蘇ったら、世界が平和になっていた!?

日向 葵

魔王さま、蘇る①

「あれ、ここは一体どこだろう……」

 目が覚めると、全く知らない場所にいた。
 周りを見渡してみると、草木が風に揺れて、鳥のさえずりが聞こえる、とってものどかな感じがした。
 私の後ろには、たぶん私が封印されていたであろう岩があるけど、そんなのはどうでもいいと思えるぐらい、緑豊かで、とっても綺麗な場所だった。

 むむ、よく見ると、可愛らしい小動物がいる!
 でも、悪魔である私を見ても、逃げ出そうとしないで、様子を見続ける小動物たち。
 見てて、心が和んでくるよ。
 うん、この光景にピッタリな言葉があるとしたら『平和』かな。
 そうとしか思えないぐらい、のどかな光景が広がっているんだもん。
 こんな素晴らしい光景をみて、私、感動しちゃった。

 でもね、でもね。
 私、こんな場所、全然知らないんですけど!
 私が知っている世界は、こんな平和じゃないんだよ。
 だって、この世界のほぼ全てを死の大地にしたのは、ほかならぬ私なんだから……


***


 私の名前はベルゼ・ビュート
 なんと、魔界では大魔王をやっていたりする、とっても可愛い悪魔なんだ。

 魔界、天界、共通界の三つの次元により構成される世界、【アステカ】

 私は、このうちの魔界を統べる王なのだ。
 ふふ、すごいでしょ!

 魔界って大変なところでね、魔界に住む悪魔は好戦的な奴しかいないんだよ。
 でもね、私が強すぎて、誰も遊んでくれないんだ。
 だから、私はいつも一人ぼっち。魔界ではさみしい思いをしていた。

 あまりの寂しさについやっちまった。
 なんか、私が住んでいる場所の近くで悪魔が争っているのを見つけた。
 私も一緒に遊びたいって思って、混ざりに言ったんだけど……
 「おかあさ~ん」って喚きながら、泣いて逃げちゃった。
 自分で言っておいてなんだけど、取り残された私ってすっごく哀れだったと思う。
 そんなわけで、私は一人ぼっち。
 しかも、まったくやることがない。
 だから、一人寂しく、ぐうたらと過ごしていたわけ。
 ……別に、寂しくったって、泣いてないんだからね!

 ある日、暇を持て余して作った大傑作、大規模魔道情報処理システム【ベルフェ・ゴール】を使って遊んでいたんだ。
 ふふ、こいつのすごいところは、自己学習をするところ。
 一人がさみしいから、話し相手を作りたいとか思っていないんだからね!
 ごほん……それで、世界の情報を読み漁っていたら、なんと、女神が共通界で、何かしているのを見つけちゃった。

 共通界はね、人間や獣人はもちろん、悪魔や神など、ありとあらゆるものが共存できる世界のことなんだ。
 みんなが共通して使う事が出来る世界ということで、共通界と呼ばれているの。

 そんな共通界で、女神が何をしているのか気になった。
 だって、普通天界にいる女神が、わざわざ共通界に来ているんだよ。
 絶対に面白いことをしているはず!

 ……いや、していないかもしれない。
 だって女神だし。
 どうせ、愛さえあれば救われる、だから神に祈りましょう、とか言ってんじゃないの?
 はは、女神自ら布教とかバッカみたい。
 でもさ、その女神の周りには、沢山の人間が集まっている……ちょっと羨ましい。
 ふふ、あの人間たちの目の前で、女神を痛めつけてやったら面白そうだな。
 言っとくけど、逆恨みとかじゃないんだからね。面白そうだから痛めつけるのよ。
 よし、あの女神を痛めつけて遊ぼう!


***


 という訳で、共通界の女神のもとにやってきましたよ。
 早速痛めつけてやろうと思ったけど、それだと面白みが何もない。

 痛めつける前に、女神が一体何をやっているのか探ってやろう!

 さてさて、女神が何をやっていたかと言うと、人間を教育していた。
 なにあれ。そんなことしてなんの意味が……あ、わかった!
 人間をより豊かな感じにしようとしてるんだ、きっと。
 そんで、信仰とお供え物よろしく的なことをして、ニートしようとしてるんだよ。
 ばっかだな、神様って。そんな回りくどい事しなくても、力ずくでどうにかなるじゃん。
 悪魔ならそうするんだろうな~
 あ、私も悪魔だった。
 じゃあ、力ずくでやるの決定だね!

 まぁ、そんな話は置いておいて、様子を見ている限り、すごい信頼を得ているよ、あの女神。
 でも女神は、自分が神であることを隠しているみたい。
 なんでかな、なんでかな?

 人間も確認してみると、面白い少年を見つけたよ。
 ふふ、少年は女神に熱い視線を送っている。
 さすが女神様。男たらしの異名は伊達じゃない!
 ククク、あの女神を痛めつけて、男の子が絶望する姿を思い浮かべると、背筋がゾクゾクしてくる。

 必殺、適当な空間移動!
 まるで這い寄るように、女神の背後に移動した。

「うわ、なんだお前!」

 私がいきなりあわられたせいで、驚愕する人間たち。

 騒ぎ方がちょっとウザったいけど、無視することにする。
 まずは女神を痛めつける事が大事なの!

 騒ぎ出した人間のおかげで背後に私がいると気がついた女神は、急に後ろを向く。
 人間からみたら可愛らしんだけど、媚売っているような感じがして、わたし的に気持ち悪いって思っちゃう。

 だから、全力で殴ってやった。必殺、正拳突きってね。
 殴られた女神は三回転半、吹っ飛んで地面に落ちた。
 うわぁ、殴っただけで歯が何本か折れたっぽい。ひ弱すぎでしょ、女神さま。

 私が殴ったのに、身動き一つ取れない人間たち。
 いや、女神が殴られたんだから、身動きぐらい取ろうよ。
 特に、女神に熱い視線を送っていた男の子!

 ん、なんか人間どもの目つきが変わった。
 目を鋭く細めて、私を睨んできた。
 やっぱり一時的なことみたいだね。怒ってる怒ってる。
 はは、楽しいな、楽しいな。

「ぐふぅ、痛い…… あなた、悪魔ね。何をしに……きゃぁ」

 足払いをして、女神を転がし、マウントを取る。

 「悪魔め、私が……ぐふ、がは……いや……やめ…がふ……おね……がはぁ」

 右、左、右、左、右、右、左、右、左、左、右、左。
 女神の顔を、無言で殴り続けた。
 っち、私が女神を殴っているのに、人間はだんまりだよ。ひどいもんだね。

「あれれ、誰も何もしないの?
 だったら、このまま殴り続けることにしよう。
 お前らは、そこで見とけばいいよ」

 ふふ、もっともっと殴ってあげるよ。
 ほら、ほら、ほら!
 ただ殴るだけじゃつまらない。
 だから、髪の毛を引っ張ってみるとか、違った痛みを与えてみる。
 それだけで反応が変わるから、楽しいな。
 もっと喘げクソ女神!

「……お願いします。ひぐぅ、ゆ、許してください……」

 私が殴り続けていたら、女神泣いちゃったよ。
 うわ、殴りすぎて、顔が膨れ上がっている。
 気持ちわるい……

 もう、仕方ないなと思ったから、どいてあげたよ。ほら、私って優しいからね。
 それに、何をやられても、押さえつけられる自信があったしね。

 私がどいてあげた瞬間、女神がいきなり土下座した。
 額を地面に擦りつけて、壊れた人形のように、泣きながら「助けてください」とつぶやき始めた。

 うわ、女神なのに人間の前で土下座なんて、ドン引きだよ。
 女神としてのプライドとかないのかな?
 なんか、面白くなくなってきたなぁ。
 こう、面白かったおもちゃに飽きた気分だよ。

「もう、しょうがないな」

「そ、それでは!」

 女神は、私が見逃してくれると思ったのか、満面の笑みで顔をあげた。
 殴りすぎて膨れ上がった顔の笑みで……
 うん、とっても気持ちわるい顔だったよ。
 反射的に、踏みつけて殺しちゃった。

 女神が殺される瞬間を見た人間たち大パニック!
 うん、これが見たかったのだよ。
 だ・け・ど、全員逃がさないんだから。
 逃げ惑う人間の後ろから、灼熱の炎的な魔法!
 ほら、燃えろ燃えろ、燃えまくれ、的なことをやってみた。
 人間たちはよく燃えたよ?
 でも、ちょっとやり過ぎた。この場にいた人間を全て燃やしちゃったら、もっと遊べなくなっちゃう。

 女神も殺しちゃったし、人間も殺しちゃったし、なんかもったいないような気がする。
 女神って、沢山の魔力とか持っているよね。
 死体としてこのまま放置ってのもねぇ。
 うん、全部食べちゃおう!

 という訳で、私の悪魔としての特殊能力【暴食】を使って、女神と、ついでに人間を食らった。
 人間はどうでもよかったけど、女神の力を手に入れられたことはちょっと嬉しいな。

 んで、女神を殺してから、数日後の事なんだけど。
 あれが大きな問題になっちゃった。

 なんと、あの女神は神王の娘だったのだ。
 やべ、やっちまった……

 娘が悪魔に殺されて、激怒プンプンな神王は、戦争を仕掛けて来やがった。

 そんなこんなで、天魔戦争が起こっちゃったよ。
 わたし、悪くないよ。
 悪魔的には楽しいイベントが発生しただけだから。
 私は、悪魔どもを引き連れて、神々と戦争をした。
 え、ぼっちな私がどうやって悪魔を率いたかだって?
 そんなの簡単だよ。
 悪魔たちに「神どもと戦争をやりたいか!」って言っただけ。
 みんな簡単についてきたよ。
 悪魔ってちょろすぎだぁ……

 で、戦争がどんな感じになったかっていうと、私たち悪魔が神どもを蹂躙していくような形になった。

 天使も神も痛めつけて、楽しんで、最後にはいただきます!
 みんな美味しく頂いた。
 そうすることで、私の力はどんどん強大になっていた。

 まぁ、そんなことを数百年続けていたんだけど……
 共通界のほぼ全てが死の大地になっちゃった。はは、やりすぎたかな?
 植物も見当たらない、生命もなかなか見当たらない。
 あるのは、岩と死体だけ。
 あとは、敵意のある神様ぐらい?

 この頃になると、私は戦争に飽き始めていたよ。
 だって、みんな反応が同じなんだもん。
 恨んだような目で睨んで、喚いて、泣きながら謝る。
 私もこういうのが好きな悪魔のはずなんだけど、さすがに数百年見続けたら飽きちゃうよ。

「……もう飽きた。戦争なんてやめよう!
 うん、そうしよう。という訳で、私は魔界に帰ります」

 さて、魔界に帰ろうとした時、奴らが私の目の前に立ちふさがった。

「魔王ベルゼ。覚悟してもらおう!」

 やってきたのは、六体の神々と、生きていたのがビックリな人間たち。
 でも、この程度の戦力で私を殺そうとかどうかしているよ?

「で、何をしてくれるの。私、戦争に飽きたんだけど?」

「飽きたからって逃すと思っているのか。殺された我らの同胞のため、今日こそ決着を付ける!」

「その程度の戦力で、私を殺そうなど、どうかしているよ」

「ああ、我々には、貴様を殺すことはできない」

 だったら何しに来たんだよ。
 ただ殺されにきたわけ?
 馬鹿だな。神って。

「だが、封印することはできる。なにもない空間で永久に眠りにつけ、魔王!」

 六体の神々と人間たちの祈りによって封印系の神聖魔法が発動する。
 更に、束縛、結界の神聖魔法も同時展開。

 やべ、くらっちゃった。
 しかもこの魔法、私が魔王だからと言っても、すぐには抜け出せないようになっている!
 私がやり過ぎたせいで、私の事恨んでる?
 それだけ人間の祈りが強いの?
 しかも、人間の祈りで神々の力が増してる。
 どうしよう、このままじゃ、封印される!

「そう簡単に行くかぁ、魔法を喰らい尽くせ【暴食】」

 私が持つ悪魔としての特殊能力で結界魔法、束縛魔法を喰らい尽くして、どうにか動けるようになったけど……
封印系神聖魔法の発動を無効化するには間に合わなかった。

「これで最後だ、魔王。【セイグリッド・ズィーゲル】」

「くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 まぁ、こんなことがありまして、私こと大魔王ベルゼ・ビュートは封印されちゃいましたとさ。

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