カオティックアーツ
63:ウトピアを見て回ろう②
じゃんけん大会が終わった後、他を見送ったクレハは、地面に埋まっているブラスを適当に出してやった。
「ほら、お前は私についてこい」
「あ、ああ。分かった」
フレアの指示に従い、三歩斜め後ろあたりをついていくブラス。当然、上半身は裸だ。
「ったく、まずは服を着ろ、服を!」
「服……といっても持ってないぞ。ギリギリで着れそうな楓のシャツなら持っているが」
なぜ楓のシャツをブラスが持っているのか全くの意味不明。しかし、こんな変態チックな姿をウトピアの魔女たちに晒すのは失礼というもの。フレアはその辺を気にして……いるわけも無く、ただ暑っ苦しいブラスの姿を鬱陶しく感じただけだった。
まぁ、それが他の魔女たちの為になったわけであるが。
「それはそうと、どこに行くんだ」
「ああ、アクアのところだよ」
ブラスには意味がわからなかった。
あれ、さっきアクアは仕事をしているから、今日は観光しようってことになったんだよな。
でも、これからアクアのところに行くって……どういうことだ。
ブラスは全くない脳みそをフル回転させて考えてみたが、やっぱり何もない頭では思いつかなかったので、考えるのをやめる。
フレアの後に続き、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。
気が付くとアクアがいるであろうウトピア中央付近からかなり離れた、人気のない薄暗い路地裏に来ていた。一見壁しかない場所だが、目を凝らしてよく見ると、扉が見える。まるで虫や動物が擬態しているかのように、壁にソックリな扉。
これは……何か危ないことをしているんじゃないだろうか。
ブラスは警戒心を一段階上げる。
フレアは言った。アクアに会いにいくと。でもきた場所はウトピアの最端あたりにある路地裏。アクアはアクアでも、別のアクアかもしれないとブラスは思考する。
そんなブラスの心配なんて露知らず、フレアは扉を開けて中には言った。
「ちょ!」
ブラスも慌てて中に続く。扉の先にあったものは、ピンク色の可愛らしい空間に、どキツイマッチョな人形が絡まりあってそこらじゅうに転がっている混沌とした空間だった。
その中央にいたものは……
「お、やっと来たのじゃ。遅すぎて待ちくたびれてしもうたぞ」
仕事をしているはずのアクアがいた。
アクアは、マッチョな人形を絡ませてニヤニヤしている。ブラスの背筋に悪寒が走る。何やら危険な雰囲気。咄嗟に逃げようとしたブラスは、フレアの魔法によって拘束され、捕まった。
「や、やめろ。俺に一体なにをさせるつもりだ!」
「いや、別に何もしないけど」
「あ、あれはやってもらおうと思っておるのじゃ。大会の時にお願いした関節人形作成!」
そんなはずはない。絶対何かさせられる。でも、捕まったブラスにはどうすることもできず、ただうなだれるだけであった。
「それはそうと、アクア。ライトワークの件はどうなった?」
「あーあれか。それなら今日、申請書を出したので問題ないのじゃ。あとは承認が降りれば晴れて、フレアたちの憩いの場が復活と言ったところじゃろう」
「すまないな」
「のほほほほ、ワシとフレアの仲ではないか」
一体いつ、ライトワークの話をしたのやら、というかもう話を通しているじゃん……とブラスは一瞬だけに思った。だが、二人の光景を見て、すぐに忘れる。
熱い握手を交わす二人。握手を交わすとき、二人の表情は顔を少し赤らめて、何やらニタニタ笑っていた。その光景がよく分からず呆然と見つめるブラス。
そこから先は地獄だった。
関節人形を作ると約束していたブラスに事細かな仕様を説明する二人。
片やマッチョ同士のガチムチ系、片や美少年的なショタ系。
意見がぶつかり、激しく口論する二人にブラスは目眩を感じた。
それでも約束したのだからと、二人の意見をメモしてまとめるあたり、ブラスはできた職人であるのだろう。
関節人形ではできなさそうな意見要望があれば、はっきりと無理だといい、別案をする。
二人が納得できるようなものを完成させるために仕様を事細かく決めていき、これで作成できるというあたりになるまで数時間が経過した。
やっと落ち着ける……そう思った時に、新たな来訪者が現れた。
「ア~ク~ア~」
もちろんウィウィである。
仕事をサボって遊んでいるアクアを捉えにやってきたウィウィの目は、少しばかし血走っており、その視線だけで人が殺せそうだった。
「やばい、逃げるのじゃ」
「ああ、分かった!」
フレアはウィウィに向かって閃光魔法【ライティング】を放つ。攻撃魔法ではないので、目くらましのために使ったようだ。
ウィウィは咄嗟に目を庇うが、光が落ち着いた頃には、二人の姿は既に無く、ブラスだけがのたうち回っていた。
「目が、目がああぁぁああぁあぁぁああぁ」
直で閃光魔法見てしまったブラスは大ダメージ。どこぞの大佐のような言葉を発していた。
転げまわるブラスを無視し、ウィウィはその場に散らば仕様を記述したメモを手に取り、握り潰す。
「ふは、あははははははははは」
狂ったように笑いながらも、目は狩人の目になっていた。
閃光魔法で目が使い物にならなくてもわかる恐怖を感じたブラスは、そのまま息絶えたように動かなくなった。
必殺死んだふり。
危険な動物や魔物なら、そのまま食われることもあるかもしれないが、ウィウィは魔女。つまり人なのだ。
人食鬼でもない限り、ブラスを食べようと思わないだろう。この場を平穏に乗り切る為、ブラスは必死に息を殺し、死んだフリに徹底した。
「なんか~ひさし~ぶり~に~目が覚め~てきたの~です~よ。アクア、ブッ殺!」
ウィウィは怒りに任せて、ブラスを蹴った。
そこが急所に当たったようで、死んだふりで乗り切ろうとしたブラスは悶える。痛みというより快感に……
その後も、ウィウィの激しい蹴りのラッシュがブラスを襲う。八つ当たり気味に蹴り続けるウィウィは悪魔のような笑みを浮かべた。
「ふふふふふふ、絶対に~逃がさないですよ~」
その言葉を最後に、ブラスの意識は闇に包まれた。
***
アクアとフレアは必死に逃げて、とある店の中に入った。
その店の名は『男男聖書』
その、いわゆるアレな本の専門店である。
魔女しかいない国のためか、魔女だからなのか、意外にもこの手のジャンルは人気があるようで、ウトピアに住まう一部の魔女には聖書として扱われている。
まぁ、アクアが布教して広まった文化でもあるのだが。そして、一部の国民とアクアの権力により建設された腐な女の子の楽園。それが『男男聖書』だ。
店の名前は教祖であるアクアの一存で決まったものなので、ネーミングセンスがアレなのは仕方がない。
なにせアクアなのだから。
「アクア……ここは素晴らしい場所だな」
「のほほほほ、フレアならわかってくれると思っていたのじゃ」
アクアとフレアは仲良く本を見て回る。ガチムチ系が好きなアクアとショタ系が好きなフレアでは、カップリングによる口論などが起こっても仕方がないのだが、ここはいわゆる聖地。喧嘩は御法度である。
「ぬぬぬ、アクアのそれはあまり納得はできないな」
「それを言うならこっちもじゃ。でも、ここは一時休戦とするのじゃ」
「それもそうだな。出禁になったらたまったもんじゃない」
「のほほほほほ、よくわかっておるのう。ここは楽しく買い物をする場所なのじゃ!」
「ああ!」
ふたりは別々のコーナーに行き、気に入った本を手に取る。あまりこのような店が無く、同じ趣味をもつものが周りにいなかったフレアは、欲しいモノが多すぎて手に取っては唸っていた。
まだライトワークが復活していないということは、収入源がないということ。お財布と相談しなければいけないフレアは、買えるものに限りがある。
一方アクアは、買い物カゴに好きな本を大量に入れていた。これでも一応ウトピアのトップであるアクアは、結構なお金を持っているようで、欲しいものを次々と手に取ってはカゴに入れる作業を繰り返す。
この至福な時間のせいか、ふたりはウィウィに追われていたことを完全に忘れていた。
これから最悪なことが引き起こされるとも知らずに。
突然、扉が激しい音をたて、吹き飛んだ。
店の棚にぶつかり、粉砕する扉。外から嵐が来たかのような風が入り込み、店内が荒れた。楽しく買い物をしていた魔女たちは、突然の出来事に悲鳴をあげて座り込む。
アクアとフレアもこの事態に驚いて、扉があった方を凝視した。
そこから現れたのは、憤怒の悪魔といっても過言ではない雰囲気を漂わせたウィウィだった。本当に角が生えているような錯覚させる、怒りに満ち溢れたウィウィは、アクアとフレアを睨みつける。
「「ひ!」」
その気迫に飲み込まれ、小さな悲鳴を漏らした二人は、震えながら互いに抱きつく。まるで狼を目の前にした羊の如く。
「ア~ク~ア~」
「ウィ、ウィウィ。ここここ、こんなところで奇遇じゃな!」
「ウィウィさん、どどどどどうしたんですか?」
ウィウィの怒気に震え上がる二人は挙動不審になりながらも、どうやって逃げようか必死で考えていた。アクアが言っていたことが本当なら、寝るのが大好きで、温厚な性格の魔法研究バカ。それがウィウィである。
必ずどこかにスキがある。そう思っていた。
だが、この時のウィウィは激怒モードであり、優しい人ほど怒らせるとやばいを体現していた。
「……ふふ、【ライトニング】」
無詠唱で突然放たれる雷の魔法。防御は当然間に合わず、二人は痺れて動けなくなる。
ウィウィの研究成果によって相手を動けなくすることに特化した魔法の効果は絶大だった。
「あう……痺れて動け……」
「うう……誰か……」
助けを求めようと、店にいた他の魔女に視線を向けたアクアとフレア。だが、激怒なウィウィに、誰も立ち向かおうとはせず、全員が視線を逸らす。
「「そ、そんな……」」
絶望の色に染まった二人に、憤怒の悪魔が微笑んだ。ただし、目は笑っていない。
「ふふふふふふ、もう~逃がし~ませ~んよ~
アクアは~フレア~さんが~いるといいのね~
楽しく~二人で~お仕事~してくださいね~
あ、ライトワーク~でしたっけ? あれはアクアと~一緒に~仕事を終わ~らせる~まで、承認~しません~ので!」
そう言って、再び魔法を放つウィウィ。アクアとフレアの意識は、一瞬で飛んでしまった。
気絶した二人の足に縄を括りつけ、ウィウィは二人を引き摺って、この場を去っていった。
この場にいて、全てを目撃していた腐の趣味を持つ魔女たちは思った。
(((ウィウィ様を怒らしたら、マジパネ。これからは怒らせないようにアクア様をどうにかしないと!)))
こうして、『ウィウィ様を怒らせないようにアクア様の仕事事情を事細かく確認して、脱走しているようなら、生贄……じゃなくって、差し出そう』という暗黙の決まりごとができてしまったのだった。
「ほら、お前は私についてこい」
「あ、ああ。分かった」
フレアの指示に従い、三歩斜め後ろあたりをついていくブラス。当然、上半身は裸だ。
「ったく、まずは服を着ろ、服を!」
「服……といっても持ってないぞ。ギリギリで着れそうな楓のシャツなら持っているが」
なぜ楓のシャツをブラスが持っているのか全くの意味不明。しかし、こんな変態チックな姿をウトピアの魔女たちに晒すのは失礼というもの。フレアはその辺を気にして……いるわけも無く、ただ暑っ苦しいブラスの姿を鬱陶しく感じただけだった。
まぁ、それが他の魔女たちの為になったわけであるが。
「それはそうと、どこに行くんだ」
「ああ、アクアのところだよ」
ブラスには意味がわからなかった。
あれ、さっきアクアは仕事をしているから、今日は観光しようってことになったんだよな。
でも、これからアクアのところに行くって……どういうことだ。
ブラスは全くない脳みそをフル回転させて考えてみたが、やっぱり何もない頭では思いつかなかったので、考えるのをやめる。
フレアの後に続き、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。
気が付くとアクアがいるであろうウトピア中央付近からかなり離れた、人気のない薄暗い路地裏に来ていた。一見壁しかない場所だが、目を凝らしてよく見ると、扉が見える。まるで虫や動物が擬態しているかのように、壁にソックリな扉。
これは……何か危ないことをしているんじゃないだろうか。
ブラスは警戒心を一段階上げる。
フレアは言った。アクアに会いにいくと。でもきた場所はウトピアの最端あたりにある路地裏。アクアはアクアでも、別のアクアかもしれないとブラスは思考する。
そんなブラスの心配なんて露知らず、フレアは扉を開けて中には言った。
「ちょ!」
ブラスも慌てて中に続く。扉の先にあったものは、ピンク色の可愛らしい空間に、どキツイマッチョな人形が絡まりあってそこらじゅうに転がっている混沌とした空間だった。
その中央にいたものは……
「お、やっと来たのじゃ。遅すぎて待ちくたびれてしもうたぞ」
仕事をしているはずのアクアがいた。
アクアは、マッチョな人形を絡ませてニヤニヤしている。ブラスの背筋に悪寒が走る。何やら危険な雰囲気。咄嗟に逃げようとしたブラスは、フレアの魔法によって拘束され、捕まった。
「や、やめろ。俺に一体なにをさせるつもりだ!」
「いや、別に何もしないけど」
「あ、あれはやってもらおうと思っておるのじゃ。大会の時にお願いした関節人形作成!」
そんなはずはない。絶対何かさせられる。でも、捕まったブラスにはどうすることもできず、ただうなだれるだけであった。
「それはそうと、アクア。ライトワークの件はどうなった?」
「あーあれか。それなら今日、申請書を出したので問題ないのじゃ。あとは承認が降りれば晴れて、フレアたちの憩いの場が復活と言ったところじゃろう」
「すまないな」
「のほほほほ、ワシとフレアの仲ではないか」
一体いつ、ライトワークの話をしたのやら、というかもう話を通しているじゃん……とブラスは一瞬だけに思った。だが、二人の光景を見て、すぐに忘れる。
熱い握手を交わす二人。握手を交わすとき、二人の表情は顔を少し赤らめて、何やらニタニタ笑っていた。その光景がよく分からず呆然と見つめるブラス。
そこから先は地獄だった。
関節人形を作ると約束していたブラスに事細かな仕様を説明する二人。
片やマッチョ同士のガチムチ系、片や美少年的なショタ系。
意見がぶつかり、激しく口論する二人にブラスは目眩を感じた。
それでも約束したのだからと、二人の意見をメモしてまとめるあたり、ブラスはできた職人であるのだろう。
関節人形ではできなさそうな意見要望があれば、はっきりと無理だといい、別案をする。
二人が納得できるようなものを完成させるために仕様を事細かく決めていき、これで作成できるというあたりになるまで数時間が経過した。
やっと落ち着ける……そう思った時に、新たな来訪者が現れた。
「ア~ク~ア~」
もちろんウィウィである。
仕事をサボって遊んでいるアクアを捉えにやってきたウィウィの目は、少しばかし血走っており、その視線だけで人が殺せそうだった。
「やばい、逃げるのじゃ」
「ああ、分かった!」
フレアはウィウィに向かって閃光魔法【ライティング】を放つ。攻撃魔法ではないので、目くらましのために使ったようだ。
ウィウィは咄嗟に目を庇うが、光が落ち着いた頃には、二人の姿は既に無く、ブラスだけがのたうち回っていた。
「目が、目がああぁぁああぁあぁぁああぁ」
直で閃光魔法見てしまったブラスは大ダメージ。どこぞの大佐のような言葉を発していた。
転げまわるブラスを無視し、ウィウィはその場に散らば仕様を記述したメモを手に取り、握り潰す。
「ふは、あははははははははは」
狂ったように笑いながらも、目は狩人の目になっていた。
閃光魔法で目が使い物にならなくてもわかる恐怖を感じたブラスは、そのまま息絶えたように動かなくなった。
必殺死んだふり。
危険な動物や魔物なら、そのまま食われることもあるかもしれないが、ウィウィは魔女。つまり人なのだ。
人食鬼でもない限り、ブラスを食べようと思わないだろう。この場を平穏に乗り切る為、ブラスは必死に息を殺し、死んだフリに徹底した。
「なんか~ひさし~ぶり~に~目が覚め~てきたの~です~よ。アクア、ブッ殺!」
ウィウィは怒りに任せて、ブラスを蹴った。
そこが急所に当たったようで、死んだふりで乗り切ろうとしたブラスは悶える。痛みというより快感に……
その後も、ウィウィの激しい蹴りのラッシュがブラスを襲う。八つ当たり気味に蹴り続けるウィウィは悪魔のような笑みを浮かべた。
「ふふふふふふ、絶対に~逃がさないですよ~」
その言葉を最後に、ブラスの意識は闇に包まれた。
***
アクアとフレアは必死に逃げて、とある店の中に入った。
その店の名は『男男聖書』
その、いわゆるアレな本の専門店である。
魔女しかいない国のためか、魔女だからなのか、意外にもこの手のジャンルは人気があるようで、ウトピアに住まう一部の魔女には聖書として扱われている。
まぁ、アクアが布教して広まった文化でもあるのだが。そして、一部の国民とアクアの権力により建設された腐な女の子の楽園。それが『男男聖書』だ。
店の名前は教祖であるアクアの一存で決まったものなので、ネーミングセンスがアレなのは仕方がない。
なにせアクアなのだから。
「アクア……ここは素晴らしい場所だな」
「のほほほほ、フレアならわかってくれると思っていたのじゃ」
アクアとフレアは仲良く本を見て回る。ガチムチ系が好きなアクアとショタ系が好きなフレアでは、カップリングによる口論などが起こっても仕方がないのだが、ここはいわゆる聖地。喧嘩は御法度である。
「ぬぬぬ、アクアのそれはあまり納得はできないな」
「それを言うならこっちもじゃ。でも、ここは一時休戦とするのじゃ」
「それもそうだな。出禁になったらたまったもんじゃない」
「のほほほほほ、よくわかっておるのう。ここは楽しく買い物をする場所なのじゃ!」
「ああ!」
ふたりは別々のコーナーに行き、気に入った本を手に取る。あまりこのような店が無く、同じ趣味をもつものが周りにいなかったフレアは、欲しいモノが多すぎて手に取っては唸っていた。
まだライトワークが復活していないということは、収入源がないということ。お財布と相談しなければいけないフレアは、買えるものに限りがある。
一方アクアは、買い物カゴに好きな本を大量に入れていた。これでも一応ウトピアのトップであるアクアは、結構なお金を持っているようで、欲しいものを次々と手に取ってはカゴに入れる作業を繰り返す。
この至福な時間のせいか、ふたりはウィウィに追われていたことを完全に忘れていた。
これから最悪なことが引き起こされるとも知らずに。
突然、扉が激しい音をたて、吹き飛んだ。
店の棚にぶつかり、粉砕する扉。外から嵐が来たかのような風が入り込み、店内が荒れた。楽しく買い物をしていた魔女たちは、突然の出来事に悲鳴をあげて座り込む。
アクアとフレアもこの事態に驚いて、扉があった方を凝視した。
そこから現れたのは、憤怒の悪魔といっても過言ではない雰囲気を漂わせたウィウィだった。本当に角が生えているような錯覚させる、怒りに満ち溢れたウィウィは、アクアとフレアを睨みつける。
「「ひ!」」
その気迫に飲み込まれ、小さな悲鳴を漏らした二人は、震えながら互いに抱きつく。まるで狼を目の前にした羊の如く。
「ア~ク~ア~」
「ウィ、ウィウィ。ここここ、こんなところで奇遇じゃな!」
「ウィウィさん、どどどどどうしたんですか?」
ウィウィの怒気に震え上がる二人は挙動不審になりながらも、どうやって逃げようか必死で考えていた。アクアが言っていたことが本当なら、寝るのが大好きで、温厚な性格の魔法研究バカ。それがウィウィである。
必ずどこかにスキがある。そう思っていた。
だが、この時のウィウィは激怒モードであり、優しい人ほど怒らせるとやばいを体現していた。
「……ふふ、【ライトニング】」
無詠唱で突然放たれる雷の魔法。防御は当然間に合わず、二人は痺れて動けなくなる。
ウィウィの研究成果によって相手を動けなくすることに特化した魔法の効果は絶大だった。
「あう……痺れて動け……」
「うう……誰か……」
助けを求めようと、店にいた他の魔女に視線を向けたアクアとフレア。だが、激怒なウィウィに、誰も立ち向かおうとはせず、全員が視線を逸らす。
「「そ、そんな……」」
絶望の色に染まった二人に、憤怒の悪魔が微笑んだ。ただし、目は笑っていない。
「ふふふふふふ、もう~逃がし~ませ~んよ~
アクアは~フレア~さんが~いるといいのね~
楽しく~二人で~お仕事~してくださいね~
あ、ライトワーク~でしたっけ? あれはアクアと~一緒に~仕事を終わ~らせる~まで、承認~しません~ので!」
そう言って、再び魔法を放つウィウィ。アクアとフレアの意識は、一瞬で飛んでしまった。
気絶した二人の足に縄を括りつけ、ウィウィは二人を引き摺って、この場を去っていった。
この場にいて、全てを目撃していた腐の趣味を持つ魔女たちは思った。
(((ウィウィ様を怒らしたら、マジパネ。これからは怒らせないようにアクア様をどうにかしないと!)))
こうして、『ウィウィ様を怒らせないようにアクア様の仕事事情を事細かく確認して、脱走しているようなら、生贄……じゃなくって、差し出そう』という暗黙の決まりごとができてしまったのだった。
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