カオティックアーツ

日向 葵

65:楓誘拐事件?

 ウトピアに来てから数日後。ライトワークの承認がおりた次の日に、拠点が出来上がった。
 あまりの速さに、楓は驚いたが、アクアやヴァネッサたちから言わせれば、魔法があれば楽勝、である。
 よく考えてみれば、カオティックアーツでも同様のことができるため、楓は納得する。

 拠点の中は、受付カウンターと待合室のような椅子が設置されており、気楽に休むため、机なども置いてあった。
 楓的にはいらない仕様。誰が受付嬢をやるんだ……と思う。受付の一番奥の隅っこは扉があり、中に入るとリビングのような生活臭漂う空間が広がっていた。
 フレアが言うに、こっちが本物の拠点で、受付はそれっぽく作ってと適当にお願いしたら、こうなったらしい。

「んじゃ、あたいもこれからお世話になるよ。ウトピアで同じような仕事をしているんだ。合併したほうがいいだろうと思ってさ。
 だから……よろしくな」

「ああ、ヴァネッサ、歓迎するよ、って言っても、ここまで一緒に旅をした仲間だ。だから、現状なにか変化があるってわけじゃないけどな」

「そう言ってくれると嬉しいよ、楓」

 とまあ、ヴァネッサが本格的にライトワークに加わった。
 新しくライトワークのメンバーが増えたことで、この場に活気が……と言いたいが、そんなことはなかった。
 フレアは、アクアと一緒になぜかぐったりしていた。

「……楓、水をくれないか……」

「わ、わしも頼む……」

「あ、ああ、分かった」

 楓はクレハとアクアに水をあげる。ライトワークの承認がおりる条件に、アクアの仕事を終わらせるというものがあった。それをフレアが手伝って、地獄のような目にあいながらなんとか終わらせたそうだ。
 楓は、経緯を知らないので、ライトワークのために、とフレアに対して感動的な気持ちになった。真実を知ったらどうなることやら。

 そして、もう一つ。ライトワークに変化があった。

「お姉ちゃん!」

「おお、ティオ。元気でやってるか」

「うん! 今日はどうしたの?」

「あたいも、これからここ一緒に仕事するんだ。よろしくな」

「ホント、嬉しいな」

 とまあ、異常なほどに、ヴァネッサとティオが仲良くなっていた。
 最近仲が良くなったのか、カノンが拗ねて、楓の頭まで上り、ぐったりとだらけた。

「がう」

「どうしたんだ、カノン?」

 楓は、頭の上にのるカノンを持ち上げて抱っこした。片腕でカノンを支え、もう片方の手で、喉を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。

「あ、楓、カノンと遊んでいるの。私も撫でさせ……」

 カノンを触ろうとしたクレハをカノンが噛んだ。別に本気で噛んでいるわけではないが、それでも痛かったようで、クレハが若干涙目になっている。

 そんな日常的な光景が広がっているライトワークの拠点に来訪者が現れる。

 カラン、と音を立てて扉が開く。受付に誰もいなかったので、楓が対応するために行こうとすると、部屋のドアが開かれた。
 そこから現れた魔女の姿を見て、アクアとフレアがビクッと反応し、ブラスが息を荒げる。

「み~ん~な~、元気~……くぅ」

 現れたのは風雷の魔女と呼ばれ、名のとおり雷と風を操ることのできる上位の魔女、ウィウィだった。

「おい、こんなところで立ちながら寝るな」

「っは、私~寝てないよ~多分~」

 ゆったりとした口調。体を揺らしながら、のんびりとした雰囲気を漂わせているのに、全く隙がない。細めた目をそっと開き、ウィウィは楓に近づいた。そして、突然匂いを嗅ぎだした。

「ちょ、何してんのよ!」

「え~、匂いぐ~らい~いじゃ~ない?」

 当然クレハが引き離そうとする。でも、ウィウィは楓にくっついて離れようとはしなかった。

「この子~から~、しらな~い~匂い~が~いっぱい?」

 知らない匂いとは、きっと元の世界のことだろう。だが、楓はここに来て結構立っている。匂いとはそんなに残るものだろうか、と楓は疑問に思った。

「魔力~とは~違う~エネルギーの~匂い~がただよ~ってる~よ~」

 どうやら、ウィウィは、楓の持つ基礎技術の一つ、暗黒物質のエネルギー化に対して、匂いで何かを感じ取ったようだ。
 腕を恋人のように絡ませて、楓のウィウィは楓の耳元で囁く。

「私の研究に協力してくれ」

「え……」

 さっきまでの、のんびりとしていて聞き取りにくい言葉とは違い、はっきりとしたその言葉に、楓は唖然とする。
 そして、コクっと縦に頷いた。
 ウィウィは魔法関連の研究者である。ということは、カオティックアーツにさらに詳しい魔法技術の知識を取り込んで、さらに進化したカオティックアーツの作成ができるかもしれない。そんな期待を込めて、楓は頷いたのだ。
 ウィウィは、その楓の返事に喜んだ。

 だが、傍から見たら、楓とウィウィがいちゃついているようにしか見えなかった。

「ぬぬぬ、ウィウィめ。あたいたちを差し置いて……」

「むむむ、私たちの方が一緒にいる時間長いのに、すっごく親しそう。なんか複雑な気分……」

 クレハとヴァネッサがすね始め、それをティオが慰める。この時ばかりは、カノンも同情しているようで、クレハの頭の上に乗り、頭をぽんぽんと叩いた。
 そんな可愛らしい仕草にも、クレハやヴァネッサは落ち込む一方。よく見ると、泣いているように見えないこともなかった。

 そんなふたりを見て、あらあらといった表情をするウィウィは、ちらりとフレアとアクアを見た。それだけで、緩やかだった笑顔が、硬くなる。
 次第に、怒っていたときのような睨みをきかせ、すぐに穏やかな表情に戻った。
 どうやらなにか思いついたようで、口元がにやりとしていた。

「か~え~で~は~頂いて~行きます~ね~」

 そう言うと、楓の姿と一緒に、突然姿を消した。その場にいた一同は、驚いて目を擦った。さすがのウィウィも、瞬間的に転移を発動させるなんて不可能だろうと思ったからだ。だけど、何度見返しても、楓の姿はどこにもない。本当にどういうことだ、と外を見て確認するが、周りを見ても見知らぬ魔女しかいない。

「ど、どうしよう。楓が誘拐されちゃった」

「ウィウィめ、あいつは何もしないって思っていたんだけどな」

「ヴァネッサ、あいつは何者なの」

「あいつの名前は知っていると思うけど、ウィウィっていう風雷の魔女で、この国のお偉いさんの一人。そして、この国の魔法研究の主任だ。あいつしかいないけどな」

「魔法研究?」

 クレハはヴァネッサの言葉に首をかしげた。
 魔女ならば、魔法を使えて当たり前である。その当たり前を研究することになんの意味があるのだろうかと、クレハはそう思った。
 だけど、実際に魔法について楓にレクチャーしているとき、魔法のことがよくわからないということも、クレハには分かっていた。
 そして、クレハは楓をよく見ている。楓も研究馬鹿だ。研究のためならどんなことでもする。ただ、マッドではないので、其処らへんは考慮していたが……
 そう思うと、クレハの心の中を不安が支配した。

「きっと楓のことを研究に使おうとしているのかもしれない」

「ああ、急ごう」

「僕も行くよ!」

 そして、三人はライトワークを出ようとして、後ろを振り返った。三人は大きな息を吸い、声を張り上げて言った。

「「「みんなで助けに行くんだよ!」

 この声にビビった、アクアとフレアは立ち上がり、ブラスを引きずってついていく。
 ブラスも途中で起き上がり、自分の足でついていくことにした。
 楓奪還のため、クレハたちが先陣切って、ウィウィの研究所を目指す。
 そのあとに、フレアたちがついていく感じで、ウィウィのもとを目指した。
 全ては楓奪還、ただそれだけのために!。

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