Girl's curse~鏡の奥に潜む影~
第六話『夢』
〈@月¥^日(+<)=’$時”!*分〉
『ねぇパパ、この遊園地すごいね』
『ああそうだね。最近出来たばかりのでかい遊園地だからね。今日は○○のために精一杯遊んじゃうぞ』
『わーい』
『ほらあなた、そんなにはしゃがない。○○のためにしてくれるのは嬉しんだけど、周りに迷惑がかからないようにね』
『うう、すまないな、母さん』
『ねぇねぇ、どこ行く?』
『○○は最初にどこ行きたい? 裏野ドリームランドは最新技術を取り入れた珍しいアトラクションがある遊園地だからね。どれも新鮮で楽しいと思うけど』
『私、ジェットコースター乗りたい!』
『うーん、○○は身長的に難しいような』
『え、乗れないの?』
『ほら母さん。○○が悲しんじゃったじゃないか。そんなひどいこと言わないの』
『え、私、そんなひどいこと言っているかな?』
『言ってるよ……』
目の前の男性が呆れたような顔をして「はぁ」とため息を付く。
これは私の夢。だけど全く知らない記憶。それに、この夢は裏野ドリームランドがまだ廃園になっていないような……。だったら私はまだ生まれていないはずなんだけど……。
『じゃあ私、鏡のお家に行きたい!』
『うん、ミラーハウスなら大丈夫かな?』
『そうね、行きましょうか』
ザ……ザザ……ザ…………ザ……。
またノイズが走る。そして早送りされたかのように見ているものが変わる。それはとっても不気味な場所で、透明な壁の向こうにさっきの男性と女性、そして小さな女の子がいた。
『ねぇ、やだよ。それは***ないの。*っち*やだ**ぁ。**、**、****でよ、私は****るの、やー』
そんなことばが私の口から発せられる。だけどノイズがひどすぎてよくわからない。でも、私の視線の先には女の子がいる。ということは、私があの女の子? いやそうじゃないはずだ。だって私はあの子とは別人で、全く違う存在で、私が生まれた時から遊園地は廃園しているんだ。
だったらこの記憶はなに。一体何の。でも、いくら考えても答えは出てこない。そこでふと思い出したことがある。幽霊の記憶が希に夢として出てくることがあるって。そうなると、これは『裏野ドリームランド』を彷徨っている幽霊の記憶だ。そうに違いない。
そう思い込もうとしていると、誰かに手を引っ張られる感触があった。そして、体が自然と振り向く。そして見たものは、真っ赤な服を来た人のようなもの。多分小さな女の子。だけど酷いノイズが入ってちゃんとわからない。顔のあたりにモザイクでも入っているようで。でもなんとか人だということが分かる。その何かが、私に向かって…………。
『○○ちゃん、あ**ーっ*!』
そう言って、何かを振り下ろした。
******
〈△月○日(金)3時14分〉
「っつぅ……」
わたしはひどく痛む頭を抑えながら起き上がる。どうやら寝てしまったようだ。きっと案内図を見た時に、どこかにいる幽霊の干渉を受けたんだろう。
それにしても、一体なんだったんだろう。楽しく遊園地に来たはずなのに、気がついたら別の場所に囚われて、体だけがどっかに行っちゃう? これって噂と同じ現象が起きていたってこと?
入れ替わりの原因は別の人間の魂が入り込んで、本来入っている魂が何かの中に閉じ込められる。
中身が別人になるけど、外見は同じだから行動がちぐはぐで、変な噂として出てきたってこと。でも、私が調べた限りでは、ミラーハウスを噂は廃園後に広まったもの。遊園地が経営されている時にはなかったものだ。
…………よくわからない。だけど、あのミラーハウスには霊道、つまり霊の通り道がちゃんとあるということだ。待っててね、秀樹。もうすぐ会いに行くから。
わたしは案内図をもう一度見て、ミラーハウスの場所を確認する。
ミラーハウスはちょっとばかし奥の方にある。さっきあったメリーゴーランドを抜けて、その奥にあるオクトパスとジャイロタワーがある。その更に先にふれあい広場があり、そこからアクアツアーとミラーハウス、ドリームキャッスルが見えるらしい。ふれあい広場から道が三つに分かれていて、それぞれに向かうルートがある。でも、どの道を進んでも、三つのアトラクションにたどり着けるようにはなっているんだけどね。違いはどの道がどのアトラクションに近いかだけ。とりあえず、ふれあい広場を目指し、そのまま真っ直ぐミラーハウスに向かおう。
わたしはそう思って、足を進めようとすると、ザザッ、ザザッと何かを引きずっているような音が耳に入る。ふと振り返って見ると、ボロボロに崩れかけたうさぎのマスコットがいた。ゆらり、ゆらりと歩きながら、大きなハンマーのようなものを引きずっている。
確か、あのうさぎの名前はラビットフット。この遊園のマスコットキャラクターだ。でも、なんでこんなところに?
私が考え込んでいると、破けた着ぐるみの内側からギロリと何かが動く。それは人間の目。鋭い眼光が私の足をすくませる。
それだけでなく、私は着ぐるみの中の人に見覚えがあった。
「ガアアァァァアァアァアッァアアアア」
ラビットフットは、ハンマーを引きずりながら私の方に走ってきた。わたしはびっくりして、後ろに下がってしまう。
だけど、後ろは段差になっていて、尻餅を着いた。
「ガァアアァァァアアアァアァッアア」
「っくぅ」
振り下ろされたハンマー。このままでは殺されると思い、咄嗟に横に転がった。ズドンと鳴り響く地面。砕けた石が頬を傷つける。
たらりと流れる感触。そっと触れて、見てみると赤くどろりとした液体が……。
「ドボダジ…………グジャス……アノ………コ………ギョロゴ……………ッブ!!」
再びハンマーを持ち上げて、私を襲おうとしたラビットフット。わたしは転がるように移動して、その勢いで体を起こして走った。
こんなところで殺されてたまるものか。わたしはまだ、秀樹に会うことすらかなっていないのに、あんな奴に、あんな奴に負けるかぁぁぁあ。
息が止まってしまうほど全速力で走り、物陰に隠れる。そして、息を整えたら再び走る。あいつから逃れるために、まずか安全な場所に隠れないと。
だからわたしは、隠れて走ってを繰り返し、ある場所に飛び込んで鍵を閉めた。そこはオクトパスの操作室。ここならきっと誰もいないし、隠れていれば絶対に気がつかれないと確信している。
海外のホラー映画のようだったら、こんなところに隠れたやつから死ぬんだろうけど、おってきているのがあいつなら大丈夫なはずだ。
わたしはあの顔に見覚えがある。『裏野ドリームランド』で起こった事件。その被害者の写真は伏せられていたが、加害者の写真は見つけることが出来た。だからこそ、わたしはあいつをしっている。
そう、あいつは富岡陽介。キャストリーダーでありながら、子供を誘拐して惨殺する事件を起こした犯人だ。
富岡が捕まった時は、精神的な障害が疑われるほどおかしくなっていた。そんな男が映画のように、突然現れて殺すようなこと、できないとわたしは考える。彷徨って偶然見つけて、ただ襲う。富岡が取る行動ならそんなところだろう。この操作室は開けない限り中を確認することができない。覗き込んでも下の奥までは絶対にわからないはずだ。
だから音を立てずにジッと待つ。富岡が近くを去ったと確信するまで。
そう思った矢先に、何かを引きずる音が耳に入ってきた。富岡はすぐ近くに来ている。もしかしたらここで死んでしまうかもしれないという恐怖に、体が震える。つい「秀樹……」と呟いてしまったが、すぐに口を抑えて息を殺す。幸いにも富岡には聞こえていなかったようで、引きずった音が近くに来る感じはしない。
「ーーベルトをーーーーてーーーださい」
「ふぅ!!」
驚いて叫びそうな口を抑えた。急にあわられた青白い幽霊。その視線は私ではなく、多分アトラクションの方を向いている。格好から察するに、オクトパスを操縦しているキャストの幽霊なんじゃないかと思う。
それと同時に、ズドンとした大きな音がした。ここからでは見えないが、オクトパスが動き出したんだと思う。それに伴ってまずいことが一つ起きた。それは音のせいで富岡がいるのかいないのかわからないくなってしまったからだ。不安だけがこみ上げてくる。
いっそ……ここから出てしまおうか。
そんな気持ちが沸き上がってくる。
でも、ここは我慢するしかない。怖くて、怖くて、怖くて、叫びたい気持ちに押しつぶされそうになりながらも。じゃないと秀樹にあえなくなっちゃう。だから私は我慢する。
どうやらその行動が正解だったようだ。
急にアトラクションの明かりが遮られる。一体何だろうと思い、上を見上げると富岡がそこにいた。
「アァァアアァアアアアア」
「ーーぅ」
まるで化物のような姿を見て、私の勇気が揺らいだ。怖い、怖い、怖い。
助けてよ……秀樹。
何回も、何回も、何回も、秀樹の名前を心の中で呼んで、富岡がいなくなるのをジッと待つ。
ギュッと目をつむり、震えた体を無理やり押さえつけて。
オクトパスの運行が終わり、静寂の時間が訪れる。本当に何も聞こえなくて、もう危機が去ったのではと思ってしまうほど。
だから私はそっと目を開く。
「ーーーーーーっ」
声にならないような悲鳴が上がりそうになり、私は必死に口を抑える。だけど、目の前にあるものから視線が外れない。
さっきまでこの死体はなかったはずなのに、どうして……。
そう思ったとき、もう一つの危機について思い出した。そうだ、富岡がいるのに、もしバレたら。そう思ってそっと視線を外に向ける。すると、その視線の先には誰もいなかった。
……危険は去った?
私は周りを警戒しながら、操作室を出た。そして誰もいないことを確認できると「ふぅ」と息を吐く。
やっと緊張が解けた、そんな気分になった。
「まさか富岡がいるなんて……。でも彼はすでに死んでいるはずなのに、一体どうして」
悩んでいても答えは出ない。それよりもここから早く移動しよう。いつ富岡が襲って来るかわからないし、早く秀樹に会いたいし。
だから私は小走りしながら、ミラーハウスに辿り着くためにふれあい広場に行った。
『ねぇパパ、この遊園地すごいね』
『ああそうだね。最近出来たばかりのでかい遊園地だからね。今日は○○のために精一杯遊んじゃうぞ』
『わーい』
『ほらあなた、そんなにはしゃがない。○○のためにしてくれるのは嬉しんだけど、周りに迷惑がかからないようにね』
『うう、すまないな、母さん』
『ねぇねぇ、どこ行く?』
『○○は最初にどこ行きたい? 裏野ドリームランドは最新技術を取り入れた珍しいアトラクションがある遊園地だからね。どれも新鮮で楽しいと思うけど』
『私、ジェットコースター乗りたい!』
『うーん、○○は身長的に難しいような』
『え、乗れないの?』
『ほら母さん。○○が悲しんじゃったじゃないか。そんなひどいこと言わないの』
『え、私、そんなひどいこと言っているかな?』
『言ってるよ……』
目の前の男性が呆れたような顔をして「はぁ」とため息を付く。
これは私の夢。だけど全く知らない記憶。それに、この夢は裏野ドリームランドがまだ廃園になっていないような……。だったら私はまだ生まれていないはずなんだけど……。
『じゃあ私、鏡のお家に行きたい!』
『うん、ミラーハウスなら大丈夫かな?』
『そうね、行きましょうか』
ザ……ザザ……ザ…………ザ……。
またノイズが走る。そして早送りされたかのように見ているものが変わる。それはとっても不気味な場所で、透明な壁の向こうにさっきの男性と女性、そして小さな女の子がいた。
『ねぇ、やだよ。それは***ないの。*っち*やだ**ぁ。**、**、****でよ、私は****るの、やー』
そんなことばが私の口から発せられる。だけどノイズがひどすぎてよくわからない。でも、私の視線の先には女の子がいる。ということは、私があの女の子? いやそうじゃないはずだ。だって私はあの子とは別人で、全く違う存在で、私が生まれた時から遊園地は廃園しているんだ。
だったらこの記憶はなに。一体何の。でも、いくら考えても答えは出てこない。そこでふと思い出したことがある。幽霊の記憶が希に夢として出てくることがあるって。そうなると、これは『裏野ドリームランド』を彷徨っている幽霊の記憶だ。そうに違いない。
そう思い込もうとしていると、誰かに手を引っ張られる感触があった。そして、体が自然と振り向く。そして見たものは、真っ赤な服を来た人のようなもの。多分小さな女の子。だけど酷いノイズが入ってちゃんとわからない。顔のあたりにモザイクでも入っているようで。でもなんとか人だということが分かる。その何かが、私に向かって…………。
『○○ちゃん、あ**ーっ*!』
そう言って、何かを振り下ろした。
******
〈△月○日(金)3時14分〉
「っつぅ……」
わたしはひどく痛む頭を抑えながら起き上がる。どうやら寝てしまったようだ。きっと案内図を見た時に、どこかにいる幽霊の干渉を受けたんだろう。
それにしても、一体なんだったんだろう。楽しく遊園地に来たはずなのに、気がついたら別の場所に囚われて、体だけがどっかに行っちゃう? これって噂と同じ現象が起きていたってこと?
入れ替わりの原因は別の人間の魂が入り込んで、本来入っている魂が何かの中に閉じ込められる。
中身が別人になるけど、外見は同じだから行動がちぐはぐで、変な噂として出てきたってこと。でも、私が調べた限りでは、ミラーハウスを噂は廃園後に広まったもの。遊園地が経営されている時にはなかったものだ。
…………よくわからない。だけど、あのミラーハウスには霊道、つまり霊の通り道がちゃんとあるということだ。待っててね、秀樹。もうすぐ会いに行くから。
わたしは案内図をもう一度見て、ミラーハウスの場所を確認する。
ミラーハウスはちょっとばかし奥の方にある。さっきあったメリーゴーランドを抜けて、その奥にあるオクトパスとジャイロタワーがある。その更に先にふれあい広場があり、そこからアクアツアーとミラーハウス、ドリームキャッスルが見えるらしい。ふれあい広場から道が三つに分かれていて、それぞれに向かうルートがある。でも、どの道を進んでも、三つのアトラクションにたどり着けるようにはなっているんだけどね。違いはどの道がどのアトラクションに近いかだけ。とりあえず、ふれあい広場を目指し、そのまま真っ直ぐミラーハウスに向かおう。
わたしはそう思って、足を進めようとすると、ザザッ、ザザッと何かを引きずっているような音が耳に入る。ふと振り返って見ると、ボロボロに崩れかけたうさぎのマスコットがいた。ゆらり、ゆらりと歩きながら、大きなハンマーのようなものを引きずっている。
確か、あのうさぎの名前はラビットフット。この遊園のマスコットキャラクターだ。でも、なんでこんなところに?
私が考え込んでいると、破けた着ぐるみの内側からギロリと何かが動く。それは人間の目。鋭い眼光が私の足をすくませる。
それだけでなく、私は着ぐるみの中の人に見覚えがあった。
「ガアアァァァアァアァアッァアアアア」
ラビットフットは、ハンマーを引きずりながら私の方に走ってきた。わたしはびっくりして、後ろに下がってしまう。
だけど、後ろは段差になっていて、尻餅を着いた。
「ガァアアァァァアアアァアァッアア」
「っくぅ」
振り下ろされたハンマー。このままでは殺されると思い、咄嗟に横に転がった。ズドンと鳴り響く地面。砕けた石が頬を傷つける。
たらりと流れる感触。そっと触れて、見てみると赤くどろりとした液体が……。
「ドボダジ…………グジャス……アノ………コ………ギョロゴ……………ッブ!!」
再びハンマーを持ち上げて、私を襲おうとしたラビットフット。わたしは転がるように移動して、その勢いで体を起こして走った。
こんなところで殺されてたまるものか。わたしはまだ、秀樹に会うことすらかなっていないのに、あんな奴に、あんな奴に負けるかぁぁぁあ。
息が止まってしまうほど全速力で走り、物陰に隠れる。そして、息を整えたら再び走る。あいつから逃れるために、まずか安全な場所に隠れないと。
だからわたしは、隠れて走ってを繰り返し、ある場所に飛び込んで鍵を閉めた。そこはオクトパスの操作室。ここならきっと誰もいないし、隠れていれば絶対に気がつかれないと確信している。
海外のホラー映画のようだったら、こんなところに隠れたやつから死ぬんだろうけど、おってきているのがあいつなら大丈夫なはずだ。
わたしはあの顔に見覚えがある。『裏野ドリームランド』で起こった事件。その被害者の写真は伏せられていたが、加害者の写真は見つけることが出来た。だからこそ、わたしはあいつをしっている。
そう、あいつは富岡陽介。キャストリーダーでありながら、子供を誘拐して惨殺する事件を起こした犯人だ。
富岡が捕まった時は、精神的な障害が疑われるほどおかしくなっていた。そんな男が映画のように、突然現れて殺すようなこと、できないとわたしは考える。彷徨って偶然見つけて、ただ襲う。富岡が取る行動ならそんなところだろう。この操作室は開けない限り中を確認することができない。覗き込んでも下の奥までは絶対にわからないはずだ。
だから音を立てずにジッと待つ。富岡が近くを去ったと確信するまで。
そう思った矢先に、何かを引きずる音が耳に入ってきた。富岡はすぐ近くに来ている。もしかしたらここで死んでしまうかもしれないという恐怖に、体が震える。つい「秀樹……」と呟いてしまったが、すぐに口を抑えて息を殺す。幸いにも富岡には聞こえていなかったようで、引きずった音が近くに来る感じはしない。
「ーーベルトをーーーーてーーーださい」
「ふぅ!!」
驚いて叫びそうな口を抑えた。急にあわられた青白い幽霊。その視線は私ではなく、多分アトラクションの方を向いている。格好から察するに、オクトパスを操縦しているキャストの幽霊なんじゃないかと思う。
それと同時に、ズドンとした大きな音がした。ここからでは見えないが、オクトパスが動き出したんだと思う。それに伴ってまずいことが一つ起きた。それは音のせいで富岡がいるのかいないのかわからないくなってしまったからだ。不安だけがこみ上げてくる。
いっそ……ここから出てしまおうか。
そんな気持ちが沸き上がってくる。
でも、ここは我慢するしかない。怖くて、怖くて、怖くて、叫びたい気持ちに押しつぶされそうになりながらも。じゃないと秀樹にあえなくなっちゃう。だから私は我慢する。
どうやらその行動が正解だったようだ。
急にアトラクションの明かりが遮られる。一体何だろうと思い、上を見上げると富岡がそこにいた。
「アァァアアァアアアアア」
「ーーぅ」
まるで化物のような姿を見て、私の勇気が揺らいだ。怖い、怖い、怖い。
助けてよ……秀樹。
何回も、何回も、何回も、秀樹の名前を心の中で呼んで、富岡がいなくなるのをジッと待つ。
ギュッと目をつむり、震えた体を無理やり押さえつけて。
オクトパスの運行が終わり、静寂の時間が訪れる。本当に何も聞こえなくて、もう危機が去ったのではと思ってしまうほど。
だから私はそっと目を開く。
「ーーーーーーっ」
声にならないような悲鳴が上がりそうになり、私は必死に口を抑える。だけど、目の前にあるものから視線が外れない。
さっきまでこの死体はなかったはずなのに、どうして……。
そう思ったとき、もう一つの危機について思い出した。そうだ、富岡がいるのに、もしバレたら。そう思ってそっと視線を外に向ける。すると、その視線の先には誰もいなかった。
……危険は去った?
私は周りを警戒しながら、操作室を出た。そして誰もいないことを確認できると「ふぅ」と息を吐く。
やっと緊張が解けた、そんな気分になった。
「まさか富岡がいるなんて……。でも彼はすでに死んでいるはずなのに、一体どうして」
悩んでいても答えは出ない。それよりもここから早く移動しよう。いつ富岡が襲って来るかわからないし、早く秀樹に会いたいし。
だから私は小走りしながら、ミラーハウスに辿り着くためにふれあい広場に行った。
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