行った攻撃。白龍は気づくことは無い。短剣は白龍の背中。シュナが鱗を破壊してしてくれた所に、的確に刺さる。
 白龍は苦悶の声を上げる。シュナはもう動けないことがわかった白龍は、残りの敵を倒すことを優先させることにした。
「旋回力が無いのはもう知ってます!」
 白龍が遅い速度で体を動かしてる隙に、回り込んでまだ近くにいるシュナが巻き添えを喰らわないように、端に追いやろうとしていた。だが、白龍はそう簡単に思い通りにはならないらしい。
「がはっ...!」
(こいつ...!尻尾で!?)
 ミスラが回り込んでいることが分かっていた白龍は。尻尾で攻撃した。
 
 恐らく、黒龍を見て自分の弱点を知ったのだろう。白龍は確実に学んでいる。
「くっ......いいですよ。ならあなたから来なさい」
 白龍はミスラが来ないのを見て、光を溜めた。咆哮を吐こうとしている。
「『───天からそよぐ、恵みの光よ。今こそ力を解き放ち、全てを照らす輝きとなれ!』」
「〝天光〟!!」
 魔法の詠唱が完成し、手を翳した途端。ミスラの目の前には、巨大な光の円が現れた。
 白龍は、目の前で起きた現象を見ても、光の収縮をやめようもはしなかった。余程自分の力に自信があるのだろう。
 防御しようとしたのなら、もしくは白龍も渋ったかもしれない。何故なら、この部屋に施されていた。謎の結界を突き破らなかったという事実があるからだ。
 だが、対抗する手段が攻撃だったのなら話は別だ。白龍は絶対の自信を持って極光を放った。
「非常に高い知能を持つというのは、デマだったのでしょうか」
 白龍は見た。光の円の中に自分の姿が移っている事に。
 極光が迫る。ミスラは動かず、じっとしている。やがて光の円にぶつかると、なんの衝撃もなく、極光をはね返した。
 白龍は気づいた。あの光の円は鏡だったのだと。だがそれももう遅い。自らが放った自慢の咆哮が白龍の体ごと飲み込んだ。
 ***
「.....やりました....よね?」
 結界がなくなったせいか、極光のせいで地面はえぐれ、辺りはほとんど半壊状態だった。
 確かにこれなら結界を張った意味も理解出来る。こんな超生物を暴れさせたらこの階層ごと潰れてしまっていただろう。
「...それより!祐は....!!」
 ゴトッ!そんな音がした。シュナは先程のブレスで端に吹き飛んだが、そもそも動けないためそんな音はするはずがない。
 音は連鎖的に増えていく。ゴトゴト.....ガラガラガラ.........そして盛り上がった岩から出てくる。
「....そんな......」
 そしてついに姿を現した白龍。鱗はヒビ割れ、角は折れ、血を流す。瀕死の状態だった。これならばきっと魔法も通じるし、ミスラでも倒せるかのように見えた。しかし、
(もう.....魔力が.......!)
 そもそも、神威を使うために相当の魔力を消費していた。白龍を自分一人で倒すとなると、手段はカウンターしかなかった。だから必死に温存してたってのに......
「これは......終わりですかね.......」
 瀕死であったとしても、トドメを刺す気力くらい残ってるだろう。きっと白龍は順番に殺していくつもりだ。
 私を、シュナを...そして、祐を。
 そんなことを考えいたら..体が勝手に動いていた。地面に落ちていた短剣を回収し、構えて。
「あ...れ.....?」
 何をしてるんだろう。なんでこんな無謀な戦いを挑んでるんだろう。私はいつも、どんな時だって冷静でいられたのに、こんな、明らかに諦めた方がいい状況で、なんで今私は剣を握っているのだろう。
 手が震える。初めての戦いでさえ、恐怖など覚えたこと無かったのに。
 心臓の音が早い。こんなに緊張したことだって、1度もなかった。なのに....なぜ........?
「─────あぁ、そっか。初めて出来た、大切な人達を殺されるのが怖いんだ」
 もし、守れなかったら?死なせてしまったら?そんなことをずっと頭の中で考えてしまっいた。
「なら.......守ってやる........いや、絶対に、守る!」
 剣を強く握り、突っ込む。どんなに無謀でも、勝機などなくても、それでも抗う。私がそうしたいから。そうしなければ気が済まないから。
「せめて.....一太刀!!!」
 白龍の鉤爪を何度もギリギリのところで避けて、隙が出たところを突いて、背中に乗る。
「ハァァァァ!!」
 その結果首元に一太刀、浴びせることが出来た。だがそれは、ひび割れた鱗を壊すだけに留まった。
 そのままもう一撃喰らわせようとして、白龍から伸びる尻尾に吹き飛ばされた。
 「ぐぅ...!」
 白龍の真下に落ちてしまう。そしてそんな絶好の隙を見逃す訳もなく、鉤爪でトドメを刺そうとする。
(これは....さすがに間に合いませんかね........)
 自らの死を悟って、悔しい感情が残りながらも、覚悟を決め静かに目を瞑るミスラ。
 
だが、5秒、10秒と経ってもトドメの一撃が来る気配がない。ミスラはゆっくりと目を開ける。するとそこには────
「....へ?」
 白龍の鉤爪を黒曜剣で受け止める祐の姿があった。
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