カオティックアーツ

日向 葵

47:海上戦 現れた魔女

 楓は後方に控えているカノンのもとに向かった。
 そこには、船のサブコントロールシステムがある。
 【リフレクト】の形状設定が変わったのも、カノンがサブコントロールシステムを弄ったからだ。
 だが、化物相手にサブコントロールシステムをずっと弄っているわけわけにもいかない。
 そこで、楓はリモートシステム用のカオティックアーツを開発し、通信操作でシステムを動作させるようにしたのだ。
 楓が魚雷型カオティックアーツ【トーペックス】を起動できたのは、リモートコントロールシステムを搭載しているからこそできたこと。

 だが、一部の操作権限しか入れていなかった為、サブコントロールシステムを操作することにした。。なぜ、すべての機能をリモート操作できるようにしなかったかと言うと、戦闘時に不必要な操作はリモート操作できなくても良いだろうと考え、システムを構築したからだ。

 使おうとしている入れていなかった操作とは、緊急逃亡用の特性【トーペックス】発射システム。楓が先ほど使った【トーペックス】より、もっと高火力となる。【トーペックス:Rev.2】といってもいいだろう。
 逃げる際に、派手に爆発を起こし、相手の目を眩ませる目的で取り入れたものだ。

 通常の【トーペックス】では大したダメージも与えられなかった。
 相手の注意を引くのであれば、これを使わざる追えない。
 仕方ないことだが、やるしかない!
 楓はそう決意して、緊急逃亡用の【トーペックス】を全弾発射した。


 ブラスと激闘……というより、痛みの与え合いをしている化物は、楓が何かをしたことに気がついた。
 また、あの爆発する変なのがきた。
 化物は大いに喜んだ。
 化物の触覚を一番刺激したのは、ほかならぬ【トーペックス】だったからだ。
 だが、先ほどの少し違うような気がする、と感じた化物だったが、時すでに遅し。
 化物に【トーペックス】が着弾した。

 激しい轟音を響かせて、大爆発を起こした。
 風圧によりブラスは吹き飛んだが、ギリギリで船から落なかったようだ。

「おそらく、これも目くらましにしか使えないだろう。クレハ、フレアさん。まだか」

「もう大丈夫だ。準備はできた」

「さぁ、あの化物を懲らしめるわよ」

 魔力を極限まで高め、更に【ブーストリング】を使い、限界以上の魔力を集めたクレハとフレアは同時に詠唱し始めた。

「「邪悪を払う聖なる光よ。全てを浄化する力をかの者に与えよ【エーテリオン・付与式】」」

 クレハとフレアが唱えた、大規模魔法【エーテリオン】は、その光に包み込まれたものを全て滅ぼす最悪の光を放つ魔法だ。
 通常なら複数人で合唱することで発動できる魔法だが、極限まで魔力を高めた状態からの、【ブーストリング】による上限突破をすることで、発動することができるようになった。
 だが、魔法には大きな問題点がある。
 この魔法は大規模殲滅型の魔法であり、近くにいる敵に放っていいものではない。
 それをしたら、こちらまで巻き込まれるからだ。
 そこで、クレハとフレアは新しい方式を考えた。
 それが、【エーテリオン・付与式】だ。
 特定の相手に力を付与し、次の一撃を【エーテリオン】と同様の威力に引き上げる魔法だ。
 クレハとフレアは、それをティオに付与した。

 ティオは、付与された力を感じると同時に、ある感情が心の奥底から湧き出てきた。
 それは、不安だった。
 もし、この攻撃が外れたらと思うと体が震えた。
 期待に答えられなかったらどうしようと思うと、泣きそうになった。
 怖い、みんなの期待に答えられなかったらと思うと怖い。

 ティオは【ガーンデーヴァ】を構えながら俯いてしまう。
 そんなティオのもとに、カノンがやってきた。
 そして、ティオの頭に登って、ポンポンとティオを叩いたのだ。

「カノン、僕は本当にできるかな?」

「がう!」

 まるで、「ティオならできるさ」とでも言うようにカノンが答えた。
 ティオの心に勇気が湧いてきた。
 それは、不安を塗りつぶすほどの勇気。
 確かな意志を持ち、再び【ガーンデーヴァ】を構え直すティオ。

 大丈夫、僕がやるんだ。
 そう心の中で叫び、矢を放った。

 化物は、これはダメだと感じたが、化物が避ける速度より矢の速さが上回る。

 【エーテリオン・付与式】によって光り輝いた矢が化物に貫いた。

 貫かれた化物は体の内側から光を放つ。
 矢に付与された【エーテリオン・付与式】の効果によって、化物は倒れた。

「やった、やったよ。僕にできた」

「よくやった。ティオ」

「僕、頑張ったよ。お兄さん」

「おう、よく頑張ったさ」

 楓は、ティオの頭を撫でてやった。
 クレハとフレアもティオを褒めた。
 ブラスは、倒れてしまった化物、同類が死んだんだと感じ、ちょっとばかし泣いていたが、みんな無視することにした。
 誰も、変内に同情する奴なんていなかったのだ。

「化物も討伐したし、アパダリアに帰ろっか」

「それもそうだな。一旦帰って、それから魔女の国があると言われる大陸を目指そう」

 楓が船を動かそうとしたとき、やつは起き上がった。
 ボロボロで瀕死になりながらも、不敵に笑う化物。

 これでも倒せないのかよ……楓たちが思った。

「おお、同士よ。生きていたか。俺は嬉しいぞ!」

「GAAAAAA」

 血まみれで笑う化物と、同類が生きていたことに喜ぶブラス。
 楓は、ブラスに若干呆れつつ、これはどうしたものかと頭を悩ませる。

 あれで倒れないなんて洒落にならないぞ。
 どうすればいい。
 どんなに考えても答えは出てこなかった。

「楓、ここは一旦引いたほうが」

「だが、どうやって逃げる。あいつがおってきたらアパダリアまで破壊されるぞ」

「そこはブラスを置いていけばいい」

「フレアさん、それはダメです。あいつも仲間だから、化物の餌になんてできない。変態だから置いていきたいけど……それでもできないんだ」

「お兄さん……」

「がう……」

 化物は瀕死の状態のためか、攻撃してこない。
 化物と一緒に笑いながら、化物になにかを語り続けるブラス。
 もしかしたら、ブラスが活路を開いてくれるかもしれない。
 そんな期待がこみ上げてきた。
 楓は、ブラスに声を掛けよと思って行動したとき、それは起こった。

 化物が紅蓮の炎に包まれて、灰となったのだ。

「い、一体何だ」

「わからない。突然、化物が炎に……」

 一体何が起こったのかわからず、楓たちは戸惑った。

 トン、と音を立て、一人の女性が船上に姿を現した。

 魔女と思わせるような赤い帽子、ウェーブのかかったセミロングの赤い髪。
 上から纏った真紅のマントを波がせて、女性は口を開いた。

「へぇ、あたいが用意した化物にあれだけダメージを負わせるなんてな。クソったれども」

「あんたは一体……この力。この感じ。もしかして、魔女」

「ほう、そういうお前さんも魔女か。人間どもといるところを見ると、奴隷とかか。いや、身なりはいいし、それは違うか」

「さっきの炎はお前がやったのか……」

「あぁ、人間があたいに話しかけてきてんじゃねよ。
 だけど、答えてやる。あの化物はあたいが処分したのさ。紅蓮の魔女、ヴァネッサ・グロウリアがなぁ」

 ヴァネッサと名乗る一人の魔女は、楓を睨みつけるようにそういった。
 この世界は魔女を敵視している。
 だからこそ、楓はヴァネッサに敵意ある目を向けられても、それが普通の反応だと思った。
 だが、ヴァネッサはクレハやフレアにも、敵意ある目を向けていた。
 なぜ、という疑問が残る。
 いきなり信用してくれとは言わないが、それでも同じ魔女なのに。
 その答えはヴァネッサ自身が答えてくれた。

「人間と一緒にいるってことは、人間なんかに尻尾振ってるクズだろう。そんなやつ、魔女じゃない。あたいたち魔女を迫害し、蹂躙し、殺し、犯し、弄ぶ、そんな人間なんかと一緒にいる魔女なんて……」

「な、私たちは対等な仲間よ。
 それに、楓とブラスとティオはそんなことしてない。私たちのことを理解して、それで一緒にいる大切な仲間なんだよ。
 あなたなんかにそんなこと言われる筋合いはない!」

「はっ、どうだかな。
 魔女と人間が対等。笑わせんじゃねぇ。
 じゃあ、なんで人間が魔女を襲うのさ。
 教会の教え?
 いや、違うね。あいつらは魔女の力を恐れているのさ。だから、あたいらを迫害する。
 そいつだって、そいつだって、そいつだって、いつ裏切るかわからねぇんだよ。
 そんな人間に協力する魔女は敵だ!
 あたいは、あたいの守りたい魔女を守る。
 だからこそ魔女のために戦う。
 でも、人間に媚売って一緒にいるような魔女はあたいが守りたい、誇り高き魔女じゃねぇんだよ」

 ヴァネッサは詠唱なしで、炎の魔法をクレハに放つ。
 クレハは、いきなり放たれた攻撃に反応しきれなかった。
 クレハに襲いかかる炎、その間に楓が割り込んだ。
 楓のカオティックアーツ【ハーフ・エナジー・グラトニー】によって、ヴァネッサが放った炎の魔法が消え去る。

「か、楓?」

「大丈夫か、クレハ」

「な、あたいの炎が……」

 驚愕するヴァネッサ。
 楓は、ヴァネッサを睨みつけ、ヴァネッサとクレハとの話で感じた思いをぶつけた。

「お前、間違ってるよ」

「はぁ、何を言っているんだ。
 あたいは何も間違えちゃいねぇ」

「お前が魔女を守りたいと思うことは間違いだとは思わない。
 同じ魔女の言葉を、魔女じゃない人間と一緒にいるってだけで、否定するのは間違っている。
 俺たちは信頼しあって一緒にいるんだ。
 人間に媚を売る? そんなこと、クレハやフレアさんはしていない。
 クレハとフレアさんは、たしかに魔女だ。
 だが、そんなのは関係ないことなんだよ。
 心から想いあうことができる、信頼と絆で結ばれているからこそ、俺たちは一緒にいるんだ。
 魔女だけが全てじゃない。魔女や人間という言葉が、その人を表すんじゃない。
 だからもう1度言う。お前は間違っている。
 魔女と人間だって、ちゃんと分かり合えるんだよ」

「ああそうかい。だったら証明してみろ!」

「ああ、証明してやるさ!」

 楓とヴァネッサとの激闘が始まった。

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