カオティックアーツ
43:港町の異常
がっかりした食事をとった次の日。
アパダリアについたばかりの時は気にしなかったが、町の活気がなくなっていることに、楓たちは気がついた。
貿易と漁業が盛んな港町、アパダリア。
朝になると、早くから出て行った船が戻ってきて、魚を市場におろし、セリが始まる。
飲食店業務の人たちがセリに参加して、魚を購入するのだ。
だが、楓たちが外の様子を見てみても、セリどころか、人の姿すら見えなかった。
いや、裏路地の方に行けば、酒瓶を持ったじいさんたちが横たわっている。
さて、この港町で一体何があったのだろうか。
楓、カノン、ティオは【焼き魚亭】の店主に、クレハ、ブラス、フレアは【生魚亭】の店主に話を伺いに行った。
理由はもちろん、昨日に出された料理について。
町の様子がおかしいのと、出された料理がおかしい件について、理由は繋がっていると思ったので話を伺いに行ったのだ。
そして、話を聞いたあと、宿に戻って、話をまとめることにした。
「まさか、海に化物が出てくるなんて思ってもいなかったな」
「そうだね。これじゃあ、船も出せない。
魔女の国があるって言われている大陸にもいけないね」
「さて、これから一体どうしたものか」
話をまとめると、ある日突然、海に化物が出たらしい。
そのせいで、漁どころか、貿易、別大陸に行く船まで、運休しているそうだった。
時間が経ったら去っていくだろうと、思っていたアパダリアの住人たちだったが、いつになっても化物が去っていく気配がない。
先日、いなくなっただろうと、無理に漁に出た漁師が、海に沈んでいったそうだ。
当然、海に出られなくなることは、世に出る海の魚たちが出荷される量も減るわけで、領主から兵が出された。
だが、領主の判断は間違っていると、ブラスは言う。
「領主の直属兵団は、対人、対魔物と戦うために訓練されている。
だが、あいつらが訓練しているのは、町を外的から守るものであるが、海から来る敵は想定していない。
聖騎士だった時に聞いたことがあるんだが、教会と大国の決議により、海から攻めることは、戦争の協定に違反することになる。
違反した国は、大国と教会を敵に回すことになるから、誰もやらないんだよ。
だから、海での戦闘経験がまるで足りない。
いくら領主が兵をだそうとしても、勝てるわけがないんだよ」
「たしかに、海での戦いを想定した訓練を積んでいなければ戦うのは難しい。
しかし、海にだって魔物はいるだろう。
だったら、海の魔物を討伐するための訓練もしているんじゃないのか?」
「あれ、楓は知らないの?
海の魔物は、基本的に深海しかいないから、滅多に現れないよ。
漁の規定で、海のそこは荒らさないようにってあるんだけど」
「まて、なんでそんなことをクレハが知っている」
「【生魚亭】の店主から聞いた」
「あ、そう……」
この世界の生物、特に魔物の生態性はどうなっているのだろうか。
楓は疑問に思った。
海には魚が豊富であるが、深海に行くと魔物しかいないらしい。
水棲の魔物は、基本的に強力であり、いくら人間が太刀打ちしようとも、勝てるはずがないほどの魔物なのだ。
冒険者ギルドでは、推奨討伐ランクがXXXとして認定されるほど。
つまり、伝説級の冒険者でもない限り、討伐は不可能なことを意味する。
だからこそ、漁師たちは、魔物を刺激しないように漁を行っているはずだった。
しかし、唐突に出てきた化物。
「しかも、その化物は、観測されたことがない魔物らしいのだ」
「そうなんですか、フレアさん」
「ああ、そうらしい。だからこそ、領主が兵をだし、冒険者ギルドに、討伐依頼が出されたそうだ。
だが、誰ひとりとして、討伐できた者がいない。
これが現状だ」
「なるほど」
つまり、化物を討伐しないと、楓たちが先に進む事が出ないのだ。
だが、相手は誰も倒せない化物。
楓は、水棲の魔物について調査して、新たなカオティックアーツを製作する必要があると考えた。
「あ、僕さっきい変なことを聞きました」
「ティオ、何を聞いたか教えてくれないか?」
「はい、お兄さん。
確か、目撃された化物に、黒い聖痕が確認されたとかなんとか。
でも、教会はこの事実を否定しているそうですね」
「な、黒い聖痕だと。
もしかしたら……オルタルクスか」
「まて、いくらオルタルクスでも、水棲の魔物を……いや、あったな。だが、そんなはずは……」
「どうしたの、ブラス。何か気がついた?」
「俺も話で聞いた程度なんだが、オルタルクスが昔、海での戦いを想定した聖具を作ったそうだ。
名は確か、シー・フェアエンデルング。
海の生物を、化物に変質させる聖具だ。
海で、魔女と戦闘になった時のために作り出されたものなんだが、暴走するというデメリットが払拭できず、破棄されたはずのものだ」
「まさか、オルタルクスがそれを使って?」
「いや、それはないはずだ。
そんなことをすれば協定違反になる。
それに、破棄したのは、教会の別組織であり、オルタルクスは管理していない」
楓たち全員は、シー・フェアエンデルングが原因であろうと直感した。
しかし、オルタルクスが破棄を担当したならともかく、教会の別組織が関わっているのであれば、オルタルクスが関わっている可能性は低いだろうと、楓たちは思った。
だからこそ、謎が深まったのだ。
存在しないはずの聖具により、生まれたであろう化物。
そして、黒幕であると感じたオルタルクスは対象外となる。
なら、誰が、なんの目的でこんなことをしたのか、わからなくなったのだ。
「クレハ、ブラス。あとで話を聞かせて欲しいから、部屋に来てくれ」
「なぁ、楓から部屋に誘われるだと!」
「も、もしかしたら、もしかして?」
「おい、バカ二人。変な妄想してんじゃねぇよ。
化物を討伐するためのカオティックアーツを開発したいから、話を聞きたいんだよ」
「な、なんだ。そうなのか。
いや、わかっていたさ。分かっていたともさ」
「うん、そうだよね。楓っていつもそう……」
落胆するブラスとクレハ。
その姿をみて、フレアがクスっと笑う。
正直、色恋沙汰に興味がないフレアだったが、ブラスとクレハの反応を見ていると、楽しいと感じてしまうのであった。
「あの、お兄さん。僕とカノンも一緒にいちゃダメですか」
「がうがう~」
上目遣いで聞いてくるティオとカノン。
ティオはあまりわがままを言わないが、最近、楓と一緒にいたいと言うようになっていた。
若干顔が赤く、上目遣いということが気になるが、楓のことを「お兄さん」と慕ってくれるティオを邪険にできるはずもなく、楓は了承した。
「やった!
カノン、今日もお兄さんと一緒だよ!」
「がう、がうがう!」
「うん、僕頑張るよ!」
この中で、唯一カノンと話せるティオが、カノンと何を話しているのか気になる楓だったが、『ティオに限って変なことは考えていないだろう。そう、ブラスのように、ブラスのように!』と思った。
「あのさ、ティオとカノンとブラスとクレハが楓の部屋に行くのはいいとして、私はどうしよう。ぼっちなんだけど。
私も楓の部屋に言っちゃ……」
「ダメです。フレアさんは邪魔しかしないので、絶対にダメです」
ライトワークの本拠地であった、あの館で楓が実験している時に、フレアがやってきたことがあった。
そして、物珍しいからと、いろいろ漁り始め、大変になことになったことがある。
だからこそ、楓は絶対に入れてやるものか! と思っていたのだ。
「え、じゃぁ、私はどうすれば……」
「リーダーなんだから、自分で考えてくださいね、フレアさん」
「は、はい……」
楓の、威圧的な眼力で、すくんでしまうフレア。
その様子を見たティオ、ブラス、クレハがきょとんとする。
実は事情を知っているカノンだけ、「やれやれ」といった様子で、この場を見守るのであった。
アパダリアについたばかりの時は気にしなかったが、町の活気がなくなっていることに、楓たちは気がついた。
貿易と漁業が盛んな港町、アパダリア。
朝になると、早くから出て行った船が戻ってきて、魚を市場におろし、セリが始まる。
飲食店業務の人たちがセリに参加して、魚を購入するのだ。
だが、楓たちが外の様子を見てみても、セリどころか、人の姿すら見えなかった。
いや、裏路地の方に行けば、酒瓶を持ったじいさんたちが横たわっている。
さて、この港町で一体何があったのだろうか。
楓、カノン、ティオは【焼き魚亭】の店主に、クレハ、ブラス、フレアは【生魚亭】の店主に話を伺いに行った。
理由はもちろん、昨日に出された料理について。
町の様子がおかしいのと、出された料理がおかしい件について、理由は繋がっていると思ったので話を伺いに行ったのだ。
そして、話を聞いたあと、宿に戻って、話をまとめることにした。
「まさか、海に化物が出てくるなんて思ってもいなかったな」
「そうだね。これじゃあ、船も出せない。
魔女の国があるって言われている大陸にもいけないね」
「さて、これから一体どうしたものか」
話をまとめると、ある日突然、海に化物が出たらしい。
そのせいで、漁どころか、貿易、別大陸に行く船まで、運休しているそうだった。
時間が経ったら去っていくだろうと、思っていたアパダリアの住人たちだったが、いつになっても化物が去っていく気配がない。
先日、いなくなっただろうと、無理に漁に出た漁師が、海に沈んでいったそうだ。
当然、海に出られなくなることは、世に出る海の魚たちが出荷される量も減るわけで、領主から兵が出された。
だが、領主の判断は間違っていると、ブラスは言う。
「領主の直属兵団は、対人、対魔物と戦うために訓練されている。
だが、あいつらが訓練しているのは、町を外的から守るものであるが、海から来る敵は想定していない。
聖騎士だった時に聞いたことがあるんだが、教会と大国の決議により、海から攻めることは、戦争の協定に違反することになる。
違反した国は、大国と教会を敵に回すことになるから、誰もやらないんだよ。
だから、海での戦闘経験がまるで足りない。
いくら領主が兵をだそうとしても、勝てるわけがないんだよ」
「たしかに、海での戦いを想定した訓練を積んでいなければ戦うのは難しい。
しかし、海にだって魔物はいるだろう。
だったら、海の魔物を討伐するための訓練もしているんじゃないのか?」
「あれ、楓は知らないの?
海の魔物は、基本的に深海しかいないから、滅多に現れないよ。
漁の規定で、海のそこは荒らさないようにってあるんだけど」
「まて、なんでそんなことをクレハが知っている」
「【生魚亭】の店主から聞いた」
「あ、そう……」
この世界の生物、特に魔物の生態性はどうなっているのだろうか。
楓は疑問に思った。
海には魚が豊富であるが、深海に行くと魔物しかいないらしい。
水棲の魔物は、基本的に強力であり、いくら人間が太刀打ちしようとも、勝てるはずがないほどの魔物なのだ。
冒険者ギルドでは、推奨討伐ランクがXXXとして認定されるほど。
つまり、伝説級の冒険者でもない限り、討伐は不可能なことを意味する。
だからこそ、漁師たちは、魔物を刺激しないように漁を行っているはずだった。
しかし、唐突に出てきた化物。
「しかも、その化物は、観測されたことがない魔物らしいのだ」
「そうなんですか、フレアさん」
「ああ、そうらしい。だからこそ、領主が兵をだし、冒険者ギルドに、討伐依頼が出されたそうだ。
だが、誰ひとりとして、討伐できた者がいない。
これが現状だ」
「なるほど」
つまり、化物を討伐しないと、楓たちが先に進む事が出ないのだ。
だが、相手は誰も倒せない化物。
楓は、水棲の魔物について調査して、新たなカオティックアーツを製作する必要があると考えた。
「あ、僕さっきい変なことを聞きました」
「ティオ、何を聞いたか教えてくれないか?」
「はい、お兄さん。
確か、目撃された化物に、黒い聖痕が確認されたとかなんとか。
でも、教会はこの事実を否定しているそうですね」
「な、黒い聖痕だと。
もしかしたら……オルタルクスか」
「まて、いくらオルタルクスでも、水棲の魔物を……いや、あったな。だが、そんなはずは……」
「どうしたの、ブラス。何か気がついた?」
「俺も話で聞いた程度なんだが、オルタルクスが昔、海での戦いを想定した聖具を作ったそうだ。
名は確か、シー・フェアエンデルング。
海の生物を、化物に変質させる聖具だ。
海で、魔女と戦闘になった時のために作り出されたものなんだが、暴走するというデメリットが払拭できず、破棄されたはずのものだ」
「まさか、オルタルクスがそれを使って?」
「いや、それはないはずだ。
そんなことをすれば協定違反になる。
それに、破棄したのは、教会の別組織であり、オルタルクスは管理していない」
楓たち全員は、シー・フェアエンデルングが原因であろうと直感した。
しかし、オルタルクスが破棄を担当したならともかく、教会の別組織が関わっているのであれば、オルタルクスが関わっている可能性は低いだろうと、楓たちは思った。
だからこそ、謎が深まったのだ。
存在しないはずの聖具により、生まれたであろう化物。
そして、黒幕であると感じたオルタルクスは対象外となる。
なら、誰が、なんの目的でこんなことをしたのか、わからなくなったのだ。
「クレハ、ブラス。あとで話を聞かせて欲しいから、部屋に来てくれ」
「なぁ、楓から部屋に誘われるだと!」
「も、もしかしたら、もしかして?」
「おい、バカ二人。変な妄想してんじゃねぇよ。
化物を討伐するためのカオティックアーツを開発したいから、話を聞きたいんだよ」
「な、なんだ。そうなのか。
いや、わかっていたさ。分かっていたともさ」
「うん、そうだよね。楓っていつもそう……」
落胆するブラスとクレハ。
その姿をみて、フレアがクスっと笑う。
正直、色恋沙汰に興味がないフレアだったが、ブラスとクレハの反応を見ていると、楽しいと感じてしまうのであった。
「あの、お兄さん。僕とカノンも一緒にいちゃダメですか」
「がうがう~」
上目遣いで聞いてくるティオとカノン。
ティオはあまりわがままを言わないが、最近、楓と一緒にいたいと言うようになっていた。
若干顔が赤く、上目遣いということが気になるが、楓のことを「お兄さん」と慕ってくれるティオを邪険にできるはずもなく、楓は了承した。
「やった!
カノン、今日もお兄さんと一緒だよ!」
「がう、がうがう!」
「うん、僕頑張るよ!」
この中で、唯一カノンと話せるティオが、カノンと何を話しているのか気になる楓だったが、『ティオに限って変なことは考えていないだろう。そう、ブラスのように、ブラスのように!』と思った。
「あのさ、ティオとカノンとブラスとクレハが楓の部屋に行くのはいいとして、私はどうしよう。ぼっちなんだけど。
私も楓の部屋に言っちゃ……」
「ダメです。フレアさんは邪魔しかしないので、絶対にダメです」
ライトワークの本拠地であった、あの館で楓が実験している時に、フレアがやってきたことがあった。
そして、物珍しいからと、いろいろ漁り始め、大変になことになったことがある。
だからこそ、楓は絶対に入れてやるものか! と思っていたのだ。
「え、じゃぁ、私はどうすれば……」
「リーダーなんだから、自分で考えてくださいね、フレアさん」
「は、はい……」
楓の、威圧的な眼力で、すくんでしまうフレア。
その様子を見たティオ、ブラス、クレハがきょとんとする。
実は事情を知っているカノンだけ、「やれやれ」といった様子で、この場を見守るのであった。
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