カオティックアーツ

日向 葵

28:聖騎士の襲撃

 楓たちが拠点としている【ライトワーク】を見つめる、黒い男がいた。

 「ははは、見つけてやったぞ。あの山賊たちとの戦いも、実に面白かった。もっとだ、もっと見てみたい。我らの野望のために」

 この黒い男は、カノンの親を実験動物にし、山賊のお頭に聖呪道を渡した【オルタルクス】の一人だった。
 この男は楓のカオティックアーツを非常に気に入っていた。
 【オルタルクス】でも知らない技術を用いた、楓の顔テックアーツは非常に魅力的で、どうしても手に入れたい技術だった。

 「魔女どもと一緒にいるのも気に食わないが、何より、あそこに留まっては更なる道具が見れない。困った困った」

 悪意に満ちた笑みを浮かべながら、【ライトワーク】の拠点を見つめる男。

 ふと、ある案が浮かんだ。

 「あの拠点を滅ぼしてしまおう。魔女が居るんだ。盛大に踊らせて、ここから追い出せばいい。世界を巡れば、もっと面白いものが見られる。我らの野望に近づく」

 そう、魔女に目をつけた。
 魔女は、教会で禁忌、悪魔とされており、見つけたら裁く対象となっていた。
 その魔女を理由に聖騎士で襲わせて、拠点を破壊してやればいい。男はそう考えた。

 楓がカオティックアーツを使えば、逃げることは可能。
 負けたとしても、魔女や他の者たちを皆殺しにして、楓だけ奪っていけばいい。
 そうすれば、野望に近づける、男はそう考えてしまったのだ。

 考えを思いついた男は、行動を開始した。

 「はは、精々踊って見せろ。そして、我々に技術を提供しろ。我らが野望のために。はは、はははははははは」

 そして、男はその場から姿を消した。



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 その頃、楓たちは仕事がないため、【ライトワーク】の拠点で暇していた。
 楓とクレハは、カオティックアーツの研究開発。
 ブラスは鍛錬。
 フレアは事務処理。
 ティオとカノンは遊んでいた。

 楓がぽこりんを討伐して以来、森の中は平和だった。
 危険な魔物が全く出てこない。
 食料的な問題もなく、平和な日常を謳歌していた。
 しかし、平和な日常は長く続かなかった。

 それは、ティオとカノンが知らせてくれた。

 「大変だよ。聖騎士がこの村の近くに現れた!」

 「がうがう!」

 そう、魔女を狩るために作られた組織、聖騎士の一団体が村を訪れていた。
 何故、聖騎士がいるのか理由がわからないが、危険だと、直感が言っていた。
 そのため、楓は、戦闘離脱用、逃げるためのカオティックアーツを全員に渡し、いつでも逃げられるようにした。
 襲いかかったら、勝てるかわからない。
 もし負けたとしても、全員が逃げられるようにしたかった。
 死んでしまったら、何もかもが終わりだからだ。

 そして、いつまでも続くであろう日常が終を告げる。
 聖騎士が、【ライトワーク】の拠点に現れた。
 しかも、全員が戦闘体制で、陣を組んでいる。

 「おとなしく出てこい。ここに魔女がいるのはわかっている!」

 「っち、もう来やがったか」

 「一体どうすればいいの」

 「このままじゃ逃げられないかもしれない。追い払うために戦うか?」

 「いや、俺が出る。あれは俺の知っている聖騎士だ」

 そう言い残し、ブラスは外に出ていった。
 ブラスが出てきたことで、聖騎士たちが動揺した。
 それもそのはずだ。
 ブラスは、少し前まで、聖騎士の一員としていたのだから。

 「ドルフ隊長! 俺です。ブラスです」

 「ブラスか。おまえはどうしてここにいる」

 「俺が弱かったからです。だけど、ここの人たちに助けられました。ここは大丈夫です。隊長、兵を引いてください」

 「そうか。そうだったのか……」

 「隊長……」

 楓たちは、ほっとした。
 ブラスの元仲間が、ブラスの話を聞いてくれたからだ。
 もしかしたら大丈夫かも知れない、そんな気持ちが湧き上がった。
 しかし、それが油断となってしまった。

 「おまえは、魔女に洗脳されてしまったのだな。忌々しい【オルタルクス】より聞いている。ここに魔女が居ることはわかっているのだ! 全員構えよ。悪しき魔女を滅せよ」

 他の聖騎士たちが火矢を構え、放った。
 【ライトワーク】の拠点が燃え上がる。
 それは、誰にも止められないほどの勢いだった。

 「このままじゃ全滅だ。急いで外に!」

 「みんな、煙は吸うはよ!」

 フレアの掛け声で、屋敷を飛び出した。
 楓のアドバイスで、煙は吸わないように気を付けて。
 火事が起こったら、煙に気をつけなければならないことは、楓の世界なら、誰でも知っていることだ。
 煙には、一酸化炭素やシアン化化合物などの有毒ガスが含まれている。
 これを吸い続けてしまえば、頭痛、目眩、嘔吐の症状が起こり、体が徐々に動かなくなって死に至る。
 煙にはとても危険な有毒ガスが含まれているのだ。
 しかし、この世界の人たちはそのことを知らないらしい。
 煙に気を付けないで逃げようとしたので、楓が声をかけたのだ。

 そのおかげか、特にひどい症状は怒らず、無事に脱出することができた。

 その間15分ほど。
 その間も、ブラスは説得を試みていた。
 しかし、その願いは届かず、聖騎士たちに襲われていたのだ。

 「ブラス! 今助けてあげる!」

 クレハは、影の束縛魔法【シャドウ・リストリクションズ】を唱える。
 影が、聖騎士たちを束縛していき、その間にブラスは敵から離れた。

 正面には聖騎士。
 背後には燃え上がる【ライトワーク】の拠点だった屋敷。
 最悪な状況だと楓たちは思った。
 それでも、生きることを諦められない。
 楓たちは、聖騎士たちと戦うことを選んだ。

 「ブラス、あいつらと戦えるか」

 「ああ、問題ない。元仲間だとしてもだ。お前たちだって仲間なんだ。仲間を傷つけさせてたまるかぁ」

 「はは、お前ならそう言うと思ったよ」

 「私たちが援護するわ」

 「背後の日は私に任せろ」

 「ティオ、カノンを守りながら、弓矢で敵を攻撃してくれ」

 「わかったよ。お兄さん」

 「がう~がうがう」

 「はは、カノンも戦ってくれるのか。だが、大丈夫だ。俺たちは負けない」

 楓たちは、生き残るために、聖騎士たちに向かっていった。

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