太陽を守った化物

日向 葵

第十五話~ゲスなパルミナ、盾を使う~

「まあ、お説教というのは半分ほど冗談だがな」

「「そりゃそうだろうな」」

 騎士が賊を捕えてお説教だけなんてありえない。普通、貴族の家に忍び込んで悪事を働いたなら犯罪奴隷どころではない。確実に死刑になる。それがお説教だけなんて、頭のおかしいやつしか言わない。というか、このレベッカという騎士は確実に頭がおかしいのだろう。
 お説教が冗談なのは半分だけだというのだから。

「キサマら、昼間の奴らだよな。変態の仲間を潔く渡してくれた。私は一応人を見る目はあるつもりだ。キサマらはそこまで悪い事を考える奴らじゃないだろう。どうだ、ここで引いてくれるならお説教だけで済ましてやるぞ?」

「「…………」」

 こいつ、もうダメなんじゃないだろうかとパルミナとハクレイは思った。こいつ、やっぱり馬鹿だ。だが、馬鹿はありがたい。うまく騙せば、あっさり殺せるだろう。
 これなら楽に作戦を実行できる。パルミナはそう思ったのだが、ハクレイがそれを台無にしてしまう。

「いや。私たちは言われたことをしなきゃいけないの」

「ちょ、何言ってんの、ハクレイ!」

「ふぇ? だって、命令は絶対でしょ? 命令を成し遂げることこそが至高の喜び! って、施設のおじさん方が言ってたけど?」

「いや、そりゃ言ってたけどさ! もうちょっと考えて行動しようよ。命令を成し遂げる為にさぁ!」

「いやぁ、それほどでも、へへへ」

「褒めてないから! 褒めてないからぁ!」

 とまあ、こんな感じに、敵を目の前にして漫才を始める始末。この二人も、レベッカ同様に馬鹿と言わざるおえないだろう。

「ふむ、おとなしく捕まってはくれないようだな。命令か……。お前たちも苦労しているみたいだな」

「はは、それほどでも。へへへ、褒められた!」

「だからハクレイ! それ、褒められていないから!」

「はははは、元気で愉快な奴らだな。大方、サデスとかいうクソッタレにつかえているのだろう?」

「「な、なぜわかった!」」

「いや、なぜって。ウチの領主を狙っているのなんてあいつしかいないし。ここらじゃ一般常識だよ? もしかして、そんなことも知らされていなかった? ぷーくすくす。ばーかばーか」

「「こいつうぜぇ」」

 だけど、まさかサデスの名前が出てくるとは思わなかったハクレイたち。でもその思考は一瞬で消え去った。それよりもウザさが際立つこの騎士をどうしてくれようかと考えたのである。オーク、ゴブリン、ここにいないルーイエが今一番いてほしいとまで思った。
 触手なら、それなりのことができただろう。だが、触手ルーイエがいない以上、考えても仕方がないだろう。

「さて、悪ふざけはここまでにしようか。私としては、お説教で済ませたかったんだけど。でも、敵対しているところのやつだから、しょうがいないよねっ!」

 女騎士レベッカは、剣を抜いて襲いかかってきた。漫才中だったハクレイたちは不意を突かれて、対応に遅れてしまう。
 が、パルミナは躊躇なくハクレイを盾にした。

「ぐああああああああああ」

「な、何!」

 パルミナの行動に驚愕するレベッカは、思わず後方に下がってしまう。
 斬られたハクレイは、あるはずのない傷口を押さえながら、地面にのたうち回った。

「痛い、斬られた、死んじゃう!」

「貴様! 仲間を盾にするとは、なんたる外道。流石は、下郎のサデスの部下だな。私には考えられない」

「うう、パルミナ……あとはまか……せた……よ」

 ハクレイは無念とばかりに後を託そうとする。そんなハクレイの姿に、パルミナは大きなため息を吐いた。

「あんたねぇ、自分の特性を忘れたの? あんたがあの程度で傷つくわけないじゃない」

「あ、そういえばそうだ。で、でも痛かった!」

「それは仕方がない。しっかり盾役をしてね」

「い、いやだ~~~~」

 いやいやと首を振るハクレイ。
 パルミナはたのしそうにほくそ笑む。パルミナも案外ゲスのようだ。

「き、貴様、なぜ剣で斬られたのに傷一つない!」

「そういう体質だから?」

「いやいや、そうじゃなくて! くそ、これでは賊を仕留められない。なら、先に狙うは!」

 レベッカは姿勢を低くして、前に出た。その速度は凄まじく、あっという間にハクレイとパルミナに近づいた。
 が、危険種を埋め込まれているパルミナとハクレイには造作もないこと。避けるのは簡単のはずだった。

「ハクレイガード!」

「ぐはあああああああああああ」

「ま、またか! 外道め!」

「ちくしょおおおおおお、パルミナアアアアア」

「てへ、またやっちゃった!」

 舌をペロちゃんのようにだして、笑うパルミナにハクレイの怒りのボルテージは上昇した。
 再びレベッカは斬りかかるが、それら全てをパルミナは防いでみせた。ハクレイを使って。

「いた、ぐえぇ、なんで、なんでぇぇぇぇ」

「元々そういう作戦だったじゃない。しっかり守ってね!」

「くっそおおおおおおおおおお」

 ハクレイは頑張って耐えた。レベッカに剣を振るわれる度に、斬られた箇所に激痛が走る。痛いと叫んでも、パルミナはハクレイを盾にすることをやめない。
 ハクレイも逃げればいいだろうに。だけど、不意に引っ張られて抵抗できないというか、痛みでそれどころではないらしい。
 ハクレイ、なんてかわいそうなんだ。

「はあはあ……これだけ斬っても傷一つ付けられないなんて。いったいどんな鍛え方をしたらそうなる」

「血の滲むような筋トレ?」

「き、筋トレ……だとっ!」

「うん、筋トレ、あいたたた」

 痛そうにするハクレイと、驚愕するレベッカ。見ているパルミナにはため息しかでない。
 というか、ハクレイが筋トレをしたことを見たことないパルミナは、デタラメをいうハクレイをジト目で見つめる。

「っく、鍛え上げられた筋肉は剣で斬れないのか。くっそ……。だったら!」

 再び剣で斬りかかるレベッカ。もちろんながらパルミナはハクレイを使ってガードしようとする。
 斬りかかったレベッカの剣はハクレイに直撃した。レベッカは剣を振った勢いのまま回転して、廻し蹴りをハクレイに食らわす。それによりハクレイが吹き飛んだ。パルミナがつい手を離してしまったようだ。。
 無防備になるパルミナに、レベッカは再び斬りかかる……が、それはうまくいかなかった。

「あ、あれ?」

「はあ、ようやく効いてきたみたいね」

「き……さま、なに………を」

「なにって、毒に決まっているじゃない。私の体には、毒と爆発を司る特AAAクラスの危険種、エルドナハラが埋め込まれているのだから。ふふ、苦しい? 苦しいかしら!」

「わ、私……は、おまえに……、いったい……どうして」

「このあたりに毒を拡散させたから。あなたって毒にある程度の耐性があるのね。おかげで、効果が出るまでに時間がかかっちゃったじゃない」

「な……かま……」

「ああ、ハクレイのこと? あれ、私の毒が効かないのよ。不思議ね」

「だって、鍛えてますから!」

 むくりと立ち上がり、元気よく返事をするハクレイ。吹き出しそうになったパルミナは、口元を押さえながら、レベッカを見下ろした。
 本当にお頭が残念なやつだなーと思いながら。

「ねえ苦しい? 苦しいの? だったら気持ちよくさせてあげようか? 私、覚せい剤っぽいのとか媚薬っぽいのとか作れるの。はは、はっははは。爆破出来ないのは残念だけど、毒って割と楽しいものよ。ハッピーな状態で死ねるからね。へへへへへ」

「パルミナ、変態っぽい。いや、変態?」

「う、うっさいわよ、ハクレイ! エルドナハラはそういう性質の危険種なの! 茶化すな!」

「うう、痛い」

「なんで痛がるの! 私、なんにもしていないのに!」

 殺し合いをしていたはずなのに、どうも残念な雰囲気が漂い始める。
 ハクレイは仕返しとばかりにボケて、パルミナが無意識の内に突っ込みを入れてしまう。
 ムキーっと言いながら、地団駄を踏むその姿は、どこにでもいる少女のようだ。
 だけど、世界は理不尽で残酷で、碌でもない。
 至って普通の少女に見えるパルミナとハクレイは、毒で弱りきったレベッカを、きゃっきゃうふふ、と無残に殺した。

 そして……。

 くぅ~~~~~。

 可愛らしいお腹の音かなったのだ。

「あんた……まさかっ!」

「え、えへへへ。お肉見たらお腹すいちゃった」

「あんた、今戦っていた敵の死体をお肉っていうのはどうなのかしら?」

「それはそれ、これはこれ。多分、フェリアって白い獣は、狼だったんだよ。多分。肉食だからしょうがないよね!」

「多分ってあんた……。まあいいわ。行くわよ」

「うん! あ、そうだ」

 ハクレイは、目の前を歩くパルミナの後頭部を思いっきり叩いた。

「あいた! なんで!」

「さっき盾にした仕返し」

「くぅぅぅぅぅぅ、作戦通りにやっただけなのに」

「一発で勘弁してやった」

「ごめんね、ふん」

「だが、隙を見せたらまた……」

「もう勘弁して!」

 とまあ、グダグダしながら、先に進むことにしたようだ。残すは領主の館。
 さてさて、どうなることやら。

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