お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~
第一話『馬鹿と天才は紙一重』
沢山の書類に目を通しながら、部屋の主、ザブリェット・フォン・ウンゲテュームは「はぁ」と大きなため息を吐いた。
来る日も来る日も同じような作業。本当に退屈。暇過ぎてあくびが出そう。
あの頃はたのしかったなーと思い出に浸りながら、常人の三倍の速度で仕事をこなす十三歳のお姫様。
こんな雑務をこなすために、私はここにいるんじゃない。思っていたのと全然違うんですけどと悪態つきながら、ふっと窓から外を眺めた。
青い空、白い雲。お城の上の方に位置するこの部屋から見える景色は、城下町を一望できる。
(あっちのほうが楽しそう……)
人で賑わう城下町では、商人が沢山のモノを売っている光景や、大道芸を行っている芸人がいて、それに集まる主婦や子供らしき人の姿が微かに見える。
それを羨ましそうに眺めながら、ザブリェットは死んだあの日のことを思い出して、後悔する。なんで今の私に自由がなくなっているのかと……。
******
ザブリェットは転生者である。転生前の名前は来栖天恋。全く普通じゃない、キチガイ系の異常な少女だった。
彼女を一言で表すなら馬鹿である。
これは頭が悪いという意味ではない。
むしろ彼女の成績は良いほうで、学年どころか全国トップクラスの成績である。そんな彼女のどこが馬鹿なのか。
馬鹿と天才は紙一重という言葉があるように、天恋は、常人ではわかりえない、突拍子もないことを突然するのだ。
理由は簡単であり、楽しいからやっている。自分の好きなことに正直で、気になったら猪のように突っ込んでいく行動力。より楽しむために勉強し、他人に迷惑をかけるのだ。
それが、来栖天恋という人間だった。
ある日、電気にはまっていた天恋は、激しい雨が振る空を家の中からじっと眺めていた。
時折、空が輝き、遅れて大きな音が鳴る。雷がまだ遠くにいるため、天恋は「もうすぐ、もうすぐ」とつぶやきながらじっと待つ。
手に握られているのは、自分で作った避雷針と、特性絶縁スーツ。これで一体何をしようとしているのやら。
この時の天恋は、頭の中が雷のこといっぱいだった。最近見つけた面白いものが低周波治療器である。電気をある一定の周期で流し、まるで肩をを揉んでもらっているような感覚が味わえる、マッサージ器具である。
あれから閃いたことは、雷でやったらどうなるんだろう……ということだった。
普通の人ならば、死んでしまうという結論に至るが、天恋は一味違う。
絶縁スーツを来て、電気を調整すれば、自然現象のマッサージが堪能できると考えたのだ。
もし、このことを誰かに言っていたら、天恋の運命は変わっていただろう。しかし、天恋は学習しており、誰かに相談したら止められるので、絶対に相談しないという真理に至っていたのだ。
次第に光と音の距離が短くなってくる。これは雷が鳴っている大きな雲が近づいてきた証だ。天恋は急いで外に出て、自転車の鍵を外して跨った。大雨の中、制服に身を包んでいる天恋は、傘も刺さずに自転車のかごに詰め込んだ避雷針と絶縁スーツがしっかり入っていることを確認し、近くの山を目指して爆走する。
制服に身を包んで爆走する謎の自転車は、傍から見れば不審者だろう。だが、大雨のせいなのか人の姿がなかった。
山の入口に到着すると、自転車をフェンスに掛けて、絶縁スーツを身にまとい、避雷針を背負う。
雨のせいで流れる水が、土を柔らかくさせて、滑りやすくなっていた。すでに真っ暗になっている上に、歩きにくい山道。頂上に行くまで一苦労なこの道を、雷に打たれたいという想いで登っていく。
何度か転び、膝や肘を擦りむいた。流れた血は、すぐに雨によって流される。傷口に雨が当たるたびに、激痛が走りながらも、自分が楽しいと思うことのために一歩、また一歩足を進める。
天恋が頂上についた時、空が光った瞬間に音がなるぐらい、雨雲は近くに来ていた。
ちょうど良いタイミングに頂上についた天恋は、両手を空に掲げ「雷よ、私に降ってきなさい!」と大きく叫んだ。
それからかれこれ一時間。雷が落ちる気配は一切なし。雨は強くなる一方で、これ以上ひどくなると帰れなくなる。
「結局、雷は落ないか……」
天恋は残念そうに肩を落とし、元来た道に戻ろうとした。
雨が激しくなっている為、滑って転ばないように慎重に移動して、下山を試みる。誰だって痛いのは嫌だし、好きなことの為以外に怪我をしたくない天恋なら尚の事。
実際、悪い道を進む時は上りより下りの方が危ない。
重力に逆らう方向に進むより、重力に沿って移動したほうが、足が軽く進む反面、転げ落ちて、最悪の場合死に至る。
だからこそ慎重に動かざる追えない。
山の下り道に入ろうとした時、天恋に衝撃がはしった。もちろん、物理的な意味でだ。
偶然なのか、必然なのか、天恋に雷が落ちたのだ。
絶縁スーツを身にまとっているはずだから大丈夫と思っていた天恋。しかし、素人が作ったそれでは身を守ることが不可能。しかも、山を登っている途中、転んだ時に服が傷ついており、全く意味をなしていなかった。
雷をちょくで浴びた天恋の頭は真っ白になる。痙攣するからだ、激しい痛みに耐えられず、よくわからない声がでる。
でもそれは一瞬のこと。衝撃がなくなると、天恋はその場に崩れ落ちた。
思うように動かない身体、肉が焼ける匂い。
だが、天恋は生きていた。意識を失うことなく、生きることができたのだ。
「絶縁スーツでも……ダメなんて……逃げなきゃ。私、死んじゃう……」
しびれが取れず、動かない体を無理やり動かそうとしても、体は思ったように反応してくれない。
せめて、せめて避雷針だけは遠ざけたい。
心臓の音が大きく聞こえる。また雷が落ちる可能性があるその場所で、体が動くようになるまで待たなければいけない天恋は、次第に焦りが生まれる。
(これで死んだら……自由に楽しいことができなくなるじゃない……)
天恋は「まだ生きたい、もっと楽しいことがしたいんだ」とつぶやき、涙を流す。今の現状は自分が招いた事態だとしても、それを後悔することはない。だって、やりたいことをやった結果なのだから。でも、これから先、もっと楽しいことがあるはずなのに、それができなくなってしまうのは、涙を流すほどに辛かった。
世界は広い、なら誰も知らない面白いことがたくさんあり、それを遊びつくしたい。自由気ままに、楽しいことをやり尽くして、納得のいくような死に方をしたかった。
だからこそ、まだ生きなくてはならない。どうしてもやりたいことがある。
「ううう、あ…ああぁああ、動けぇぇえ」
声を上げ、気合を入れる。次第に抜けていく痺れに、若干体が動くようになったが、強い衝撃を受けて転んだため、動かすだけで激痛がはしる。
痛い、とてつもなく痛い。それでも、まだ生きるために、天恋は避雷針を掴み取る。だけど、体に固定したそれは、ちょっとやそっとじゃ、取ることはできない。
やっと、掴み取ることができたのに……でも、まだ一回だけ、このあとに雷が落ちるとは限らない……そう、希望的な観測をして、天恋時間が過ぎるのを待つ。
でも、世界は理不尽で残酷だ。
もしかしたら死ぬかも知れない恐怖に怯える天恋に、さらに雷が落ちた。それも、ちょっとやそっとじゃない。まるで、天恋に向かって、雨が降り注ぐように、雷が落ちる。
こうして、来栖天恋は、生涯の幕をおろした。
来る日も来る日も同じような作業。本当に退屈。暇過ぎてあくびが出そう。
あの頃はたのしかったなーと思い出に浸りながら、常人の三倍の速度で仕事をこなす十三歳のお姫様。
こんな雑務をこなすために、私はここにいるんじゃない。思っていたのと全然違うんですけどと悪態つきながら、ふっと窓から外を眺めた。
青い空、白い雲。お城の上の方に位置するこの部屋から見える景色は、城下町を一望できる。
(あっちのほうが楽しそう……)
人で賑わう城下町では、商人が沢山のモノを売っている光景や、大道芸を行っている芸人がいて、それに集まる主婦や子供らしき人の姿が微かに見える。
それを羨ましそうに眺めながら、ザブリェットは死んだあの日のことを思い出して、後悔する。なんで今の私に自由がなくなっているのかと……。
******
ザブリェットは転生者である。転生前の名前は来栖天恋。全く普通じゃない、キチガイ系の異常な少女だった。
彼女を一言で表すなら馬鹿である。
これは頭が悪いという意味ではない。
むしろ彼女の成績は良いほうで、学年どころか全国トップクラスの成績である。そんな彼女のどこが馬鹿なのか。
馬鹿と天才は紙一重という言葉があるように、天恋は、常人ではわかりえない、突拍子もないことを突然するのだ。
理由は簡単であり、楽しいからやっている。自分の好きなことに正直で、気になったら猪のように突っ込んでいく行動力。より楽しむために勉強し、他人に迷惑をかけるのだ。
それが、来栖天恋という人間だった。
ある日、電気にはまっていた天恋は、激しい雨が振る空を家の中からじっと眺めていた。
時折、空が輝き、遅れて大きな音が鳴る。雷がまだ遠くにいるため、天恋は「もうすぐ、もうすぐ」とつぶやきながらじっと待つ。
手に握られているのは、自分で作った避雷針と、特性絶縁スーツ。これで一体何をしようとしているのやら。
この時の天恋は、頭の中が雷のこといっぱいだった。最近見つけた面白いものが低周波治療器である。電気をある一定の周期で流し、まるで肩をを揉んでもらっているような感覚が味わえる、マッサージ器具である。
あれから閃いたことは、雷でやったらどうなるんだろう……ということだった。
普通の人ならば、死んでしまうという結論に至るが、天恋は一味違う。
絶縁スーツを来て、電気を調整すれば、自然現象のマッサージが堪能できると考えたのだ。
もし、このことを誰かに言っていたら、天恋の運命は変わっていただろう。しかし、天恋は学習しており、誰かに相談したら止められるので、絶対に相談しないという真理に至っていたのだ。
次第に光と音の距離が短くなってくる。これは雷が鳴っている大きな雲が近づいてきた証だ。天恋は急いで外に出て、自転車の鍵を外して跨った。大雨の中、制服に身を包んでいる天恋は、傘も刺さずに自転車のかごに詰め込んだ避雷針と絶縁スーツがしっかり入っていることを確認し、近くの山を目指して爆走する。
制服に身を包んで爆走する謎の自転車は、傍から見れば不審者だろう。だが、大雨のせいなのか人の姿がなかった。
山の入口に到着すると、自転車をフェンスに掛けて、絶縁スーツを身にまとい、避雷針を背負う。
雨のせいで流れる水が、土を柔らかくさせて、滑りやすくなっていた。すでに真っ暗になっている上に、歩きにくい山道。頂上に行くまで一苦労なこの道を、雷に打たれたいという想いで登っていく。
何度か転び、膝や肘を擦りむいた。流れた血は、すぐに雨によって流される。傷口に雨が当たるたびに、激痛が走りながらも、自分が楽しいと思うことのために一歩、また一歩足を進める。
天恋が頂上についた時、空が光った瞬間に音がなるぐらい、雨雲は近くに来ていた。
ちょうど良いタイミングに頂上についた天恋は、両手を空に掲げ「雷よ、私に降ってきなさい!」と大きく叫んだ。
それからかれこれ一時間。雷が落ちる気配は一切なし。雨は強くなる一方で、これ以上ひどくなると帰れなくなる。
「結局、雷は落ないか……」
天恋は残念そうに肩を落とし、元来た道に戻ろうとした。
雨が激しくなっている為、滑って転ばないように慎重に移動して、下山を試みる。誰だって痛いのは嫌だし、好きなことの為以外に怪我をしたくない天恋なら尚の事。
実際、悪い道を進む時は上りより下りの方が危ない。
重力に逆らう方向に進むより、重力に沿って移動したほうが、足が軽く進む反面、転げ落ちて、最悪の場合死に至る。
だからこそ慎重に動かざる追えない。
山の下り道に入ろうとした時、天恋に衝撃がはしった。もちろん、物理的な意味でだ。
偶然なのか、必然なのか、天恋に雷が落ちたのだ。
絶縁スーツを身にまとっているはずだから大丈夫と思っていた天恋。しかし、素人が作ったそれでは身を守ることが不可能。しかも、山を登っている途中、転んだ時に服が傷ついており、全く意味をなしていなかった。
雷をちょくで浴びた天恋の頭は真っ白になる。痙攣するからだ、激しい痛みに耐えられず、よくわからない声がでる。
でもそれは一瞬のこと。衝撃がなくなると、天恋はその場に崩れ落ちた。
思うように動かない身体、肉が焼ける匂い。
だが、天恋は生きていた。意識を失うことなく、生きることができたのだ。
「絶縁スーツでも……ダメなんて……逃げなきゃ。私、死んじゃう……」
しびれが取れず、動かない体を無理やり動かそうとしても、体は思ったように反応してくれない。
せめて、せめて避雷針だけは遠ざけたい。
心臓の音が大きく聞こえる。また雷が落ちる可能性があるその場所で、体が動くようになるまで待たなければいけない天恋は、次第に焦りが生まれる。
(これで死んだら……自由に楽しいことができなくなるじゃない……)
天恋は「まだ生きたい、もっと楽しいことがしたいんだ」とつぶやき、涙を流す。今の現状は自分が招いた事態だとしても、それを後悔することはない。だって、やりたいことをやった結果なのだから。でも、これから先、もっと楽しいことがあるはずなのに、それができなくなってしまうのは、涙を流すほどに辛かった。
世界は広い、なら誰も知らない面白いことがたくさんあり、それを遊びつくしたい。自由気ままに、楽しいことをやり尽くして、納得のいくような死に方をしたかった。
だからこそ、まだ生きなくてはならない。どうしてもやりたいことがある。
「ううう、あ…ああぁああ、動けぇぇえ」
声を上げ、気合を入れる。次第に抜けていく痺れに、若干体が動くようになったが、強い衝撃を受けて転んだため、動かすだけで激痛がはしる。
痛い、とてつもなく痛い。それでも、まだ生きるために、天恋は避雷針を掴み取る。だけど、体に固定したそれは、ちょっとやそっとじゃ、取ることはできない。
やっと、掴み取ることができたのに……でも、まだ一回だけ、このあとに雷が落ちるとは限らない……そう、希望的な観測をして、天恋時間が過ぎるのを待つ。
でも、世界は理不尽で残酷だ。
もしかしたら死ぬかも知れない恐怖に怯える天恋に、さらに雷が落ちた。それも、ちょっとやそっとじゃない。まるで、天恋に向かって、雨が降り注ぐように、雷が落ちる。
こうして、来栖天恋は、生涯の幕をおろした。
コメント