Girl's curse~鏡の奥に潜む影~

日向 葵

第四話『キャストルーム その2』

 この日記に書かれている噂とは一体何だろう。なんとなくだけど、私が調べた噂とはちょっと違うような気がする。

 この遊園地には数々の怪奇現象が起きていて、オカルト番組に放送されるほどだ。だけど、その噂の出処はここに侵入した廃墟マニアの人たち。この遊園地がまだ運営されていた頃に起きた事件と紐付けて広まったものだ。
 一応、この遊園地にまつわる噂を調べてきて良かった。調べていなかったら、この日記について何もわからないところだったから。秀樹にもう一度会うために頑張らなくちゃ。

 しかし、血塗られたこのページを読み取るのはもう無理だろう。ただ、重要な部分を血で隠されているような感じがして、誰かの意図を感じさせる。
 とりあえず、ほかのページも読んでみよう。地で汚れたとしても、それで全てのページがダメになるなんてことはないはずだし。

 私は他のページを確認するために開こうとするのだが、まるで糊付けされたかのように固く閉ざされていて、開くことができない。どうやらこれ以上みることはできないらしい。

 とりあえず、今知っている情報で起こった事件とこの日記について考えてみよう。
 実際にこの場所では怪奇現象が起きているんだし、もしかしたらこの日記が秀樹に会うための鍵となるかも知れない。

 私はノートを取り出して、日記と並べる。もちろんこのノートは、私がこの遊園地について調べたことが記されている。
 まずはここで起こった事件から見ていこう。

 この遊園地が廃園になったきっかけはある事件のせいだ。それはとても悲惨なものだったらしい。気が付くといなくなる子供たち。行方不明者が続出して、遊園地に警察の手が伸びた。そしてある事実が発覚する。

 とある場所の地下に、バラバラになった死体がいくつも発見された。どうも行方不明になっていた子供たちだったらしい。
 そんな残虐非道なことを行っていたのは、富岡とみおか陽介ようすけというキャストリーダー。遊園地のマスコットキャラになりすまして子供たちを誘拐していたそうだ。
 そしてとある場所に連れて行き、拷問を楽しんだあと、バラバラに解体していた。それが世の中に出ている事件の概要だ。発覚したときはすごい事件として大ニュースなったらしいが、加害者である富岡は無罪となった。
 彼は精神的に狂っていて、何やら女の人の名前を呟いていたそうだ。そして、彼女のために、彼女とためにとうわごとを言っており、まともな会話ができなかった。
 ちゃんとした判断ができなくなり行ってしまった事件。彼はすぐに病院に搬送。だけど数日後に死体として発見される。
 誰かに殺されたような姿だったらしいのだが、結局犯人は見つからなかったらしい。
 いつ彼が狂ってしまい、いったい誰に殺されたのか、誰もわからないまま闇の葬られてしまった恐ろしい事件。その後『裏野ドリームランド』は廃園になった。

 だけど、廃園になったあとも、その遊園地は盛り上がったんだ。事件の謎を追求するために。でも、『裏野ドリームランド』で起こった事件は終わっていなかった。どう考えたって人ができるようなものではない、事故であって事故でないような、そんな事件が多発したらしい。謎が謎を呼び、より複雑な迷路のような、そんな何かになっていく。そして出来上がったのが、オカルト番組でもやっていた噂だ。
 つまり、日記に書かれている噂と私が知る噂は別物であることが分かる。
 たぶんこういうことだろうか。この土地では昔、何かが起こった。そんないわく付きなこの場所に遊園地を作った。そして、それは何かを怒らせた。
 だから悲惨な事件や怪奇現象が起きたのだろう。

 わたしはにやりと笑ってしまう。誰が怒っていているのかだってわからないし、ここでどれぐらいの死人が出たのかだって知らない。だけど、そのおかげでわたしは秀樹にもう一度会える可能性に巡り会えたのだから。
 さぁ、早くここを出てミラーハウスに向かおう。
 だけど一応、日記は手に入れておこう。もしかしたらこのあと役にたつかも知れない。

 次にわたしはカバンを調べるために開けた。すると……。

「うう……」

 入っていたのは黒い糸状の何かが束になっていた。すごい腐臭が漂ってくる。これはもしかして……。
 わたしは考えるのをやめてそっとカバンを閉じた。

 次にわたしはロッカーを探すことにする。
 ロッカーは全部で三つ。一つは掃除用具入れと書かれている。
 最初に掃除用具入れを開けることにした。
 もしかしたら扉をこじ開けられそうなものが入っているのかもしれない。
 ギーっと音を立てて、ロッカーの中から出てきたものは……。

「あ、頭がない死体……」

 虫が沸いて、うねうねと蠢いている。鋭い何かで何回も刺されたような跡がある死体はどうやら小さい女の子のようだ。
 そして死体から虫と一緒に青い炎が。

「返して……私の頭を返して……」

 そう呟いた。きっとこの子も被害者なんだ。いったい誰に殺されたのかは分からにけど。
 どうもなくなった頭を探しているようだ。別に私の知ったこっちゃないけど、ただなんとなく、可哀想だと思った。でも、頭ってどこにあるんだろう。思い当たる場所は……。
 一旦保留にして、別の場所を探そう。

 ロッカーは残り二つ。掃除用具入れの隣にあったロッカーから開けてみる。だけど……。

「か、固くて開けられない」

 どうも錆び付いていて、ロッカーが開けられないようだ。私は諦めようとすると、ロッカーの中で何かがギロリと睨んだ気がした。
 私は怖くなって、ロッカーから距離を取る。

 ガタガタ、ガタガタ、ガタガタガタガタガタガタ。

「な、なんなのよ、私は秀樹に会いたいだけなのに!」

 中で何かが暴れているように、ロッカーが揺れだす。それに反応するかのように、赤い幽霊が声をあげた。

「そこをぉぉぉぁああ開けるなあぁぁぁ」

「あ、開けてない、私は開けてない!」

「あああぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁ」

 赤い男の幽霊は狂ったような声をあげて、ゆっくり、ゆっくり私に忍び寄ってくる。
 私はちょっとづつ後ろに下がっていくも、ここは小さな部屋の中。逃げ場なんてどこにもない。
 ジワリ、ジワリと幽霊が寄ってくる。そんな時、ギーっと音を立てて、先ほど開かなかったロッカーが開いた。
 中に入っていたのは、大きな鉈。それ以外にものは入っていない。それ以外にあったものは、首のない死体の少女と同じぐらいの子供の手形。まるで逃げよとして、血の着いた手をこすりつけたように。そして、その手形の周りには『ごめんなさい』と無数に書かれている。

「ちが……違う…………僕じゃない……違う、違う、違う、違うんだぁぁっぁぁぁぁっぁあああぁ」

 赤い男の幽霊はそう叫ぶと、形が崩れていき、その場から消えた。なんだったのかよくわからないけど、消えてくれて良かった。
 それにしても、あのロッカーが開いてくれて助かった。しかも中には鉈が入っているなんて。
 もしかしたらこれで扉を壊せるかも知れない。それに、この遊園地は何かがおかしい。さっきの幽霊もそうだし、私が知らない何かが隠されている気がする。もしかしたら、それが原因で幽霊がずっと苦しんでいるのかも。
 ということは、その何かは死者の魂に干渉している? それができるんだったら、器がどうにかなれば秀樹は蘇るんじゃ……。
 そこまで考えて私は首を横に振った。あれやこれや考えても仕方がない。まずは秀樹に会うこと。それを果たそう。
 そう思って私は鉈を掴む。よく見ると血で錆び付いていて全く切れない。だけど扉を壊すぐらいには使えるかな?
 鉈を持ち上げると、鉈があった場所に白い何かが置いてあるのに気がついた。

「えっと、これは手紙かしら……」

 手に取って見てみると、そこにはこう書かれていた。

『ああ、*よ。罪深き私をお許しください。 きっと私はあの**に狂わされていたんです。そうでなかったら私は大切な娘に手を出しません。どうしてこうなってしまったんでしょう。私は夢を与える**がしたかった。ただそれだけなのに。
 いつどこで***ってしまったのかわかりません。ただ、***で働くようになってからの記憶がありません。いや、正確に言うと、霧が掛かっていて**ような感じです。
 その中ではっきりと思い出せるのはあの****。その**は怒り狂ったように私にこういうのです。”**てやる”っと。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。
 そして*岡さん*完全に、あの**に*わされた。そして、*を助けなきゃと*って、**ようと*****。だけど気がついたら娘は*ん*いて、私の*は血に*ま***ました。
 ああ、*よ。罪*き私をお許し下さい。私は罪を*うため、この命を*ちます。だからどうかお許し下さい。そして、願わくば*ともう一度会わせてください』

 所々殴り書き過ぎて読むことができない。だけど、ある程度の推測はできる。
 私の考えが正しければ、この手紙を書いたのは、あの赤い幽霊の男だと思う。だとすると、首のない死体はあの男の娘?
 知らない。調べた中でこんな事件は出てこなかった。もしかすると、もっとたくさん事件があったんじゃないだろうか。そして、公になっているのがあの富岡の事件だけ。やっぱり何かがおかしい。
 そう思いながら、私は手紙をカバンにしまった。そういえば、頭のない青い霊が、頭を返してって言っていたっけ。だったら、あの幽霊は成仏できずに、ずっとここにいるのかな?
 あの男も手紙ではとても後悔していた。正直、あの男なんてどうでもいい。どんな理由があるにせよ、娘に手を出すなんてどうしようもない人間だ。いや、人間ですらない単なる化物だ。
 でも、この頭のない少女の幽霊は違う。
 死んでも成仏できず、ずっとここで泣き続けている。そんなことを考えると、どうしても秀樹を失って泣いている私と同じような気がしてしまう。
 それに、泣いている女の子を秀樹が放っておくわけがない。きっと助けてあげるに違いない。
 秀樹に会いにいく時間が少なくなっちゃうけど、助けなかったらきっと秀樹に怒られちゃう。
 だから、私は頭のない幽霊の頭を探すことにした。
 この手紙を読んだ感じだと、あの男はすぐにこの場で命を断っている気がする。つまり、頭はこの部屋のどこかに隠されているはずだ。

 私が見た場所にそれっぽいものは…………なかったはず。いや、ひとつだけ怪しいものがあった気がするが、あまり見たくないので最後にしよう。

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