太陽を守った化物

日向 葵

第二十八話~よーし、地下に行こうっ!~

「という訳でハクレイ、地下にやってきたぞー」

「わー」

 パルミナとハクレイはノリと勢いで王国の地下にやってきた。理由は全くない。ハクレイとパルミナは犯人だったらどこに潜伏するだろうと考えた。
 ハクレイたちは元は殺し屋だ。実験により化け物を埋め込まれた人の形をした悪魔とも言えるかもしれない。
 そんな殺し屋としての考えから、敵は地下にいるだろうと思ったらしい。
 なんの証拠もなく、思うがままに地下にやってきたわけだ。これからどうなるか、何が見つかるかなど、本人たちもわからない。

「さーて、ハクレイ、敵のにおいを探すのよ。それで直接的をボッコボコにしてやってつるし上げてやるわっ!」

「ここ、臭いから……無理」

「え、ちょ、ええー、これからどうするのよ」

「さぁ? 歩けば見つけられるんじゃない?」

「そうか、その手があったか。よし、適当に歩くわよっ!」

「おやつは?」

「揚げパンとバナナは許してあげる」

「わー、買ってくるっ!」

「行くな、調査するんでしょ」

「えー」

「ほら、さっさと行くわよ」

「わー、引っ張らないでよー」

 パルミナはハクレイを引っ張って王国の地下道を進んでいく。悪臭が漂って食べ物を食べる気になれそうにない場所なのだが、ハクレイは「揚げパンー、バナナー」と喚きだした。食に飢えたハクレイは意外と我がままなのだ。元々貧しい暮らしと激しい虐待を受けていたハクレイだ。それも仕方ないだろう。

 ハクレイを引っ張りながら進むパルミナはあることに気が付く。それは、悪臭の中に錆びた鉄と腐った肉の匂いが混じっていたことだ。どう見ても誰かが死んでいる。
 パルミナはどうせ誰か捨てられたんだろうなーとあまり気にしないことにした。
 歩いていると、案の定死体が転がっていた。その死体はハクレイと同じぐらいの年齢だろうと思われる少女の死体。その死体にハクレイは少し違和感を感じる。

「ねぇ、これ調べたいんだけど」

「そんな死体ほっときなさいよ、別にどうでもいいでしょう?」

「でも、何か感じるんだよね」

 ハクレイは掴まれたパルミナの腕を振りほどいて、少女の死体に近づいた。
 少女の死体は、ハクレイと同じぐらいの年頃だが、どこか苦痛にまみれて死んだように思える。また、元々は茶色い髪をしていたのだろうが、半分ほど金色に変色していた。腕はネコ科の動物のような動物に変化している。まるでハクレイは白い獣を受け入れた時に起こった変化のようだ。
 ハクレイも今は真っ白な髪をしているが、これは白き獣を体に取り込んだことによって起こった現象だ。
 もしかしたら、この少女も同じようなことが起きていたのかもしれない。ハクレイやパルミナと同じ、化け物を体に埋め込む実験。この実験はグランツ研究所で、サデスが主体として行ってきたものだった。
 グランツ研究所がなくなってこの実験も終わったはずだった。それに、ハクレイはもう一つ気になることがあったのだ。それは、この獣に変色した場所についてだ。
 ハクレイの中にいる白い獣が訴えかけてくる。懐かしい感じがすると。
 もしかしたら、ハクレイに埋め込まれた白き獣と同様の、聖獣と呼ばれる獣なのかもしれない。

「パルミナ、これ攻撃してよ」

「え、嫌よ。なんで死体を攻撃しないといけないのよ。そんな罰当たりなこと、できない」

「そんな、まっとうな人間じゃあるまいし」

「まっとうな人間よっ! 仕事以外に殺しなんてしたことない」

「いや、それでもまっとうじゃないから」

「うう、言い返すことが出来ない。ハクレイのくせに……」

「ふっふーん」

 ハクレイは特大のドヤ顔をした。パルミナは悔しそうに唸る。
 というか、四つん這いになって悔しそうに地面をたたき始めた。
 くすっと笑うハクレイを見てしまったパルミナは、ぎりぎりと歯を食いしばり、瞳からほろりと涙が流れた。
 こんなバカなことをやっている場合ではないのだが、やらずにはいられないらしい。

「し、仕方ないわね。やってやろうじゃない」

 パルミナはハクレイの言う通り、仏さんに攻撃しようとしたが、ハクレイに静止される。

「ちょっと邪魔しないでよ。攻撃してって言ったのハクレイでしょ」

「違う、そこじゃない。こっちを攻撃して」

 ハクレイが指をさしたのは、獣の姿に変わってしまった部分だった。ハクレイの感が正しければ、パルミナの攻撃は一切と通らないはずだ。
 聖獣は聖獣にしか傷つけられることが出来ない。それは、リーナス領で戦った死龍会のボスであり、世界で死を振りまく黒龍と恐れられたニーズと戦った時に分かっていることだ。
 パルミナは仕方ないなーと言いながら、獣になった個所をお得意の毒物を吹きかけた。
 が、傷一つつかなかった。

「あれ、なんでかな。爆発してみようか」

 パルミナは埋め込まれた化け物の力を使って死体を爆破させた。肉片が飛び散り、死体が消え去ったかのように思えた。
 だが、金色に変色した部分と獣に変わってしまった部分だけ残ったのだ。

「なにこれ、怖い……」

「そりゃそうだよね。えいやっ!」

 ハクレイが自分の爪で腕を傷つけてみると、あっさりと傷ついた。それを見たパルミナは口を開けて呆然と見つめていた。

「ハハハ、ハクレイ! あんたいったいどんな手品をしたのよっ!」

「てへ!」

「てへ! じゃないわよっ! だから何をしたのか言いなさいっ!」

「パルミナは私に攻撃しても傷一つつけられないよね。っぷ」

「笑うなっ! 確かにそうなんだけどさ、その笑い方うざいわ」

「っぷ、って笑い方は楽しいよね。おちょくった後の相手の反応がいいわー」

「最近うざさが誰かに似てきている気がする、あのすげぇうぜぇツインテールのろくでなしに……」

 パルミナは戦う前のすごくうぜぇあいつを思い出した。そして憤怒した。あいつは確かにうざかった。それと同じことをやられれば怒るのも無理はない。
 ぷりぷり怒るパルミナに、ハクレイは頭をひっぱたいて先に進む。
 ちょっと待ってと言ったのはどこのどいつだよと愚痴を言いながらも、その後ろをついていった。

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