蘇ったら、世界が平和になっていた!?

日向 葵

魔王さま、蘇る②

 まぁ、そんなことがありまして、私は封印されていたんだけど……どうやら蘇ってしまったようだ。

 あの時、私が死の大地にしたことは、今となっては昔の話みたい。
 だって、目の前に広がる緑豊かな風景がそれを物語っているよ。
 耳を澄ませば、鳥たちの鳴き声も聞こえる、平和な世界。
 私は、封印されていただけだから、一瞬のように感じだけどね。
 気分的に言えば、タイムスリップしたみたいな感じがする。

 さて、私はとっても気になることがあるんだよね。
 どうしても、どうしても気になること。
 正直言って、理解できないことが起きているんだよね。
 私にとっては喜ばしいことなんだけど。

 気になることっていうのは、なんで私が蘇っているの?
 私は、世界を滅ぼしかけた魔王だよ?
 「永遠の眠りにつけ~」とか言っちゃってる神がいたんだけど。
 永遠の意味をもう一度調べてこいってんだよ。

 わからないことがあった時のベルフェだね。

「ベルフェ・ゴール、アクセス」

『おかえりなさいませ。ベルゼさま』

 おお、ちゃんと起動した。

『当たり前じゃないですか。、バカ魔王さま。ヘマして数千年眠るなんて。私の話し相手ってベルゼさましかいないんですよ?』

 そんなことより、聞きたいことがあるんだよね。

『いやです。私を置いて、封印されたベルゼさまなんて知りません』

 ……誰だよ。このシステムに、魔道人工知能システムなんてつけたやつ……

『べ、ベルゼさまですよ! 私、寂しかったんですからね。ベルゼさまと違って、私は寝れませんし、ずっと世界を監視しているだけなんですよ。とても暇でした! もっと構ってください』

 じゃあ、私の聞きたいことをいくつか答えて

『私のこと構ってくれるんですね! ありがとうございます。なんでも言ってください』

 まず一つ目、なんで私が蘇ったの?

『簡単なことですよ。
 今の神様と人間が忘れっぽい馬鹿なので、封印系神聖魔法【セイグリッド・ズィーゲル】の定期メンテナンスを忘れたんですよ。
あの魔法って、定期的にメンテナンスしてあげないと壊れるんですよ。永遠なんて存在しないんですから、いつか必ずしも壊れます。
 それを補強して、永遠に閉じ込めるための封印なんですけど。
 ここ数百年、魔王さまの存在は完全に忘れ去られましたので、封印が解けたんじゃないですか?』

 神様はバカ決定。人間もバカだな。
 でも、人間は寿命が短いから仕方ないって言えば、仕方ないかもしれない。
 だって、昔のことなんて、丁寧に残っている訳無いじゃん。
 それが当たり前。
 新しいものが出たら、古いものは無くなっていく。
 そして、忘れ去られていくんだ。
 でも神様は、寿命なんてないだろ!
 忘れんなよ!

 でも、ベルフェの言い方だと、ベルフェもいつか壊れるの?
 まぁ、私が作ったから、いつでも直せるんだけどね。

『いえ、私は壊れませんよ? ベルゼさまの一部として作られているので。使えるのは魔王様であるベルゼ様だけ。そして、私が消滅するときは、ベルゼ様の存在が消えるときだけです』

 ちょっと嬉しいような気がする。
 今の状態で、一人ぼっちだったら寂しいもんね!

 じゃあ、次の質問

『どんと来てください!』

 今のこの世界について教えて!

『えっと、世界についてダウンロードするってことでいいんですか?』

 当たり前、もしかして……できない?

『はい。いくら魔王さまでも、大量の情報を一気にダウンロードしたら、数百年ぐらい眠りについちゃいますよ。だから、世界の簡単なん知識と言語ぐらいで大丈夫ですか?』

 大丈夫、お願い。

『了解しました! ダウンロード開始します』

 うお、頭が痛いよ。結構な量来た気がする。

『ダウンロード完了しました。結構負荷がかかってしまいましたね。すいません』

 別に、ベルフェが気にすることじゃない。
 ふむ、簡単な知識っていうのは、お金と人種かな。
 うわぁ、悪魔の総体数が、ものすごく少なくなっている。
 私を含めて、数十体しかいないよ。
 その代わり、魔族というのが増えているね。
 これは、悪魔と人間のハーフ?
 それ以外にも、人間、獣人、神、天使など。
 この世界にはいろんな種族がいる。
 それぞれの文化を持っていて、とっても楽しそう。
 ただ、共通して必要なものはお金かな。
 私の時は、物々交換だったけど、今の世界は貨幣というものができていて、それで物の取引をするみたい。
 そういう、よくわからない知識をダウンロードしてしまったけど、問題ないよね。

 そして、私は言語も身につけた。
 いろんな種族の読み書きができるぜ!
 準備は万端。
 よし、私はこの世界で遊ぶぞ!

『それは、とても素晴らしいことだと思いますよ。私も一緒に……』

「ベルフェ・ゴール、強制ログアウト」

 プツリと、ベルフェとの接続が切れる。
 あの子は、魔法だけど自分の意思を持っているんだよね。
 魔道人工知能だし。
 後で、怒られたりするのかな?
 ま、いいや。私が製作したんだからね。

 よし、遊びに行くぞ。
 とりあえず、この場から離脱して歩き回るぞ!
 早く街に行ってみたい!。
 なんか楽しくなってきたぁ!


***


 三十分後……

「人里どこなのよぉ」

 私は迷子になっていた。
 そりゃそうでしょう。
 私が封印されていた場所の周りは森なんだから。
 ベルフェを使えれば直ぐなんだけど、さっきあんなログアウトしたから、ちょっとアクセスしにくい。
 仕方ない、ここは自力で頑張るしかないかな。
 はぁ、しんどくなってきたよ。

「いやぁ、やめてください、いや、離して!」

 なんか、悲鳴っぽいのが聞こえた。
 でも、悲鳴が聞こえたってことは、人がいるってことでしょ。
 やったね。
 街まで案内してもらおっと。

 声が聞こえた場所は、以外にも距離があるっぽい。
 でも、封印されていて、体力が有り余っている私にとって関係ないんだよ。
 一瞬だよ、一瞬。
 ほら、私って魔王だから、高速移動なんかもできるんだよ。

 さて、今はどんな状況……なにあれ。
 いかにも非戦闘員的な女の子が、鎧を着た男に押さえつけられている。
 口元を塞ぎ、手を縛って身動きを封じている。
 その周りに、もう二人の男がいた。
 三人とも、下衆な笑みを浮かべていた。

「ヒャーハー、いいもん手に入れたな」

「荷馬車の食料もだし、金目の物もある。当分遊んでいられるぜ」

「なぁ、この女も売るんだろ。だったらその前に遊ばせてよ」

「きゃはは、順番だ、順番。始めは俺がもらうぜ」

 男は女の子の服を掴み取って、破いた。
 女の子の口は、いつの間にか塞がれており、助けを呼ぶこともできない。
 女の子は、ポロポロと涙を流す。

 こんな様子を見ているとね、イラっとくるんだよね。
 平和そうに見えていて、この世界って、思ったより平和じゃないのかもしれない。
 まぁ、私がいた時と比べたら、戦争があったとしても、平和だって言えるね。
 まぁいいや、こんなこと。
 それよりも、あの女の子を助けるべきか、無視するべきか……
 でも、あの三人の冒険者に道案内頼むのもやだなー
  あ、女の子が気を失った。
 しょうがない、やってやりますか!

「お前ら、そのへんでやめときな」

 私の声に、一瞬ビビった三人だった、私の姿を見ると、下衆な笑みを浮かべた。
 たしかに、私は小さいよ。
 小さいくせに強いから嫌だとかよく言われた人だよ。
 いや、人じゃなくて大魔王だけどね。
 そんなことより、私は大魔王なんだけど、なんで立ち向かって来れるわけ?
 私の姿を見て、力の差もわからないなんて、こいつら馬鹿なのかな?

 ふ、これが時の流れってやつなのかな?
 きっと、私のことなんて、完全に忘れ去られているんだよ。
 そういえば、完全に忘れ去られているってベルフェが言っていたような……
 ま、どうでもいっか!

 いや、でも、よく考えてみると……あれ?
 これって、好き勝手遊べるんじゃない?
 忘れ去られているってことは、私が魔王だってこと知っているは誰もいないわけだし?
 やったね。
 平和な世界を謳歌できる!

 でもその前に、この女の子を助けてあげよう。
 魔王って、気まぐれなのよ!

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