蒼炎の魔術士
7話
「それで……この老いぼれに何の用かな?『第13代』君?」
「んや……暇だったから」
『ヘヴァーナ』中央にある公園……そこに、人の良さそうな老夫婦がいた。
「いやいや、若いのに暇を持て余すとは……ワシの若い頃は時間がいくらあっても足りなかったぞ?」
「あんたが若い頃は、国が穏やかじゃなかっただろうからな……暇な時間は無かっただろうな」
「ほっほっほ!いやはや、君の言う通りだ。ワシの若い頃は、国のあちこちで争いが起きていたからなぁ」
公園の噴水に腰掛けるカルトさんが楽しそうに笑う。
「まあ暇だったってのもあるけど……ちょっと聞きたい事があって」
「この老いぼれに聞きたい事とは……何かね?」
「んや……なんで『国王側近魔術士』を引退したのかなーって思って」
「ほっほ、その事か」
隣に座る老妻に見て、懐かしむように眼を細める。
「表向きにはね、歳で体が動きにくくなってきたと言ってるが……実際は違うのさ」
「……じゃあ、なんで?」
「君と同じさ」
俺と……同じ?
「それって―――」
「もうそろそろ、妻と2人の時間があってもいいんじゃないかと思ってねぇ……」
「この人ったら酷いんですよ。私の事を38年間も放置してたんですから」
「ほっほっほ。いやはや耳が痛い」
そう言って、楽しそうに笑い合う老夫婦。
「……俺」
「うん?」
「俺、ずっと間違えてたのかなって思ってたんだ。俺が勝手に『国王側近魔術士』を辞めて、しかもそれが『女ができたから』って理由で……もしかしたら、俺の選択は、間違い―――」
「そんな事、言っちゃいかんよ……ましてや、将来の妻の前でな」
被せるようなカルトさんの声には―――威圧感があった。
それと同時、左腕に誰かが抱き付く。
確認するまでもない。ソフィアだ。
「君はまだ若い。いくら間違いをしても良い……それに、人のした事を正しいか、正しくないかなんて、誰にも決める事はできない」
「……………」
「何が正しくて、何が間違っているのか……そんなの、神にもわからないだろうからね」
そう言って『ほっほっほ』と笑う。
「ワシたちは魔術士だ。みんなそれぞれ何かを欲している。力であったり、金であったり……人によっては、愛だったりする」
杖を突きながら立ち上がり、俺の右肩に手を置いてくる。
「それに……愛に走ったのは、君とワシ以外にも、2人存在する」
「それは……『国王側近魔術士』の中に?」
「『第13代』、『第11代』。そして『第9代』『紫電の魔術士 ヴァイオレット・ボルテニック』。『第2代』『守護の魔術士 シェル・ガードニクス』……なにも君とワシだけじゃない。愛のために『国王側近魔術士』を辞めた者はワシと君だけじゃない」
『第9代』に『第2代』……名前も知らなかった。
知らなかった……けど。
「……同じなのか……俺、間違ってなかったのか」
「レテ君」
「……ん?」
「バカー!」
「うっ?!」
腹部に鋭い衝撃を受け、その場に座り込む。
「レテ君のバカ!なに間違ってるって!意味わかんないんだけど!ずっとそんな風に思ってたの?!」
「い、いや違う。昨日『第14代』が来てから、ちょっと思うように―――」
「レテ君、眼を閉じて」
「え、いやなんで―――」
「閉じて」
言われるままに眼を閉じる。
……怖っ、いや何されるの?めっちゃ怖いんだけど―――
「ん―――」
「―――ッ?!」
「おや」
「あらあら」
柔らかい感触に、思わず眼を開く。
怒ったように眼を閉じたソフィアの顔が、至近距離にある―――って。
「―――お、おま、時と場所を―――」
「私は!」
胸ぐらを掴み、ソフィアが俺の体を引き寄せる。
「私は!レテ君になら何をされても良いって思ってるし!レテ君のために生きようって思ってるし!永遠に隣にいようって思ってる!のに!レテ君は!それを!間違ってるって言うの?!」
「ち、違う!そうじゃない!」
「そうじゃなくない!調子乗るな!レテ君はごちやごちゃ考えるのがヘタクソなんだから、私の事だけ考えてればいいの!」
涙を目に溜めるソフィアの姿に、ハッとした。
……俺、なんて酷い事を言ったんだ。
ソフィアの目の前で『間違っている』とか、最悪じゃないか。
ソフィアは俺を愛してくれているのに、俺はソフィアを愛しているのに……さっきの俺の言葉は、その両方を否定するような言葉じゃないか。
「……ソフィア」
「わた、しは……レテ君の隣にいるだけで満足なのに……!それ以外、何も要らないし、望まないのに……!それすらも、手に入れられないの……?」
「違うソフィア、俺は―――」
「やれやれ……女の子を泣かせるとは、悪い少年だね」
老妻からシルクハットを受け取ったカルトさんが、杖の先を俺に向ける。
「悪い少年には……お仕置きが必要だね」
「―――ッ?!ソフィアッ!」
咄嗟にソフィアを抱き締め、その場を飛び退き―――
「『グラビテイション』」
さっきまで俺たちがいた所が、まるで『見えない何かに押し潰された』ように凹んだ。
「あなた、あまりはしゃぎ過ぎないようにね」
「わかっているさ……構えろ少年。男は女に涙を流させちゃいけない……それを、体に叩き込んであげよう」
「んや……暇だったから」
『ヘヴァーナ』中央にある公園……そこに、人の良さそうな老夫婦がいた。
「いやいや、若いのに暇を持て余すとは……ワシの若い頃は時間がいくらあっても足りなかったぞ?」
「あんたが若い頃は、国が穏やかじゃなかっただろうからな……暇な時間は無かっただろうな」
「ほっほっほ!いやはや、君の言う通りだ。ワシの若い頃は、国のあちこちで争いが起きていたからなぁ」
公園の噴水に腰掛けるカルトさんが楽しそうに笑う。
「まあ暇だったってのもあるけど……ちょっと聞きたい事があって」
「この老いぼれに聞きたい事とは……何かね?」
「んや……なんで『国王側近魔術士』を引退したのかなーって思って」
「ほっほ、その事か」
隣に座る老妻に見て、懐かしむように眼を細める。
「表向きにはね、歳で体が動きにくくなってきたと言ってるが……実際は違うのさ」
「……じゃあ、なんで?」
「君と同じさ」
俺と……同じ?
「それって―――」
「もうそろそろ、妻と2人の時間があってもいいんじゃないかと思ってねぇ……」
「この人ったら酷いんですよ。私の事を38年間も放置してたんですから」
「ほっほっほ。いやはや耳が痛い」
そう言って、楽しそうに笑い合う老夫婦。
「……俺」
「うん?」
「俺、ずっと間違えてたのかなって思ってたんだ。俺が勝手に『国王側近魔術士』を辞めて、しかもそれが『女ができたから』って理由で……もしかしたら、俺の選択は、間違い―――」
「そんな事、言っちゃいかんよ……ましてや、将来の妻の前でな」
被せるようなカルトさんの声には―――威圧感があった。
それと同時、左腕に誰かが抱き付く。
確認するまでもない。ソフィアだ。
「君はまだ若い。いくら間違いをしても良い……それに、人のした事を正しいか、正しくないかなんて、誰にも決める事はできない」
「……………」
「何が正しくて、何が間違っているのか……そんなの、神にもわからないだろうからね」
そう言って『ほっほっほ』と笑う。
「ワシたちは魔術士だ。みんなそれぞれ何かを欲している。力であったり、金であったり……人によっては、愛だったりする」
杖を突きながら立ち上がり、俺の右肩に手を置いてくる。
「それに……愛に走ったのは、君とワシ以外にも、2人存在する」
「それは……『国王側近魔術士』の中に?」
「『第13代』、『第11代』。そして『第9代』『紫電の魔術士 ヴァイオレット・ボルテニック』。『第2代』『守護の魔術士 シェル・ガードニクス』……なにも君とワシだけじゃない。愛のために『国王側近魔術士』を辞めた者はワシと君だけじゃない」
『第9代』に『第2代』……名前も知らなかった。
知らなかった……けど。
「……同じなのか……俺、間違ってなかったのか」
「レテ君」
「……ん?」
「バカー!」
「うっ?!」
腹部に鋭い衝撃を受け、その場に座り込む。
「レテ君のバカ!なに間違ってるって!意味わかんないんだけど!ずっとそんな風に思ってたの?!」
「い、いや違う。昨日『第14代』が来てから、ちょっと思うように―――」
「レテ君、眼を閉じて」
「え、いやなんで―――」
「閉じて」
言われるままに眼を閉じる。
……怖っ、いや何されるの?めっちゃ怖いんだけど―――
「ん―――」
「―――ッ?!」
「おや」
「あらあら」
柔らかい感触に、思わず眼を開く。
怒ったように眼を閉じたソフィアの顔が、至近距離にある―――って。
「―――お、おま、時と場所を―――」
「私は!」
胸ぐらを掴み、ソフィアが俺の体を引き寄せる。
「私は!レテ君になら何をされても良いって思ってるし!レテ君のために生きようって思ってるし!永遠に隣にいようって思ってる!のに!レテ君は!それを!間違ってるって言うの?!」
「ち、違う!そうじゃない!」
「そうじゃなくない!調子乗るな!レテ君はごちやごちゃ考えるのがヘタクソなんだから、私の事だけ考えてればいいの!」
涙を目に溜めるソフィアの姿に、ハッとした。
……俺、なんて酷い事を言ったんだ。
ソフィアの目の前で『間違っている』とか、最悪じゃないか。
ソフィアは俺を愛してくれているのに、俺はソフィアを愛しているのに……さっきの俺の言葉は、その両方を否定するような言葉じゃないか。
「……ソフィア」
「わた、しは……レテ君の隣にいるだけで満足なのに……!それ以外、何も要らないし、望まないのに……!それすらも、手に入れられないの……?」
「違うソフィア、俺は―――」
「やれやれ……女の子を泣かせるとは、悪い少年だね」
老妻からシルクハットを受け取ったカルトさんが、杖の先を俺に向ける。
「悪い少年には……お仕置きが必要だね」
「―――ッ?!ソフィアッ!」
咄嗟にソフィアを抱き締め、その場を飛び退き―――
「『グラビテイション』」
さっきまで俺たちがいた所が、まるで『見えない何かに押し潰された』ように凹んだ。
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