蒼炎の魔術士
B話
「よっ、また遊びに来たぜ~」
「…………………………ここには来ないでって言ったでしょ。他の『鬼族』に見つかったらどうするの?」
「そん時はそん時さ」
木の下に座るソニアが、うんざりしたように溜め息を吐く。
―――アグニとソニアが出会って、約1ヶ月が過ぎた。
『時代を変える』と言っていたアグニは……毎日この森に通い、ソニアと言葉を交わしていた。
「今日も1人で見張り、か……楽しいか?」
「楽しそうに見える?」
「ああ、俺と話せるからな。楽しいだろ?」
「相変わらず狂ってるわね」
「誉め言葉だ」
『鬼族』の暮らす国、『プロキニシア』。
ソニアは、他種族を国に入れないようにする門番なのだ。
「……私が『吸血族』と接しているなんて……しかもそれが『紅眼吸血族』なんて……一族の者に知られたらどうなるか……」
「そん時は、俺がお前を連れて逃げるから安心しろ」
「誰かに守ってもらうほど、私は弱くないから」
「そりゃ頼もしい。それじゃあ逆に守ってもらうかな」
「ふん、そんなつもりもないクセに」
アグニの軽口に対し、ソニアが辛口で返す。これも、この1ヶ月で2人が見つけた、この2人なりの丁度いい距離感なのだ。
「…………………………あなた、『ヘヴァーナ』の国王の護衛はいいの?一応、国王から選ばれた『魔術士』なんでしょ?」
「はっ!あんな楽しくないのはゴメンだね。それに、お前と話してる方がよっぽど楽しいしな」
「そんな事、ちっとも思ってないクセに」
「ソニアは本当に人を信じないよな?」
「他種族の事を信じるなんて無理……しかも相手は『吸血族』よ?信じるやつなんていないわよ」
「厳しいなあ」
お手上げ、といわんばかりにアグニが両手を上げる。
「……なあ」
「…………………………なに」
「ソニアには、好きな人とかいんの?」
唐突な質問に、ソニアは硬直した。
「…………………………意味わからない」
「年頃の男女のよくある話じゃん。で、いるの?いないの?」
「年頃って……あなた今いくつよ」
「19だな」
「19……え?!あなた年下なの?!」
「えっ」
アグニの顔が凍り付く。
「な……え?俺が、年下?」
「……私、21なんだけど」
「えっ……えぇ?!」
驚愕に目を開くアグニが、ソニアの肩を掴む。
「年上?!お前が?!」
「…………………………まさか、年下なんて……」
「嘘だろ……全然胸とか身長に栄養が行ってないじゃん!」
「うるさいっ!」
「ぐはっ―――ッ!」
怒りと共に放たれた拳が、アグニを襲い―――木に激突した。
激突すると同時、アグニの体から『ボギッ』と鈍い音が聞こえた。
さすがのソニアも、これには焦る。
「嘘……大丈―――」
「……すげぇな……『光魔法』で肉体強化してるわけでもないのに、俺をぶっ飛ばすとか」
「え……」
傷1つ、無かった。
「なんで……今、骨が……?」
「ん、治った」
「え……治った……?!」
「あれ?聞いた事ない?『紅眼吸血族』の体質とか」
『紅眼吸血族』の体質……それは普通の『吸血族』とは異なる。
まず、血が主食ではない。
普通の『吸血族』は血を飲まないと死ぬが、『紅眼吸血族』は普通の人間と同じ食事で生きる事ができる。
次に、『紅眼吸血族』には翼がない。
普通の『吸血族』は翼が生えているが……飛ぶ事はできない。
つまり、翼は邪魔なのだ。
まあ邪魔な部分を取り除いた、と考えればいいだろう。
そして最後に……再生能力を持つ。
肉が裂ける。骨が折れる。その他諸々の怪我は、簡単に修復できる。
ならば不死身ではないか?と思うだろうが、実際には違う。『紅眼吸血族』にも弱点は存在する。
心臓を刺せば……さすがの『紅眼吸血族』も死ぬ。
「傷の修復、再生でしょ?でも、骨の修復までできるなんて……」
「痛みはあるからな?無敵ってわけでもないからな?」
血の付いたローブを脱ぎ、鍛えられた肉体が露になる。
「わ……鍛えてるわね」
「ん?ああ……時代を変えるなら、鍛えざるを得ないからな」
「…………………………ね、ねえ……ちょっと触っていい?」
「はっ?……別に良いけど」
表情を明るくしたソニアが、アグニの胸板に手を伸ばし―――
「はぁ……いい……素晴らしい……」
胸を撫でるソニアが、恍惚とした表情を見せる。
「……おい」
「……………」
「おい!」
「え……あ、どうしたの?」
「お前いつまで触ってんだよ!いい加減離れろ!」
無理矢理引き離し、アグニがソニアから距離を取る。
「なにお前、筋肉好きなの?怖いんだけど?」
「い、いや違うわ!筋肉が好きと言うか……鍛えられた肉体が好きと言うか……」
「それを筋肉が好きって言うんだろ?!」
ローブで体を隠すアグニを見て、ソニアががっかりしたように座り込む。
「……もう少し触りたかった」
「気持ち悪っ、お前気持ち悪っ!」
「…………………………ここには来ないでって言ったでしょ。他の『鬼族』に見つかったらどうするの?」
「そん時はそん時さ」
木の下に座るソニアが、うんざりしたように溜め息を吐く。
―――アグニとソニアが出会って、約1ヶ月が過ぎた。
『時代を変える』と言っていたアグニは……毎日この森に通い、ソニアと言葉を交わしていた。
「今日も1人で見張り、か……楽しいか?」
「楽しそうに見える?」
「ああ、俺と話せるからな。楽しいだろ?」
「相変わらず狂ってるわね」
「誉め言葉だ」
『鬼族』の暮らす国、『プロキニシア』。
ソニアは、他種族を国に入れないようにする門番なのだ。
「……私が『吸血族』と接しているなんて……しかもそれが『紅眼吸血族』なんて……一族の者に知られたらどうなるか……」
「そん時は、俺がお前を連れて逃げるから安心しろ」
「誰かに守ってもらうほど、私は弱くないから」
「そりゃ頼もしい。それじゃあ逆に守ってもらうかな」
「ふん、そんなつもりもないクセに」
アグニの軽口に対し、ソニアが辛口で返す。これも、この1ヶ月で2人が見つけた、この2人なりの丁度いい距離感なのだ。
「…………………………あなた、『ヘヴァーナ』の国王の護衛はいいの?一応、国王から選ばれた『魔術士』なんでしょ?」
「はっ!あんな楽しくないのはゴメンだね。それに、お前と話してる方がよっぽど楽しいしな」
「そんな事、ちっとも思ってないクセに」
「ソニアは本当に人を信じないよな?」
「他種族の事を信じるなんて無理……しかも相手は『吸血族』よ?信じるやつなんていないわよ」
「厳しいなあ」
お手上げ、といわんばかりにアグニが両手を上げる。
「……なあ」
「…………………………なに」
「ソニアには、好きな人とかいんの?」
唐突な質問に、ソニアは硬直した。
「…………………………意味わからない」
「年頃の男女のよくある話じゃん。で、いるの?いないの?」
「年頃って……あなた今いくつよ」
「19だな」
「19……え?!あなた年下なの?!」
「えっ」
アグニの顔が凍り付く。
「な……え?俺が、年下?」
「……私、21なんだけど」
「えっ……えぇ?!」
驚愕に目を開くアグニが、ソニアの肩を掴む。
「年上?!お前が?!」
「…………………………まさか、年下なんて……」
「嘘だろ……全然胸とか身長に栄養が行ってないじゃん!」
「うるさいっ!」
「ぐはっ―――ッ!」
怒りと共に放たれた拳が、アグニを襲い―――木に激突した。
激突すると同時、アグニの体から『ボギッ』と鈍い音が聞こえた。
さすがのソニアも、これには焦る。
「嘘……大丈―――」
「……すげぇな……『光魔法』で肉体強化してるわけでもないのに、俺をぶっ飛ばすとか」
「え……」
傷1つ、無かった。
「なんで……今、骨が……?」
「ん、治った」
「え……治った……?!」
「あれ?聞いた事ない?『紅眼吸血族』の体質とか」
『紅眼吸血族』の体質……それは普通の『吸血族』とは異なる。
まず、血が主食ではない。
普通の『吸血族』は血を飲まないと死ぬが、『紅眼吸血族』は普通の人間と同じ食事で生きる事ができる。
次に、『紅眼吸血族』には翼がない。
普通の『吸血族』は翼が生えているが……飛ぶ事はできない。
つまり、翼は邪魔なのだ。
まあ邪魔な部分を取り除いた、と考えればいいだろう。
そして最後に……再生能力を持つ。
肉が裂ける。骨が折れる。その他諸々の怪我は、簡単に修復できる。
ならば不死身ではないか?と思うだろうが、実際には違う。『紅眼吸血族』にも弱点は存在する。
心臓を刺せば……さすがの『紅眼吸血族』も死ぬ。
「傷の修復、再生でしょ?でも、骨の修復までできるなんて……」
「痛みはあるからな?無敵ってわけでもないからな?」
血の付いたローブを脱ぎ、鍛えられた肉体が露になる。
「わ……鍛えてるわね」
「ん?ああ……時代を変えるなら、鍛えざるを得ないからな」
「…………………………ね、ねえ……ちょっと触っていい?」
「はっ?……別に良いけど」
表情を明るくしたソニアが、アグニの胸板に手を伸ばし―――
「はぁ……いい……素晴らしい……」
胸を撫でるソニアが、恍惚とした表情を見せる。
「……おい」
「……………」
「おい!」
「え……あ、どうしたの?」
「お前いつまで触ってんだよ!いい加減離れろ!」
無理矢理引き離し、アグニがソニアから距離を取る。
「なにお前、筋肉好きなの?怖いんだけど?」
「い、いや違うわ!筋肉が好きと言うか……鍛えられた肉体が好きと言うか……」
「それを筋肉が好きって言うんだろ?!」
ローブで体を隠すアグニを見て、ソニアががっかりしたように座り込む。
「……もう少し触りたかった」
「気持ち悪っ、お前気持ち悪っ!」
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