カオティックアーツ

日向 葵

12:悲しい別れ、そして仲間

 カノンの親(ティオが言うには母親らしい)を無事に助けることが出来た。
 カノンの親はまだ弱りきっているが、元の親にもどったのをみて、カノンが嬉しそうに寄り添った。

 カノンもまだ子供。
 親がそばにいるのが嬉しんだろう。

 「がうがう」
 「がう、がうが」

 カノンとカノンの親がなかにか話している。
 お互いに無事を喜び合っているように見えた。
 楓は一つ疑問に思っていたことが会った。
 聖獣とも呼ばれる強い魔獣にこのようなことをするものたちは一体何なのか。
 もしかしたら魔女の迫害にも関係があるのかもしれない。そう思った。

 「いやぁ、無事に助けられてよかったよ~」

 「全くだ。これでカノンも無事に親の元に変えることができる」

 楓たちも、無事に助けることができて喜びにあふれていた。
 クレハなんかはグッときたのか涙を流していた。
 寄り添うカノンと親をみて、感動しないものがいたとしたら、きっと心が荒んでいるんだろう。そう思わせる程の、幸せそうな二人だった。

 だが、聖呪痕による呪いはこれだけでは終わらなかった。

 「GAAAAAA!」

 カノンの親が突然叫びだす。
 先ほど、完全に解呪したと思った聖呪痕が再び浮かび上がってきた。
 しかし、先ほどとは違い、禍々しさが感じられない。
 だというのに、カノンのおやは苦しみ始めていた。
 とても、とても苦しそうで、その場にのたうち回った。

 「一体、どういうことなの!」

 「お兄さん。カノンの親に溜まっていたエネルギーは発散したんじゃ!」

 「そのはずだ。そのはずなんだ。しかも、フレアさんとティオが作った解呪の矢【破魔の矢】によって聖呪痕も完全に消滅したはず。それなのになぜ!」

 「わからん。わからんが。これは一体」

 「がう! がうがうがう」

 カノンが心配そうに寄り添う。
 クリ死んでいるカノンの親は娘に心配させないようにと笑っているように見えた。

 そして、その瞬間が訪れる。

 カノンの親が次第に灰になっていった。
 それはゆっくり、苦しめて殺すかのように……

 「クレハ、これは一体何なんだよ!」

 「私にわかる訳ないじゃない。フレアさん。【破魔の矢】はもうないの。もしかしたら、あの聖呪痕のせいでこうなっているかもしれないのに」

 「すまない。あれしか作れなかったのだ。私にもどうすることも……」

 「そんな!」

 絶望的だった。
 助けられたと思ったカノンの親。
 それなのに……

 こんなことになるなんて誰が予測できるだろう。
 楓は、カオティックアーツに不可能はないと信じていた。
 それなのに助けられない無力感。
 元の世界の技術があっても、この世界の全てに適応できない。
 この世界には、魔法、そして聖法があるから。
 これらの知識が圧倒的に不足している今の楓ではどうすることもできなかった。

 「止まらない。止まらないよ。どうすればどうすれば」

 ティオが泣きながらどうにかしようとしている。
 しかし、滅びを止めることはできなかった。

 「がう、がうがう」

 「くーん、くーん」

 カノンの親がカノンに何か行っているように見えた。
 そして、最後に楓たちの方を見て……

 「がうがう」

 笑って灰になった。

 「ティオ、カノンの親は何を言っていたんだ」

 「カノンには、この人たちについて行きなさいって。今のカノンを見てこの人なら安心できるって言っていた」

 「俺たちには?」

 「娘を、よろしくお願いしますって……」

 ああ、助けることができなかった。どうしてこんなに無力なんだろう。楓は強く感じた。

 クレハもティオもフレアも、そしてカノンも泣いていた。
 どうすることもできない現実を見たから。

 「俺はもっと、もっと知らなければならない。そうじゃなきゃ、俺のカオティックアーツで救うこともできない」

 完全記憶能力を持っているからと言って楓が全てをしているわけじゃない。
 そんなのは当たり前だ。
 見たことあるものしか分からないから。

 もっと知識があったら、もっと技術があったら。もしかしたら助けられたかもしれない。
 そういう思いがぐるぐると駆け巡る。
 そんな楓に、辛い気持ちを持ちながらも慰めようとするカノンが寄り添ってきた。

 カノンも悲しいのは同じ。
 むしろ、カノンの方が親をなくして悲しい。
 それなのに、楓を、楓たちを元気付けようとするカノンの姿が目に映った。

 「こいつは俺たちの仲間だ。絶対に幸せにしてやる。だからさぁ。空から見守っていてくれ」

 楓は、灰となったカノンの親に誓った。
 大切な仲間を守りぬくと。
 カオティックアーツによって不条理から救って見せると。
 カノンを幸せにしてやると。
 強く、強く誓った。

 カノンの親が灰となった箇所にキラッと光る何かがあった。

 それに気がついた楓はそれを拾う。

 「ねぇ、それは何?」

 「わからない。けど、強い力を感じる。子を守りたいと思う親の強い力が」

 「それは、もしかすると【ルーン】かもしれないな」

 「それは何なんだ?」

 「【ルーン】は気持ちの結晶。強い、強い気持ちが結晶となったもの。多分、カノンを思う親の気持ちが結晶化したんだと思う」

 泣きながら、しっかり説明してくれたフレア。
 カノンを思う気持ちが結晶化したもの【ルーン】
 楓はそれを【ディメンションリング】にしまった。

 「楓。それをどうするの。それはカノンの……」

 「そうだよ。お兄さん。それは…グス……カノンの親の形見……」

 「ああ、だからだよ。だから俺が持っている。あとで、カノンがしっかり身につけてやれるように加工してやる。カノンの大切なものだから。絶対に無くさないように」

 楓の言葉でほっとしたクレハとティオ。
 きっと楓のことだから、実験にでも使うのかと思ったのかもしれない。
 楓はそこまで薄情じゃない。
 大切なものだからこそ、魔獣であるカノンでも絶対になくさないようにしなくてはならない。楓はそう思った。

 「カノン。聞いてくれ」

 「くーん」

 「親を助けられなくてすまない。俺たちが力不足だった。でも、カノン。おまえは俺の、俺たちの大切な仲間だ。親の分まで幸せにしてやる。ちゃんと面倒を見てやる。こんな俺たちでも、ついて来てくれるか?」

 「くーん、がうがう」

 今のカノンの言葉を、楓はわかったような気がした。
 寄り添ってきたカノンを見て、確信に変わった。

 「ついて行く。親のために頑張ってくれたみんなについて行く」

 楓は、カノンがそのように言ったと確信した。

 「みんな、暗い気持ちになるのもわかるが、そろそろ帰ろう。暗い気持ちになるのもわかるが、夜の森は危険だ。このままカノンを危険にさらすわけにはいかない。これからのことはこれから考えよう。だから、帰ろう」

 フレアの言葉に皆が賛成した。
 カノンの親にカノンを託された。
 だからこそ、守っていかなければならない。
 だから、だから。
 暗い気持ちを押し込めて、みんなで帰っていった。
 あの館【ライトワーク】に……


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 楓たちの様子を遠くから見ているものがいた。
 黒く不気味な怪しい男。

 その男は【オルタクルス】の一員であり、カノンの親を実験に聖呪痕を使ったものであった。

 「ふむ、なかなかいいデータが取れた。それにしても、聖呪痕を払う矢。そして溜まった負のエネルギーを発散させるあの道具。あれは欲しいな。あの実験魔獣を破棄せざる負えなかったのは痛いが、いいものを見せてもらった。ぜひとも、あれが欲しい」

 破棄。
 それは、カノンの親が最後に灰になってしまった聖呪痕。
 元の聖呪痕が壊された場合、【オルタクルス】に辿り着く前に処分するために埋め込まれていた呪い。
 それを起動した不気味な男は、クスクスと笑っていた。
 所詮、実験魔獣が死んだぐらいにしか思っていないこの男が。
 それほど魅力的な道具だったのだ。

 「もう少し、もう少し様子を見よう。もっと面白い道具が見られるかもしれない。そうだな。あいつらを使おう。ここにいるでかい山賊たちを。この、我ら【オルタクルス】の製作した聖具を山賊に渡せば、あいつらの面白いものが見られるはずだ、はは、はははははは」

 そして、不気味な男はその場から姿を消した。


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 カノンの親が死んでから数日がたった。

 「カノン、カノンはいないか!」

 「どうしたの楓。そんなに慌てて」

 「いや、あれが完成したからな」

 「あれ?」

 「クレハ。もう忘れたのかよ。頭大丈夫か?」

 「大丈夫よ! あれってもしかしてあれ?」

 「ああ、俺の技術でカオティックアーツにした【カノンのお守り】だ」

 「ちょっと、実験しないっていったじゃない!」

 「実験なんてしてないよ。カオティックアーツにした方が絶対になくさないと思ったんだよ。効力はカノンを守る力が常に発動する」

 「ひどい。楓ひどい!」

 「言ってろ。それでカノンは……」

 「がう」

 ひょこっと、カノンが楓のそばに現れた。
 あれ以来、カノンは楓にも……いや、必要以上に楓に寄り添うようになった。
 ティオはちょっと嫉妬しているっぽいが……
 楓の、「おまえは俺の、俺たちの大切な仲間だ。親の分まで幸せにしてやる」がよほど嬉しかったようだ。

 「カノン、ちょっとじっとしていろよ」

 「がう?」

 楓が作ったカオティックアーツ【カノンのお守り】をカノンの首につけてやった。
 【カノンのお守り】についている【ルーン】が綺麗に輝いた首輪型のカオティックアーツ。
 カノンは【ルーン】を見てものすごく喜んだ。
 もう、会えない親の形見。
 それを取り付けてもらって嬉しそうだった。

 楓にお守りを付けてもらったカノンははしゃぎながら走った。
 嬉しさがあるレ出るようで、そんな様子を見ていた楓とクレハは微笑ましく思った。

 フッとそよ風が吹いた。
 その風から、

 「カノンを受け入れてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」

 そんな声が聞こえた気がした楓とクレハだった。
 その声に対し、

 「「当たり前。仲間は絶対に見捨てない!」」

 強く、強く答えた。

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