カオティックアーツ
52:新たな大陸
一ヶ月後
アパダリアの船も再開したので、楓たちは魔女の国があると言われているウルカ大陸に向かった。
アパダリアを出発した船は、航路を二週間かけて進み、ウルカ大陸にある港町レミニカに到着したのであった。
レミニカはこの世界に存在する他の港町の中で一番大きい港町であった。
それはウルカ大陸が発見されて数十年しかたっておらず、未開拓地が多い為ある。
そんなウルカ大陸唯一の港町、レミニカは新しいことをしたいと夢見る人で賑わっていた。
新しい土地で農業をしたいと考えるもの、新種の魔物の研究をするために来た学者、発見されていない資源を求めて来た商人たち。
そんな夢見る人が多く滞在する町であるが、それ以外にも身なりの良い貴族たちも多くいる。
それは、透き通ったきれいな海に面した洋風の町並みは、どこかのリゾート地を思い浮かべるほどのきれいな町でもあったからだ。
この綺麗な風景と町並みがレミニカはリゾート地としても有名にし、別荘を建てたい貴族が屋敷を建設していった結果、大きな港町に発展していった。
そして、夢を追うことのできるリゾート地というキャッチフレーズで宣伝されている有名な港町となっていった。
「いや~船旅は疲れたね」
「クレハは寝てばっかだったけどな」
「ちょ、楓。そんなことないんだけど!」
船の再開は海上戦から一ヶ月、ウルカ大陸到着まで二週間。長い時間をかけて到着したレミニカの町。
楓たち一行は、長い船旅のせいもあって、若干疲れていた。
だけど、アクアが言うには、この町に魔女の国の案内役として派遣されている魔女がいるはず。
まずは合流することを考えた。
しかし、案内役が誰なのか、どこで合流するのか、楓たちは何一つ教えてもらっていない。
楓たちから声をかけるのは不可能であった。
「ねぇ、お兄さん。僕、お腹がすいちゃった」
「がうがう~」
ティオとカノンのお腹が「ぐぅ~」となった。
時刻は夕方。ちょうど夕食時である。
たしかに、お腹がすいたと思った楓は思った。
「宿の前に飯にするか?」
「ほんと! お兄さん、ありがとう」
「別に礼を言われることじゃないよ。俺もお腹がすいたしな。この町の名物料理でも食べに行くか」
「楓、この町の名物料理なら、クレハちゃんにおまかせだよ!」
「お、いい店でも知っているのか?」
「船にいるあいだ、一通り調べたからね。
この港町の名物料理と言ったら、なんといっても肉料理」
「は? 港なんだから魚だろ?」
「港と言ったら魚って考える人は多いんだけど、ここは違う。肉料理が有名な店が数多く並ぶ、珍しい港町なんだ」
楓は町を見渡してみると、クレハが言ったとおり、肉料理の店が数多く並んでいた。
港なのに肉という不思議なギャップに変な感じがした。
店をぼーっと眺めていると、横からフレアが入り込んできた。
「ふふ、なぜ肉料理が盛んなのかって顔しているな」
「フレアさん! それは私が説明するの」
「最近出番がない私こそ、説明するにふさわしい。
もう地味なやつなんて言わせないぞ!」
「いや、誰も言ってないですよ……」
「いや、いいんだ楓。私にはわかる。口ではそう言っても、心で言っていることを」
「あーフレアさんのネガティブモードだ……」
「クレハ、助けてくれ」
「……楓、頑張って」
クレハに見捨てられた楓は、フレアの長ったらしい話を聞く羽目になった。
酔っ払いより大変だなと思いつつ、フレアの話を聞きながら、町を散策した。
フレアの話によると、船旅で魚に飽きたお客のために肉料理を振舞ったことから始まり、次第に肉料理の有名店が進出してきた。
その結果、肉料理で有名な港町になったのだ。
有名なら行っといたほうがいいよなと思った楓は、美味しそうな肉料理屋を探しながら町を散策していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「うう、この港町に来て約一ヶ月。あいつら全然来ない。なのに、アクアからは早くしろと言われ続ける毎日。あたいにどうしろって言うんだよ……」
「お客さん……もうやめたほうが……」
「これが飲まずにやってられるか!
こっちは案内役としてきているのに、案内するやつらが全然来ないんだよ。一ヶ月、一ヶ月だぞ!
……マスター、もう一杯」
「これで最後ですからね。飲みすぎは体に良くないんだから」
そんな声が聞こえてくる酒場があった。
聞き覚えのある声。しかも、なんか荒れている。
「なぁ、楓。この声って……」
「ブラスの思っていることは正しいぞ。この声はヴァネッサだ」
案内人として派遣されたのは、どうやらヴァネッサであったようだ。
だが、酒場から聞こえる声の様子だと、相当荒れているようだった。
それも無理はなかろう。
楓たちがいつ来るかわからない状態で、一ヶ月も待たされて、毎日「早く連れてこい」と連絡が来るのだ。
精神的にくるダメージは計り知れない。
楓は「はぁ」とため息をつき、酒場に入っていった。
そのあとを追うように、クレハたちも中に入っていった。
偶然とは恐ろしい。
そこは、酒場でありながら、レミニカで一番有名な肉料理屋でもあったのだ。
しかも、入ったら料理を注文しなければならない上に、かなり高い。
店に入ったとたん、全員はヴァネッサがいるカウンターの近くにあるテーブルに案内されてしまった。
「俺はヴァネッサに声をかけてくるから」
「了解、楓の分も適当に頼んでおくよ」
「クレハのセンスに不安を覚えるが……任せた。ティオ、クレハが変なものを注文しようとしたら止めろよ。あと、できるだけ安いヤツな」
「任せてよ、お兄さん」
「変なものなんて頼まないよ!」
ちょっぴり怒ったクレハを無視して、楓はヴァネッサのもとに向かった。
「久しぶり、ヴァネッサ。待たせたか?」
「楓?」
「おう、楓だ。もしかして、忘れられていたとか?」
ヴァネッサは、しばしのあいだ楓を見つめ、突然泣き始めた。
嗚咽を漏らし、大粒の涙を流しながら泣いたのだ。
突然出来事で、楓は驚いてしまう。
そして、ヴァネッサを慰めようとしたとき、他のお客さんの声が耳に入ってきた。
「ちょっと、あの女性、泣いているわよ」
「もしかして、別れ話?」
「きっとあの男の浮気ね。男って最低よ」
そんな声が聞こえてきて、楓は心が抉られるような感覚がした。
「あたいはずっと待っていたんだよ。来るのが遅すぎなんだよ。
毎日、毎日あいつらに急かされて辛かったんだよ。早くしろ、まだなのかって……」
ヴァネッサは、意外にも豆腐メンタルのようだった。
だからこそ、簡単に悪魔に乗っ取られていいたり、ちょっとしたことで激しく動揺したりしていたのだ。
そんなことは楓の知らないこと。
たしかに、待たせたのは悪いと思っていたが、泣くと思わなかった楓は、どうしたらいいのかわからない。
こんな時、クレハたちが……と思って視線を向けると、楽しそうにメニューを眺めていた。
楓は泣きたくなった。
「必死に頭下げて、待ってくれって頼むのは辛かったんだよ。なんでもっと早く来てくれないんだよ。もう少しで、あたいは捕まるところだったんだぞ」
「ちょ、誤解されるようなこと言うなよ」
楓は頭を抱えた。
それは、周りの人の声がヒートアップしていくからだ。
「きっと借金ね。しかもあの男の違いない」
「それを健気に返済しようとしていたのね。でも、なかなか帰ってこない男のせいで、返済を急かされて、売られそうになっていたのよ」
「あの男、お金もってなさそうだしね」
「別れるべきよ。あれは女の敵」
「そうね、そうに違いないよね」
本当に頭が痛くなってきた楓は、ヴァネッサに謝った。
誰に捕まりそうになったとかは、大体検討がつく。
この町は教会の者がいるのだ。
魔女であるヴァネッサは、教会のものに追われて捕まりそうにでもなったんだろう。
それは楓の憶測でしかなかったが、それでも、待たせてしまったことに変わりはない。
だから、誠心誠意謝った。そんな楓の様子をヴァネッサは優しく見つめた。
「楓が謝る必要なんてない。それに、あたいこそごめん。突然泣いちゃって。ストレスのせいで、情緒不安定だったのかも知れない。あたい、頑張るよ」
「なんて健気な子なのかしら」と「あの男、死ねばいいのに」なんて声が聞こえてきたけど、勝手に勘違いされているだけなので、無視することにした。
楓たちが案内されたテーブルは、あと一名座ることができたので、ヴァネッサに移動してもらった。
ちゃんと、マスターに伝票を受け取ってから移動したので、「君はなかなかしっかりしているね」と高評価もらったが、周りの反応は相変わらず「最低男」のままであって、店にいるあいだ、心を抉られ続けながら、食事をとる羽目になった。
アパダリアの船も再開したので、楓たちは魔女の国があると言われているウルカ大陸に向かった。
アパダリアを出発した船は、航路を二週間かけて進み、ウルカ大陸にある港町レミニカに到着したのであった。
レミニカはこの世界に存在する他の港町の中で一番大きい港町であった。
それはウルカ大陸が発見されて数十年しかたっておらず、未開拓地が多い為ある。
そんなウルカ大陸唯一の港町、レミニカは新しいことをしたいと夢見る人で賑わっていた。
新しい土地で農業をしたいと考えるもの、新種の魔物の研究をするために来た学者、発見されていない資源を求めて来た商人たち。
そんな夢見る人が多く滞在する町であるが、それ以外にも身なりの良い貴族たちも多くいる。
それは、透き通ったきれいな海に面した洋風の町並みは、どこかのリゾート地を思い浮かべるほどのきれいな町でもあったからだ。
この綺麗な風景と町並みがレミニカはリゾート地としても有名にし、別荘を建てたい貴族が屋敷を建設していった結果、大きな港町に発展していった。
そして、夢を追うことのできるリゾート地というキャッチフレーズで宣伝されている有名な港町となっていった。
「いや~船旅は疲れたね」
「クレハは寝てばっかだったけどな」
「ちょ、楓。そんなことないんだけど!」
船の再開は海上戦から一ヶ月、ウルカ大陸到着まで二週間。長い時間をかけて到着したレミニカの町。
楓たち一行は、長い船旅のせいもあって、若干疲れていた。
だけど、アクアが言うには、この町に魔女の国の案内役として派遣されている魔女がいるはず。
まずは合流することを考えた。
しかし、案内役が誰なのか、どこで合流するのか、楓たちは何一つ教えてもらっていない。
楓たちから声をかけるのは不可能であった。
「ねぇ、お兄さん。僕、お腹がすいちゃった」
「がうがう~」
ティオとカノンのお腹が「ぐぅ~」となった。
時刻は夕方。ちょうど夕食時である。
たしかに、お腹がすいたと思った楓は思った。
「宿の前に飯にするか?」
「ほんと! お兄さん、ありがとう」
「別に礼を言われることじゃないよ。俺もお腹がすいたしな。この町の名物料理でも食べに行くか」
「楓、この町の名物料理なら、クレハちゃんにおまかせだよ!」
「お、いい店でも知っているのか?」
「船にいるあいだ、一通り調べたからね。
この港町の名物料理と言ったら、なんといっても肉料理」
「は? 港なんだから魚だろ?」
「港と言ったら魚って考える人は多いんだけど、ここは違う。肉料理が有名な店が数多く並ぶ、珍しい港町なんだ」
楓は町を見渡してみると、クレハが言ったとおり、肉料理の店が数多く並んでいた。
港なのに肉という不思議なギャップに変な感じがした。
店をぼーっと眺めていると、横からフレアが入り込んできた。
「ふふ、なぜ肉料理が盛んなのかって顔しているな」
「フレアさん! それは私が説明するの」
「最近出番がない私こそ、説明するにふさわしい。
もう地味なやつなんて言わせないぞ!」
「いや、誰も言ってないですよ……」
「いや、いいんだ楓。私にはわかる。口ではそう言っても、心で言っていることを」
「あーフレアさんのネガティブモードだ……」
「クレハ、助けてくれ」
「……楓、頑張って」
クレハに見捨てられた楓は、フレアの長ったらしい話を聞く羽目になった。
酔っ払いより大変だなと思いつつ、フレアの話を聞きながら、町を散策した。
フレアの話によると、船旅で魚に飽きたお客のために肉料理を振舞ったことから始まり、次第に肉料理の有名店が進出してきた。
その結果、肉料理で有名な港町になったのだ。
有名なら行っといたほうがいいよなと思った楓は、美味しそうな肉料理屋を探しながら町を散策していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「うう、この港町に来て約一ヶ月。あいつら全然来ない。なのに、アクアからは早くしろと言われ続ける毎日。あたいにどうしろって言うんだよ……」
「お客さん……もうやめたほうが……」
「これが飲まずにやってられるか!
こっちは案内役としてきているのに、案内するやつらが全然来ないんだよ。一ヶ月、一ヶ月だぞ!
……マスター、もう一杯」
「これで最後ですからね。飲みすぎは体に良くないんだから」
そんな声が聞こえてくる酒場があった。
聞き覚えのある声。しかも、なんか荒れている。
「なぁ、楓。この声って……」
「ブラスの思っていることは正しいぞ。この声はヴァネッサだ」
案内人として派遣されたのは、どうやらヴァネッサであったようだ。
だが、酒場から聞こえる声の様子だと、相当荒れているようだった。
それも無理はなかろう。
楓たちがいつ来るかわからない状態で、一ヶ月も待たされて、毎日「早く連れてこい」と連絡が来るのだ。
精神的にくるダメージは計り知れない。
楓は「はぁ」とため息をつき、酒場に入っていった。
そのあとを追うように、クレハたちも中に入っていった。
偶然とは恐ろしい。
そこは、酒場でありながら、レミニカで一番有名な肉料理屋でもあったのだ。
しかも、入ったら料理を注文しなければならない上に、かなり高い。
店に入ったとたん、全員はヴァネッサがいるカウンターの近くにあるテーブルに案内されてしまった。
「俺はヴァネッサに声をかけてくるから」
「了解、楓の分も適当に頼んでおくよ」
「クレハのセンスに不安を覚えるが……任せた。ティオ、クレハが変なものを注文しようとしたら止めろよ。あと、できるだけ安いヤツな」
「任せてよ、お兄さん」
「変なものなんて頼まないよ!」
ちょっぴり怒ったクレハを無視して、楓はヴァネッサのもとに向かった。
「久しぶり、ヴァネッサ。待たせたか?」
「楓?」
「おう、楓だ。もしかして、忘れられていたとか?」
ヴァネッサは、しばしのあいだ楓を見つめ、突然泣き始めた。
嗚咽を漏らし、大粒の涙を流しながら泣いたのだ。
突然出来事で、楓は驚いてしまう。
そして、ヴァネッサを慰めようとしたとき、他のお客さんの声が耳に入ってきた。
「ちょっと、あの女性、泣いているわよ」
「もしかして、別れ話?」
「きっとあの男の浮気ね。男って最低よ」
そんな声が聞こえてきて、楓は心が抉られるような感覚がした。
「あたいはずっと待っていたんだよ。来るのが遅すぎなんだよ。
毎日、毎日あいつらに急かされて辛かったんだよ。早くしろ、まだなのかって……」
ヴァネッサは、意外にも豆腐メンタルのようだった。
だからこそ、簡単に悪魔に乗っ取られていいたり、ちょっとしたことで激しく動揺したりしていたのだ。
そんなことは楓の知らないこと。
たしかに、待たせたのは悪いと思っていたが、泣くと思わなかった楓は、どうしたらいいのかわからない。
こんな時、クレハたちが……と思って視線を向けると、楽しそうにメニューを眺めていた。
楓は泣きたくなった。
「必死に頭下げて、待ってくれって頼むのは辛かったんだよ。なんでもっと早く来てくれないんだよ。もう少しで、あたいは捕まるところだったんだぞ」
「ちょ、誤解されるようなこと言うなよ」
楓は頭を抱えた。
それは、周りの人の声がヒートアップしていくからだ。
「きっと借金ね。しかもあの男の違いない」
「それを健気に返済しようとしていたのね。でも、なかなか帰ってこない男のせいで、返済を急かされて、売られそうになっていたのよ」
「あの男、お金もってなさそうだしね」
「別れるべきよ。あれは女の敵」
「そうね、そうに違いないよね」
本当に頭が痛くなってきた楓は、ヴァネッサに謝った。
誰に捕まりそうになったとかは、大体検討がつく。
この町は教会の者がいるのだ。
魔女であるヴァネッサは、教会のものに追われて捕まりそうにでもなったんだろう。
それは楓の憶測でしかなかったが、それでも、待たせてしまったことに変わりはない。
だから、誠心誠意謝った。そんな楓の様子をヴァネッサは優しく見つめた。
「楓が謝る必要なんてない。それに、あたいこそごめん。突然泣いちゃって。ストレスのせいで、情緒不安定だったのかも知れない。あたい、頑張るよ」
「なんて健気な子なのかしら」と「あの男、死ねばいいのに」なんて声が聞こえてきたけど、勝手に勘違いされているだけなので、無視することにした。
楓たちが案内されたテーブルは、あと一名座ることができたので、ヴァネッサに移動してもらった。
ちゃんと、マスターに伝票を受け取ってから移動したので、「君はなかなかしっかりしているね」と高評価もらったが、周りの反応は相変わらず「最低男」のままであって、店にいるあいだ、心を抉られ続けながら、食事をとる羽目になった。
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