太陽を守った化物
第十四話~とても残念な気がする~
翌日の夜
一日中体を痙攣させ続けたルーイエが青い顔をしながら、起き上がった。それをパルミナが蹴っ飛ばし、足で踏みつける。
そんなバカを見ないようにしながら、バッソは全員前に立った。
「これからリーナス家の糞共の根城を襲撃する。準備はいいか、クソったれども!」
「あ、あの…………私は…………もうダメ………」
「ルーイエ。シャッキっとしなさい。覚せい剤を打つわよ」
「それよりも…………ハクレイちゃんの体液を…………」
「死ね、変態! 死ね!」
「おい、ゴミ。さっさと準備しやがれ」
「ゴミって私! ひどくないですか! バッソ隊長!」
「そうっすよ。ルーイエは俺たちと行動して、敵をいたぶらなきゃいけないっすよ。へへ、考えただけでゾクゾクするっす」
「んもう、ダメよ、グランディ。ちゃんとバッソ隊長の為に身を犠牲にしてでも戦わないと。そこのゴミはゴミらしく、バッソ隊長の盾になりなさい!」
「皆ひでぇ…………。ハクレイちゃん、慰めて」
「死ね」
抱きついてこようとしたルーイエを蹴っ飛ばした。パルミナの毒でさっきまで苦しんでいたルーイエの顔が更にひどいことになる。
他の全員は、ざまーないと思いながら、バカなルーイエを引きずって、目的地に向かう。
引きずられるルーイエが余りにも喚くので、グランディによって、気絶させてからだったが……。
まあ、バカのことを気にしても仕方ないだろう。
◇
夜だからだろうか、怪しげな雰囲気を漂わせるリーナス家の屋敷。似ている雰囲気を漂わせる場所で例えるなら、ニーズと戦った廃墟となった砦だろう。アンデットが蔓延っている訳ではないが、カラスやクロネコなど、不吉の象徴のような動物たちが、うろついていた。
現在、リーナス家正面入口付近にいるのはパルミナとハクレイのみだ。
バッソとデルのチームのグランディと変態のチームは側面から襲撃する算段となっている。
バッソたちの調査の結果では、なぜか側面に戦力が集中していた。正面の防衛に携わっているのはただひとり。それだけならパルミナとハクレイでどうにかなるとバッソは判断した。ちなみに、正面が一人な理由はリーナス家に使える最強の騎士が守っているとか、いないとか、そんな噂が流れていたが、所詮は人間。パルミナとハクレイの敵ではないだろう、と考えられたらしい。
なにせ、パルミナには毒と爆発を武器にした危険種、ハクレイに至っては聖獣と呼ばれている白き獣の力が宿っているのだ。このふたりを滅ぼせるとしたら、ニーズのような、理不尽的力を持っているやつぐらいだろう。
「ん、なんだろう」
「どうしたの、ハクレイ?」
「なんか、背筋がゾクッとするような気配を感じた気がする」
「それは……アレね」
正面入口で少しだけ待っていると、内部が少しざわついたような気配がした。だけど、周りは静かなままのようだ。おそらく、侵入した際に、バカが騒いだのだろう。でも、それでバッソたちが侵入に成功したということがわかった。ハクレイとパルミナが侵入開始する時刻には少しだけ早かったが、行動開始することにした。
といっても、バカのような行動はしない。バカなら、正面をいきなり壊して堂々と入りそうな気がするけど、それをやるのは、ハクレイのことしか頭にないバカだけだ。
リーナス家が保有している屋敷の敷地はかなり広い。その周りを石作りの壁と鉄格子で囲っていた。壁の上は有刺鉄線が張り巡らされており、侵入は困難だと思える。
まあ、バッソたちのチームは力自慢系なので、簡単に飛び越えられるだろう。
ただ、ハクレイとパルミナには不可能だった。
だったらどうやって侵入するのか!
そんなのは簡単だ。
まずハクレイが壁を登る。そんなことは、獣の力を使わずともどうにかなる。下からロープを投げて、引っ掛け、そのまま登ればいい。
そして、頂辺にある有刺鉄線。それにハクレイが覆いかかぶさった。ハクレイは聖獣の力を宿しているため、同じ聖獣クラスの化物でなければ傷つけられることはない。ただし痛みは別だ。
「うう、痛い」
「ちょっと、ハクレイ。我慢しなさいよ。揺れたら落ちる、ああ、落ちちゃうっ!」
後から登ったパルミナは、有刺鉄線に覆いかぶさるハクレイの上から敷地内にはいる予定だった。そうすれば、毒と爆発しか取り柄のないパルミナでも、無事に侵入できるのだが、それには、ハクレイが痛みに耐える必要がある。
有刺鉄線に覆いかぶさるハクレイの上に乗るパルミナ。体重が掛かることによって、有刺鉄線のトゲがハクレイに喰い込むように……。
トゲが刺さることはないが、刺さった時以上の痛みがハクレイを襲う。そりゃ痛いと叫びたくなるわけだが、我慢しなければパルミナが落ちる。無事に侵入できない。
だが、痛い、痛いのだ! ハクレイはまだ少女。痛みに耐えろなんて酷な話だろう。
当然、反射的に有刺鉄線から離れようと動いてしまう。
でも、ハクレイの上にはパルミナがいる。体重がのしかかり、離れたくても離れない状態が生まれた。
痛みを与える有刺鉄線から離れようとして、パルミナから体重をかけられて、そんな繰り返しをしていれば体が揺れてしまうのも無理はない。
その結果、ハクレイは痛みに耐え切れず……敷地内に落ちた。
「ぐえぇ」
「あう……。ハクレイ! あんた、もうちょっと我慢しなさいよ!」
女の子らしかぬ声を上げたハクレイに文句を言うパルミナ。ハクレイは、落ちたときの体制が悪かったせいで、頭から地面に激突したのに、その対応はあんまりだ。ハクレイの瞳に大粒の涙がほろほろと……。
だが、そんな事関係ないとばかりに、パルミナが罵倒してくる。ひどい、酷すぎるとハクレイは思った。
「ほら、そんなところでぐずってないで、さっさと仕事するわよ」
「私の扱いがひどい件について」
「あんたは怪我しないんだから、大丈夫でしょ?」
「でも、痛いんだよ! うう、ひどい……」
「そうかそうか、痛いのか。怪我はないか、大丈夫か?」
「うう、すごく痛い。パルミナ……」
「ちょっとハクレイ、なにブツブツと独り言をいっているのよ」
「え、パルミナが心配してくれているんじゃないの?」
「なんてひどい仲間なんだろうな。大丈夫だ。傷付いたなら私がどうにかしてやろう」
「え、ほんと! 嬉しいな」
「だからハクレイ! あんた、一人でブツクサと何言ってんのよ。みつかっちゃうでしょ」
「そ、そういえばそうだった!」
「何がそうだったのだ?」
「えっとそれは………………ん?」
「さっさと行く…………え?」
「ん? どうしたんだ二人共?」
「「………………あんた誰?」」
敷地に侵入したハクレイとパルミナの会話に自然と混ざっている謎の人物。それはリーナス家の紋章が刻まれた鎧を身につけた女騎士。
どこかで見たことあるなと、ハクレイとパルミナは思った。夜のためか、顔がよく見えないので、目を凝らしてじっと見つめる。
すると、空の雲がどいて月明かりが場を照らしたのか、はっきりと女騎士の顔を見ることができた。
その女騎士は……ルーイエを連行したやつだった。
「我が名はレベッカ。リーナス家に仕える筆頭騎士である。諸君らは、ここがリーナス家の敷地と知って侵入してきた賊だな。私がキサマらを捕えてやる!」
「と、捕らえられたら何されるの?」
「バカ、ハクレイ! そんなの決まっているでしょ!」
「ああそうさ。決まっているともさ」
女騎士レベッカは、大きく息をすってーー
「お説教だ!」
ドヤ顔でそう言った。
「「………………それだけ」」
「うむ、それだけだ! 私は優しいからな!」
「「そうですか。そうなんですか…………はあ」」
ハクレイとパルミナにはそれしか言えなかった。それと同時にこうも思った。
この女騎士、とても残念そうだ、と。
一日中体を痙攣させ続けたルーイエが青い顔をしながら、起き上がった。それをパルミナが蹴っ飛ばし、足で踏みつける。
そんなバカを見ないようにしながら、バッソは全員前に立った。
「これからリーナス家の糞共の根城を襲撃する。準備はいいか、クソったれども!」
「あ、あの…………私は…………もうダメ………」
「ルーイエ。シャッキっとしなさい。覚せい剤を打つわよ」
「それよりも…………ハクレイちゃんの体液を…………」
「死ね、変態! 死ね!」
「おい、ゴミ。さっさと準備しやがれ」
「ゴミって私! ひどくないですか! バッソ隊長!」
「そうっすよ。ルーイエは俺たちと行動して、敵をいたぶらなきゃいけないっすよ。へへ、考えただけでゾクゾクするっす」
「んもう、ダメよ、グランディ。ちゃんとバッソ隊長の為に身を犠牲にしてでも戦わないと。そこのゴミはゴミらしく、バッソ隊長の盾になりなさい!」
「皆ひでぇ…………。ハクレイちゃん、慰めて」
「死ね」
抱きついてこようとしたルーイエを蹴っ飛ばした。パルミナの毒でさっきまで苦しんでいたルーイエの顔が更にひどいことになる。
他の全員は、ざまーないと思いながら、バカなルーイエを引きずって、目的地に向かう。
引きずられるルーイエが余りにも喚くので、グランディによって、気絶させてからだったが……。
まあ、バカのことを気にしても仕方ないだろう。
◇
夜だからだろうか、怪しげな雰囲気を漂わせるリーナス家の屋敷。似ている雰囲気を漂わせる場所で例えるなら、ニーズと戦った廃墟となった砦だろう。アンデットが蔓延っている訳ではないが、カラスやクロネコなど、不吉の象徴のような動物たちが、うろついていた。
現在、リーナス家正面入口付近にいるのはパルミナとハクレイのみだ。
バッソとデルのチームのグランディと変態のチームは側面から襲撃する算段となっている。
バッソたちの調査の結果では、なぜか側面に戦力が集中していた。正面の防衛に携わっているのはただひとり。それだけならパルミナとハクレイでどうにかなるとバッソは判断した。ちなみに、正面が一人な理由はリーナス家に使える最強の騎士が守っているとか、いないとか、そんな噂が流れていたが、所詮は人間。パルミナとハクレイの敵ではないだろう、と考えられたらしい。
なにせ、パルミナには毒と爆発を武器にした危険種、ハクレイに至っては聖獣と呼ばれている白き獣の力が宿っているのだ。このふたりを滅ぼせるとしたら、ニーズのような、理不尽的力を持っているやつぐらいだろう。
「ん、なんだろう」
「どうしたの、ハクレイ?」
「なんか、背筋がゾクッとするような気配を感じた気がする」
「それは……アレね」
正面入口で少しだけ待っていると、内部が少しざわついたような気配がした。だけど、周りは静かなままのようだ。おそらく、侵入した際に、バカが騒いだのだろう。でも、それでバッソたちが侵入に成功したということがわかった。ハクレイとパルミナが侵入開始する時刻には少しだけ早かったが、行動開始することにした。
といっても、バカのような行動はしない。バカなら、正面をいきなり壊して堂々と入りそうな気がするけど、それをやるのは、ハクレイのことしか頭にないバカだけだ。
リーナス家が保有している屋敷の敷地はかなり広い。その周りを石作りの壁と鉄格子で囲っていた。壁の上は有刺鉄線が張り巡らされており、侵入は困難だと思える。
まあ、バッソたちのチームは力自慢系なので、簡単に飛び越えられるだろう。
ただ、ハクレイとパルミナには不可能だった。
だったらどうやって侵入するのか!
そんなのは簡単だ。
まずハクレイが壁を登る。そんなことは、獣の力を使わずともどうにかなる。下からロープを投げて、引っ掛け、そのまま登ればいい。
そして、頂辺にある有刺鉄線。それにハクレイが覆いかかぶさった。ハクレイは聖獣の力を宿しているため、同じ聖獣クラスの化物でなければ傷つけられることはない。ただし痛みは別だ。
「うう、痛い」
「ちょっと、ハクレイ。我慢しなさいよ。揺れたら落ちる、ああ、落ちちゃうっ!」
後から登ったパルミナは、有刺鉄線に覆いかぶさるハクレイの上から敷地内にはいる予定だった。そうすれば、毒と爆発しか取り柄のないパルミナでも、無事に侵入できるのだが、それには、ハクレイが痛みに耐える必要がある。
有刺鉄線に覆いかぶさるハクレイの上に乗るパルミナ。体重が掛かることによって、有刺鉄線のトゲがハクレイに喰い込むように……。
トゲが刺さることはないが、刺さった時以上の痛みがハクレイを襲う。そりゃ痛いと叫びたくなるわけだが、我慢しなければパルミナが落ちる。無事に侵入できない。
だが、痛い、痛いのだ! ハクレイはまだ少女。痛みに耐えろなんて酷な話だろう。
当然、反射的に有刺鉄線から離れようと動いてしまう。
でも、ハクレイの上にはパルミナがいる。体重がのしかかり、離れたくても離れない状態が生まれた。
痛みを与える有刺鉄線から離れようとして、パルミナから体重をかけられて、そんな繰り返しをしていれば体が揺れてしまうのも無理はない。
その結果、ハクレイは痛みに耐え切れず……敷地内に落ちた。
「ぐえぇ」
「あう……。ハクレイ! あんた、もうちょっと我慢しなさいよ!」
女の子らしかぬ声を上げたハクレイに文句を言うパルミナ。ハクレイは、落ちたときの体制が悪かったせいで、頭から地面に激突したのに、その対応はあんまりだ。ハクレイの瞳に大粒の涙がほろほろと……。
だが、そんな事関係ないとばかりに、パルミナが罵倒してくる。ひどい、酷すぎるとハクレイは思った。
「ほら、そんなところでぐずってないで、さっさと仕事するわよ」
「私の扱いがひどい件について」
「あんたは怪我しないんだから、大丈夫でしょ?」
「でも、痛いんだよ! うう、ひどい……」
「そうかそうか、痛いのか。怪我はないか、大丈夫か?」
「うう、すごく痛い。パルミナ……」
「ちょっとハクレイ、なにブツブツと独り言をいっているのよ」
「え、パルミナが心配してくれているんじゃないの?」
「なんてひどい仲間なんだろうな。大丈夫だ。傷付いたなら私がどうにかしてやろう」
「え、ほんと! 嬉しいな」
「だからハクレイ! あんた、一人でブツクサと何言ってんのよ。みつかっちゃうでしょ」
「そ、そういえばそうだった!」
「何がそうだったのだ?」
「えっとそれは………………ん?」
「さっさと行く…………え?」
「ん? どうしたんだ二人共?」
「「………………あんた誰?」」
敷地に侵入したハクレイとパルミナの会話に自然と混ざっている謎の人物。それはリーナス家の紋章が刻まれた鎧を身につけた女騎士。
どこかで見たことあるなと、ハクレイとパルミナは思った。夜のためか、顔がよく見えないので、目を凝らしてじっと見つめる。
すると、空の雲がどいて月明かりが場を照らしたのか、はっきりと女騎士の顔を見ることができた。
その女騎士は……ルーイエを連行したやつだった。
「我が名はレベッカ。リーナス家に仕える筆頭騎士である。諸君らは、ここがリーナス家の敷地と知って侵入してきた賊だな。私がキサマらを捕えてやる!」
「と、捕らえられたら何されるの?」
「バカ、ハクレイ! そんなの決まっているでしょ!」
「ああそうさ。決まっているともさ」
女騎士レベッカは、大きく息をすってーー
「お説教だ!」
ドヤ顔でそう言った。
「「………………それだけ」」
「うむ、それだけだ! 私は優しいからな!」
「「そうですか。そうなんですか…………はあ」」
ハクレイとパルミナにはそれしか言えなかった。それと同時にこうも思った。
この女騎士、とても残念そうだ、と。
コメント