お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~
第三話『お姫様は逃げられない』
あれやこれやと転生させられた天恋はデポトワールの人間国領最大の国、ウンゲテューム王国のお姫様、ザブリェット・フォン・ウンゲテュームとして生まれ変わった。
天使の祝福のせいで、天恋としての記憶を完全に持ったまま生まれたザブリェットは、苦痛の幼児時代を過ごす。
言葉はばぶばぶというだけで、全く話すことができない。ご飯は自分では食べられず、トイレも一人ではいけない。オムツをはかされて、誰かに取り替えてもらうまで待たなければいけない日々は地獄だった。
それに言葉を覚えるのも難しい。上手く声が出せるようになっていれば、日本語ならペラペラと喋れる。だけど知らない言葉を覚えるのは一苦労。なまじ知っているせいで、言葉がなかなか理解できない。英語ができないのに、突然アメリカに放り出されてしまった気分になる。
もし何も知らない赤ちゃんだったならと、神に愚痴を言いながら、必死に周りの人の言葉を真似た。
そんな地獄のような苦しみを味わった幼児時代。それも成長すればなんてことない。なんだかんだ言って時間だけはたっぷりあった。それに大変なのは語学だけ。それ以外は前世の記憶のおかげでいろんなことを知っている。
だからなのか、異常な成長を見せていた。
「ふふ~ん。遊ぶためにはまず、環境作りが大切だよね」
この時、ザブリェットの年齢は4歳。この時あたりから、ザブリェットの異常さが知れ渡ることになる。言葉はほかの同年齢の子供よりペラペラと喋り、難しい内容の話も理解する。とても4歳には見えないちょっと不気味なお姫様。なんだかんだ成長が早くても、心は優しく、とても素直な印象を与えていたザブリェット。そんな彼女を信頼するものは多く、いとも簡単に自由に遊べる環境と人脈を作り出す。
でも、それは長く続かない。
周りは突然、ザブリェットが天才だと騒ぎ始める。そして、気がついたら公務を任されるようになっていた。
(あれ、私はどこで間違えた?)
?マークを浮かべた表情でテキパキと仕事をこなす。きっと仕事が終われば遊べるはず、そう信じることにして頑張ったけど、全く仕事は減らず、疲れきってしまう。
そんなザブリェットの心境なんか露知らず、公務をやらせるようになってから、王国はさらに豊かになる。それは喜ばしいことだが、公務を行っているザブリェット本人が、まったく遊べない状況に陥っていた。
「いやだ、私も遊ぶ、遊ぶんだもん」
「ザブリェット様、お待ちください。まだ公務が……」
「もう嫌、公務、公務って。私だって……皆と同じように遊びたいんだ!」
当然、ザブリェットは逃げ出した。自由気ままに遊べると思っていた異世界転生。それがどうしたことか、社畜ちゃんも驚きの仕事漬けな毎日。
おかしい、何かがおかしいと思い、首都の外れにある小さな森に家出した。
日が暮れると、真っ暗で何も見えない道をひたすらと歩く。この時、ザブリェットは10歳。ちょっとやんちゃし始めるお年頃。
天使の祝福により暗闇でもまったく問題がないザブリェットは、気分良く、歌いながら夜の森を歩いていると、小さな洞窟を見つけた。
「ふふふ、探検って一度してみたかったんだよね!」
ザブリェットが洞窟を覗くと、目に見える範囲に行き止まりがあった。
面白くないなと思いながら、洞窟の中を見つめていると、ザブリェットはあることに気が付く。
(あれ、あの行き止まり、ちょっとした光沢があるような……)
これは面白そうだぞ、と思ったザブリェットは洞窟の中に入って行く。そして、光沢のある壁を触って確かめる。
「これは……滑らかな触り心地、光に当たると反射して、まるで鱗みたい。というより、これって鱗よね。化石かしら?」
撫で回すように、壁を触っていると、突然大地が揺れだした。ザブリェットは急いで洞窟の外に出る。
そして……
「GAAAAAAAAAAAAAAA」
洞窟の中から現れる、茶色いウロコに覆われたそれは、まさしく地龍だった。
本来、この土地に地龍がいるはずないのだが、どこからか迷い込んだようだ。そして、王国が発見、討伐を行う前に、ザブリェットがであってしまた。本当に運がない。
金色に輝く瞳が、ザブリェットを睨みつける。そして、姿勢を低くして、今にも飛びかかりそうな様子。
この時、ザブリェットは混乱した。対処するための力は持っているはずだった。数えるのも嫌になる天使たちから受け取った、大量の祝福。ある意味チート能力の大量ゲット状態だったが、どれがどんな能力なのか把握しきれていないため、何をしたらいいのかわからない。
地龍がザブリェット目掛けて飛びかかる。鋭い爪を振りかぶった。
(あ、ダメだこれ……)
ザブリェットは静かに目を閉じると、横からつよい衝撃。息苦しさと痛みを感じながら地面を転げまわる。
その後、地龍が振り切ったことにより起こったつよい衝撃波がザブリェットを襲う。
ゴロゴロと転がって、木に激突することでようやく止まった。しかし、地龍という名の驚異が立ち去ったわけじゃない。
ザブリェットは、ダメ元で適当に能力を使おうとしたところで、キラリと輝く光が前を遮る。
ザブリェットの前に、輝く聖剣を構えた一人の少年が立っていた。
「大丈夫、僕に任せて」
そう言って、少年は地龍に向かって飛び出した。
空気を蹴って宙を舞い、硬い鱗の隙間を狙って聖剣を振るう少年の姿は、まるで勇者のようだ。
だけど、ザブリェットは、こんな胡散臭い男が大っきらいだった。
こう、歯をキラリとさせて、格好付けている奴にロクな奴がいないと信じているザブリェットにとって、少年は、台所のアレ並に嫌いな部類であり、近づきたくもない。
先ほど、少年に突き飛ばされたと思うと、背筋がゾクッとした。だから、ザブリェットは少年なんか目もくれず、服を払い続けたのだった。
そして、少年が激闘の末、地龍の勝利したころ。ザブリェットも、服をきれいにするのが終わり、少年から距離を取ろうとする。
「ちょっと待ってください、ザブリェット姫」
「な、なんですか、ケダモノ!」
「ケ、ケダ……まぁいいです。それよりも、城にお戻りください。ここは危険なんです」
「嫌よ。また家に閉じ込められる。もうあそこに戻るのは嫌なのよ!」
「でしたら、私が無理やり連れて行くしか……」
「行きます。ちゃんと行きますから、それ以上近づかないで!」
自由を手に入れるために逃げようとしても、この怪しいイケメンが襲ってきたら、今のザブリェットでは対処できない。逃げる選択肢がなくなっている以上、イケメンに触られない方法に従う。
こうして、ザブリェットは渋々とお城に戻ることになった。
***
当然、城に戻るとこっ酷く怒られた。だけど、誰ひとりとして、ザブリェットを心配しているものなどいなかった。
父親である国王をはじめ、格大臣たちの目つきや貴族たちの表情は、人を見るというよりも、道具を見るような目だった。
それがたまらなく怖いと感じたザブリェットは、泣きそうになるのをこらえて、素直に話を聞く。
「もう二度と、このようなことをしでかさないように、祝福を与えなければならん。あれをもって参れ」
国王の声に従い、三人ほどの神官が現れる。そして、ザブリェットを囲うように立ち、手をかざすと魔法陣が現れた。三人はザブリェットに祝福を施し始める。
「あ、ぐあぁあああぁあああ」
訳の分からない言葉を唱え続ける神官たち。それを聞くたびに身体全体に激痛がはしる。そして、ザブリェットの胸のあたりに、黒く光る文様が浮かび出てきた。
「これで、もう逃げることはないだろう。早く部屋に戻って仕事をしてもらおうか。連れて行け!」
「「「は!」」」
ザブリェットは、三人の神官に引きづられていき、部屋に閉じ込められた。
出してくれ、もう嫌だ。叫び続けても、誰も答えてくれない。完全な監禁状。
能力をつかって、脱出を試みるも、神官たちにやられた呪縛の呪いのせいで、何もできないことに気がついたザブリェットは、膝を地面に落とし、涙を流した。
(なんで、なんでこんなことをされなくちゃいけないの。これじゃあ、まるで囚人か何かじゃない。私がいった何をしたっていうのよ)
一日中泣いたザブリェットは、次の日から、ケロッとしたように、公務をしていた。
でも、内に宿る炎の勢いは増すばかり。今は能力が封印されていたとしても、必ずここを逃げ出して、自由気ままに過ごすんだと決意を固めていた。
そのために、何をしなければいけないのか。
情報を収集、自分の持つ能力の把握と、解呪の方法。やることはいっぱいある。
いつの日か、この国を逃げ出す事を夢見て、ザブリェットの『つまらない』が溢れた日々が始まっていった。
天使の祝福のせいで、天恋としての記憶を完全に持ったまま生まれたザブリェットは、苦痛の幼児時代を過ごす。
言葉はばぶばぶというだけで、全く話すことができない。ご飯は自分では食べられず、トイレも一人ではいけない。オムツをはかされて、誰かに取り替えてもらうまで待たなければいけない日々は地獄だった。
それに言葉を覚えるのも難しい。上手く声が出せるようになっていれば、日本語ならペラペラと喋れる。だけど知らない言葉を覚えるのは一苦労。なまじ知っているせいで、言葉がなかなか理解できない。英語ができないのに、突然アメリカに放り出されてしまった気分になる。
もし何も知らない赤ちゃんだったならと、神に愚痴を言いながら、必死に周りの人の言葉を真似た。
そんな地獄のような苦しみを味わった幼児時代。それも成長すればなんてことない。なんだかんだ言って時間だけはたっぷりあった。それに大変なのは語学だけ。それ以外は前世の記憶のおかげでいろんなことを知っている。
だからなのか、異常な成長を見せていた。
「ふふ~ん。遊ぶためにはまず、環境作りが大切だよね」
この時、ザブリェットの年齢は4歳。この時あたりから、ザブリェットの異常さが知れ渡ることになる。言葉はほかの同年齢の子供よりペラペラと喋り、難しい内容の話も理解する。とても4歳には見えないちょっと不気味なお姫様。なんだかんだ成長が早くても、心は優しく、とても素直な印象を与えていたザブリェット。そんな彼女を信頼するものは多く、いとも簡単に自由に遊べる環境と人脈を作り出す。
でも、それは長く続かない。
周りは突然、ザブリェットが天才だと騒ぎ始める。そして、気がついたら公務を任されるようになっていた。
(あれ、私はどこで間違えた?)
?マークを浮かべた表情でテキパキと仕事をこなす。きっと仕事が終われば遊べるはず、そう信じることにして頑張ったけど、全く仕事は減らず、疲れきってしまう。
そんなザブリェットの心境なんか露知らず、公務をやらせるようになってから、王国はさらに豊かになる。それは喜ばしいことだが、公務を行っているザブリェット本人が、まったく遊べない状況に陥っていた。
「いやだ、私も遊ぶ、遊ぶんだもん」
「ザブリェット様、お待ちください。まだ公務が……」
「もう嫌、公務、公務って。私だって……皆と同じように遊びたいんだ!」
当然、ザブリェットは逃げ出した。自由気ままに遊べると思っていた異世界転生。それがどうしたことか、社畜ちゃんも驚きの仕事漬けな毎日。
おかしい、何かがおかしいと思い、首都の外れにある小さな森に家出した。
日が暮れると、真っ暗で何も見えない道をひたすらと歩く。この時、ザブリェットは10歳。ちょっとやんちゃし始めるお年頃。
天使の祝福により暗闇でもまったく問題がないザブリェットは、気分良く、歌いながら夜の森を歩いていると、小さな洞窟を見つけた。
「ふふふ、探検って一度してみたかったんだよね!」
ザブリェットが洞窟を覗くと、目に見える範囲に行き止まりがあった。
面白くないなと思いながら、洞窟の中を見つめていると、ザブリェットはあることに気が付く。
(あれ、あの行き止まり、ちょっとした光沢があるような……)
これは面白そうだぞ、と思ったザブリェットは洞窟の中に入って行く。そして、光沢のある壁を触って確かめる。
「これは……滑らかな触り心地、光に当たると反射して、まるで鱗みたい。というより、これって鱗よね。化石かしら?」
撫で回すように、壁を触っていると、突然大地が揺れだした。ザブリェットは急いで洞窟の外に出る。
そして……
「GAAAAAAAAAAAAAAA」
洞窟の中から現れる、茶色いウロコに覆われたそれは、まさしく地龍だった。
本来、この土地に地龍がいるはずないのだが、どこからか迷い込んだようだ。そして、王国が発見、討伐を行う前に、ザブリェットがであってしまた。本当に運がない。
金色に輝く瞳が、ザブリェットを睨みつける。そして、姿勢を低くして、今にも飛びかかりそうな様子。
この時、ザブリェットは混乱した。対処するための力は持っているはずだった。数えるのも嫌になる天使たちから受け取った、大量の祝福。ある意味チート能力の大量ゲット状態だったが、どれがどんな能力なのか把握しきれていないため、何をしたらいいのかわからない。
地龍がザブリェット目掛けて飛びかかる。鋭い爪を振りかぶった。
(あ、ダメだこれ……)
ザブリェットは静かに目を閉じると、横からつよい衝撃。息苦しさと痛みを感じながら地面を転げまわる。
その後、地龍が振り切ったことにより起こったつよい衝撃波がザブリェットを襲う。
ゴロゴロと転がって、木に激突することでようやく止まった。しかし、地龍という名の驚異が立ち去ったわけじゃない。
ザブリェットは、ダメ元で適当に能力を使おうとしたところで、キラリと輝く光が前を遮る。
ザブリェットの前に、輝く聖剣を構えた一人の少年が立っていた。
「大丈夫、僕に任せて」
そう言って、少年は地龍に向かって飛び出した。
空気を蹴って宙を舞い、硬い鱗の隙間を狙って聖剣を振るう少年の姿は、まるで勇者のようだ。
だけど、ザブリェットは、こんな胡散臭い男が大っきらいだった。
こう、歯をキラリとさせて、格好付けている奴にロクな奴がいないと信じているザブリェットにとって、少年は、台所のアレ並に嫌いな部類であり、近づきたくもない。
先ほど、少年に突き飛ばされたと思うと、背筋がゾクッとした。だから、ザブリェットは少年なんか目もくれず、服を払い続けたのだった。
そして、少年が激闘の末、地龍の勝利したころ。ザブリェットも、服をきれいにするのが終わり、少年から距離を取ろうとする。
「ちょっと待ってください、ザブリェット姫」
「な、なんですか、ケダモノ!」
「ケ、ケダ……まぁいいです。それよりも、城にお戻りください。ここは危険なんです」
「嫌よ。また家に閉じ込められる。もうあそこに戻るのは嫌なのよ!」
「でしたら、私が無理やり連れて行くしか……」
「行きます。ちゃんと行きますから、それ以上近づかないで!」
自由を手に入れるために逃げようとしても、この怪しいイケメンが襲ってきたら、今のザブリェットでは対処できない。逃げる選択肢がなくなっている以上、イケメンに触られない方法に従う。
こうして、ザブリェットは渋々とお城に戻ることになった。
***
当然、城に戻るとこっ酷く怒られた。だけど、誰ひとりとして、ザブリェットを心配しているものなどいなかった。
父親である国王をはじめ、格大臣たちの目つきや貴族たちの表情は、人を見るというよりも、道具を見るような目だった。
それがたまらなく怖いと感じたザブリェットは、泣きそうになるのをこらえて、素直に話を聞く。
「もう二度と、このようなことをしでかさないように、祝福を与えなければならん。あれをもって参れ」
国王の声に従い、三人ほどの神官が現れる。そして、ザブリェットを囲うように立ち、手をかざすと魔法陣が現れた。三人はザブリェットに祝福を施し始める。
「あ、ぐあぁあああぁあああ」
訳の分からない言葉を唱え続ける神官たち。それを聞くたびに身体全体に激痛がはしる。そして、ザブリェットの胸のあたりに、黒く光る文様が浮かび出てきた。
「これで、もう逃げることはないだろう。早く部屋に戻って仕事をしてもらおうか。連れて行け!」
「「「は!」」」
ザブリェットは、三人の神官に引きづられていき、部屋に閉じ込められた。
出してくれ、もう嫌だ。叫び続けても、誰も答えてくれない。完全な監禁状。
能力をつかって、脱出を試みるも、神官たちにやられた呪縛の呪いのせいで、何もできないことに気がついたザブリェットは、膝を地面に落とし、涙を流した。
(なんで、なんでこんなことをされなくちゃいけないの。これじゃあ、まるで囚人か何かじゃない。私がいった何をしたっていうのよ)
一日中泣いたザブリェットは、次の日から、ケロッとしたように、公務をしていた。
でも、内に宿る炎の勢いは増すばかり。今は能力が封印されていたとしても、必ずここを逃げ出して、自由気ままに過ごすんだと決意を固めていた。
そのために、何をしなければいけないのか。
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