カオティックアーツ

日向 葵

19:聖呪具の本当の力

 楓とクレハは聖呪具を壊しながら奥に進んでいく。
 クレハの魔法と楓のカオティックアーツがあれば、山賊ぐらいならなんとかできた。

 山賊がいつも相手にしているのは人だ。
 そんな者が、ギルド運営できるレベルの冒険者に勝てるはずがない。

 それに、クレハの魔法、楓の特殊技術から生まれた、カオティックアーツがある。
 楓とクレハは山賊を倒したながら突き進む。

 でも、アジトに入ろうとはしない。
 あくまで、外から攻撃、もしくはクレハの魔法で引きずり出して攻撃をしていた。

 中に入ると、楓のカオティックアーツもクレハの魔法も制限されてしまう。
 狭い場所で戦うメリットがない。
 だから、外から打ち込みまくって攻撃をしていた。

 山賊たちの攻撃が少なくなってきた頃、奥から大きな男が、仲間を引き連れてやってきた。

 「お頭、あいつが頭のおかしい武器を使うやつと、イカレタ魔女です」

 「あいつらが強すぎて、俺たちの聖呪具では倒せないんでやんす」

 「「「お頭! お願いしやす」」」

 どうやら、山賊の頭が出てきたみたいだった。
 お頭は不敵に笑いながら、楓とクレハを値踏みする。

 「なかなか売れそうな女と、便利そうな男じゃねぇか。こいつらを便利に扱えれば、怖いものはない。俺が何とかしてやるよ」

 そう言って取り出したのは、先程まで山賊が持っていた聖呪具とは違う、もっと禍々しい形をした聖呪具だった。

 「楓、あれはなんかやばそうだよ」

 「ああ、かき乱したことだし、撤退するか?」

 「でも、あの武器は放っておけないよ」

 「フレアさんたちがいてくれたら」

 お頭が持っている聖呪具はどう見ても異常に見えた。
 その禍々しい輝き方が、カノンの親を苦しめた、聖呪痕に酷似していたからだ。

 「逃がしはしないぞ!」

 お頭が聖呪具を振るう。
 そうすると、魔法みたいに、どす黒い矢のような何かが浮かび上がった。

 「あれは、聖法! でも、なんで山賊が使えるのよ!」

 「聖法ってあれか。教会関係者が推奨している、聖なる力ってやつか。あれがそうなのか」

 「あれはもっと神聖な力だったはず。あんなに禍々しいものじゃない。でも、この感じは間違いなく聖法よ!」

 楓には、魔法と何が違うのか見分けがつかない。
 ただ、クレハやフレアの使う魔法よりも恐ろしいように見えた。

 「やばい! 月光の祝福により、我らを守り給え、【ムーンライト・フェアタイディグング】」

 うっすらと光る何かが、楓とクレハを包み込む。
 そして、山賊のお頭が放った聖法を防いだ。

 「ありがとう。クレハ。おかげで助かった」

 「そんなの言わない。私たちは仲間じゃない!」

 「ああ、そうだな。それにしても、あれは危険だ!」

 「どうする、一旦引く?」

 そう、クレハが質問したとき、楓が持っていた通信端末から連絡がきた。

 「楓、こっちは子供たちは無事に救出した。だが、問題が起こった。山賊に恐怖している村人から緊急依頼だ。山賊をぶちのめす。サポートに向かうから、戦え!」

 楓もこうなるとは思っていなかった。
 だが、勝てない敵じゃないとも思っている。
 クレハと一緒なら戦える。そう思っていた。

 「フレアさんからなんだって?」

 「このまま戦えだってさ。緊急依頼だとよ」

 「そうね。あれは危険よ。このままにできない!」

 楓とクレハの意見が一致する。
 そして、山賊を倒すために駆けた。

 突然、向かってきた二人に戸惑う山賊たちは、聖呪具を振るうことで使える、聖法を打ちまくった。

 だが、どんなに数が多くとも、二人に当たりそうになるのは、ほんの僅かの聖法のみ。
 さすがに全部が二人のもとにいったら、防ぎようがなかったかもしれないが、山賊たちはそこまで考えられなかった。

 そして、わずかな聖法のみならば、楓のカオティックアーツとクレハの魔法で簡単に防げた。

 だから、ふたりは山賊の元に突撃する。
 そして、聖呪具を持つ山賊に、楓は手を掲げて、【インパクト・マークⅡ】を起動させる。

 その衝撃により、山賊の一人が持っていた聖呪具と、周りが放っていた聖法が吹き飛んだ。

 「おい、聖呪具を壊せるなんてきてないぞ」

 「お頭、もしかしたらあいつらが例の……」

 「な、なんだと!」

 山賊のお頭は、聖呪具を渡してきた【オルタルクス】の男の言葉を思い出す。

 「魔女とおかしな武器を使う少年は非常に危険です。だから、そいつらが来たら、聖呪具本来の力を解放してください。やり方は……こうです」

 そう言って、自分を突き刺すような動きをする【オルタルクス】の男。

 山賊のお頭は、この時、男が嘘をついている。そう思っていた。
 【オルタルクス】以外で誰がこんなおかしな武器を作るのか。そんなのいるわけがない、そう思い込んでいた。

 「まさか、本当にあれが……」

 「お頭! あいつらは、聖呪具を壊すほどの武器を持っているんでやんす。あいつらに決まっているでやんす」

 「いや、あれは、アーティファクトに違いない。あんなもの【オルタルクス】以外で作れるやつなんて……」

 山賊たちが戸惑っている間も、楓たちは止まらない。

 山賊のお頭が決意する。
 あいつらを排除すると……

 「ガキどもが! いい気になるな!」

 「あのお頭さん。何かするきよ」

 「ああ、その前にあいつを」

 何かまずいことが起こる気がしたふたりは、山賊を標的として、攻撃した。

 しかし、ほかの山賊たちが身をていして守った。
 そのおかげとも言うべきか、お頭に攻撃が届くことはなかった。

 そして、山賊のお頭は、自身に聖呪具を突き立てる。

 「な、あいつ。自分を刺しやがった!」

 「でも、なんか様子がおかしい!」

 「ふふふ、はっはははははははははは。力が、力が溢れ出てくるぞ!」

 山賊のお頭に刺さった聖呪具から、山賊のお頭に、怪しい光が流れているように見えた。
 そして、聖呪具が朽ち果て。
 聖呪具が刺さっていた箇所には、聖呪痕があった。

 呪いの力が高まっていく。

 「はは、ははは……」

 ブチン!

 何かが切れる音が突然聞こえる。
 楓とクレハは周りを見るが、特に変わった様子はなかった。
 山賊のお頭以外は……

 「お頭、どうしたんでやんすか」

 「しっかりしてくだせい。

 「まだ、敵がいるんでやんすよ!」

 ほかの山賊たちが声をかけても反応がない。
 まるで死んでいるかのようだった。
 だが、それは突然動き出した。

 お頭の体が膨れ上がり、触手のような物が大量に生えてきた。
 その先端は手になっており、仲間のハズの山賊たちを次々と捉えている。
 山賊のお頭の顔には生気が全くない。
 しかし、膨れ上がった体の、人間で言ったらお腹の部分に当たる箇所に、突然、顔のようなものが浮かんできた。

 「AAAAAAAAAAAAA」

 甲高い、まるで天使のような声が響き渡る。

 「お頭……やめてくだせい」

 「俺たちは、一緒にいたな・・・か・・ま・・・」

 「グフ、お、お頭ぁぁぁぁぁぁ」

 お頭には、山賊たちの声が届かない。

 山賊たちを持った手を、口元に持ってきて……

 ガシュリ、ジュル、ガシュ、ベチャ。

 ひどい音を立てながら食べ始めた。

 「ひどい、なんなのあれ…… 人を…食べている?」

 クレハの表情は次第に曇り始める。
 それは当然だろう。
 いくら、冒険者として活動していたことがあったとしても、人を食べる瞬間なんて見たことがない。
 大抵は、もうすでに死んでいる。

 目の前にいるものは、正真正銘の化物にしか見えなかった。
 恐怖のあまり、楓の服を掴む。
 楓の体も震えていた。
 さすがの楓もあの化物は怖いんだ。クレハはそう思って楓を見た。
 楓の表示は、思っていた表情と全く違った。
 楓から感じられるのは、怒りだ。

 「【オルタルクス】あいつらは、あいつらは命をなんだと思っている。技術をなんだと思っていやがるんだ!」

 「か、楓?」

 「ふざけんじゃぇ。認めねぇ。俺は認めねぇぞ、こんなもの。俺が、俺がこんな理不尽。!歪めてやる」

 楓の怒りが、クレハに伝わってきた。
 人の命を弄ぶような実験を、平然とやっている【オルタルクス】に対する怒りが、クレハに伝わってきた。
 すると、さっきまでの震えが止まっていることに気が付く。
 そして、化物となった、元お頭を見たクレハは、なぜか、お頭が泣いているように見えた。
 仲間をこの手にかけて、絶望しているお頭が見えたような気がした。

 ふと、変な力を感じた。
 クレハは化物をよく見てみる。
 すると、化物とは違う、別の力の流れを、化物から感じた。
 そこでクレハは決意する。
 楓の力になろう。まだ、まだ助けられるチャンスがあるから、一緒に闘おう。そう思った。

 楓も、なにも考えがないわけじゃない。
 前回のカノンの母親の場合、元から聖呪痕が埋め込まれていた。
 そして、破棄するための呪いも……

 だからこそ助けたれなかった。
 けど、今回は違う。
 今回は聖呪具を使って力を得た。
 その力は聖呪具の力そのもの。
 エネルギーを形に変えるものだと思われる。
 影のような山賊の人形、そして、お頭が放った聖法。どれも元となるエネルギーを形として生成すればできる技術だった。
 おそらく、【インフィニティ】に搭載していた、暗黒物質をエネルギー化したあと、弾丸を生成する技術に近い何かだろうと思っていた。
 だから、楓はまだ助けられる可能性がある。
 そう信じていた。
 不安なのはクレハだ。
 楓は、同じ技術者としてあれを止めたいと考えている。
 だが、クレハを危険に晒すのはどうなのか。
 そう考えていた。

 「楓、あなたが理不尽を歪めるなら、私があなたの守護するわ。月光の魔女の名にかけて」

 「俺と一緒に……戦ってくれるのか」

 「ええ、当たり前よ。楓は、私の大切な仲間なんだから!」

 「ああ、それじゃあ」

 「共に」

 「「あの化物を救ってあげよう」」

 二人は、化物となってしまったお頭を助けるため、【オルタルクス】への怒りを抑え、向かっていった。

 だが、化物の攻撃は予想以上に激しかった。

 おそらく、【インパクト・マークⅡ】を使えば解呪できると、楓は確信している。
 しかし、それを使うためには近づかなければならない。

 どうしたものかと考えてしまった時、触手が楓を攻撃してきた。

 「楓!」

 クレハは防御の魔法を唱えようとしたが、間に合わないと感じた。
 それでも、大切な仲間を死なせないため、急いで魔法を唱えようとする。

 楓も、避けようとしたが、無理だと感じた。
 そのため、触手をガードするように、盾を取り出した。楓の持つ盾はカオティックアーツ【インパクト・アブソープションマークⅡ】を取り出して、構える。

 「っち、この角度だと受け流せない」

 相手の攻撃が来る方向が悪く、楓は盾で受け流す事ができないと感じた。
 受け流せなかった場合、楓の力では、相手の攻撃を防ぐことができない。
 どんなに丈夫な盾を持っていても、必ず吹き飛ばされる。
 それは、化物に、仕留めるチャンスを与えることになるだろう。

 それでも仕方がない、そう思って盾を構える。

 「ガード」

 衝撃をエネルギー変換して吸収する機能を起動させる。
 それでも触手の攻撃に萎えられない。
 しかし、なにもやらない訳にはいかない。

 あと少しで楓に攻撃が当たる、その時。楓の目の前に一人の男が飛び出して、触手を受け止めた。

 「楓、遅くなったな。それに、いろいろとせわになった」

 「ブラス、お前。戦えるようになったのか」

 そこにいたのはブラスだった。
 フレアたちは、村に子供を届けてからくるはずなので、おかしいと感じていた。
 しかし、目の前にブラスがいた。
 幻覚ではないらしい。
 ブラスは戦えるようになったのだ。

 「ああ、戦えるようになった。大切なものを守りたい。そのために騎士になったんだ。その気持ちを思いだして、また戦えるようになった。お前のおかげだ。楓」

 「俺はなにもしてない」

 「それでもだ。そして、俺の大切な仲間となった楓を、守りぬく」

 そして、楓、クレハ、ブラスは化物の前に立ち塞がった。

 この化物を止めるために。

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