カオティックアーツ

日向 葵

3:ライトワーク

 「で、これは一体どういうことだ!」

 「でも、彼は魔法が使えたんです! だから大丈夫なんです!」

 「そういう話をしているんじゃない。なんでハーミットリングを付けていかなかったんだ」

 「だって……あれすごく気持ち悪くなるんだもん」

 「馬鹿か! それで殺されたら意味ないだろ!」

 「ひ~ん、ごめんなさいぃ」

 「フレアお姉さん、お兄さんもいるから穏便に……」

 「ティオ、お前もクレハにちゃんと言っとかないのが悪いんでしょ」

 「ひゃ、ごめんなさい」

 なんとか見つからずに逃げ切った楓たち。
 戻ってきてすぐに館から一人の女性が現れた。
 彼女は楓のことを置いておいて、お説教が始まった。
 これは終わりそうにないと思い、楓は話に割り込むことにする。

 「ちょっと……」

 「アンタについてはあとで聞くから、ちょっとまってて」

 「お、おぅ……」

 楓は割り込むことも無理だたと感じてお説教が終わるのをひたすらに待った。

 数十分後
 思ったより早くお説教が終わった。
 少女と少年のすすり泣く声が部屋に響く。
 そんな少女と少年を無視して、女性は楓に話しかけてきた。

 「私はフレア・サンシャイン。閃光の魔女とも呼ばれているよ。この館の主でギルド【ライトワーク】のリーダーをやっている。この二人もギルドの一員で家族だよ」

 「俺は間藤楓。楓って呼んでくれ。一応言っておくが俺は異世界から来た。だから魔女だとかギルドだとかよくわからな。その辺を教えて欲しい」

 「ほう、異世界ねぇ」

 「本当なのよ。多分だけど。だって魔法使ったんだもん」

 「……クレハ。それは本当か……」

 「本当よ!」

 フレアは疑惑の目で楓を睨んだ。
 本来、魔法を使えるのは魔族か魔女だけらしい。
 男である楓が魔法を使えるのであれば、必然的に楓が魔族であるということになる。
 フレアは、楓が魔族であると思えなかった。
 どうしても魔族には見えなかったから。

 無言で3人に見つめられるのはなんか居心地が悪いと感じながら、少女と少年に自己紹介していないことを思い出す。

 「そういえば、そこの二人に自己紹介してなかったよな。さっきも言ったけど、俺は間藤楓って言うんだ。楓って呼んでくれ」

 「あんたら、まだ自己紹介もしてないの。楓は【ライトワーク】の一員することに決めたんだから早くしてよね」

 「ええぇ、いつ決めたのよ」

 「いま、私が決めた。魔法も使うって言うし、面白そうだしな。魔女を軽蔑しないところもポイントが高い。即採用だ」

 「お兄さんが家族になるの?」

 「一緒に生活するんだからそういうことだな」

 どうやら楓は【ライトワーク】に入ることが決定したようだ。
 ギルドがどういう仕事をしているのかすらわかっていないが、どうやら楓を仲間にしてくれるらしい。
 一緒に暮らすってことは、食料や宿の心配もせずにいられるということだ。
 それは楓にとって願っても無いことだった。

 「いいのか? 言ってはなんだが、見ず知らずの人間にそこまですることも……」

 「いや、いいんだよ。このふたりの手助けをしてくれたんだし、何より魔女を軽蔑しないからな」

 「そんなことするわけ……この世界の事情か」

 「まぁ、そういうことだ。ほら二人共。さっさと自己紹介しなさい」

 少女と少年はしばし見つめ合って少年が立ち上がった。
 少年が少し前にでて、自己紹介を始めた。

 「は、はい。僕はティオ・ドラグナーといいます。僕も普通の人間ですけど、フレアさんとクレハさんに拾われて、それからここに住んでいます。よろしくお願いします」

 「ああ、よろしくな、ティオ」

 ティオは魔女ではないが、魔女に拾われて育った珍しい人間らしい。
 楓なら怪我をしている人を見つけても絶対に助けないと思う。
 なぜなら、この世界に広まっているであろう宗教の教えにより、魔女は悪しきものとされているからだ。
 そんな魔女が人助けしても襲われるか、仲間を呼ばれて殺されるだけだ。
 ティオが助けられたのは、まだ幼いため、魔女についての教えを理解していなかったからだと思った。
 だから、この屋敷に住まう魔女たちにも受け入れられんだと感じた。

 ティオは一歩下がり、少女が立ち上がって前に出る。

 「ふん、私はクレハ・ハーメルン。一応、月光の魔女よ。よろしく」

 「一応? それはどういうことだ」

 「月の属性を持つ魔法が得意ってだけで、全属性の魔法を使えるのよ。簡単にだけどね」

 「属性とはどういうことだ」

 「属性は魔力の性質みたいなものかな。
 火の魔法と水の魔法を使うときの魔力って少しだけ違うのよ。
 その魔力の違いを、扱う魔法によって属性として分けているのよ。
 普通の魔女は、自分の存在に近い属性の魔法しか使えないの。例えば、フレアさんは閃光、つまり光の魔法しか使えない。私は治療に関する月の魔法が得意なんだけど、火、水、風、その他いろいろの属性の魔法。だって使えちゃう魔女なんだ」

 「要は、クレハが便利な魔女だってことか」

 「違うわ。異なる属性の魔法も使える天才よ!」

 「……天才魔女(笑)」

 「ちょ、バカにしないでよ!」

 プンスカと怒るクレハ。
 楓はそんな仕草がちょっと可愛らしいと思った。
 普通に自己紹介も終わったので、楓に対する質問タイムが訪れる。

 「で、楓が魔法を使ったってことなんだけど、実際はどうなの?」

 「そんなわけ無い。俺の世界には魔法なんて存在しないからな。俺は俺の世界の技術によって生み出されたカオティックアーツを使っただけだ」

 「カオティックアーツ? それはどういったものなのだ?」

 「それを答えるのは難しい。見せてやることはできるんだがな」

 「楓はすっごい高度な死霊魔法使うんだよ。私見たもん!」

 「ぼ、僕も見たよ。あの感じは魔法だと思う」

 フレアと楓が話しているところにクレハが割り込んできた。
 フレアはちょっと迷惑そうな表情をしながらも、一つ気になることがあった。

 「ティオ、本当に魔法と同じ感じがしたのか」

 「うん? したよ」

 「どういうことかわからんが、カオティックアーツは魔法と同じで魔力を使用しているってことかな」

 「いや、それはわからない。
 この世界の魔力っていうものがどういうものなのかわからないからな。
 カオティックアーツの場合は、暗黒物質をエネルギーに変換して使っている。この言葉に聞き覚えはあるか?」

 「いや、わからない。まぁなんにせよ。あまり人前で使うのは避けるべきだろうな」

 「どうしてだ?」

 「この世界で魔法を使うのは魔女か魔族だ。殆どの人間は聖法という教会が推奨している力を使う。
 ほとんど魔法と同じだが使っている力が違う。魔力ではなく聖法気というものを使うのだ。
 何が違うはわからんが、肌での感じ方が全然違う。
 聖法気の方が気持ち悪い」

 「よくわからんが、使用しているエネルギーが違うってことか。聖なるエネルギーなのに気持ち悪いってのも気になるな。でも、それなら俺のカオティックアーツを人前で使っても大丈夫だぞ」

 「なんでなの。魔力を使ってるってバレたら……」

 「クレハ、俺が使っているのは道具だ。アーティファクトとか言っとけば誤魔化せると思う。あと、エネルギーを漏らした感じなのは【光霊球】みたいな特殊なやつのみだ。普通はエネルギーがもれないように作るから大丈夫だと思う」

 「思うだけじゃわからんな。なら、明日お前のカオティックアーツを見せてもらおう。この依頼でな!」

 フレアが一枚の紙を取り出した。
 そこに書かれていたものは……

 『討伐依頼  ぽこりんの討伐
  【ライトワーク】に増えすぎたぽこりんの討伐を依頼する。

   討伐数は最低50体。
   それ以上の場合追加報酬有り。

   報酬:銀貨10枚~
   村で採れた野菜。

   畑を荒らされて困っているので早急にお願いする。

   クダ村 村長 印 』

 なにかの討伐依頼だった。
 畑を荒らす類のなにかが増えているから討伐するというものだった。

 「……【ライトワーク】ってどんな仕事をやっているんだ」

 「あれ、知らないの? 
  冒険者ギルドで、ある一定のランクまで上がったチームは独立してギルドを運営できるのよ。
  つまり、冒険者ギルドを通さずに依頼をこなすことができるわけ!
  依頼を受けたらギルドに報告する義務はあるんだけどね。
  ここから一番近い冒険者ギルドはちょっと遠いいから、【ライトワーク】に仕事が来るわけ。
  冒険者ギルドにも村人にも認められているんだよ。
  ねぇすごいでしょ。すごいでしょ!」

 「ちょ、落ち着け。顔を近づけてくるな!」

 ゴツンと痛々しい音が鳴り響く。
 あまりにも暴走したクレハにフレアが拳骨したようだった。
 あまりにも痛かったのかクレハは涙目になっていた。

 「ま、そういうことだ。まぁ、なんでも屋みたいな感じかな。わかったか」

 「ああ、わかったよ。あと、その依頼で俺のカオティックアーツを見せてやるよ」

 「期待しているよ。さて、ティオも寝ちゃっていることだし、私たちも寝ますかねぇ」

 さっきっから全く話さないティオの方を見ると気持ちよさそうに寝ていた。
 フレアはティオをお姫様だっこする。

 「私はティオを寝室に連れて行くから、クレハは楓をよろしく」

 「ちょ、なんで私が!」

 「あんたが連れてきたんでしょ。そんぐらい……」

 「最後に、この世界の本を読ませてくれないか。寝室はいいから本の部屋に案内してくれると嬉しんだがな」

 「……ふふ、あはははははは。別にいいよ。自分の欲求に正直なのかな。明日は忙しんだからほどほどにしておけよ」

 「わかったよ。感謝する」

 「ん、じゃあおやすみ」

 「おやすみ」

 ティオを抱えたまま、フレアは館の2階に上がっていった。

 「じゃあ、案内よろしくな」

 「なんで私が!」

 「でも、クレハじゃないとわからないんだよ」

 「ううぅ。仕方ないなもう」

 「じゃあよろしくたのむ」

 クレハの案内で本がある部屋についた。
 楓は中を見て驚愕した。
 まるで図書館のように大量の本が置いてある。
 ホコリもなく、整理されている本。
 とても綺麗な部屋だった。

 「あ、あの……」

 「ん、どうした」

 クレハは顔を少し赤らめながら楓に何かを伝えようとする。

 「その、今日は……」

 「ん?」

 「そのう……ありが……」

 「どうしたんだ」

 「やっぱ何でもない。おやすみ。明日は早いんだから無理しないでね」

 「…? ああ、わかった。おやすみ」

 クレハは慌てたように部屋を出て行った。
 ちょっと様子がおかしい気もしたが、気のせいだということにして、気になる本を漁っていった。


 楓を本の部屋に置き去りにしたクレハは自分の寝室に急いで駆け込んだ。
 乱れた呼吸を落ち着かせ、ベッドに倒れこむ。

 「はぁ……言えなかったな。一応、楓が助けてくれたようなものなのにお礼も言えなかったよ」

 二人っきりということもあり、緊張してお礼も言えなかったクレハは、自分に落胆した。
 明日は言えるといいな、と思いながら沈んでいく意識に身を任せた。


 楓はクレハが出て行ってから少ししたあと【ディメンションリング】より研究道具なども取り出した。
 カオティックアーツの研究も含め作業に没頭した楓は、太陽が顔を出すまで止まらなかった。
 窓から陽の光が入ったとき、”ちょっとやりすぎたかな”と思いつつ、楓の作業はティオが声をかけてくるまで終わらなかった。

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