異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

48話 絶望の洗礼 III

龍と聞いて、俺らの世界──地球で、全ての人間の想像が統一することはまず無いだろう。何故ならば、龍には明確な定義がなかったからだ。

 様々な物語に描かれ、造られ、龍に対しての想像は、人や物語によってどんどん変形していった。

 時には知性の欠けらも無い傍若無人な龍、時には神聖視さえしてしまうほどの誇り高き龍、時には人に優しく、正義感の強い龍。

 想像の変形は、性格だけでは止まらず、姿でさえも、いやむしろ姿こそが無限近い想像がされているといえる。



 そして、その答えは今、目の前にある。



 2本の足で立ち、西洋の文献などでよく見る、手足がある白き龍。そこから連想するのは、誇り高く力強い、龍を知らなければ、つい、神という表現を使ってしまいそうになるほど神々しい。確かに、これなら神聖視されても可笑しくはない。けど、答えはそれじゃない。

 いや、答えとしては合ってる。でも違う。それだけでは無い。目の前の龍を見て、「あぁ、そうだ。なんでそんなことに気が付かなかったのだろう」と思ってしまった。

 ある龍の想像として、龍は高い知性を持つと言われている。それがどれほどのものかは知らないが、もしも、そうであれば、人間のように怒り、人間のように笑い、人間のように誇り高い龍がいるのはおかしくないではないか。

 つまり、龍の想像は、全て間違いで、全て正しかったのだ。ひとつの括りに納めようとする方がおかしい。目の前の龍がそれを証明している。実物を見ただけで、そんな、小学生でもわかることに気づく。


 『グゥゥゥゥ』

 そして、ついに白龍が動いた。動いたと言っても、口を僅かに動かし唸るだけだったが、その口からは徐々に光が集まった。光は、白龍の周辺からも現れ、一点に集まってゆく。

 その光景は、一言で表せば美しく神々しい。神秘的なものだった。つい魅入ってしまっていると、誰かが叫びを上げた。


「避けてください!!!」

 ミスラの忠告で、ようやく正気を取り戻した祐は、今にも溢れそうな光を見て、脳内が今更のように警鐘を鳴らす。いや、ずっと鳴ってはいた。だが気づかなかったのだ。

 祐、ミスラ、シュナは、それぞれアイコンタクトさえする暇もないまま、散開する。

『ガァァァァァァァァァァァァ!!』


 とにかく咆哮ブレスの射線から抜けることに夢中で、規模を測ることなど出来ない。

 極光の咆哮は、俺らと同時に入ってきた魔物達をまるまる飲み込んだ。祐が視界の端に捉えた魔物達の目は、先程の俺のように、極光の光に見惚れている様にも見えた。



 ───轟音。咆哮によって壊れ、突き抜けるかと思われたドアは、何らかの魔法の結界により無傷だった。ドアが壊れなかったのは不幸中の幸いだが、そこに居た魔物達は元からそこにはいなかったかのように消え去っていた。

「....無茶苦茶だな」

 当たりどころが少しでも悪ければ重症は必然。対処法は避けの一手のみ。防御なんてもっての他だ。

 そして、白龍にまた光が集まってゆく。だが次は口ではない。光の集合点は....爪。
 白龍は動かない。

 祐はその短い時間で、思考を高速回転させる。何故あの白龍は動かないのか、この限りなく情報が少ない状況で考えられることは  

  一つ目は、光を貯めている途中は身動きが出来ない。二つ目は白龍の慢心。三つ目は白龍の射程圏内であるということ。

 まず一つ目の理由は、先程の魔物達を跡形もなく消し去った威力を考えれば、割と妥当な線ではある。だが、それがダンジョンの最終ボスであるのなら話は別だ。仮にも最終ボスが、そんなデカい隙を見せるだろうか? これは直感だが、それは絶対に有り得ないと思っている。通常であれば、何十人という単位で挑む敵だ。そんな隙与えたら攻撃し放題だろう。

 そして二つ目。これは一番可能性が低い。これまでの魔物達は、どんなに知能の高い魔物でも、慢心するなんていう素振りは見せたことは無かった。たった三人なのに、だ。であれば、100層のボスだけが、そんな甘い事する訳が無い。これに関しては、ダンジョンの理不尽さを信じるしかない。

 すると必然、消去法で三つ目に絞られる。白龍の射程圏内。あの爪に凝縮されている極光も、飛ばしてくる可能性があるという事だ。

 咆哮の時に、俺は左、ミスラとシュナは右に避けたため、俺は白龍を挟んで向こう側に二人がいるのを確認する。まだ攻撃を与えていない俺らは、白龍からすれば、標的にするべき敵。ヘイトは必然と数の多い、ミスラとシュナの方へ集まる。それに気づいた瞬間には、祐は叫んでいた。

「その光!飛んでくるぞ!絶対に避けろッ!」

 祐が叫び終わると同時に、白龍の右手を振りかぶり、祐の予想通り、三本の鋭い爪に集まった極光をミスラ達に向けて───飛ばした。

 三日月の形をした極光が三本。咆哮の時より、速度が出ている。だが、光は細いし、これなら二人でも避けられる筈だ。

 だが、その推測は、ミスラ達に光が届く前に裏切られる。

 先程まで横幅は精々1m程だった光の斬撃は、進む事に広がってゆく。

 「っ! シュナ!思いっきり右!」

 その変化に気づいたのか、ミスラはシュナに端的に指示して、自分は左へ。後ろは見ず、全速力で駆けた。

 限界なく広がる光を、2人はギリギリのところで避けることが出来た。

 標的を逃した光の斬撃は、三本の光が交わるほど大きくなったところで、壁にぶつかり、またもや魔力の結界によって霧散した。

 先程の咆哮で魔力の結界により、ドアが壊れなかったのは助かったが、今のこの状況的には、俺たちにとって不利に動いていた。恐らくこの部屋を崩壊させないための結界なのだろうが、その結界の強度がいくらなんでも強すぎる。

 そのせいで綺麗に霧散した極光の斬撃の威力さえ分からず、終いには、全く壊れない壁により、辺り一面に障害物がひとつもない事で、否応なく正面から倒すしかなくなる。

 (人が多ければ、もう少し出来ることがあるんだろうけど....)

 けどそんな事を言うのは今更ってものだろう。何度もピンチになりながらも、俺らは3人でここまで来たのだから。だからここで、あの時上に行っていた方が良かったなんて思わない。だって、上に行っていたら、シュナには会えなかったのだから。

「兎にも角にも、動かないとな」

 ミスラとシュナも別れてしまったせいで、今は3人ともが離れ離れの状況。だが、そのお陰で、白龍は全方位を警戒し、なかなか次の手を使ってこない。試すなら今がチャンスだ。

「『生ある者には闇が潜む。力の強欲は闇の本流。我、闇を拒まず、光を滅す。そこに慈悲はなく、苦しみもない。何もかもを残さず、顧みず、敵を打ち払え』」

 長文詠唱。もしもそこで白龍が俺に光の攻撃をしようものなら、即詠唱を中断し、剣で肉薄して、白龍が光を貯めている間、隙があるのかを試す気だった。勿論、俺が詠唱している間に、白龍が自ら動き、攻撃してくる可能性はあった。だから、それも含めて試す・・のだ。

 だが、白龍は動かない。光を貯めようともせず、静かに俺の事を見ていた。これにミスラは目を細めて、観察しながら、バレないようにゆっくりと俺のいる方へ寄る。

 祐の詠唱が完了する。それでも白龍は何もしない。

「『闇絶ダークアブソリュート!』」

 魔法名を発したことで生まれた漆黒の球体が祐の手のひらに浮び上がる。魔物に放った時と同じように振りかぶり、投げる。速さがある訳では無い。距離的にも長いため、避けようと思えば避けれるものだ。

 だが、やはり動かない白龍。そして、漆黒の球体がついに白龍の頭に当たった時、無音の爆発が起こる。どんもん膨れ上がる闇は、白龍の頭から翼を飲み込み、腹まで広がった。

 完全に直撃だ。威力的には十分のはずだ。そして属性は闇、光と闇、その相性は、光は闇に弱く、闇は光に弱い。ならばその逆もある。簡単に言えば、防御できない攻撃をお互いし合うような感じ。先に命を刈り取った者が勝つ。とミスラから聞いた。

 やがて闇が薄れていき、一瞬だけ、今の攻撃で仕留めることが出来たんじゃ....?と希望的観測をしてしまった。

「....なっ!?」

 はじめに言うと、白龍は無傷だった。完全に全くダメージを受けていない。俺の方が、さっき打った魔法はただの目くらましだったんじゃないか?と勘違いしてしまうほどの驚愕。

 確かにこいつはダンジョンのラスボスで、簡単に死なないのは分かる。だが、弱点を突いた魔法の、しかも今出せる最大級の魔法で無傷ってありか?

「祐、大丈夫です。落ち着いてください」

 俺が錯乱気味になっている所に、ミスラが来て言葉を発する。

「.......すまん。ありがとう」

 ミスラのお陰で、心を落ち着かせる事が出来た。冷静に分析する。

「さっきの魔法が効かなかったのは、なんでだ?」

「恐らく、考えられることは2つ。魔法が効かないか、またはあの白龍の光が大き過ぎるから。ということでしょうね」

 それなら、出来れば前者であって欲しいな....。魔法が効かないなら攻撃はその分効くはずだ。うちには圧倒的攻撃特化の戦闘狂がいるからな。

 まぁでも、そんな時に限って、現実は味方してくれないもんで....

「まぁ、後者だろうな」

「そうでしょうね。あと祐」

「ん?」

「これはあくまで推測なので、あまり真に受けないで欲しいのですが、あの龍、多分段階・・を踏んでいます」

 その言葉でどれほど俺が理解したかも確かめないまま、ミスラはシュナの方へ走っていった。きっと作戦を伝えに行ったのだろう。

 そんな堂々動いて大丈夫なのか....?と感じると共に、ついに白龍が動いた。だが違うのは、先程のように、光を貯めるのではなく、高く立っていた体を低くくし、突進するような構えを取る。祐の方向に。

「俺かよ!」

 まぁ初めに攻撃をしたのは俺だし、タゲがこっちに来てもおかしくないか....ん?..タゲ?

 何か、違和感に気づいた祐。だが、そんな悠長に思考を巡らせてくれるほど、ラスボスは甘くない。

 そのまま走ってくるかと思いきや、白龍はまだ動かない。不思議な沈黙の中、祐がそれに気づいたのは、いささか遅かった。

「....また光か!」

 白龍は光を貯めていた。一部分にではなく、全体・・に。

 それに気づいた頃には、祐は走っていた。

 「『重力操作:増幅グラビティブースト』」

 間に合わないと思った祐は、何を思ったのか、自分の重力を増幅させた。当然スピードが落ちる。強く、強く地面を踏み込みながら。

「『重力操作:減衰グラビティダウン!!!』」

 足が地面から離れる直前のタイミングで、逆に自分の重力を軽くする『重力減衰グラビティダウン』を使い、踏み込みの強さはそのまま、軽くなった体は、数瞬の間、音を置いていくほどの速さを出した。

 程なくして、予想通りと言うべきか、祐の後ろを、そのままの意味で光の速さの白龍の巨大な図体が通り過ぎる。

 それを間一髪で避けた祐だが、なれない緊急回避の為、上手く着地できず転がってしまう。

 勢いが止まると直ぐに立ちあがり、状況確認。

『グゥゥゥ』

 白龍は標的に当たらなかったことが理解出来ないのか、当たりを見回しながら逃した獲物を探す。

 どうする。このままじゃじり貧なのは分かりきってる。今のところ白龍の攻撃は受けてないにしろ、有効打がないんじゃ話にならない。どうしたって隙を作らなくちゃ....

 この3回の攻撃の中で分かったことがある。どれも共通して光を貯めた攻撃なのだ。次の白龍の攻撃次第だが、また光を貯めてくるのであれば、切り込むしか──

 思考を巡らせていると、ミスラと目が合った。隣でシュナが大きく手を振っている。それだけで、何となくしたいことが分かった祐は、気配を殺すのをやめ、白龍には発見される。

「よぉ、そんな大技ばっかり使ってないで普通に殴ってこいよ。誇り高い龍が聞いて呆れるぞ?」

 なんとなくの挑発に、白龍の目には一瞬、怒気が孕んだ気がした。

 白龍が動く前に、祐が動く。白龍が自ら突っ込んできた為、簡単に距離を詰めることが出来た。白龍は迎え撃つ。光を貯める時間はないと悟ったのか、ハエを叩くように、鋭い三本の爪を向けてくるが、振るのが少し早い。射程を測り間違えたのか?

 どちらにしても、避けずとも、当たらないと思い、そのまま先行する.....が

「───ぐはっ!」

 1mほどの感覚は空いているはずの爪との距離。なのに、まるで直撃したような痛みが走ると共に、10メートル程後退して吹き飛ぶ。

 「な、なん....」

 直撃の感覚。だが傷はそこまで深くない。何かしらのスキルと考えるのが妥当だろう。傷は浅くとも、白龍は倒れた俺にできた隙を見逃さず、爪に光を貯める。

 前に打った時は約5秒ほど、貯める時間を要していた。それだけあれば立ち上がれるがこの距離からでは避けられない。しくじったか...

『グォォ!?』

 突然の白龍が蹌踉よろめき、光の蓄積が止まり霧散する。

 ここに来て初めて白龍が、苦い顔をした。祐は何が起こった分からず、白龍の後ろに目を向けると、そこには蒼い炎の残滓を纏ったシュナがいた。

 俺が危険と見てすかさず『衝天絶火』を放ったのだろう。正直助かったが、それは一つの切り札を使ったことになる。白龍を見ると、流石龍と言うべきか、直接受けた背中は鱗が剥がれてはいるものの、血が滲んでいる程度で、そこまで抉れていなかった。

 ここはあまり攻撃が効かなかったと悲観するより、鱗が剥がれたことにより1つのウィークポイントが出来たと思うべきだろう。

 ここで白龍は完全に怒った。視線はシュナを捉えて離さない。

「よそ見してんじゃねぇ!!!」

 シュナに夢中で、背中をがら空きにした白龍に、黒曜剣で斬る。鱗が無いため、切れ込みを入れることに成功する。

『グギャア!?』

 斬れはしたが、それでも硬い白龍の体を、強引に斬ったため、反動で手が痺れてる事を今は無視して、ドンドン攻撃を仕掛けようとする。

 だが白龍もタダで斬られる訳には行かないと、翼を広げて飛び上がるが───

「『蒼炎槍!!』」

 詠唱して待機していたミスラが、待ってました。というように、魔法を発動させる。すると上空へ向けた、青い炎の槍が数十個出て来た。

「ゴー!」

 ミスラの合図で、総数20個ほどの槍が白龍を襲う。ミスラが主に狙った部位は、翼、顔。そして背中を向けて逃げようものなら、シュナが作ってくれたウィークポイントに集中砲火。槍はなかなかの精度で龍にあたり、翼を上手く動かせない白龍は、あっさり地面に落ちた。

 形勢逆転。誰もがそう思っただろう。事実、シュナが作った弱点は十分すぎるほど、こちらを有利にしてくれた。白龍の攻撃は脅威なのは変わりないが、当たらなければ問題ない。

 このまま行けば倒せる。そんな事を思ってしまった。



 

 そして白龍は段階を踏む。

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コメント

  • 白華

    速く進化させろ

    1
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