お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~

日向 葵

第二十五話『な、なんか生きているんですけど!』

 さて、人形たちを向かわせた結果、どうなったのか。
 結論から言うと、かなり面白いことになった。

 人形たちはどこからともなく、一体どうやって持ってきたのかわからないヘルメットをかぶり、最初はフリフリだった洋服が気がついたらつなぎになっていた。
 そして、ギたちを切る、切る、切る。
 鎖鋸くさりのこが音を立て、ギに触れると、木屑をまき散らしながらめり込んでいく。
 ギは植物だからなのか、痛みは感じないようで、表面を剥がれてもたいしたリアクションはなく、綺麗な木材に早変わり。

 一部の人形たちは、自ら鎖鋸くさりのこを捨てて、他の人形が加工した木材を回収。ザブリェットの前に積み上げる。

 かなり早く作業しており、空は既に虫食い状態。まるで天使が祝福してくれているかのような光が降り注ぐ。

「あーなんだろう。あんだけ大変だったのに、かなり簡単に加工されていく。なんだろう、この気持ち」

 ザブリェットはちょっと残念に思う。自らの手で何かを作るのが楽しいのに、ただ見ているだけのこの状況。満たされない気持ちからか、ちょっとだけそわそわしていた。

「仕方ない……ポチとその他の治療だけしておこうかな」

 ザブリェットは木材を人形たちに任せて、治療に専念するのであった。


******


 それから数十分がたった頃。
 ポチと一号、二号が目を覚ました。かなりダメージを受けていたポチも、なんか自滅した感じの二人も、ザブリェットの治療でピンピンになっている。
 治療がそんなに良かったのか、一号と二号は頬を赤く染めて、くねくねとし始める。

「ねぇ、なんでそんなにくねくねしているの。気持ちわるいよ」

「えへ、へへへへへ。だって、ご主人様の治療が……。私は幸せです」

「僕も、お姉さまの気持ちいい治療で体がびくんびくん……」

「え、私は普通の治療をしただけなのに。怪しい能力で……」

 変な反応をするふたりに戸惑うザブリェット。その肩を、ポチがそっと叩く。そして静かに首を振った。

「お前、苦労しているな……。この際、この二人と距離を取ったほうが……」

「私もそれ思った。この二人はだんだんどころか、かなりダメになってきている気がする」

「「い、嫌ですぅぅぅぅぅぅ」」

 ポチとザブリェットの会話に、一号と二号は涙を流した。それどころか鼻水まで流して、ザブリェットの足元にしがみつく。
 嗚咽を漏らしながら「見捨てないで」と呟く二人。あまりにもみっともない姿をさらしながら懇願するので、「大丈夫、見捨てないよ」とザブリェットは言ってしまう。

 ちらりとポチを見ると、その目は『本当にいいのかよ』と語っていたが、ある意味ザブリェットの被害者であるふたりをポイするのは、ザブリェットの良心に引っかかるものがあるので、「仕方ないよ」と苦笑い。
 まぁ、いつもふたりにひどいことをしているザブリェットの良心なんて、たかがしれているのだが。
 あまりに泣くので話が進まない。とりあえず、ふたりが落ち着くのを待って、その後木材の確認をすることにした。
 だけど、なかなか落ち着かない一号と二号。我慢の限界が来たザブリェットは、拳をギュッと握り締め、ふたりの顔面を空気を切る音がするぐらいの勢いでぶん殴った。

「「ぎゃふん!」」

「さて、二人共。服が汚れるから離れろ。蹴っ飛ばすよ」

「「こ、これ……蹴りじゃないです。もう殴ってます」」

 せっかく治療してもらった一号と二号は、ザブリェット渾身のグーをくらい、頬を赤く腫らしながら、地面とキスをする。
 ピクリとも動かないふたりに軽蔑した眼差しを向けて、ザブリェットは鼻を鳴らす。
 その光景を間近で見ていたポチは、苦笑いするしかなかった。

「んで、目的の木材が回収できたわけだが、どうすんだよ、姫さん」

「そんなの決まっているでしょう。この木材を確認して、良さそうなものだけ持ち帰るの。ほら、木によって、いろいろと変わってくるわけ……」

 ドックン、ドックン。

「…………」

「おい、どうしたんだよ、姫さん」

「……生きてる」

「はぁ? 何が生きているんだよ」

「ポチ、この木を触ってみて」

「あ? 別にそのぐらい……」

 ドックン、ドックン。

「……生きてる」

「でしょう! なんなのこの木材。すごく気持ちわるいんだけど。こんなの使えないじゃない!」

「お前、この木の加工はどうやったんだ?」

「能力でちょちょいと。全て人形にお任せ!」

 ザブリェットがそう言うと、気がついたら姿を隠していた人形たちがささっと現れて、見事な敬礼をした。
 その姿は、どっからどう見ても土木系の職人である。
 それはさておき、加工をしたと言う人形たちを見て、ポチは「はぁ」とため息を吐く。

「そういえば、ちゃんと言っていなかったな。植物系の魔物は簡単に死なないんだよ。アンデットやゴースト系と同じで、魔力で動く魔物だからな。植物の死の定義は枯れること。ただ加工されたままだったら生きているわな。 本来なら、あいつらを切り落として動けないようにし、その後魔力を抜いて加工するんだよ。
 魔力を抜く工程をしていないから、こいつらは、こんな姿だけど、魔物として生きている。そんなところか?」

「え、魔力を抜く?」

「だってそうだろう。こいつらの意志って、魔力によって成り立っているからな」

「じゃあこのドックンって音は何!」

「そりゃあ、血液と同じだよ。身体全体に魔力を循環させなければいけないんだ。当たり前だろう?」

「そ、そうなのかな?」

 なんか納得のいかないザブリェット。だけどいまはそれで納得するしかない。時にはよくわからなくても納得するしかない時があるのだ。
 きっと今がそれなんだろうとザブリェットは心に言い聞かせる。

(…………ん? あれ、それじゃあ、この魔力構造を解明すれば、オリジナルの魔物が作り出せる? それに、ポチが言っていたことが、生物じゃない魔物の定義だとすると……人形たちは?)

 ザブリェットはちょいちょいと一体の人形を呼び寄せる。
 リーダーっぽい感じの人形がザブリェットのもとに近づいたので、そっと胸の近くを触ってみた。

 ドックン、ドックン。

 人形からも感じられる命の鼓動。ザブリェットは今更ながら気がついた。ギを木材に加工するために使った能力のあれやこれや、それによって生まれた人形は一種の魔物であることを。

「どどど、どうしよう!」

「どうしたんだよ、そんなに慌てて」

「私が作ったこれ……ポチの話から考えると魔物っぽい」

「はぁ? そんなわけねぇだろう。魔物っていうのは自然に発生するもので、作れるものじゃないんだ。アンデット系だって、魔力が強い土地か、誰かが強い魔力を注ぎ続けて、自然と魔物化するのを待つんだぞ?」

「で、でも、この木材と一緒で、命の鼓動が!」

「そんな馬鹿な……」

 そう言いながら、ザブリェットが触った場所と同じぐらいの場所、人形の胸あたりをポチも触る。
 そして、ポチは驚いた様子で「こ、これは!」というのだが、そのときは気がつかなかった。

 この人形たちはヘルメットをかぶり、つなぎを着ているのだが、心も体も女の子。
 それなのに、いきなり胸をまさぐられた。痴女でもない限り、怒るのが普通だろう。

 人形たちも乙女心があるようで、ポチにまさぐられた一体は、顔を赤く染めたような? そんな雰囲気を漂わせ、わなわなと震え始める。瞳はキリっとして、その視線で誰かが殺せそうだ。

 デリカシーのないポチに、呆れて何も言えなくなるザブリェット。他の人形たちも怒った様子であり、まさぐられた一体は、今にも泣きそうだ。

 そんなことに気がつきもせず「これスゲェな」なんて呟くポチに対して、ザブリェットは……。

有罪ギルティー

 そう一言呟いた。
 その掛け声と共に、ポチに襲いかかる人形たち。ポチは仲間なので鎖鋸くさりのこを使うようなことはないが、それでも痛いと感じられるぐらいの威力で殴る人形たち。

「痛、痛い、一体なにしやがる!」

「この変態! 強姦魔、狼野郎ぅぅぅぅぅぅぅ」

「な、何言ってやがる、俺が何したってんだ!」

「私が生み出した人形の女の子の胸をまさぐって、よくそんなことが言えるわね。この痴漢犬。ハウス、ハウスぅぅぅぅぅ」

「いてぇ、こ、こいつらは人形だろう! そんなたいしたこと……」

「それでもこの子達には心がちゃんとあるのよ。それなのに、それなのにぃぃぃぃぃぃ」

「痛、そこは、ちょ、やめ……ああああああ」

 あまりに怒り狂うものなので、なんとかお姫様から許していただこうと、試行錯誤するポチ。だけど、それがザブリェットと人形たちに火を付ける結果をもたらす。ヒートアップするお説教という名の暴力。このお説教は一号と二号が目を覚ますまで続いた。

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