お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~

日向 葵

第十四話『ベッドを作ろう』

 牢屋にたどり着いたところでふと気が付くことがあった。
 そういえば、木を入手していない。これではベッドが作れなくなってしまう。
 しかし、これから向かうにも暗くなってきてしまい、時間的に不可能。木を入手しても筋肉痛で倒れてしまい、その間に森に住まう魔物に食われるだろう。
 ザブリェットはどうやって木を入手するか考える。一番最初に思いついたのはヘルトにお願いすることだ。農業バカのヘルトなら、木をちょっとでも持っているんじゃないかと思っている。しかし、あれはザブリェットと同様のタイプ。
 自分の好きに忠実で、邪魔をするものには火山が噴火したかのような怒りを表すだろう。
 だからこそ、ヘルトの木は使えない。
 どうしたものかと悩んでいると、一号と二号が目を覚ました。

「うーん、なんかいろんなところが痛い……あ、おはようございます、ご主人様!」

「ふわぁあああぁあ、よく寝た気がする、あ、おはようございます、お姉様!」

「うん、おはよう、一号、二号。だけどいまは夕方。おはようの時間じゃないよ。そんなことはどうでもいいか。わたしは考えなきゃいけないことがあるから、そっとしておいて」

「えっと、どうしましたか、ご主人様」

「木材がない……」

「一体どう言うなの、お姉様」

 要領の得ないザブリェットの説明に困惑する一号と二号。ヘルトならきっと伝わるのにとちょっとだけ愚痴りながら、もう少し説明する。

「ベッド。布と毛皮はある。木がない。これで分かった?」

「「いえいえ、全然わかりません」」

「…………ファック」

 理解能力が低すぎる一号と二号に対しイラっときたので、問答無用の右ストレートが炸裂する。一号は二号を盾に使った。

「ちょ、一号!」

「その……ごめん」

「ごめんって、そういうーーグヘェ」

 綺麗な弧を描いて吹っ飛んでいった二号は、八回転ほど地面を転がり、じめっとした気持ち悪い壁に激突。そのまま白目になって気絶した。
 その威力に震えながら、一号はありがとうと涙する。

 ゆらりと体を揺らしながら、一号に向き直るザブリェットを見て、一号は咄嗟に考えた。どうすればこの状況を打破できるかを。
 ザブリェットが何をしたいのか理解できていない一号。きっと殴られすぎたせいだろう。だけど、先ほど聞いた言葉だけならまだ覚えている。そう、木がないと言っていたのだ。

「私の寝床に沢山の木があります!」

 その言葉を言ったおかげか、ザブリェットの拳が一号の目の前で止まった。

「……本当にあるの?」

「ええ、ありますよ。私たちハーピィは木を寝床にしているんです。そういうわけで少しなら分けることができますよ」

「……分かった。案内して」

「りょです。ご主人様!」

 一号は二号を無視して、ザブリェットとともにハーピィの寝床に行こうとした。だけどこんなカビだらけの汚い場所に、うつぶせで寝かせるのはかわいそうだと思った。
 意識がないのに臭い場所を強制的にってなんだか可哀想に思える。しょうがないなー。
 なんだかんだいいっても同じ人を愛する者同士。こういう時は助け合いだ。
 一号はロープで二号を縛り付け、うつぶせにさせた。そして、お腹辺りに、なんか落ちていた汚れた雑巾をかけてやる。お腹が冷えないようにという配慮だ。

 その光景を見ていたザブリェットは、なかなかえげつないことをするやつだと思った。こいつらは仲が悪いのか。いや、絶対に悪いに違いない。仲が悪くなけりゃ、汚れた雑巾をお腹にかけないし。あれ、ヌメっとして気持ちわるいんだよね。
 ちょっとばかし一号に恐怖を覚える。

「ささ、いきましょう、ご主人様!」

「ええ、行きましょうか。案内よろしく」

「任せてください!」

 二人が向かった先は、魔王城の最上階に当たる部屋だ。そこそこ日当たりがよく、昼寝にはもってこいのスペース。こんないい部屋なら普通は魔王であるヘルトの部屋じゃないのだろうか。
 そう思って一号に聞いてみると、日当たりが良すぎていろんなものが傷むということらしい。
 農業馬鹿のヘルトらしい答えだ。

 そんなわけで、最上階は鳥獣系の魔物や魔族が住まう場所となっている。中央の一番日当たりがいい場所には、少し細身のいい木が生えていた。一体どう言う原理で生えているのだろうか。つい気になって聞いてみた。

「一号……あれってどうなっているの?」

「もしかして、眠り木のことですか?」

「眠り木?」

「そうです。あれはお昼寝スポットの眠り木です。私たち鳥獣系の魔族や魔物がよく使う木で、日がぽかぽかして気持ちいいんですよ!」

「へぇ、それであれはどうやって立っているの。こんな屋上に根をはれないと思うんだけど」

「あれはインテリアの一種です。本物の木を使用していますが、ちゃんと床に固定されていますので」

「なる。そんでもらっていいっていう木はあれ?」

 ザブリェットが眠り木を指すと、一号は首が飛ぶんじゃないかっていうぐらい横に振った。ちょっと怖いなと思い、ザブリェットは一歩後ろに下がる。
 それについていくかのように、一号が一歩前に出た。ズイっと顔を近づけて、ザブリェットにこう言った。

「あれはここに住まう鳥獣系の宝なんです。むやみに言ったらダメですよ。私が怒られますから」

「なら別にいいや」

「いや、お願いします。靴の裏を舐めますから。本当にお願いします。ご主人様! ご慈悲を、ご慈悲をください! じゃないと……殺されてしまいます!」

 殺されるにいまいちぴーんとこないザブリェット。そもそもこの世界には復活の魔法があるのだ。一回殺された程度でどうとでも……。

「嫌です、万殺しの刑とかになったら、心が壊れてしまいます!」

 この世界の罰は死んでも復活できる分、かなりえげつないようだ。正直、かかわりあいたくないとすら思える。
 嫌だなーと思っていると、一号がザブリェットの手を引っ張った。ついていくと、丸太がいくつか積み重なっていた。

「もしかしてこれが?」

「はい、今余っている木です。これで足りますか」

「うん! これなら足りるよ。ありがとう、一号!」

「えへへへ、どういたしましてです。ご主人様!」

 一号の頬がだらしなく緩む。それを無視して、木を『時空庫ウムツァイト・ラーガー』に放り投げた。

「さて、木も回収したことだし、そろそろ戻りましょうか」

「りょです!」

 そして、再びじめっとした嫌な牢屋に戻っていく。


***


 牢屋に戻ってすぐに布を広げた。なんだかんだいていらない布リアンから回収した布は余ってしまっている。これはベット作りには使用しないだろう。
 だから、汚い床に敷いて、これから作るベッドが汚れないようにした。

 本日使う材料は、テディベアの毛皮、超高級そうな布、そしてかっぱらってきた木だ。

「まずは土台から作らないと……その前に、一号」

「なんでしょう、ご主人様」

「二号を起こして、ちょっと掃除をしてもらえないかしら。流石にここは汚すぎる」

「了解しました。私たちにお任せ下さい!」

 これで筋肉痛になっても、少しは大丈夫だろうとザブリェットはほくそ笑む。
 よし、早速ベットを作ろう。まずは木を加工して、土台を作ろう。
 しかし、木材加工の経験が浅い上に、加工する道具が一切ない。さて、どうすれいいのやら。

 まぁ、こんな時こそ能力の出番だ。使い方が限られるチート能力。こんな時こそ発揮して欲しいもの。
 そもそもチート能力とは世界最強になって無双するとか、とんでも能力を使って恋人を探すとか、死体を食らう能力で最強になって復讐するとか、そういうことに使うものじゃない。この能力はいかに自分の生活を豊かに、楽しく過ごせるようにするかが大事なのだ。

「えっと、最初は『創造クリエイト』でいいかしら。これなら木を好きな形に変えられるし。でも、設計図もないけど大丈夫かしら。うーん、きっと大丈夫でしょう!」

 割と行き当たりばったりな性格をしているザブリェット。能力を使って、それっぽい形に加工していく。いくつかあった木はみるみる形を変えていき、四脚、折りたたみ機能付きのベットフレームに早変わり。
 これにマットとシーツ、枕などなどを設置すればぐっすりと眠れるベッドが作れる。

 ザブリェットはテディベアの毛皮を集めだす。これでふんわりマットを作る予定だ。
 まず『破壊デリート』を能力を使う。この能力はいらないものを完全に消滅させる能力だ。今回欲しいのはテディベアのふんわりした毛。それ以外はいらない。だから『破壊デリート』を使って、毛以外のものを消滅させる。
 すると、ふわっふわの毛の山が誕生する。

 さてさて、ふわふわの毛があってもマットとは言えない。まず、高級そうな布を敷く。その上にふわふわな毛を乗っけて、その上にぬのを被せる。わたあめサンドイッチみたいで美味しそう。
 そんなことは置いておいて、ここで『創造クリエイト』をまた発動させる。原子レベルで構造、つまり形を変更できる能力は素晴らしい。縫ったりというメンドくさい工程をすっとばして、簡単にマットが完成する。枕などもこれと同じ要領で作成。ものの数分でぐっすり眠れるベットが完成した。

「ふふふ、せいーの!」

 ザブリェットは少し助走をつけて、ベッドに飛び乗った。ふわりとした弾力。まるでくもの上で寝ているようだ。激しく移動したせいか、ちょっとばかし眠くなる。

(まだ一号と二号が掃除しているけど……この眠気には耐えられない)

 なれない場所でなのか、それともベット作りのために頑張りすぎたのか、強い眠気に襲われる。
 それに抗えなかったザブリェットはゆっくりとまぶたを閉じて眠りについた。

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