蒼炎の魔術士

ibis

5話

『ああ……?こんな所で何してんだ?』

 深い森の中、銀髪の少年が歩いていた。
 その少年の正面に―――角の生えた少女が座っている。

『…………………………誰』
『誰って……俺は『XXXX・XXXXXーX』だ。お前は?』
『…………XXxX・XxXXxXXX……』
『XXxXか……何してんだ?こんな所で?』

 銀髪の少年が少女に近づき、問い掛ける。
 ……少女から返答は無い。
 ただ、返答の代わりに鋭い視線を向けられる。

『……おい。聞いてんのか?』
『あなたには、関係ない……私に関わらないで』
『……そうか』

 少女の隣を通り抜けようとした少年は―――とある事に気づいた。

『お前、傷だらけじゃねぇか……近くに小さな国がある。そこで治療―――』
『関わらないでって……言ってるでしょ!』

 伸ばした手を、したたかに振り払われた。

いっづ……!何しやがる……!』
『関わらないで……私は、1人でいいの。1人が好きなの!だから近づかないで!触れないで!』

 ふと、少年の脳裏に1つの事件が浮かんだ。
 ……1年前、『炎帝』の手によって滅んだ『プロキニシア』という国の事を。

『そうか……お前……『鬼族』……』
『……えぇ、そうよ』
『『鬼族』が暮らしていた『プロキニシア』は……1年前に―――』
『そうよ!なに?!生きてちゃダメなの?!』

 立ち上がり、少女が怒号を飛ばし続ける。

『どいつもこいつも!人をバカにして!生きてちゃ悪いか?!生き残ってちゃ悪いか?!』
『……そこまで言ってねぇ』

 座り込む少女に、少年が近づく。
 なんで少年は、少女に関わろうとするのか―――それは、少年の過去に関係する。

 少年は、生まれてからずっと1人だった。
 孤児院に預けられ、他の孤児と育ってきたが……少年の心には、いつもどこか空白があった。
 ―――満たされない。満足できない。
 それは多分―――本当の愛情を注いでもらっていなかったからだ。

 ある日、少年は孤児院から逃げ出した。6歳の時だ。
 自分の身は、自分で守る……自分の事を第一に考え、力を付けた。
 少年の魔法は、特殊だった。
 『炎魔法』を磨き、極め―――蒼炎に進化させた。
 そうして生きていく内に……彼はいつしか、こう呼ばれるようになった。
 『第XX代 国王側近魔術士』、『蒼炎の魔術士 XXXX・XXXXXーX』と。

 だが、最強となった少年は―――まだ満たされなかった。
 力が欲しかったんじゃない……少年は改めて気づいた。
 欲しかったのは、愛だと。

 だから少年は思ったのだ。
 この1人ぼっちの少女となら、わかりあえるかも、と。

『えっと……XXxX、だったよな?』
『馴れ馴れしくしないで』
『……綺麗な髪だな』
『……はっ?何言ってるの?』

 少女の隣に座り、そのまま少年が寝転がる。

『……あなたには帰る場所があるんでしょ……?こんな森にいないで、早く帰りなさいよ』
『悪いな……俺は生まれた瞬間から1人ぼっちなのさ』
『えっ……生まれた、瞬間から……?』
『ああ……酷い話だろ?俺、親の顔見たことないんだぞ?』

 冗談めかして笑う少年に、少女は唖然とした。

『……XXxXは、何してるんだ?』
『……決まってる……敵討かたきうちよ』
『敵討ち……そうか』

 腕を枕にして、少年が少女を見上げる。

『……XXXXは』
『ん?』
『XXXXは……親に会いたいとか、思わないの?』
『思わないね。俺は1人で生きてきた。1人に慣れている。今さら親と会ったって……息苦しいだけだ』

 素っ気なく言って、少年は眠った。

―――――――――――――――――――――――――

 それから、1週間が経った。
 少年と少女は、毎日のように会っていた。
 のだが―――

『……ん?XXxXはいないのか?』

 いつもの場所に、少女がいない。
 何故か不安を感じた少年は、辺りを探し回った。

『はっ、はっ、はっ……!』

 少年は、わかっていた。
 自分の胸にあるこの気持ちが、恋愛感情だという事を。
 だからだろうか。
 XXxXに会えないだけで、こんなにも不安になるのは。

『―――見つけた……!』

 うつ伏せに倒れる、紫髪の少女。
 駆け寄り、抱き起こして―――

『はあ……はあ……』
『……熱か……!』

 ひたいに手を当てる少年が、小さく舌打ちする。

『……水……この近くに……!』

 着ているローブを脱ぎ、少女の上に被せる。
 そして下に着ていた服を―――ビリビリに破いた。

『待ってろXXxX……!すぐに戻ってくるからな……!』

 上半身裸の少年が走り出した。

『……XXXX……?』

 荒い息を吐きながら、少女が眼を覚ました。

『このローブ……XXXXの……』

 少女にはわからなかった。
 何故、彼は私に関わろうとするのか。
 何故、彼はあんなに寂しく笑うのか。

『……わけがわからないよ……XXXX……』

 ぼやける頭、動かしにくい手足。
 それらを使って立ち上がる。

『……優しく……しないでよ……どうせ、あなたも私を1人にするくせに……!』

 フラフラと、真っ直ぐに歩けない。
 でも、歩くしかない。
 少年は、この先だ。足跡を見ればわかる。

『置いて逝くくせに……他人のくせに……なん、で―――』

 パタリ。
 少女は倒れてしまった。

『……なんで……私は……』
『―――XXxX!』

 ……ああ……聞こえた。あの声が。

―――――――――――――――――――――――――

『う……うぅ……』
『おっ……大丈夫か?』

 目を覚ますと同時、美しい銀色が眼に飛び込んでくる。

『……ひざ、まくら……?』
『ああ……お前、倒れてたんだぞ?大丈夫か?』

 ひんやりとした何かが、額に乗っている。

『……どうして、上半身が裸なの?』
『まあ……色々あったんだよ』

 額に乗っている物を取り―――驚愕した。
 布だ。それも、少年が着ていた。

『……私のために……濡らしてくれたの?』
『それ以外、何があるんだよ』

 照れたように顔を背ける少年。

『……なん、で』
『あ?』
『なんで……なんで優しく、するの……?』

 ポロポロと涙を流し、少女が問い掛ける。

『……いや、意味わかんねぇよ』
『置いて逝くのに……1人にするのに……なんで、優しくするのよ!』

 跳ね起き、少女が叫ぶ。

『期待させないでよ!安心させないでよ!』
『ますます意味がわからん』
『1人にするのに!いなくなるのに!優しくなんかしないで!』
『おい……XXxX……』

 少女はうつむく。

『……XXxX……俺を見ろ』
『……………』
『俺を、見ろッ!』

 少年が少女の肩を掴んだ。

『俺は絶対にいなくならない!俺がお前の隣にいる!お前を1人になんてさせない!』
『どう……して……そこまで……?』
『お前が、好きだからに決まってんだろ!』

 愛の告白。
 森の中、片方は上半身裸で、片方は熱でフラフラ。
 ムードも雰囲気もあったものじゃない。

『好、き……?』
『ああ!じゃなきゃ毎日わざわざこんな森に来ねぇよ!毎日毎日毎日毎日!何が楽しくて三時間も歩いて来てると思ってんだ!』
『私が……好き……?』
『好きだ!好きで好きでたまらねぇよ!』

 誰にも愛された事のない、孤独な少年が、1人の鬼娘に恋をした。
 全てに置いて行かれ、孤独となった少女が、1人の少年に愛された。

『XX……君』
『……今、なんて?』
『XX君……XX君、XX君、XX君、XX君XX君XX君XX君!』

 そう。全てはここから始まった。
 孤独に生まれ、孤独に育ち、最強となって愛を探す少年と。
 愛していた者、全てに置いて行かれ、孤独になった少女が。

『私も……私も、XX君が好き……!好き好き好き好き!』
『……俺も、大好きだ』

 ―――今ここに、愛を誓った。

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