カオティックアーツ

日向 葵

8:異常な化物

 楓たちは、採取の依頼をこなすため、森に来ていた。
 今日依頼をこなすメンツはティオ、クレハ、楓、カノンだ。
 フレアは別の依頼を行うということで、別行動をしている。
 近くの村からで、何やら事件が起こったらしく、それがなんだったのかを調査するための依頼だ。
 楓たちも、事件について少しだけ聞いていた。

 村人の若い3人組がいた。
 そのものたちは素行が悪く、いつも煙たがれていた。
 そんな3人がどこで何をしようが、ほかの村人たちに不利益がなければ放っておくだけだった。
 ところが、数日前に3人組が村の近くで、死体となって発見された。
 どうやら、何者かに殺されたようだった。
 発見した村人の証言ではなにか鋭いものに切り裂かれた跡があったという。

 こんな危険な依頼を集団で行うのは危険。
 そう考えたフレアは、楓たちに別依頼として、薬草の採取を任せた。
 ついでにカノンの親も探してこいとも言っていた。

 「はぁ、薬草は簡単に集まったけど、カノンの親は見つからないね」
 「そんなに簡単に見つからないよ。カノンはこの森でも見たことがない魔獣だよ?」
 「それもそうだな。こんな簡単に見つかったら、俺たちが保護する必要すらない」
 「そうだね。だから、もう少し散策しよう!」
 「がうがう」
 「はは、カノン。こっち、こっち!」
 「がうがうが~」
 「ちょっと、はしゃぎ過ぎよ。怪我するわよ!」
 「はははは」
 「まぁ、楽しそうだからいいじゃないか」
 「もう、楓ったら……」

 カノンとティオが遊ぶ姿はとても楽しそうだった。
 それは、愛犬と遊んでいるというより、仲のいい兄弟が遊んでいるように見えた。


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 楓たちが森の散策を開始して数時間がたった。
 空が赤く染まっている。
 あと1時間ぐらいすれば日も沈んでしまう。

 「クレハ、ティオ。そろそろ帰ろうか」
 「で、でも、まだ何にも手がかりが見つかっていないよ」
 「そ、そうですよ。もう少し探したら見つかるかもしれませんよ」
 「と言ってもなぁ。日が沈むと大変だろう。時間はまだあるんだ。ゆっくり探せばいい」
 「がうがうがう」
 「……カノンが言うなら、分かりました。今日は帰りましょう」
 「ぶー、楓の意地悪!」
 「そんなこと言ったってなぁ。夜の森は危険なんだよ。魔獣だっているんだろ」
 「それがカノンの親だってことも……」
 「そんな確率はないに等しい!」
 「ぶー」

 不貞腐れるクレハを放っておいて楓はカノンに近づいた。
 カノンは楓が近づいてきたことに気がつき、距離を取る。
 未だに、楓だけ近づかないカノン。

 「畜生! まだダメなのかよ……」

 そんな楓を、クスクスと笑うクレハとティオ。
 顔を赤くして、「さっさと帰るぞ」と言い、先に言ってしまう。

 クレハとティオ、カノンは「ちょっとやりすぎたかな」と思い、いそいで楓の後を追っかけていった。

 その時、近くで悲鳴と轟音が聞こえた。

 「だれか、だれか助けてくれぇぇぇぇ」
 「神様、かみさあああぁぁぁ……ガフウ」
 「いや、来ないで。いやぁぁぁぁぁぁ」

 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 助けを呼ぶ人の声と、魔獣らしき雄叫び。
 3人と一匹は顔を合わせたあと、悲鳴のした場所に駆け出した。

 しかし、悲鳴が聞こえた、その場所につくのが遅かった。
 そこにいたのは、一匹の獣。
 瞳は金色と紅色の虹彩異色症が出ており、毛並みは金色とどす黒い黒が混ざっている。
 そして、魔獣にある痣が禍々しく光っている。
 異常な化物というにふさわしい魔獣だった。

 (これは、やばいかも知れない)

 楓は直感的に危険を感じた。
 下手なことをすれば、殺される。

 楓のとなりでは、クレハとティオも恐怖で顔が引きつっている。

 「おい、二人共。逃げるぞ。逃げる準備を……何!」

 楓の視界には異常な化物に向かうカノンの姿が映った。
 クレハも、ティオも動けない……

 「っち。馬鹿カノンが!」

 楓は、新しく作ったカオティックアーツ【インパクト・アブソープション】

 この盾型のカオティックアーツに、ある技術が用いられている。
 暗黒物質をエネルギーに変換する技術の派生系技術。
 衝撃をエネルギーに変換する技術だ。
 これを用いることで相手の攻撃をエネルギーとして吸収することができる。
 それに、蓄えたエネルギーを攻撃に使うことができる。
 ただし、フルチャージ状態でなければ相手に攻撃ができず、フルチャージ以上のエネルギーが加われば壊れるデメリットを持っている。
 楓は、今は攻撃よりもカノンを守ることを優先したため、攻撃に不向きな盾型のカオティックアーツを取り出したのだ。

 カノンは何の警戒心もなく、異常な化物に近づいていく。
 相手もカノンの存在に気がつき、カノンに向かって攻撃してきた。

 カノンは驚愕した顔をする。
 まるで、なんで攻撃されたのかわからない表情だった。

 「っち、カノン!」

 楓はカノンの前にたち、異常な化物の攻撃を【インパクト・アブソープション】で防ぐ。
 衝撃エネルギー変換により、【インパクト・アブソープション】にエネルギーが蓄積される。

 「エマネーション!」

 楓の声により【インパクト・アブソープション】に蓄えられたエネルギーが拡散する。
 この機能は『エマネーション』は使用するために一定時間待たなければならない。
 つまり、あと2回攻撃を喰らえば、【インパクト・アブソープション】が壊れてしまう。

 「クレハ、ティオ! 生き残るために動け! 俺の盾ではあと2回が限度だ。はやくしろぉ」

 楓の声で我に返ったクレハとティオは行動に出る。
 それは、この化物を倒すためではなく、生きてこの場から離れるために。

 「敵を囲う木々たちよ。束縛せよ【ティムバー・リストリクションズ】」

 クレハの魔法により、森の木々たちが異常な魔獣に襲いかかる。
 それは攻撃ではなく、相手を束縛する魔法。
 しかし、異常な化物の力により、木々がなぎ倒されていく。
 だが、木々をなぎ倒すという、小さな好きが出来た。
 それをティオが見逃すはずがない。
 楓は嫌がるカノンを無理やり抱えて、その場を離れる。

 「撃ち抜けぇ」

 ティオの矢が異常な化物に向かって飛んでいく。
 それに気がついた異常な化物は回避しよううとするが、無理だった。

 森にはたくさんの木々がある。
 いくら異常な化物がなぎ倒そうと、全ての木々がなくなるわけがない。
 クレハの魔法【ティムバー・リストリクションズ】が異常な化物を束縛する。

 そして、ティオの放った矢が異常な魔獣に刺さった。

 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 化物の叫び声が響き渡る。
 けど、その声はとても悲しそうで、辛そうで、憎悪と苦痛に満ちた叫びのように感じられた。


 異常な化物が怯んでいる内に、楓はカノンをティオに渡して、二つのカオティックアーツを取り出した。

 「楓、このあとどうすればいいの。あんな危険な奴野放しには……」
 「それは後だ。今の装備と俺たちの状態じゃあいつには勝てないんだよ。今やることは生きて逃げ切ることだ」
 「がう、がうがうがぅ」
 「え、カノン。今なんて……」
 「確実に逃げるために、俺が何とかしてやる!」

 楓が取り出した二つのカオティックアーツ。
 一つは【光霊球】を改良して作った【発光球】
 用途は相手の目くらましと行動の妨害。
 この【発光球】を起動させると、強烈な光によって相手の視覚を奪い、エネルギー余波で相手の行動を封じ込める。

 もう一つは【インフィニティ・マークⅡ】
 前に作った【インフィニティ】の改良版で、弾の生成をエネルギー弾の生成に変えるなど、威力よりも安全性と効率を考えて作ったカオティックアーツだ。

 楓は【発光球】を異常な化物に向かって投げた。
 そして、【インフィニティ・マークⅡ】を異常な化物に向ける。

 「しっかり、目をつぶっていろ」

 バァン!

 銃声が鳴り響くといきなり、強い光が現れた。
 楓は、異常な化物を狙ったのではなく、【発光球】を狙い撃ったのだ。
 強い光は、まるで太陽を見ているかのような眩しさがあった。
 その上、エネルギーの余波が異常な化物の動きを封じ込める。

 「今だ! 行くぞ、お前ら」
 「う、うん。待ってよ。楓!」
 「……う、うん。逃げよう。僕たちも……」
 「がう~ がうがうがう~」
 「ごめん。今はまだ…… 待ってください。お兄さん。僕を置いていかないでください」

 楓たちは逃げた。
 自分の命を守るため、これから先も生きるために。
 ある程度逃げたところで、異常な化物が追ってきていないことに安堵した。

 楓とクレハは、逃げ切れたことに安堵して二人で笑っていたが、ティオとカノンの顔が暗かった。

 クレハと楓は、安心感の方が強く、暗くなっていたティオとカノンに気がつかなかった。

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