蘇ったら、世界が平和になっていた!?

日向 葵

実は高級品だったあの魔物、ミノタウロス!

「うう、ベルゼちゃん。ちょっと持ち込み過ぎよ。これの百倍の量があっても、ギルドじゃ買い取れないよ。
 あ、常時依頼の、ウルフとゴブリンの討伐は完了したことにしとくから。
 ギルドカードを貸して?」

「わかった。はい、ミランダお姉ちゃん」

 素直に言うことを聞く私って偉い!
 いい子は得するんだよ?
 知ってた?

『一体誰に行っているんですか、ベルゼ様?』

 よく考えたら、誰に言っているのかわからない。
 なんだろう、なぜか言わなきゃいけない気がした。

『はぁ、そうなんですか』

 なんでかな、なんでかな?
 もしかして、誰かに言わされている?
 か、神の仕業か!
 許せん……

「はい、ベルゼちゃん。討伐依頼完了だよ。頑張ったわね。
 でも、どうやってこんなに大量なの。
 私も信じられないんだけど……」

「まぁ、私は悪魔だしね!」

「そっか、悪魔だからなんだね」

 悪魔って言葉は、凄く便利。
 普通の人間ならできないことも、悪魔だからで片付けられる。
 あれは一種の魔法の言葉だよ。

「うわぁぁぁぁ、ミノタウロスだぁぁぁぁ」

 解体所のギルド職員さんが、ミノタウロスを見て騒ぎ出した。
 その声が、周りの人に伝播したのか、周りで作業していた人たちも、作業を止めて、ミノタウロスの周りに集まってきた。

「え、嘘でしょ。ベルゼちゃん、ミノタウロスを狩ってきたの!」

「うん、なんか入っていたよ?」

「なんか入っていたって……」

「いやね。ゾンビを作る魔法で、ゾンビを大量に作って、適当に狩らせたから」

「ゾンビ……それも悪魔だから?」

「そう、悪魔だからなのだ!」

「なるほど、悪魔だからか」

 ほら、悪魔って魔法の言葉。
 ミノタウロスを倒してきても、ゾンビの魔法を使っても、悪魔だからで納得できちゃう!

「って、納得出来るわけないでしょ!
 ミノタウロスって、人を多く殺している魔物の中でも上位種なんだよ。
 まぁ、殺された人達は、バカばっかりなんだけどね」

 悪魔が魔法の言葉説が否定された……
 でも、ミノタウロスに殺された人たちがバカばっかりって、どういうことだろう。

「あ、気になるって顔している」

「うう、顔に出ちゃったよ……」

 なんだろう、なんだろう。
 自分が思っていることを当てられると、ドキっとするし、ちょっと恥ずかしくなる。
 なぜ?

『それはですね……』

 はい、ベルフェ君。ちょっと待ってようか。

『はうあう~』

 ベルフェは放っておくとして、ミノタウロスがちょっと気になるよ。
 ミノタウロスに集まった人たちも、なんだかすごい騒ぎになっているし。
 なんか、目が血走ってません?
 私の気のせいかな?

「ミノタウロスの説明の前に確認だけど、あれってギルドに売ってくれるんだよね」

「やだ」

「えぇ!」

 ミランダお姉ちゃんの驚愕した顔、本日二度目をいただきました。
 せっかく可愛いかのをしているのに。
 もったいない。
 でも、ある意味すごい。
 だって、ミランダお姉ちゃんの驚愕した顔って、変顔並なんだもの。

「うう、どうしても売ってくれないんですか?」

「話を聞いてから決める」

「しょうがないですね。じゃあ、先にミノタウロスの話から……」

 っと、ミランダお姉ちゃんが話そうとしたとき、解体所の扉が、音を立てて開いた。
 中に入ってきたのは、ティルミちゃん。
 私のことを見つけたのか、手を振ってよたよたとやってくる。
 あ、そこダメ。あ、ちょっと、あ~あ。

 ティルミちゃん、ゴブリンに足を引っ掛けて、ウルフの死体にダイブした。
 怪我はなさそうだけど、死体に突っ込んだことで、精神的にダメージを受けたのか、ちょっと涙目。
 そこがなんとも言えないほど可愛いよ。

「うう、やってしまいました……」

「大丈夫、ティルミちゃん」

「はい、大丈夫です……あ」

 顔についた血を落とそうと、試行錯誤していたティルミちゃんの顔を、ミランダお姉ちゃんがそっと拭く。
 優しいミランダお姉ちゃんに身を任せて、ティルミちゃんの表情がトロンとしている。
 ミランダお姉ちゃんは、なかなかのテクニシャンのようだ。

『一体どこでそんな言葉を!』

 いや、マッサージの本に書いてあるよ?

『何時、どこで読んだんですか』

 数千年前、ベルフェを使って……
 って、なんでベルフェの相手をしなきゃいけないのよ。
 その前に、ミノタウロス!

「ベルゼちゃん、もう待てないって顔してるよ。
  はは、ごめんって。ちゃんと教えるからさ」

「あの~なんの話ですか?」

「あのね、ティルミちゃん。今から、ミランダお姉ちゃんに、ミノタウロスについて教えてもらうの」

「えっと、ミノタウロス……って、あのミノタンロースですか!」

「あ、お嬢ちゃん、知ってるんだ。私はミランダよ。お嬢ちゃんは」

「あ、はい。私はティルミって言います。
 話を戻しますけど、ミノタンロースがいるんですか!」

「ベルゼちゃんが狩ってきたのよ!」

「わ~あ、すごい」

 目をキラキラと輝かせながら、私の事を見つめてくるティルミちゃん。
 でも、私は話に、全くついていけないんですけど。
 そもそも、ミノタウロスの話をしていたのに、なんでミノとタンとロースなの。
 それって、肉の部位だよね?

「ベルゼちゃん。聞いて驚きなさい。
 ミノタウロス、別名、ミノタンロースは、体がミノとタンとロースで構成されている、高級食材的な魔物なのよ。しかも、三つの部位の比率は、1対1対1。均等に構成されているのよ」

「な、なんだってー」

 ちょっとまってよ。
 ミノタウロスの外見は、大男だけど、顔が牛の化物だよ。
 牛ってことで、肉が美味しいということは納得しよう。
 牛肉ってとっても美味しいからね。
 でもね。
 ミノとタンとロースで構成されているって何よ。
 全く意味がわからないんですけど!

 大体、ミノって、牛の第一の胃でしょ。
 体の三分の一が胃ってどういうことよ。
 そして、体の三分の一が舌……
 ロースって、なんだろう。
 よくわからないけど、焼いたら美味しい、ということは知っている。

 だけど、体は大男の頭は牛……
 でも、均等に分かれて構成された、ミノとタンとロース。
 たしかに美味しそうだけど、美味しそうだけど。
 でもなんかモヤモヤするの!

「なんか、いろいろ考え込んでいるみたいだけど、これが現実よ」

「現実は、なんて残酷なんだ……」

「で、話は戻すけど、私も食べてみたいな~って思って」

「ギルドに納品したミノタウロスを盗もうと……」

「違う、違う。ギルド職員として、ちょっと優先的に販売してくれないかなって思っただけ」

「ミランダお姉ちゃん……」

「で、どうなの。売ってくれるの!」

「やです」

「あう、ちょっと食べてみたかったな。高級食材……」

 がっかりするミランダお姉ちゃんを無視して、【空庫】から、もう3体ほど、ミノタウロス、じゃなかった。ミノタンロースを取り出した。

「今日は、ここのみんなで焼肉パーティーだ!
 ミノタウロス4匹いれば十分でしょ!」

「わぁ、ベルゼさん。太っ腹!」

「おお、お姉さんのお願いを聞いてくれるの。 ありがとう、ベルゼちゃん」

 ああ、その大きな胸で抱きしめないで。
 抱きつかれると苦しいよ。

 まぁ、そんなこんなで、解体は本職の人に任せ、焼く準備を、ミランダお姉ちゃんと、ティルミちゃんと私の三人でやった。
 途中、ラピスお姉ちゃんにバレて、無理やりついてきたけど、まぁいいや。
 肉を焼く準備が完了したところで、お肉パーティー開始。
 各々が、盛り付けられた肉を焼き始める。

 焼けば、滴り落ちる油。それが火にたれて、更に火力をます。
 こんがり焼けた肉を、みんなで手に取って、大きく口を開けて、頬張った。
 一口食べただけで、その旨みは口に広がり、みんなが笑顔になる。
 笑顔を見ながら、楽しく食事をするのは、なんて素晴らしいことなんだろう。

 ああ、昔の悪魔友達……
 あ、悪魔の友達いなかったよ。
 悲しいかな。これが現実である。

「ベルゼさん、美味しいですね」

「うん、そうだね、ティルミちゃん。
 まだまだあるし、いっぱい焼いて、いっぱい食べよう!」

「はい、いっぱい食べましょう、ベルゼさん!」

 私自身も楽しいし、ティルミちゃんも、この解体所にいるみんなも喜んでくれたし、お肉パーティをして大正解!
 あれ、悪魔だから喜ぶことをしちゃいけないんだっけ?
 そんな差別的なこと、この世界にはないよね?

 まぁいいや。
 それにしても、偶然狩ってきた魔物が高級食材なんて。
 この世界は、もっと、もっと楽しめそうだよ。

 まぁでも、そんなことより今は肉、肉~
 もっと肉を焼いて食べるぞ。
 ミノ、タン、ロース。
 凄く美味しいよ!

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