蒼炎の魔術士

ibis

2話

「『ヘヴァーナ』……久しぶりに来たな」
「相変わらずおっきいねー!」

 町中を行き交う人々が―――ソフィアの事を見て、足早にその場を後にする。
 ……まぁ、無理もない……ソフィアは『鬼族』だ。この国に暮らしているのは『人族』……急に他種族が現れれば、そりゃ驚くし、怖いよな。
 だって……『人族』は最弱種族なんだし。

「……ねぇ、なんかみんな……私を見てない?」
「ああ……見てるな」

 他種族が怖いってのもあるかもしれないが……多分、ソフィアを見てるのは他の理由だろう。
 ソフィア以外の『鬼族』は……3年ほど前に、絶滅した。
 いや……絶滅させられた、と言う方が正しいかもしれない。
 3年前に絶滅したはずの『鬼族』……その種族が目の前に現れたら、そりゃ見てしまうよな。

「……まぁ、深く考えんな」
「うん!それに、何かあったらレテ君が守ってくれるでしょ?」
「当たり前だ……お前は、俺が守る」

 抱きついてくるソフィア……2人並んで、『ヘヴァーナ』の町を歩き始める。
 ……金は……持って来ているな。
 よし……それじゃ、さっさと食料を買って帰るか。

―――――――――――――――――――――――――

「合計、8500エルとなります」
「ほい。8500エルな」

 店員に紙幣を渡し、食料を持って店を後にしようと―――

「ふんっ―――あれ?」
「どしたのレテ君?」
「い、いや……なんでも……」

 大きな袋に詰められた食料……もう一度力を込め、持ち上げようと―――

「ふっ、ぬ……!」
「……もしかしてレテ君、持ち上がらないの?」
「……………」
「ぷっ……あははは!いいよ、代わってレテ君!」

 バカにしたように笑うソフィアが、軽々と食料を持ち上げる。

「……すまんな」
「うん!それじゃ、帰ろ?」
「ああ……帰るか」

 店を出て、自宅を目指す。

 ……早いとこ、帰らないとな。
 あんまり長居すると……俺の事を知ってるやつが、声を掛けてくるかもしれねぇ―――

「おい。そこのお前」

 ポン、と肩に手を置かれた。
 振り向き……赤髪の男が俺の後ろに立っていた。

「……何か用?」
「いや……用があるのは、隣の女の子だ」
「私?」

 ソフィアを指さす男……見れば、見たことのあるような服を着ている。
 この服は……貴族側近の魔術士が着用を許されるローブだ。

「お前……『鬼族』だな」
「うん、そうだよ?」
「3年前に絶滅したはずの『鬼族』が……なんで……」

 ……てっきり俺の事を知ってるやつかと思ったが……違ったみたいだ。

「レテ君……」
「ああ……悪いな、俺たち早く帰らねぇといけねぇんだ」
「いや……ちょっと一緒に来てくれないか?何故『鬼族』が絶滅したのか、事の詳細を―――」
「おい……いい加減にしろ。あんまりソフィアに関わろうとするんなら……焼くぞ?」

 ソフィアを背後に隠し、男の前に立つ。

「焼く……か。口の利き方には気を付けろ小僧。俺は『アルベルグ様』側近の魔術士『クーロン』だぞ?」
「貴族側近の魔術士ごときが調子に乗んなよ。仮にも魔術士だってんなら……『第13代 国王側近魔術士』の名前くらい覚えろ」
「それくらい覚えている。『第13代 国王側近魔術士』の名は……『蒼炎の魔術士 レテイン・エクスプロード』だ」

 あれ、名前は知ってんの?
 おっかしいな……あ、もしかして顔は知らないのかな?

「……まさか、貴様が『蒼炎の魔術士』だと?」
「その通りだ……わかったら失せろ。火傷したくねぇだろ」
「お前があのレテイン・エクスプロード……にわかには信じられんな」

 腰の剣を抜き、切っ先を俺に向けてくる。
 剣……って事は、こいつ魔術士じゃなくて『魔剣士』か。

「……何の真似だ?」
「勝負をしないか?『国王側近魔術士』の力を見てみたい……まさか『第13代』様は、この誘いを蹴らないよな?」

 挑発か……ま、俺は今、ソフィアと一緒にいるから、戦ったりはしないけど―――

「ねぇ……さっきからレテ君の事、バカにし過ぎじゃないの?」
「いや、なんでソフィアが怒るんだよ」
「怒るに決まってるでしょー!この人、レテ君の事を知らないのにバカにしてるんだよ?!もうやっちゃえ!レテ君、ボコボコにしちゃえ!」
「……俺はソフィアの前で戦いたくないんだけど」
「なんで?戦ってる時のレテ君も、カッコいいよ?」

 そうは言ってもな……怪我させたら悪いし……

「来ないのならこちらから行くぞ―――!」

 男の手から、炎が漏れ出す。
 こいつ……『炎魔法』の使い手か。

「『ファイアボール』ッ!」

 紅蓮の炎球が、俺を焼き尽くさんと迫る。
 俺はその火の玉に手を出し―――

「呑め―――『カグツチ』」

 赤い炎を、蒼い炎が呑み込んだ。
 『ゴウッ!』と音を立て、蒼炎の勢いが増して行く。

「……で、まだやんの?」
「ふぁ、『ファイアボール』ッ!」

 再び火の玉が放たれる。
 ……はぁ、もうめんどくさい。

「『カグツチ 波之型なみのかた』」
「んな―――っ?!」

 手の上の蒼炎が、火の玉を呑み込み―――勢いを増しながら、男へと迫る。
 その光景はまるで……蒼炎の波が押し寄せる。そんな光景だった。

「あっ―――つぅうううああぁああああああッ?!」
「おっとヤバイ」

 魔法を解除し、蒼炎を消す。
 ……ヤッベェやっちった……死んでないよな?

「あ、ぐぁ……!」
「おし、死んでないな。ソフィア帰るぞ」
「うん!わかった!」

 騒ぎになる前に、ここを立ち去ることにした。

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