カオティックアーツ

日向 葵

27:選んだあいては……

 まるで、津波のようにぽこりんが襲いかかってきた。
 それを、【バースト・フレア】で焼き尽くす。
 しかし、やってもやっても、キリがなかった。

 「「「ぽここここここここここ」」」

 また、ぽこりんが楓とカノンに襲いかかってきた。

 「これは、キリがないな」

 「がうがう!」

 楓は、思ったのと違うカノンの声が気になり振り向いてみると、カノンがぽこりんを食べていた。
 あのまずいぽこりんを、それは美味しそうに食べていた。

 「マジかよ……」

 たしかに、あたりは美味しそうな匂いが充満している。
 しかし、ぽこりんを食べたことがある楓は知っている。
 焼いても、ぽこりんはまずいということを。

 カノンが、ぽこりんを咥えて近づいてくる。
 そして、「楓も食べてみたら?」と言っているかのように、ぽこりんを渡してきた。

 まずいといっても、カノンの善意を無駄にしたくないと思う楓は、ちょっとだけ食べる。

 すると、旨みが口の中いっぱいに広がった。
 何故と驚愕する楓。
 よく見ると、それは【ところてんぽこりん】という、ティオが美味しそうに食べていた種類のぽこりんだった。

 実は、あの買い物の後、ティオから少しだけもらった楓。
 あまりの美味しさに昇天しそうになったぐらいだった。

 あまりの美味しさに我を忘れそうになるが、今は戦闘中。
 しかし、ところてんぽこりんが気になってしょうがない楓。
 つい、ぽこりんの群れから、探してしまった。
 そして、気がついた。
 今回の討伐対象である、ぽこりんの軍勢の中に、ところてんぽこりんが混ざっていることに。

 「これは、狩り尽くして、手土産にする必要があるな」

 楓は、【インフィニティ・マークⅡ】と【インフェぃにティ・マークⅢ】を取り出した。
 そして、【ディメンションリング】を二つ、カノンに付けて上げた。

 「カノン、右はゴミ、左は必要なものを入れるんだぞ」

 「がう!」

 カノンは、「了解です」と言っているかのように頷いた。
 襲いかかってくるぽこりんを次々と打ち抜いてゆく。
 崩れ落ちた、ぽこりんたちを、カノンが仕分けする。

 ふつうのぽこりんは、右の【ディメンションリング】に、ところてんぽこりんを左の【ディメンションリング】にしまっていく。

 ぽこりんは、幼子の力ぐらいしか持っていない。
 食欲旺盛で、山賊のように人を襲う。
 しかも、人を一番殺したことがあるらしい。
 雑魚でも、容赦しない、油断したら殺されると心の中で思いつつも、美味しそうなところてんぽこりんを回収する、カノンと楓だった。



 ぽこりんを狩り始めて、だいぶ時間がたった。
 湖のようにいたぽこりんたちは、もう数百匹しかいない。

 しかし、逃げ用にも逃げられない理由があった。

 それは楓がフレアから借りた魔道具【リストリクションズ】を使用していたからだ。

 効果は、一定範囲を抜け出した者を束縛魔法を用いて、範囲内に放り投げる。
 敵を一定範囲以内に押しとどめる魔法道具だ。
 そのため、楓とカノンは、ぽこりんを逃がすことなくかることができた。

 しかし、数が多すぎた。
 狩るのに時間がかかりすぎて、日が沈もうとしていた。

 この時、楓は焦っていた。
 日が落ちたら、収穫祭が始まる。
 そうすると、クレハとブラスが踊るがくる。
 そうなってしまえば、二人の踊りを見ることができないからだ。

 「カノン。一気に片付けるぞ!」

 「がうがう!」

 二人で、協力してぽこりんを狩り尽くすことには成功した。
 しかし、日は完全に沈んでしまった。
 このまま戻れば、どちらかの踊りを、途中からなら見ることが可能だった。

 「カノン、急いでもどるぞ。報告は後だ!」

 「がう!」

 カノンと楓は、収穫祭が行われる村に走って向かったのだった。



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 祭りが始まって、もうすぐ踊る時間になっていたクレハは、不安な気持ちに押しつぶされそうになっていた。

 「クレハの踊り、楽しみにしているよ」

 楓はそう言ってくれたのは嬉しかった。
 しかし、その楓はまだ来てくれなかった。

 楓は、この踊りになんの意味があるか知らない。
 だから、ブラスにも同じことを言っていたのをクレハは知っている。

 楓は約束を破る人じゃない。
 だから、最初はどちらかを見て、後半になって、もうひとりを見に来ると思っている。

 仲間思いの楓らしいと思いつつも、最初に見て欲しいなという気持ちがあった。

 最初と後でも、なにか変わるわけじゃない。
 それでも、自分を選んでくれたという気持ちになる。
 それはとても嬉しいような気がした。
 だから、楓に、最初に見に来て欲しかった。

 しかし、その楓は踊りが始まる時間になりかけても来なかった。

 クレハの表情は暗くなっていく。

 「こんなんじゃダメ。楓が選んだんだもの。仕方がない!」

 自分の心を、言葉で誤魔化す。
 そうでもしないと、くじけそうだった。

 そして、踊りが始まった。

 楓に見てもらうために練習してきたクレハは、精一杯頑張ろうと躍った。

 楓が来た時に、いいところを見せられるように。

 しかし、終盤になりかけても、楓は姿を現さない。

 もしかして、見に来てくれなかったのかな、そんな気持ちが湧き上がってきた。

 クレハの瞳から、涙が出てきそうになる。
 泣くのを必死でこらえて、クレハは躍った。

 踊りのクライマックス。
 クレハは観客席に楓がいるのが目に入った。

 時間ギリギリまで、来てくれなかったショックと、楓が来てくれた嬉しい気持ちが揺れ動いた。
 勝ったのは楓が来てくれた嬉しさだった。

 その嬉しい気持ちが出てしまい、暗い表情から一変、明るい笑顔になった。
 観客席から、声が上がった。

 「あの子、すごくいい笑顔して踊っているな」

 「ふふ、可愛らしいわね」

 そんな声がクレハの耳にも入る。
 しかし、そんな声は気にしなかった。
 楓が見に来てくれたのだ。
 それだけで、他の全てがどうでもいい。
 楓にカッコいいところを見せつけてやろう。
 そう思ったクレハは、クライマックスを満面の笑顔で、かっこよく決めた。

 会場に拍手と喝采が巻き起こる。
 クレハは、踊りが終わった瞬間、楓を探した。
 楓が、拍手しながら、クレハを見ていた。
 そんな様子が、クレハはとても嬉しかった。 踊りが終わった後、急いで楓のもとに駆けつけたクレハ。

 「どうだった。私の踊りは?」

 「ああ、すごい綺麗だったよ。よく頑張ったじゃないか」

 楓にそう言われて、嬉しくなるクレハ。
 しかし、楓は最初にクレハを見に来てくれなかった。
 そのことを思い出すと、私は選ばれなかったのかな? と暗い気持ちが出てきてしまう。
 しかし、楓の次の言葉で、その不安が吹き飛んだ。

 「後で、ブラスに謝らないとな。緊急依頼のせいで、収穫祭に遅れちゃったしな。しかし、クレハだけでも見れて良かったよ」

 そう、楓は緊急依頼のせいで遅れていったため、最後の方しか来ていなかったのだ。

 踊りはどちらかしか見れない状況、その中でクレハを選んだ楓。

 そのことを知ったクレハの心は、幸せで満ち溢れた。

 「楓!」

 「ん、どうしたんだ」

 「私ね、同い年の男の子で知り合ったのは楓が初めてなの。一緒にいるとすごく楽しい。これからも一緒にいてね!」

 ちょっと、顔を赤らめながら、自分の気持ちを素直に言ったクレハ。
 一緒にいるのは楽しい、その気持ちは本心。
 未だに、自分の気持ちが恋心なのかわからないが、楓が離れていくのが嫌なので、素直にぶつけた。

 「ああ、俺だって【ライトワーク】の仲間だ。急にどっかにいったりはしないさ。それに、クレハが面倒見てくれたから、俺はここにいるわけだしな。これからもよろしくな、クレハ」

 「うん。よろしく!」

 このあとは、全員が合流して収穫祭を楽しんだ。

 楓が見に来てくれなったことに、ブラスが号泣したが……

 それでも、忙しくも楽しい一日となった。

 この時、【ライトワーク】としての楽しい日々は続いて行くんだろう、と全員が思っていた。

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