お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~

日向 葵

第二十九話『この場所にずっといていいんだよ』

「な、なんでヘルトがここにいる。ストーカーか!」

「な、なんでそうなるんだっぺ!」

 突然現れたヘルトにびっくりするザブリェットはつい、ストーカー扱いしてしまう。
 だけど、ヘルトのおかげで死なずに済んだのは確かだ。若干、頬を赤く染めているあたり、単なる照れ隠しだろう。
 ザブリェットは、一号と二号の後ろに隠れるように下がった。
 その前をヘルトが守るようにして立ちふさがる。
 その様子を勇者は疑問に思った。何故、魔族、それも魔王と呼ばれる男が人間の姫を守るのかと。それが単に人質を取られないようにするためならわかるが、たしかに命の危機から守り抜いた。

 チート満載のお姫様なら、逃げるために外に出ることぐらいはしてみせると考えていた勇者は、逃げる時に使う魔法のようなものに干渉できる力を作った。それにはいくつかの制限はあるが、かなり強力なもの。
 それが、ザブリェットと勇者ザブルグがここにいる理由なのだが、魔王ヘルトの登場は予想外だった。
 それに、人間の姫を守る魔族がいるなど考えもしていない。人質ならもっと雑に扱われて、ひどい目にあっているだろうとも考えていたのに、いまの状況は全く違う。
 魔族が人間を守る、それ自体が完全におかしい状況だ。

「魔王よ。一つ聞きたい。貴様は何故、人間である姫を守ろうとした。あのまま私が殺してしまったら、勇者としての地位も全て剥奪されて、私が敵として出てくることはなくなるだろうに。一体なぜだ」

「そんなの決まっている。ここの姫は我が国に住まう仲間であり、家族だ。大切なものに手を出されてみろ、誰だって怒り狂に決まっておろう」

「人間の姫が……仲間? 家族?」

「この姫は、我らに賛同してこちらに来た。人間領には誘拐したといったが、実際は違う。あそこが地獄だから助けて欲しいと言われた。我らは利害が一致して、ともに暮らしているのだ。姫の力だけを求め、さんざん利用して苦しめるキサマらと一緒にするな」

「私たちが……姫を苦しめていた? 笑わせるな。姫は国のために尽くして、とても幸せだったはずだ。便利な部屋を用意して、快適に過ごせるよう尽くしていた。そして姫は民のために尽くす。そう言うものだろう」

「ふ、貴様は何も分かっていない」

「な、何がだ」

「姫は我と同類の自由人だ! やりたいことがたくさんあった、作りたいものがたくさんあった。それを……自分を押し殺してまで従っていたのはなぜだと思う?」

「ふん、しれたことを。民を思ってに決まっている」

「自分を押し殺すしかなかったに決まっているだろ。やりたいことができない苦しみが分かるか? 作ったものを無駄だと貶された心の痛みがお前に分かるか? 人様が丹精込めて作った畑を簡単に踏みにじれるお前に分かるものかぁぁあああ」

 最終的にそこに行き着く、畑大好きヘルトさん。ザブリェットに対する攻撃にも怒っていたが、小麦畑を燃やされたことについてもかなり怒っていた。それは当たり前のことだろう。

 日本ではスーパーなどで野菜や肉を簡単に買うことができるが、それらができるまでを知っている人は少ない。野菜を作るのにどれだけの苦労があるのか、家畜が美味しくなるためにどれだけの工夫をしているのか、それを理解しないで、嫌いだから残して捨てるだの、野菜が高すぎるだのと文句を言う。
 所詮機械でできると思っている人もいるらしいが、それらだって維持するための費用が掛かり、とても大変なのだ。大体それらに頼らないと、全国に行き渡るほどの量を作ることなど不可能。人の手だけでは限界があるのだ。
 食料がなくては人は死んでしまう、だからこそ作った農家の方たち、漁師の方たちに感謝して、残さず食べるのが普通なのに……、それを踏みにじる人は多い。

 それはこの世界でも一緒。特に人間領は食のありがたみを忘れている人が多くいる。
 食物のほとんどが、実は魔国領産だというのにだ。

 敵でありながらも、人間領に輸出するのは、有り余る食料をより大勢の人に堪能してもらいたいというヘルトの想いからだ。
 だけど、土地が欲しいという理由だけでその想いを踏みにじり、また畑を燃やすという暴挙に出た人間領の勇者に、ヘルトが怒るのも無理はない。

「私を守ろうとして来てくれたんじゃないんだ。きっと畑が……なんだろう、この胸のもやもやは?」

「それはきっと気のせいです、ご主人様」

「そうです、お姉様が、ままま、魔王様に恋しているはずがありません!」

 ザブリェットのつぶやきに過剰に反応する一号と二号。それもその筈で、ザブリェットはちょっぴり恋する乙女の表情をしていたのだ。まぁ、自由人であるザブリェットのことだ。また作りたいものが見つかったら忘れることだろう。

「ふ、たかが畑ぐらいで怒りおって、これだから辺境に住む田舎者は、実にくだらない。魔王、貴様は私に蘇りも叶わぬ死をくれるんだったな。だったら私もそれをあなたにプレゼントしましょう」

 そう言って勇者ザブルグは剣を構える。その剣を包み込むようにして纏う紫色の死の輝き。まるで全てを腐敗させ滅びを与えるような禍々しい輝きに、ヘルトは少し距離を取る。

「貴様、先程も思ったが、それは一体何だ」

「ふん、これから死ぬ奴らだ。冥土の土産に教えてやろう。これは我がウンゲティウム王国に伝わる聖剣を改造したものだ。ペちょめほぺほぺ神の鬱的な加護を聖剣に宿し、死んでも復活できるシステムを切ったものから剥奪する、そういう剣に生まれ変わらせた」

「まるで魔剣だな。だが、それで切り殺さねばいけぬのだろう。だったら切られずに貴様を殺すまでだ」

 ヘルトは杖を掲げ、魔法を放つ。上位の風の魔法だ。稲刈りに便利だと言っていたその魔法は、触れたものすべて切り裂く風をホーミング機能付きで放つ不可視の刃。
 当然、ザブルグのその刃が見えないはずなのに、それをいとも簡単に防いだ。聖剣は魔法を切る力も持っていたのだ。
 だが、それでも諦めないヘルトは、畑を傷つけないように、多種多様の魔法を放ち続ける。

「ふん、この程度か、魔王。ならこっちから行くぞ!」

 剣の間合いから離れている魔王に向かい、剣を振りかぶる。すると、紫色の光がヘルトに向かって飛んできた。まるで、飛ぶ斬撃に死の恩恵が乗ったような攻撃。
 攻撃を避けようにも、後ろに守るべきものがいるヘルトには無理だった。だから有り余る魔力を使って多重の防御魔法を発動。
 数枚の防御魔法が砕け散ったが、なんとか防ぐことに成功した。

「どうしよう、このままだとヘルトがやられちゃうよ」

「でもでも、ご主人様も私たちも、できることがありません」

「そ、そうですよ、僕もお母さんに連絡を取るぐらいしかできないです。勇者はサキュバスを恐れていたような気がするので、有効そうですが、あの激闘には呼べません。お母さんが死んじゃう……」

「……ハッ! それだ! 一号は勇者の後ろあたりに落とし穴を作って、二号はほかのサキュバスたちに連絡、これでヘルトを助けられる」

「了解です、ご主人様!」

「あう、お姉さまの言いつけでも、家族に危害があると……」

「そこはなんとかするわ、私を信じなさい!」

 そう言って、ザブリェットは『時空庫ウムツァイト・ラーガー』からあるものを取り出した。
 そう、スマートフォンだ。
 ザブリェットはすぐさま電話をかける。相手はもちろんペちょ神。

『はいは~い、こちらピザ○ット天界店ですよ~。ただいま放火事件によって営業中止中で……』

『ふざけてんの、私よ、私』

『お、この声はへんてこな名前をつけてくれた特異点』

『要件を言うわ。勇者の聖剣に与えている加護をときなさい』

『え、やだ……なんでそんなことをしなくちゃいけないの』

『はぁ、あんたのせいで今大変なのよ、さっさとしなさい』

『ふん、絶対やだね。こんなへんな名前を付けられて、僕がどれだけ笑いものにされたのか、今では会う天使やほかの神に笑いものさ。この辛さがお前にわかるかあぁぁああああぁぁぁ』

『もっとすごいデマを天使に流すわよ?』

『ごめんなさい、やらせていただきますからこれ以上は勘弁してください』

 話がまとまったようで、ペちょ神はザブルグが持つ聖剣に与えている加護を取り除いた。
 そのおかげか、紫色の光が霧散して、聖剣がひのきのぼうに早変わり。それにはザブリェットも驚きを隠せない。
 すると視界にメッセージが流れる。

『神様を脅すなんてナイスです。名も無き天使FGより』

 天使もなんかしてくれちゃったようだ。ザブリェットとしても助かっているので、この時ばかりは感謝した。

「な、僕の聖剣が!」

「ふん、そうなってしまってはこちらの攻撃は防げんな、くらえ」

「っち」

 ザブルグはヘルトの攻撃を避けるために後ろに下がる、だけどその場所にはザブリェットが指示して作らせたものがあった。

 着地したその先の地面が陥没する、どでかい落とし穴だ。
 そこに真っ逆さまに落ちていった勇者。でも驚いたのは勇者だけじゃない。

「ぬわぁああぁああ、オラの畑がぁああぁぁぁぁぁ」

 赤い瞳に涙を浮かばせて、頭を掻き毟る魔王ヘルト。畑大好きな人にこの光景は酷だっただろうに。
 後から「やっちまった」と呟いたザブリェットだったが、全ては一号のせいだと責任転換の方法を考え中。
 それがスキになったようで、すぐさまザブルグがジャンプして、落とし穴から出てくるが……。

「はぁ~い、一名様いらっしゃ~い」

 麗しのサキュバスたちが群がって、ザブルグを包み込む。体のあちこちにキスをして、汗ばんだ体を撫で回す。

「ま、またサキュバスか、や、やめ、そこは、あぁあああぁあああ」

 恐怖に顔が歪むイケメン。さすがにビッチには勝てないようで、それはもう、お姉さんに襲われた小さい少年のような状態だった。
 ああ、あのキスマークはここに来る前にサキュバスに襲われたんだとザブリェットたちも納得した。
 あとはサキュバスたちに任せよう、そう思って、ザブリェットと一号二号、そしてヘルトはこの場を後にした。


******


 あの後勇者がどうなったかと言うと、いろんなものを吸われて死んでしまったようだ。

 現在死体が地下神殿に寝かされている。勇者の死体の表情はまるでムンクの叫びを彷彿とさせる。それほどひどい目にあったらしい。

「さて、この愚か者にはバツを与えねばな」

「ヘルト、まだ魔王口調なの、これはもう死んだんだから別にいいんじゃない?」

「まぁまて、こやつをいま復活させて、人間領に送り届ける。口調を戻すのもそのあとでいだろう」

「生き返したらまた襲って来るんじゃない?」

「だから普通には復活させない、やってくれ、亡霊神父」

「うわぁ、この人哀れですねぇ。魔王様の命令ですのでやりますが」

「む、イケメン発見、鉄槌を食らわせないと」

「やめろ、いま亡霊神父に倒れられると、畑の修復する時間がなくなる」

「う、うん、ヘルトがそう言うなら終わってからにする」

「お、終わってからもやってほしくないんだけど……」

 そう愚痴をこぼして、亡霊神父が復活の魔法をかけた。
 勇者の体は朽ち果てて、人間としての原型がなくなっていく。灰にまで変わった勇者の体は一点に集まってあるものに変わっていった。
 台所に出てくる黒い悪魔、ゴキ○リだ。
 復活したゴキ勇者はすぐさま逃げようとしたが、捉えられて虫かごに入れられてしまう。
 ヘルトはそれを満足そうに見届けて、亡霊神父から受け取った。

「では、これを人間領、ウンゲティウム王国の王城にある厨房に放ってくる」

「うわぁ、勇者の末路がかなりえげつない。死ぬより辛いんじゃないの」

「だがまだ生きている。これからさらに苦しい目に遭うだけでなく、死んだら二度と生き返れないだろうな」

「黒い悪魔を復活させるもの好きなんていないもんね。いい復讐だよ」

「ははは、そうだろ、そうだろ」

「ねぇ、ヘルト」

「何だ、姫」

「それを届け終わったら、私の部屋に来てくれる? お部屋をしっかり完成させたから見てもらいたいの」

「そうだな、土産物でも持って尋ねるとしよう」

「うん!」

 ザブリェットの満面の笑みに見送られ、ヘルトは人間領に向かって飛び立った。


******


 それから3時間ぐらいが過ぎた頃。
 ヘルトがザブリェットの部屋をおいしい野菜をもって訪ねた。

「ほへぇ~、こりゃすごいっぺ。かなり綺麗なお部屋になってるでねぇか」

「そ、そうかな。そう思ってくれると嬉しいな」

「うん、すっごいぺっよ、姫さん。これ、完成祝いの野菜だっぺ」

 そう言って、ヘルトがトマトなどの新鮮な野菜をテーブルの上におく。それをザブリェットが手に取って、ぱくりと一口食べた。

「うわぁ、甘酸っぱくてすごくおいしい」

「すっごいうまそうに食べるんでこっちもうれしいな。持ってきた甲斐があるっぺ」

「ありがと、ヘルト!」

「はは、どういたしましてだっぺ」

 二人して笑い合い、おいしい野菜を食べた。でも、途中で暗い顔になるザブリェット。何やら不安な思いがあるようで、それに気がついたヘルトがザブリェットに尋ねた。

「どったんだ、姫さん。暗い顔して……」

「あのね、勇者が襲ってきたでしょ?」

「うん」

「これからもこういうのがあるのかなって思うと、ヘルトに申し訳なくて……。私、ここにいない方がいいのかな」

「そんなことなか。一号も二号も、姫さんが来てからとっても楽しそうにしてるっぺ。それに、オラだって美味しそうに食べてくれる姫さんがいると、力がはいるていうか……なんていうか……」

「でも、私がいるとみんなが危険な目に遭うんでしょう。やっぱり、私はここにいちゃいけないんだよね、きっと」

「だから、そんなことねぇ。気が済むまでここにいりゃあいいさ。皆姫さんのこと大好きだし、人間領にいたら苦しい思いをするだけだってんなら、ずっとここにいりゃあいいっぺよ。オラたちが守っちゃる」

「う、うん、ありがとうヘルト!」

 嬉しさのあまり、ザブリェットは抱きついた。それに困惑するヘルトはオロオロすることしかできない。二人だけのいい雰囲気が漂う。このままイベントシーン突入かと思われたとき、珍客がふたり現れた。

「「なななな、なにをしているんですか魔王様!」」

 当然ながら一号と二号である。抱きついたことがちょっぴり恥ずかしかったのか、ザブリェットはすぐさま離れて服を正す。その光景が良くなかったのか、変な妄想をしはじめるふたりは、魔王であるヘルトに掴みかかった。

「わわわ、私のご主人様に一体なにをしたんですかぁぁぁぁああ」

「そうです、そうです! 僕のお姉さまになんてことをぉぉぉぉおおぉぉぉおおぉ」

「オラはなんもしてねぇっぺ!」

 楽しくも騒がしいいつもの日常に、ザブリェットは小さく笑った。
 平和で騒がしい毎日がずっと続くんだと感じ取れたザブリェットは、ヘルトに掴みかかる一号と二号をなだめながら、次はなにを作ろうかなっと思うのだった。

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