蒼炎の魔術士

ibis

9話

『―――――――――――――――――――――』

 ……何も見えない……ただただ真っ暗な空間。
 俺は、そこに……どうなっているんだ?寝ているのか?座っているのか?立っているのか?
 なんだかフワフワして、よくわからない。

『―――――――――――――――――――――』

 『ザーザー』と耳障りなノイズだけが、この真っ暗な空間に存在する。
 ……ああ……うるさい……

『―――――――――――――――――――――』

 何なんだこの音は……俺は眠いんだ……静かにしてくれよ……

『――――レ――――――――――――――ん―』

 ……あれ?……今、ノイズとは別に、声が聞こえたような……?

『―レ――――く――!――――――テく―――』

 ……なんだっけ……この声……

『―テく―――――テ―――ん!――レテ――』

 ……暖かい……?声が、暖かい……?

『――レテく―!――――テ君――レテ――!』

 よくわからない……でも、ずっと聞いていたい声だ……

『テ君――レ――ん!――テ君――レ―君!』

 どこかで聞いたような声だ……気のせいかな……?

『―――テ君!レ――君!―――レテ君!』

 レテ……君?
 誰だよそれ……俺はレテインだ。

 いや……あれ?
 ……誰だっけ……誰か、俺をレテ君って……誰が呼んでくれたっけな。

 ……ああ……そうだ。俺の愛する人だ。
 愛する人……あれ?違う。俺に愛する人なんていない。ずっと1人だったんだから。

『レテ君……レテ君!目を開けてよ!』

 ああ……もしかして俺、寝てるのかな……?
 目を閉じてるから、真っ暗な空間に感じてるかな……?

 ……力が入らない。
 目を開けてるつもりでも……真っ暗なままだ。

『……ごめん、なさい……!酷い事言って……!謝るから、お願い……!目を、覚ましてよ……!』

 ……震えている……?声が、震えている?
 なんで……?泣いているのか……?

『約束……したのに……!』

 ……約束……?

『絶対にいなくならないって、言ったのに……!隣にいるって、言ったのに……!1人にしないって言ったのに―――!』

 ……ああ……!ああああああああ……!ああああああああああああああああああああッ!
 そうだそうだよ。この声は!
 いつも孤独に怯えていて、それでも明るく振る舞おうとするこの声は!
 たまに泣きそうに震えていて、それを周りにバレないように誤魔化すこの声は!
 復讐に燃える心を、愛で上書きしたこの声は!
 聞くだけで胸が締め付けられるようで、抱き締めたくなるこの声は!
 隣に居たくて、離れたくなくて、いつも近くに居てほしいこの声は!
 たった1人!俺が心の底から愛したこの声は!

「―――ソフィアッ!」

―――――――――――――――――――――――――

「レテ君……!レテ君っ!」

 眼前の光景が切り替わる―――と同時、少女が抱きついてくる。

「そんな……!あの状態から目を覚ますなんて、あり得ない……!」

 白衣を着た若者が、驚きに目を見開いている。

「よかったぁ……!よかったよぉ……!レテ君……!レテくぅん……!」
「……頭いてぇ……」

 抱きつくソフィアをそのままに、体を起こす。

 ……カルトさんの不可視の重力を喰らって……そこから……
 ああそうだ……頭から地面に沈んだんだ。

「はぁぁぁ……!本当によかったよぉ……!」
「……ソフィア、俺―――」
「もういい……!もういいよぉ……!最後のレテ君の行動、あれが真実なんだよね……!」

 最後の……行動?
 ……ああ、ソフィアを突き飛ばしたやつか。

「……君、体は?」
「なんともない……ちょっと頭が痛いくらいだ」
「嘘だ……ここに運ばれてきてから、まだ2時間しか経っていないぞ……?!」

 肩を回し……少し、違和感を感じた。
 なんだろう……なんか、
 いや……肩だけじゃない。肘も……変だ。

「……君、ここに運ばれてきた時、関節が変な方向に曲がっていたんだぞ?」
「……マジ?」
「それだけじゃない……頭の形も少し変形していたんだからな?」
「……ほんと、よく生きてたな、俺……」
「運が良かったとしか言えない……もし地面に大きな石があって、それが眼に入っていたら……」

 『ギュッ』と、ソフィアの抱きつく力が強くなる。

「とにかく、今日は絶対安静だ……ここから出るな。少しずつ『治癒魔法』を使って、関節を戻すからな」
「……うい」

 言い残し、白衣を着た若者が部屋を出ていく。

「……おい、いい加減離れろよ」
「……………いや」
「えぇ……肩、痛いんだけど……」
「いや……いや、いやいやいやいやぁ……!絶対、離さないんだからぁ……!」

 ……こいつ……

「……俺はどこにも行かない……絶対だ」
「……信じれない」
「え……えぇ……?」
「……角」
「つ、角?いやでも、角は……」
「……ん」

 額を出し、角を向けてくる。
 ……これだ。
 喧嘩したら、キス。
 仲直りは、キス。

 でも、もしも……ソフィアが、我慢できないくらい怒ったら―――

「はぁ……てか、触られたいだけだろ……」
「んー!」
「……さ、触るぞ……?」

 手を伸ばし、純白の角に触れ―――

「―――あっ」
「……………」
「は、ひゃぁぁぁ……!あ、あっ、ぁはっ……!」

 『鬼族』の角。
 それは、人間の性感帯みたいな物。

「あひっ、ふぁ、んんっ!」
「……………」
「あ、はぁ……!レテ、君……!レテ君、レテ君、レテ君レテ君レテくぅぅ……!」

 だが、人のそれと比べ……かなり敏感らしい。
 ちなみに……『鬼族』の伝統に『将来の伴侶となる者に角を触らせる』というのがあるんだとか。

「はひゃぁぁぁぁぁぁ……!」

 恍惚とした表情で、ソフィアが頭を擦り寄せてくる。

「……ソフィア、今日はどうするんだ?」
「はっ、ふ……?」
「だから、今日泊まる所は?家に帰るのか?」
「一緒じゃ、ダメなの?」

 顔を上げ、ソフィアがにへらと笑う。

「……一緒で、いいか」
「うん!」

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