蒼炎の魔術士

ibis

A話

「……こんな所で何してんだ?」

 深い、深い森の中……黒髪の男が歩いていた。

「……………………話し掛けるな、ニンゲン」

 男が声を掛けたのは―――木に背を預ける、緑髪の『鬼族』の少女だ。

「話し掛けるな、って言ってもなぁ……悪いが聞きたい事があるんだ」
「……………」
「この辺りにドラゴンが出たと聞いたんだけど……知らない?」
「…………………………知らない」

 フイッと、少女が横を向く。

「……お前は、こんな森の中で何をしてるんだ?」
「…………………………答える必要、無いでしょ」
「ま、そりゃそうだ」
「『アグニ様』!ドラゴンの足跡を見つけました!」

 バタバタと、騎士が男に駆け寄ってくる。

「おうそうか!……邪魔したな」
「……………」

 最後の最後まで無愛想な少女を置き、男が森の奥へと消えて行った。

「……バカみたい……ドラゴンなんて、ニンゲンが勝てるはず無いじゃない」

 少女が呟いた―――次の瞬間。

「―――ァアアアアァアアアアアアアアッッ!!」

 ―――森全体が震えるような、轟音が響いた。

「…………………………はぁ……」

 立ち上がり、少女が森の奥へ向かう。

 ……別に、助けようと思ったわけではない。
 ただ、死体くらいは拾ってやろうと思っただけだ。

 そんな少女の考えは―――

「………………えっ?」
「ふぅ……まあ、こんなもんか」
「さすがアグニ様です!」

 黒焦げになったドラゴンを見て、少女は呆然とした。

「……あり?お前はさっきの……どしたの?」
「ど、ドラゴンが……」
「え?……もしかして、殺しちゃダメだったか?」
「違う!ただのニンゲンが、ドラゴンを倒すなんて……!」

 そこまで言って、少女は男の眼を見た。
 真っ赤に燃える炎のような紅い瞳……その紅い瞳には、見覚え……いや、聞き覚えがあった。

「貴様……この方を誰だと思っている?!『第3代 国王側近魔術士』、『獄炎の魔術士 アグニ・エクスプロード』様だぞ!」
「やめろやめろ、そんな大した肩書きじゃねぇから」

 あの紅い瞳……まさか、昔『吸血鬼狩り』で絶滅させられたという『紅眼吸血族ヴァンパイアロード』の家系だった―――

「……へぇ……嬢ちゃん、?」
「―――ッ?!な、なんの話?」
「……任務完了だ。お前たちは先に帰っとけ」
「「「「「はっ!」」」」」

 騎士たちを帰らせ……アグニが、少女に近づく。
 それに合わせて、少女が1歩後ずさるが―――

「まあそう逃げんなよ」
「―――は、速……っ?!」

 驚異的な速さで距離を詰めた男が、少女の肩に『ポン』と手を置いた。

「お前、エクスプロード家の……いや、『紅眼吸血族ヴァンパイアロード』について知ってるな?」
「し……知らない……」
「そんな事言うなよ~……ほら、別に『俺たちの事を知っているのか……なら殺さねばならない!』ってわけじゃないんだからさ」

 ヘラヘラと笑い、敵対意識は無いと両手を上げる男。

「…………………………私たち『鬼族』は、昔から『吸血族』と対立してたって聞いた……」
「んーその通りだよな……ってか『吸血族』が周りに喧嘩吹っ掛け過ぎなんだよな。まあもう絶滅したけど」
「…………………………あなたは何で『人族』と一緒に行動してるの?」
「なんて言うか……潜入捜査かな?」

 片眼を閉じ、腕を組む。

「まああれだ。俺は『種族戦争』を起こすつもりはない。そもそも『吸血族』はほとんど絶滅したからな」
「嘘…………『吸血族』は、3年前に『有翼族』を『種族戦争』で殺した……信じられない」
「『有翼族』……ハーピーか。そんな事もあったな。ってか、あれは『有翼族』から仕掛けて来たし」

 この時代は……言うならば『戦争時代』。
 『人族』―――他の種族にはない『知恵』を使い、他種族にあらがう軟弱な種族。
 『鬼族』―――腕力、魔力、共に優れ、全種族の中でもトップの力を持つ種族。
 『竜人族』―――唯一『鬼族』と力で渡り合う事ができる種族。
 『獣人族』―――全種族の中で最大規模の人口を持つ種族。
 その他にも、エルフと呼ばれる『森精族』や、マーメイドと呼ばれる『水鱗族』、精霊と親密な関係を持つ『精霊族』などがいる。
 すでに亡き種族となった種族も多数存在しており……世は、まさに戦乱の真っ只中ただなかなのだ。

「……そういや、お前の名前は?」
「…………………………『ソニア・ハーモニクス』」
「ソニアか……良い名前だな」

 ニコッと笑い、アグニがその場に座り込む。

「……なあ……ソニアは、今の時代をどう思う?」
「どうって言われても……生きにくい世の中ね、としか思わない」
「だよな」
「……質問の意味がわからないんだけど」
「俺は、この世界を変える」

 堂々、アグニが宣言する。

「ただ『吸血族』ってだけで差別される。なんでだ?ただ『紅眼吸血族ヴァンパイアロード』ってだけで差別される。なんでだ?こうして吸血族お前鬼族が話すのがおかしい。なんでだ?……おかしいだろ。何がダメなんだ?」
「それは……この時代だから仕方がない―――」
「時代に責任を押し付けるのか?違う。変わるべきは時代ではない、俺たちだ」

 紅眼を細くし、アグニが理想論を口にする。
 そう、ただの理想論……現実的にあり得ない。

「……アグニは」
「ん?」
「アグニは……今の時代を、生きにくいって思うの?」
「ああ……生きにくいね、死ぬほど」

 そう言って表情を暗くするアグニは―――どこか、神々しく見えた。

「……あなたは、神にでもなるつもり?」
「さあ?……ま、時代を変えるのに神にならなきゃいけないんなら、どうにか神になるかな」
「……あなた、狂ってる」
「はっ、狂ってる上等。そもそも時代を変えるんだ。正常でいられるかよ」

 そう言って、大胆不敵に笑うアグニの姿……ソニアは不覚にも、カッコいいと思ってしまった。

「……勝手にする事ね」
「ああ……記念すべき第一歩だ。ソニア、俺と友達になってくれ」
「…………………………嫌だ」

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