喫茶店リーベルの五人姉妹+1
第八話『水紋に弟子入りってこれなんなの?……前編』
とある日の放課後、僕は学校の屋上に向かっていた。今時珍しい、生徒のために屋上を開放している学校だ。
ほら、いたずらしたり飛び降りちゃったりで屋上を開けていると問題が結構あるんだよ。だからこそ、普通は閉鎖されているんだけど、この学校は特別。生徒が学校を有意義に使えるように屋上が解放されているらしい。
変なことが起きないために、監視カメラと柵の一番上には電流が流れているという徹底ぶり。みんなからは監獄と呼ばれている場所だ。
そのためか、以外に人は少ない。告白するにもカメラがあると躊躇してしまうってもんだ。だって告白する瞬間を警備の人とかに見られるってことだからね。それに策を乗り越えようとしても、病院に運ばれそうになるぐらいの痛みに襲われる。
誰もそんなこと望んじゃいないのさ。
なぜ、僕がそんな屋上に行くことになったのかっていうと、菜乃華に呼び出されたからだ。朝、下駄箱を開けたら一通の手紙が入っていた。中を開けて見ると、放課後、屋上で待っているという短い文章が書かれた手紙。端っこに小さく菜乃華って書かれていた。
どっからどう見てもラブレターだよね? ってことは告白かな? あの漫画みたいに、あの漫画みたいに!
ちょっとウキウキしている僕がいる。クラスメイトどころか先生にすら女の子扱いされて、トイレも一苦労な僕だよ。女性との縁が一番遠いから彼女とか諦めていたのに。
まさか菜乃華から呼び出されるなんて。
頬がちょっと緩むのを感じながら、屋上の扉を開けると、三人の女子生徒がいた。
真ん中は菜乃華。端の二人は菜乃華とよく一緒にいる、秋山さんと遠野さんだ。
二人共かなり印象が強い性格をしている。
秋山美香さんは他人の恋路を知ってニヤニヤするのが好きらしい。いろんな噂を知っており、彼女に恋愛事情を聞けばなんでも教えてくれるとか。恋愛事情は生徒だけにとどまらず、先生たちのことまで知っている。
たまに女性の先生が秋山さんに恋愛相談しに来たりするんだよね。誰が独身で、誰が彼女持ちで、誰がフリーなのか、彼女にかかれば全てわかってしまう。その情報、一体どこで手に入れているんだろうっていうのが学校の七不思議になるぐらいだ。情報元を聞いても、秋山さんは絶対に答えてくれないだろう。
もう一人の遠野望愛さんは彼氏がいない女子からちょっと嫌われている。愛嬌ある性格とは裏腹に、他人の恋路を邪魔するのが趣味らしい。だけど、彼女の手にかかったカップルはかなり長続きするという。なんでも、邪魔されても絶対に離れないという強い絆が生まれるとか生まれないとか。
彼氏持ちの女子からは感謝されているらしいね。裏では秋山さんと手を組んで仕組んでいるって噂もある。
そんな二人の恋愛事情はというと、何にもない。彼氏がいたなんて噂も聞いたことないし、本人に聞くと、「私らに彼氏なんてできる訳がない」と断言するほど。
もしかしたら二人共同性愛者で、菜乃華を狙っているんじゃないかって噂が流れていたっけか。
「今日呼び出したのは、あんたに聞きたいことがあるのよ、冬雪ちゃん」
「一体どうしたって言うんですか、秋山さん。僕は呼び出されるような噂なんてないですよ。はは、この前別の学校の男子生徒に告白されたぐらいで……」
「なかなか面白そうね。だけど違う。今日こそはっきりさせるんだ!」
「一体何をですか」
「いつも望愛と一緒に聞いているのに、菜乃華がはっきりしてくれないのよ」
「そうそう、菜乃華ったらちょー頑固。はぐらかすばっかでどうしようもないんだから」
「というわけで、あんたに直接聞くことにしたわ。ぶっちゃけ、菜乃華とあんたは付き合ってんの。そこんとこどうなのよ!」
「そうだそうだ! はっきりさせろ!」
よくわからんことを言い出す二人の真ん中で、菜乃華が大きなため息を吐く。あれはかなり尋問されたんだな。それで結果が見えなかったから僕のところに来たのか。告白かと思っていたからかなり残念。
はぁ……彼氏…………じゃなくて彼女欲しいな。
「ちょっと、なんでそんな残念そうなのよ。ウチが呼び出してあげたのに、そんな顔をするなんて失礼じゃない?」
「だって……屋上に呼び出されたから告白かと。あの漫画みたいに。でも結果がこれでしょう。残念な気持ちにもなるよ」
「こ、こくーー馬鹿! あんた馬鹿なの。この女装野郎!」
「僕の女装は趣味じゃない! みんなが勝手にーー」
二人して言い合っていると、ニヤニヤ笑っている秋山さんと遠野さんが近づいて来る。
本当、下品な笑いをするな。このふたりの女子力は一体いくつなんだろう。皆無なんじゃないかな。下ネタが大好きなおじさんの雰囲気を感じ取れるよ。
「んで、実際のところどうなのよ。おじさんに教えてみぃ。ん? ん~」
「ほらほら、白状しちゃいなよ」
「別に付き合ったりとかしていないですよ。僕が菜乃華と付き合える訳ないじゃないですか!」
「ちょっと水紋! それってどういう意味よ。ウチに魅力がないとでも言いたいの。喧嘩売ってくるなんて、水紋のくせに生意気な」
「なんでそうなるんだよ。大体、菜乃華は僕のことを女として見ている感じがするから、菜乃華自身が僕のことを恋愛対象として見れないんじゃないかってことだよ」
「そんなのわかんないじゃない。ウチだってそういうふうに見ているかもしれないじゃない。大体、女の子五人に囲まれて生活しているのに、あんたはなんにも思わない訳?」
「思わないね。リーベルの五人姉妹はみんな家族のようなものだから、どっちかっていうと兄妹とかそんな感じに思っているよ」
「ふ、ふ~ん。そうなんだ。ばーか、ばーか!」
「そんなこと言っていると、今日の夕食にしいたけ入れるよ。好き嫌い少しは減らしてよね。献立考えるのってすっごい大変なんだから」
「う、それはそれ。これはこれよ。いいじゃない、少しぐらい嫌いな食べ物があったって。うう、ごめん、しいたけだけはやめて」
「ったく、最初っからそう言ってくれればいいのに。菜乃華は素直じゃないんだから……はっ!」
気がついた時にはもう遅い。二人に話を聞かれてしまった。秋山さんと遠野さんのニヤニヤが最高潮の状態だ。もう最悪。このあとの展開もなんか読めてきた。きっとおじさん二人は菜乃華の反応をイジって楽しんだあと、変な噂を流されるんだろうな。もういやだ、女の子怖い。
そして僕は…………この学校で大変な目に遭うんだろうな。最低最悪の鬼畜野郎とか、菜乃華たち五人姉妹を手玉にとったクソやろうとか。今の僕は鬱モード全開さ。
「冬雪ちゃんって料理できるの!」
「すごーい、他には、他にはなにができるの?」
……あれ、思ったところと違うツッコミが入ったような?
「菜乃華、白状しなさい。冬雪ちゃんとどういった関係。同棲しているところまでは知っているけど、どこまで進んでいるの! そして、冬雪ちゃんの女子力はどんだけなの!」
「そうよそうよ、五人姉妹の誰と付き合っているの! まさか、真麻ちゃん! 真麻ちゃんなの! ロリコンだ……。そして冬雪ちゃんの女子力はどんだけなの!」
「二人共。女子力って。水紋のお父さんと私のお父さんが知り合いで、住み込みアルバイトとして一緒に暮らしているだけ。だから付き合ったりとかないわよ。真麻は水紋のことをお母さん的な目で見ているし、遠くから見ている感じ、仲のいい親子に見えるよ。あと、水紋の女子力の高さはヤバイ。足が震えてくるレベル。
「「そ、そんなに!」」
「ええ、炊事洗濯はもちろん、裁縫なんかもできて、掃除も完璧。それどころか近所の奥様方と楽しく世間話して、まさに主夫……いや、主婦だよ。カバンの中にはメイクポーチはもちろん、ハンカチにティッシュ、絆創膏なんかもカバンの中に常備。意外にも可愛らしい言葉遣いができて、気配りも……できる。ちょっといたずらするとあどけない仕草とかして、もう女子力の塊って感じなのよ」
「「ゴクリ」」
「あ、なの~もうやめて欲しいな、なんて。小っ恥ずかしい」
「水紋は黙りなさい。それに、やっぱり料理ができる人ってかなり女子力が高いと思うの。かなり大変だけど、朝食はもちろん、お弁当もちゃんと作ってくれるのよ」
「え、菜乃華が食べている美味しそうなお弁当って冬雪ちゃんが作ったの!」
「すっご~い、私はあんなの作れないよ」
「まぁ、望愛はかなり不器用だしね。包丁もたせたくないわぁ」
「それ、ウチもわかる。怖いよね」
「うっさいよ、二人共!」
あははと笑い合う三人の暴走をとめられない。てか、僕は男なんだから女子力なんてあるわけないでしょこんちくしょう!
ほら、いたずらしたり飛び降りちゃったりで屋上を開けていると問題が結構あるんだよ。だからこそ、普通は閉鎖されているんだけど、この学校は特別。生徒が学校を有意義に使えるように屋上が解放されているらしい。
変なことが起きないために、監視カメラと柵の一番上には電流が流れているという徹底ぶり。みんなからは監獄と呼ばれている場所だ。
そのためか、以外に人は少ない。告白するにもカメラがあると躊躇してしまうってもんだ。だって告白する瞬間を警備の人とかに見られるってことだからね。それに策を乗り越えようとしても、病院に運ばれそうになるぐらいの痛みに襲われる。
誰もそんなこと望んじゃいないのさ。
なぜ、僕がそんな屋上に行くことになったのかっていうと、菜乃華に呼び出されたからだ。朝、下駄箱を開けたら一通の手紙が入っていた。中を開けて見ると、放課後、屋上で待っているという短い文章が書かれた手紙。端っこに小さく菜乃華って書かれていた。
どっからどう見てもラブレターだよね? ってことは告白かな? あの漫画みたいに、あの漫画みたいに!
ちょっとウキウキしている僕がいる。クラスメイトどころか先生にすら女の子扱いされて、トイレも一苦労な僕だよ。女性との縁が一番遠いから彼女とか諦めていたのに。
まさか菜乃華から呼び出されるなんて。
頬がちょっと緩むのを感じながら、屋上の扉を開けると、三人の女子生徒がいた。
真ん中は菜乃華。端の二人は菜乃華とよく一緒にいる、秋山さんと遠野さんだ。
二人共かなり印象が強い性格をしている。
秋山美香さんは他人の恋路を知ってニヤニヤするのが好きらしい。いろんな噂を知っており、彼女に恋愛事情を聞けばなんでも教えてくれるとか。恋愛事情は生徒だけにとどまらず、先生たちのことまで知っている。
たまに女性の先生が秋山さんに恋愛相談しに来たりするんだよね。誰が独身で、誰が彼女持ちで、誰がフリーなのか、彼女にかかれば全てわかってしまう。その情報、一体どこで手に入れているんだろうっていうのが学校の七不思議になるぐらいだ。情報元を聞いても、秋山さんは絶対に答えてくれないだろう。
もう一人の遠野望愛さんは彼氏がいない女子からちょっと嫌われている。愛嬌ある性格とは裏腹に、他人の恋路を邪魔するのが趣味らしい。だけど、彼女の手にかかったカップルはかなり長続きするという。なんでも、邪魔されても絶対に離れないという強い絆が生まれるとか生まれないとか。
彼氏持ちの女子からは感謝されているらしいね。裏では秋山さんと手を組んで仕組んでいるって噂もある。
そんな二人の恋愛事情はというと、何にもない。彼氏がいたなんて噂も聞いたことないし、本人に聞くと、「私らに彼氏なんてできる訳がない」と断言するほど。
もしかしたら二人共同性愛者で、菜乃華を狙っているんじゃないかって噂が流れていたっけか。
「今日呼び出したのは、あんたに聞きたいことがあるのよ、冬雪ちゃん」
「一体どうしたって言うんですか、秋山さん。僕は呼び出されるような噂なんてないですよ。はは、この前別の学校の男子生徒に告白されたぐらいで……」
「なかなか面白そうね。だけど違う。今日こそはっきりさせるんだ!」
「一体何をですか」
「いつも望愛と一緒に聞いているのに、菜乃華がはっきりしてくれないのよ」
「そうそう、菜乃華ったらちょー頑固。はぐらかすばっかでどうしようもないんだから」
「というわけで、あんたに直接聞くことにしたわ。ぶっちゃけ、菜乃華とあんたは付き合ってんの。そこんとこどうなのよ!」
「そうだそうだ! はっきりさせろ!」
よくわからんことを言い出す二人の真ん中で、菜乃華が大きなため息を吐く。あれはかなり尋問されたんだな。それで結果が見えなかったから僕のところに来たのか。告白かと思っていたからかなり残念。
はぁ……彼氏…………じゃなくて彼女欲しいな。
「ちょっと、なんでそんな残念そうなのよ。ウチが呼び出してあげたのに、そんな顔をするなんて失礼じゃない?」
「だって……屋上に呼び出されたから告白かと。あの漫画みたいに。でも結果がこれでしょう。残念な気持ちにもなるよ」
「こ、こくーー馬鹿! あんた馬鹿なの。この女装野郎!」
「僕の女装は趣味じゃない! みんなが勝手にーー」
二人して言い合っていると、ニヤニヤ笑っている秋山さんと遠野さんが近づいて来る。
本当、下品な笑いをするな。このふたりの女子力は一体いくつなんだろう。皆無なんじゃないかな。下ネタが大好きなおじさんの雰囲気を感じ取れるよ。
「んで、実際のところどうなのよ。おじさんに教えてみぃ。ん? ん~」
「ほらほら、白状しちゃいなよ」
「別に付き合ったりとかしていないですよ。僕が菜乃華と付き合える訳ないじゃないですか!」
「ちょっと水紋! それってどういう意味よ。ウチに魅力がないとでも言いたいの。喧嘩売ってくるなんて、水紋のくせに生意気な」
「なんでそうなるんだよ。大体、菜乃華は僕のことを女として見ている感じがするから、菜乃華自身が僕のことを恋愛対象として見れないんじゃないかってことだよ」
「そんなのわかんないじゃない。ウチだってそういうふうに見ているかもしれないじゃない。大体、女の子五人に囲まれて生活しているのに、あんたはなんにも思わない訳?」
「思わないね。リーベルの五人姉妹はみんな家族のようなものだから、どっちかっていうと兄妹とかそんな感じに思っているよ」
「ふ、ふ~ん。そうなんだ。ばーか、ばーか!」
「そんなこと言っていると、今日の夕食にしいたけ入れるよ。好き嫌い少しは減らしてよね。献立考えるのってすっごい大変なんだから」
「う、それはそれ。これはこれよ。いいじゃない、少しぐらい嫌いな食べ物があったって。うう、ごめん、しいたけだけはやめて」
「ったく、最初っからそう言ってくれればいいのに。菜乃華は素直じゃないんだから……はっ!」
気がついた時にはもう遅い。二人に話を聞かれてしまった。秋山さんと遠野さんのニヤニヤが最高潮の状態だ。もう最悪。このあとの展開もなんか読めてきた。きっとおじさん二人は菜乃華の反応をイジって楽しんだあと、変な噂を流されるんだろうな。もういやだ、女の子怖い。
そして僕は…………この学校で大変な目に遭うんだろうな。最低最悪の鬼畜野郎とか、菜乃華たち五人姉妹を手玉にとったクソやろうとか。今の僕は鬱モード全開さ。
「冬雪ちゃんって料理できるの!」
「すごーい、他には、他にはなにができるの?」
……あれ、思ったところと違うツッコミが入ったような?
「菜乃華、白状しなさい。冬雪ちゃんとどういった関係。同棲しているところまでは知っているけど、どこまで進んでいるの! そして、冬雪ちゃんの女子力はどんだけなの!」
「そうよそうよ、五人姉妹の誰と付き合っているの! まさか、真麻ちゃん! 真麻ちゃんなの! ロリコンだ……。そして冬雪ちゃんの女子力はどんだけなの!」
「二人共。女子力って。水紋のお父さんと私のお父さんが知り合いで、住み込みアルバイトとして一緒に暮らしているだけ。だから付き合ったりとかないわよ。真麻は水紋のことをお母さん的な目で見ているし、遠くから見ている感じ、仲のいい親子に見えるよ。あと、水紋の女子力の高さはヤバイ。足が震えてくるレベル。
「「そ、そんなに!」」
「ええ、炊事洗濯はもちろん、裁縫なんかもできて、掃除も完璧。それどころか近所の奥様方と楽しく世間話して、まさに主夫……いや、主婦だよ。カバンの中にはメイクポーチはもちろん、ハンカチにティッシュ、絆創膏なんかもカバンの中に常備。意外にも可愛らしい言葉遣いができて、気配りも……できる。ちょっといたずらするとあどけない仕草とかして、もう女子力の塊って感じなのよ」
「「ゴクリ」」
「あ、なの~もうやめて欲しいな、なんて。小っ恥ずかしい」
「水紋は黙りなさい。それに、やっぱり料理ができる人ってかなり女子力が高いと思うの。かなり大変だけど、朝食はもちろん、お弁当もちゃんと作ってくれるのよ」
「え、菜乃華が食べている美味しそうなお弁当って冬雪ちゃんが作ったの!」
「すっご~い、私はあんなの作れないよ」
「まぁ、望愛はかなり不器用だしね。包丁もたせたくないわぁ」
「それ、ウチもわかる。怖いよね」
「うっさいよ、二人共!」
あははと笑い合う三人の暴走をとめられない。てか、僕は男なんだから女子力なんてあるわけないでしょこんちくしょう!
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