太陽を守った化物
第九話~黒髪ツインテールの少女~
「……何あれ」
「わからない、とっても不気味だわ」
「うう、か、顔は可愛くて好みなのに……あれは無理だ」
ハクレイ、パルミナ、ルーイエは謎の言葉を発しながらツインテールを振り回す黒い少女を見つめていた。
どっからどう見ても頭がおかしい。もしかして、アレな人? と感じてしまうのも無理はない。
だけど周りから起こる爆笑。もしかしたら芸人なのかもしれない。そう思っていたハクレイたちだったが、本人は本気でやっているようなので、救いのない哀れな人を見る視線に変わる。
「とう、えい、やー。うう、お空を飛びたいのに飛べない残念ツインテール……」
その場で項垂れる黒い少女。集まった人々はおひねりを少女に投げた。
周りの人たちも芸人だと思っていたようだ。
黒い少女は「さあ、次行くよ!」と元気よく立ち上がった。どうやらこの茶番はまだ続くらしい。
「ねぇ、あれに関わると碌でもないことになる気がするんだけど……」
「ハクレイが言いたいことはすごくわかる。さっさとここから立ち去ろうか。いい情報も手に入れられそうにないしね。ルーイエはそれでいい?」
「キャハハ、別にかまわないよ。見た目だけの女に興味はない! 私はハクレイちゃん一筋なんだから。一緒にデートしようぜぇ」
「死ね!」
ハクレイと腕組しよとしてきたルーイエを反射的に殴った。頬を抑えながら「痛い……だけどそれがいい!」と変態極まりないことを言い出したので、あの黒いのとルーイエは同類なんじゃないかとハクレイは思う。
立ち去る間際、芸人ならおひねりぐらい渡さないと失礼だと思ったのか、少ないお小遣いを黒い少女に向かって三人は投げた。
「ありがとー…………お?」
そこで黒い少女はハクレイと目が合った。
黒い少女は何か気になることがあったようで、顔つきが変わる。ハクレイは本能的に危険を感知して、その場その場から立ち去ろうとした。
だが、それは無駄に終わる。なにせ黒い少女はーー。
「そこの白いの、ちょーっと待った!」
大きな声でそう叫んだのだから。周りの人々の視線がハクレイに集まる。
そして、野獣のような目つきに変わった。それも無理はない。ここにいるのは荒くれ者のような奴らばっかりだ。
ハクレイは髪も白く、肌も白に近い。赤い瞳をしており、顔は幼いながらもかなり可愛らしい。命を張るような男どもが無垢な少女に欲情してしまうのも無理はない。
ハクレイはその視線にぞっとして、周りを威嚇し始めた。
ルーイエは、ハクレイに向けられた視線に怒り、今にも暴走しそうだ。パルミナがなんとか抑えているが、それも時間の問題かもしれない。
そんな野獣のような男どもを無視して、黒い少女がハクレイの近くに寄った。
「そこの白いキミ! ちょっといいかな?」
そう言って、黒い少女はハクレイに近づいて、突然匂いを嗅ぎ始めた!
「くんくん、くんくん」
「ひぃ! 何をするの!」
「この匂い……本物? だけどあいつは死んだはず。なのにどうして……血族? でもあいつにはいなかったはずだし……これは一体?」
「いい加減にして!」
ハクレイが大きな声で怒った。それに気がついた黒い少女は「ごめんね~」と軽い感じに謝って、ハクレイから離れた。
ルーイエは怒りが限界突破して暴れ始める。もうパルミナには止められない。触手は使わなかったが、ルーイエはフェルシオンに所属するプロの殺し屋だ。そこらのゴロツキに負けはしない。
野獣のような視線を送っていた男どもが蜘蛛の子を散らすように立ち去って、気が付けば黒い少女とハクレイたちだけになった。
「あはは、匂いを嗅がれるのは嫌だよね~。でもでも! 君って私の大好きなやつと同じ匂いをしていたから! もしかしたら! って思ったんだけどやっぱり違うみたい」
「……それで?」
「私の好きなやつも白くてもふもふしてて、犬みたいなやつなんだけど、あるときにいなくなっちゃって。ほんとひどいよね。まあ、いなくなった原因はクソッタレで頭のおかしいクズどもが酷いことをしたのと、あの自己中野郎の自業自得なんだけどね。それに巻き込まれったあの子は本当に可愛そうだったよ……。もしかしたら、君って私の好きな奴と関係あるんじゃないかなって思って」
「…………それで……なんなの?」
「いやいや、なんでもないよ。もしかしたらって思ったけど、やっぱり人違いみたいだし。ねえ、君の名前を教えてくれるかな?」
ハクレイは少し迷った。頭のおかしい行動をする奴に関わったら危険な気がしたからだろう。だけど、黒い少女から敵意は感じられない。だから、きっと気のせいということにして、素直に答えることにした。
「私は……ハクレイっていうの」
その言葉を聞いた黒い少女の瞳に驚きの色を浮かべる。そして、高らかに笑いだした。
「ふふ、はははははははははっ! まさか……今更その名前を聞くことになるなんてね。全く、運命とは奇妙なものだよ、ほんと」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。私はね、ニーズっていうの! ふふ、また縁があったら会いましょう、じゃあ~ね。今の私は遊人~ ぶい~ん」
そう言って、黒い少女ーーニーズは去っていく。ツインテールを振り回しながら。本当に頭がおかしい。
「あれ、一体何だろう?」
「ハクレイ、私に振らないでよ。ルーイエならわかるんじゃないの? あんたの同類なんでしょう?」
「おいおい、パルミナ~。それはちょっと酷すぎないか。私はあそこまで頭がおかしくない」
「「いやいや、そんなことないから」」
「ハクレイちゃんまで! うう、最近の私の扱いがひどい。でも、それがいい!」
「だめだこりゃ。ハクレイも大変ね」
「ルーイエ……さっさと死ねばいいのに」
ニーズが一体なんだったのかはわからない。だけど、ハクレイにはニーズが妙に気になった。
ニーズが言っていた白くてもふもふしている好きな奴のこと。そしてハクレイという名前に驚きの色を浮かべていたこと。気になることは沢山ある。だけど、ルーイエみたいにウザったい感じが嫌すぎて、もう二度と会いたくないな~ などと思うハクレイだった。
◇
「さーて、次はどこ回る? まだ時間は沢山あるけど。まだ大した情報を手に入れていないしね」
ニーズとの出会いから一時間ほどたった後、ハクレイたちは出店を回りながら、リーナス領の情報収集を行ったのだが、出てくるのは、領主様が兵を集めて戦準備をしているぐらいしかなかった。
どこを攻めようとしているのか、兵力がどれぐらいあるのか、兵站や協力者の情報は?
それすらわからない。リーナス領を潰すために来ているハクレイたちにとって、最も欲しいのは敵の情報。だけど内容が大雑把すぎて、情報の価値がまるでない。
まあ、本命の情報はバッソたちが持ってきてくれるだろうが、だからといってこのままではまずいよね、というのがハクレイたちの意見だ。
「キャハハハハ、だったら私とハクレイちゃんは宿でゆっくり休むことにするぜ。パルミナはどっか行ってな!」
「ルーイエのバカ! 死ね! 消えちまえ!」
「あう、だけど、私は負けない!」
何か決意するルーイエを無視して、パルミナとハクレイは先に進む。
そして、ハクレイはある雑貨店で足を止めた。
ハクレイが見つめているのは、太陽をモチーフにした髪飾り。まるであのお姫様のように輝いている。
ハクレイはそれを手に取り、物を欲しがる子供のように目を輝かせる。
それを見たルーイエはチャンスだと思ったのか、ハクレイの近くに近寄った。
「ハクレイちゃ~ん。私がそれを買ってあげるよ。だからさ、これからゆっくりベッドの上でーー」
「死ね! 変態! クズ野郎!」
ハクレイはルーイエにがるがると威嚇する。それを見てパルミナは手を額に当てて「はぁ」と大きな溜息を吐いた。
それで終われば良かったのだが、事態は少しばかし厄介な事になる。
「貴様! そこを動くな!」
鎧を纏った厳つい女性が現れたのだ。その鎧にはリーナス家の紋章が刻まれている。
どうやら、リーナス家に所属する騎士のようだ。
「このあたりに少女にいかがわしいことをする変態がいると報告があった。私にはお前がそうに見える。私と一緒に来てもらおうか!」
そう言って、女騎士はルーイエのことを指差した。
それに対して、パルミナとハクレイは更に大きなため息を吐いた。
「わからない、とっても不気味だわ」
「うう、か、顔は可愛くて好みなのに……あれは無理だ」
ハクレイ、パルミナ、ルーイエは謎の言葉を発しながらツインテールを振り回す黒い少女を見つめていた。
どっからどう見ても頭がおかしい。もしかして、アレな人? と感じてしまうのも無理はない。
だけど周りから起こる爆笑。もしかしたら芸人なのかもしれない。そう思っていたハクレイたちだったが、本人は本気でやっているようなので、救いのない哀れな人を見る視線に変わる。
「とう、えい、やー。うう、お空を飛びたいのに飛べない残念ツインテール……」
その場で項垂れる黒い少女。集まった人々はおひねりを少女に投げた。
周りの人たちも芸人だと思っていたようだ。
黒い少女は「さあ、次行くよ!」と元気よく立ち上がった。どうやらこの茶番はまだ続くらしい。
「ねぇ、あれに関わると碌でもないことになる気がするんだけど……」
「ハクレイが言いたいことはすごくわかる。さっさとここから立ち去ろうか。いい情報も手に入れられそうにないしね。ルーイエはそれでいい?」
「キャハハ、別にかまわないよ。見た目だけの女に興味はない! 私はハクレイちゃん一筋なんだから。一緒にデートしようぜぇ」
「死ね!」
ハクレイと腕組しよとしてきたルーイエを反射的に殴った。頬を抑えながら「痛い……だけどそれがいい!」と変態極まりないことを言い出したので、あの黒いのとルーイエは同類なんじゃないかとハクレイは思う。
立ち去る間際、芸人ならおひねりぐらい渡さないと失礼だと思ったのか、少ないお小遣いを黒い少女に向かって三人は投げた。
「ありがとー…………お?」
そこで黒い少女はハクレイと目が合った。
黒い少女は何か気になることがあったようで、顔つきが変わる。ハクレイは本能的に危険を感知して、その場その場から立ち去ろうとした。
だが、それは無駄に終わる。なにせ黒い少女はーー。
「そこの白いの、ちょーっと待った!」
大きな声でそう叫んだのだから。周りの人々の視線がハクレイに集まる。
そして、野獣のような目つきに変わった。それも無理はない。ここにいるのは荒くれ者のような奴らばっかりだ。
ハクレイは髪も白く、肌も白に近い。赤い瞳をしており、顔は幼いながらもかなり可愛らしい。命を張るような男どもが無垢な少女に欲情してしまうのも無理はない。
ハクレイはその視線にぞっとして、周りを威嚇し始めた。
ルーイエは、ハクレイに向けられた視線に怒り、今にも暴走しそうだ。パルミナがなんとか抑えているが、それも時間の問題かもしれない。
そんな野獣のような男どもを無視して、黒い少女がハクレイの近くに寄った。
「そこの白いキミ! ちょっといいかな?」
そう言って、黒い少女はハクレイに近づいて、突然匂いを嗅ぎ始めた!
「くんくん、くんくん」
「ひぃ! 何をするの!」
「この匂い……本物? だけどあいつは死んだはず。なのにどうして……血族? でもあいつにはいなかったはずだし……これは一体?」
「いい加減にして!」
ハクレイが大きな声で怒った。それに気がついた黒い少女は「ごめんね~」と軽い感じに謝って、ハクレイから離れた。
ルーイエは怒りが限界突破して暴れ始める。もうパルミナには止められない。触手は使わなかったが、ルーイエはフェルシオンに所属するプロの殺し屋だ。そこらのゴロツキに負けはしない。
野獣のような視線を送っていた男どもが蜘蛛の子を散らすように立ち去って、気が付けば黒い少女とハクレイたちだけになった。
「あはは、匂いを嗅がれるのは嫌だよね~。でもでも! 君って私の大好きなやつと同じ匂いをしていたから! もしかしたら! って思ったんだけどやっぱり違うみたい」
「……それで?」
「私の好きなやつも白くてもふもふしてて、犬みたいなやつなんだけど、あるときにいなくなっちゃって。ほんとひどいよね。まあ、いなくなった原因はクソッタレで頭のおかしいクズどもが酷いことをしたのと、あの自己中野郎の自業自得なんだけどね。それに巻き込まれったあの子は本当に可愛そうだったよ……。もしかしたら、君って私の好きな奴と関係あるんじゃないかなって思って」
「…………それで……なんなの?」
「いやいや、なんでもないよ。もしかしたらって思ったけど、やっぱり人違いみたいだし。ねえ、君の名前を教えてくれるかな?」
ハクレイは少し迷った。頭のおかしい行動をする奴に関わったら危険な気がしたからだろう。だけど、黒い少女から敵意は感じられない。だから、きっと気のせいということにして、素直に答えることにした。
「私は……ハクレイっていうの」
その言葉を聞いた黒い少女の瞳に驚きの色を浮かべる。そして、高らかに笑いだした。
「ふふ、はははははははははっ! まさか……今更その名前を聞くことになるなんてね。全く、運命とは奇妙なものだよ、ほんと」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。私はね、ニーズっていうの! ふふ、また縁があったら会いましょう、じゃあ~ね。今の私は遊人~ ぶい~ん」
そう言って、黒い少女ーーニーズは去っていく。ツインテールを振り回しながら。本当に頭がおかしい。
「あれ、一体何だろう?」
「ハクレイ、私に振らないでよ。ルーイエならわかるんじゃないの? あんたの同類なんでしょう?」
「おいおい、パルミナ~。それはちょっと酷すぎないか。私はあそこまで頭がおかしくない」
「「いやいや、そんなことないから」」
「ハクレイちゃんまで! うう、最近の私の扱いがひどい。でも、それがいい!」
「だめだこりゃ。ハクレイも大変ね」
「ルーイエ……さっさと死ねばいいのに」
ニーズが一体なんだったのかはわからない。だけど、ハクレイにはニーズが妙に気になった。
ニーズが言っていた白くてもふもふしている好きな奴のこと。そしてハクレイという名前に驚きの色を浮かべていたこと。気になることは沢山ある。だけど、ルーイエみたいにウザったい感じが嫌すぎて、もう二度と会いたくないな~ などと思うハクレイだった。
◇
「さーて、次はどこ回る? まだ時間は沢山あるけど。まだ大した情報を手に入れていないしね」
ニーズとの出会いから一時間ほどたった後、ハクレイたちは出店を回りながら、リーナス領の情報収集を行ったのだが、出てくるのは、領主様が兵を集めて戦準備をしているぐらいしかなかった。
どこを攻めようとしているのか、兵力がどれぐらいあるのか、兵站や協力者の情報は?
それすらわからない。リーナス領を潰すために来ているハクレイたちにとって、最も欲しいのは敵の情報。だけど内容が大雑把すぎて、情報の価値がまるでない。
まあ、本命の情報はバッソたちが持ってきてくれるだろうが、だからといってこのままではまずいよね、というのがハクレイたちの意見だ。
「キャハハハハ、だったら私とハクレイちゃんは宿でゆっくり休むことにするぜ。パルミナはどっか行ってな!」
「ルーイエのバカ! 死ね! 消えちまえ!」
「あう、だけど、私は負けない!」
何か決意するルーイエを無視して、パルミナとハクレイは先に進む。
そして、ハクレイはある雑貨店で足を止めた。
ハクレイが見つめているのは、太陽をモチーフにした髪飾り。まるであのお姫様のように輝いている。
ハクレイはそれを手に取り、物を欲しがる子供のように目を輝かせる。
それを見たルーイエはチャンスだと思ったのか、ハクレイの近くに近寄った。
「ハクレイちゃ~ん。私がそれを買ってあげるよ。だからさ、これからゆっくりベッドの上でーー」
「死ね! 変態! クズ野郎!」
ハクレイはルーイエにがるがると威嚇する。それを見てパルミナは手を額に当てて「はぁ」と大きな溜息を吐いた。
それで終われば良かったのだが、事態は少しばかし厄介な事になる。
「貴様! そこを動くな!」
鎧を纏った厳つい女性が現れたのだ。その鎧にはリーナス家の紋章が刻まれている。
どうやら、リーナス家に所属する騎士のようだ。
「このあたりに少女にいかがわしいことをする変態がいると報告があった。私にはお前がそうに見える。私と一緒に来てもらおうか!」
そう言って、女騎士はルーイエのことを指差した。
それに対して、パルミナとハクレイは更に大きなため息を吐いた。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント