太陽を守った化物
第六話~鉄の乗り物~
翌日
フェルシオンのメンバーはリーナス領に向かうことになっていた。
王都マレリアからは、馬車で二週間ほどかかる距離にある。かなりの長旅になるため、それなりの準備が必要なのだが、フェルシオンの兵舎で待っていたバッソは旅の準備をそれほどしていない。持っていくものは武器とお金、あとは一日分の食料と水ぐらいだ。
後からきたハクレイの二週間分の食材と水の準備を見て、バッソは眉間に皺がよる。
なんだこいつとでも言っているかのようだ。
「ねぇ、リーナス領に行くのよね」
「ああ、そうだが。なんだその荷物は。置いてけ」
「バッソ隊長こそ何言っているの。リーナス領の場所を調べたけど、馬車で二週間もかかるのよ」
「うっせぇ、あの距離なら今日の夕方には到着するぞ」
そんな言い合いをしていると、パルミナとルーイエがやってきた。
ルーイエは気分がのらないのか、ものすごくダルそうにしている。それに引き換え、パルミナは観光名所にでも行くかのようにワクワクした表情をしていた。
「うへぇ……ダル……私、あれ嫌いなんだよね」
「同性愛者の糞変態にも嫌いなものがあるのね。うわぁダサ。そんなんだから変態なのよ」
「うっせぞ、パルミナ……。あそこに乗せられる私の身にも……キャハ、ハクレイちゃ~ん。おはよう! 馬車の中で楽しい時間を過ごそうぜぇ」
「いや、死んで」
「つれねぇな。もっと楽しくイこうぞ! それとも何か。みんなといるから嫌なのか。だったらこれから二人っきりでーー」
「うっせぇぞ。クソッタレ。てめぇはだれこれ構わず手を出しやがって」
「何言ってんだよ、バッソ隊長。私だって選り好みするぜぇ」
「と言いつつ、居酒屋さんの看板娘に手を出しちゃったのよね。うわ、ばっかじゃないの。プークスクス」
「何言ってんだよ、パルミナ。そこに可愛い子がいたら、手を出すのが礼儀だぜ。いいか、可愛いってところが重要なんだ。私は可愛くてウブな女の子しか手を出さん!」
「コノヘンタイハソッコクショブンスルベキ」
「おーい、ハクレイ。カタコトなってるよ~って、こりゃダメだ。全然聞いていない。ルーイエが馬鹿を言って頭がおかしくなっちゃったかな。でもまぁ、今日は普通だと二週間ぐらいかかる距離だしね。爆発の量を増やして爆走してやんよ」
パルミナは拳を上にあげて、ガッツポーズをとる。なんだか張り切っているようだ。
一体何に気合を入れているのか、ハクレイにはわからない。だけど、爆発とか爆走というキーワードに不安を隠せなかった。
「ところで……それなんだ?」
ニタニタと笑っていたルーイエが真面目な顔に戻り、ハクレイが持ってきた荷物に触れた。
それを見てぎょっとしたハクレイは、パシンとルーイエの手を弾いて、「ガルル」と威嚇し始める。
「これ、私の荷物……。触んな変態。変態が移る」
「ウッヒャァァ、変態が移るんなら触んないとな。ほ~れ、ほ~れ」
「死ね、死んじまえ」
「はははは、荒れた感じも可愛いな。お持ち帰りしてぇ。だけど、なんでこんなに大量の荷物を持って来てるんだ? 食材と水……二週間分あるじゃねぇか」
「だって、リーナス領に行くんだから、必要でしょ?」
「あ? 今日の夕方につくのにか?」
話がかみ合わないルーイエとハクレイの状況を見て、パルミナは、やれやれといった感じに首を振った。
そして、バッソ隊長を見ると、ちょっとばかしイラっとしているみたいだったが、何も言わない。
「ねぇ。もしかして、ハクレイに何も説明していないの」
「あぁ? 何言ってんだパルミナ。説明は昨日しただろ。なのにこの白いガキがクソめんどくせぇものを持ってきやがって、クソッタレ」
「いや、昨日は任務の話しかしていないから。あれの話はまだでしょう。隊長もなんだかんだ抜けているのね」
「ッチ、うっせーぞ、てめぇ。説明することなんて他に……あ」
「やっと気がついたのね。ハクレイは新人なのに。私ってこんなキャラだったかな~。もっといたずらして爆発させて毒をまき散らしながらニシシって笑うのが私のはずなのに……。後輩ができた影響かな?」
変態と格闘中のハクレイのもとに、パルミナが近づいてくる。ルーイエの方に手を掲げて、ニタリと笑うと、突然ルーイエが爆発した。
といっても、そこまで大きな爆発じゃない。ルーイエだけがプスプスと黒煙を上げるだけで、他に被害は出ていない。
「ニシシ、害虫がいたからつい爆発させちゃった」
「ウキャアアア、こんなボロボロじゃ、ハクレイと楽しくヤれねぇじゃねぇか。チクショウ……パルミナ! 後で覚えてろよ。バッソ隊長。ちょっと身だしなみを整えてくるっ!」
「そろそろグランディとデルが来る頃だからさっさと済ませろ」
「うへ~い」
ルーイエはトボトボとまるで全財産を叩いたのに賭けに負けた残念な人のように部屋に戻っていった。あの変態がいなくなって安心したハクレイは「ふぅ」と安心のため息を吐く。
「大変だったね。あれは面倒だから適当にあしらって爆発させれば大丈夫だよ」
「爆発……いいな」
「お、爆発の良さが分かるのか! いいやつじゃない。今度一緒に悪戯しない? あの変態を陥れよう。ニシシ、考えただけでワクワクするよ」
「うん、あの変態は一回痛い目に遭うべき」
「確かにね。あ、そうそう。ハクレイにはちゃんと説明しなきゃいけないことがあるの」
「ん? 何?」
「私たちはこれからリーナス領に行くでしょう。普通なら二週間かかる距離。だからこそ旅の支度をしてきたのよね。だけど残念。リーナス領には今日中についちゃうのよ。だからそんな食料も水も必要ない」
ハクレイは言っていることがわからず、首を傾げる。そんな姿にやれやれという仕草を取りながら、手を出して何もないところを爆発させる。威力は控えめで、被害は出ていないが、音的にクラッカーがパーンと鳴った時に似ているので、ハクレイがガクブルと震えてしまう。
「獣か! いや、そうなんだけど、そんなに怯えられると悪いことしたみたいになるじゃない!」
「だ、だって……爆発……」
「大丈夫よ。ルーイエ以外にはしないから」
「なら良し!」
ハクレイの震えが止まり、拳を握って天に掲げた。テンションが高いのか、顔がちょっとだけ赤い。むんふーと鼻息を荒くして喜んでいる姿はまるで犬だった。
「おーい、もってきましたよーっと」
「うふふ、団長に褒めてもらわなきゃ、いや、今日中にベッドインしないと、ぐふふふふ」
「デルは相変わらず気持ち悪いっすね……」
「なによ、男が男に恋をして何が悪いの。恋っていうのはね、自由なのよ!」
「うへぇ、そうなんっすか~」
何やら大きな鉄の塊を持って、デルとグランディがやってくる。よく見ると、馬車に似た形状をしていた。
馬車と違うところは、もちろん鉄でできていることだけじゃなく、鉄の筒のようなものが後ろと呼べる場所に取り付けられている。更に、下から覗くと、人が一人だけ入れられそうな、棺桶のような場所があった。
「これなに?」
「お、白いワンコちゃんはこれに興味深々っすか。いやあ、誰もこれについて語ってやんないんで、きっとびっくりするだろうなーって思ってたんですよ~」
「うん、ビックリ、した。これ、何?」
「それは私が説明するのっ! グランディは黙ってて頂戴」
「パルミナが? できるっすか?」
「むぎぃぃぃぃ、できるに決まってるでしょ! 私をなんだと思っているのよ!」
「爆発幼女……っすかね?」
「幼……女…………?」
「おや、怒ったっすか。俺的には、悔しがって泣いているのもそそるな~とか思ってたんすけど、なんか憤っているだけっぽくて、萎えるっす。リテイクいっすか?」
「もうお前は黙れよ!」
肩を上下に揺らして、息を荒くさせるパルミナ。うっすらと瞳に涙を浮かばせて、歯をギシギシ鳴らしている。
グランディはパルミナをからかって遊んでいるようだ。傍から見たら楽しいと思うけど、実際にやられるとうざって思っちゃうよ…… と、ハクレイは呆れ気味に思った。
ここは爆笑しておいたほうがいいのか? とも思ったが、実際にやらなかったのは、パルミナがギッと睨んできたからだ。
「くううう、爆発させたい。けど……いい。もういいの! ハクレイ! これは鉄車って言って、私の爆発力とバッソ隊長の瞬足による操作によって高速移動が可能になった、乗り物よ!」
「おお? おお~~、お?」
「なんか反応が鈍いわね……」
「高速移動なんてしたら、その鉄車というやつから放り出されるんじゃ……」
「そこはほら、下にあるの棺桶にルーイエを詰め込んで、横の穴から触手を出すの。それで体を支えてもらうか大丈夫よ」
「私……これに乗りたくない」
ハクレイは拒否した。それはもう凄まじい勢いで拒否した。兵舎にある机の下に隠れて威嚇する始末。パルミナは「余計なこと、言っちゃった?」と冷や汗をかき、デルとグランディは腹を抱えて笑いだした。
そんな光景にずっとイライラしていたバッソの限界がきてしまったようだ。
「クソガキ! てめぇ、何わがまま言ってやがる! これは仕事なんだよ! なんだてめぇ、これの何に不満がありやがる。俺が納得できる理由を言って見やがれってんだ、クソッタレが!」
怒鳴り散らすバッソ。
それに対してハクレイは。
「だって! ルーイエの触手なんてしょ! 絶対に体をまさぐられて、変なことされるに決まっている! いやだ、そんなの……いや……ぐすん」
その言葉は納得させるに十分な言葉だった。ハクレイは、自分自身に降りかかりそうな、淫靡な悪戯に肩を震わせて、瞳に溢れんばかりの涙を浮かべる。
いつもイライラしてり、クソッタレが口癖のバッソでさえ狼狽えるほど、恐怖という感情が篭った言葉で、それと同時に、ルーイエならしかたないな、という結論に至るのだった。
ルーイエを止めるにしても、あれは頭がおかしいレベルの変態だ。バッソですら何度も注意しなければいけないほどの……それはそれは、手の付けられない変態なのだ。
バッソはハクレイに近づいて、肩をポンッと優しくたたく。そして。
「諦めろ」
「う、うえええぇぇぇぇぇん」
「ちょ、ま、泣くな!」
白獣の適合者であり、その想いを継ぐ者だとしても、ハクレイはまだ少女なのだ。
当然と言えば当然の反応だろう。
だが、こればかりは仕方がない。ハクレイがなんと言おうと仕事なのだ。なんとか我慢をさせるか、ルーイエをどうにかするしかないという選択に迫られたバッソは頭を抱える。
そこに、やつがやって来た。
「えっ、ハクレイちゃんが…………泣いてる!」
フェルシオンのメンバーはリーナス領に向かうことになっていた。
王都マレリアからは、馬車で二週間ほどかかる距離にある。かなりの長旅になるため、それなりの準備が必要なのだが、フェルシオンの兵舎で待っていたバッソは旅の準備をそれほどしていない。持っていくものは武器とお金、あとは一日分の食料と水ぐらいだ。
後からきたハクレイの二週間分の食材と水の準備を見て、バッソは眉間に皺がよる。
なんだこいつとでも言っているかのようだ。
「ねぇ、リーナス領に行くのよね」
「ああ、そうだが。なんだその荷物は。置いてけ」
「バッソ隊長こそ何言っているの。リーナス領の場所を調べたけど、馬車で二週間もかかるのよ」
「うっせぇ、あの距離なら今日の夕方には到着するぞ」
そんな言い合いをしていると、パルミナとルーイエがやってきた。
ルーイエは気分がのらないのか、ものすごくダルそうにしている。それに引き換え、パルミナは観光名所にでも行くかのようにワクワクした表情をしていた。
「うへぇ……ダル……私、あれ嫌いなんだよね」
「同性愛者の糞変態にも嫌いなものがあるのね。うわぁダサ。そんなんだから変態なのよ」
「うっせぞ、パルミナ……。あそこに乗せられる私の身にも……キャハ、ハクレイちゃ~ん。おはよう! 馬車の中で楽しい時間を過ごそうぜぇ」
「いや、死んで」
「つれねぇな。もっと楽しくイこうぞ! それとも何か。みんなといるから嫌なのか。だったらこれから二人っきりでーー」
「うっせぇぞ。クソッタレ。てめぇはだれこれ構わず手を出しやがって」
「何言ってんだよ、バッソ隊長。私だって選り好みするぜぇ」
「と言いつつ、居酒屋さんの看板娘に手を出しちゃったのよね。うわ、ばっかじゃないの。プークスクス」
「何言ってんだよ、パルミナ。そこに可愛い子がいたら、手を出すのが礼儀だぜ。いいか、可愛いってところが重要なんだ。私は可愛くてウブな女の子しか手を出さん!」
「コノヘンタイハソッコクショブンスルベキ」
「おーい、ハクレイ。カタコトなってるよ~って、こりゃダメだ。全然聞いていない。ルーイエが馬鹿を言って頭がおかしくなっちゃったかな。でもまぁ、今日は普通だと二週間ぐらいかかる距離だしね。爆発の量を増やして爆走してやんよ」
パルミナは拳を上にあげて、ガッツポーズをとる。なんだか張り切っているようだ。
一体何に気合を入れているのか、ハクレイにはわからない。だけど、爆発とか爆走というキーワードに不安を隠せなかった。
「ところで……それなんだ?」
ニタニタと笑っていたルーイエが真面目な顔に戻り、ハクレイが持ってきた荷物に触れた。
それを見てぎょっとしたハクレイは、パシンとルーイエの手を弾いて、「ガルル」と威嚇し始める。
「これ、私の荷物……。触んな変態。変態が移る」
「ウッヒャァァ、変態が移るんなら触んないとな。ほ~れ、ほ~れ」
「死ね、死んじまえ」
「はははは、荒れた感じも可愛いな。お持ち帰りしてぇ。だけど、なんでこんなに大量の荷物を持って来てるんだ? 食材と水……二週間分あるじゃねぇか」
「だって、リーナス領に行くんだから、必要でしょ?」
「あ? 今日の夕方につくのにか?」
話がかみ合わないルーイエとハクレイの状況を見て、パルミナは、やれやれといった感じに首を振った。
そして、バッソ隊長を見ると、ちょっとばかしイラっとしているみたいだったが、何も言わない。
「ねぇ。もしかして、ハクレイに何も説明していないの」
「あぁ? 何言ってんだパルミナ。説明は昨日しただろ。なのにこの白いガキがクソめんどくせぇものを持ってきやがって、クソッタレ」
「いや、昨日は任務の話しかしていないから。あれの話はまだでしょう。隊長もなんだかんだ抜けているのね」
「ッチ、うっせーぞ、てめぇ。説明することなんて他に……あ」
「やっと気がついたのね。ハクレイは新人なのに。私ってこんなキャラだったかな~。もっといたずらして爆発させて毒をまき散らしながらニシシって笑うのが私のはずなのに……。後輩ができた影響かな?」
変態と格闘中のハクレイのもとに、パルミナが近づいてくる。ルーイエの方に手を掲げて、ニタリと笑うと、突然ルーイエが爆発した。
といっても、そこまで大きな爆発じゃない。ルーイエだけがプスプスと黒煙を上げるだけで、他に被害は出ていない。
「ニシシ、害虫がいたからつい爆発させちゃった」
「ウキャアアア、こんなボロボロじゃ、ハクレイと楽しくヤれねぇじゃねぇか。チクショウ……パルミナ! 後で覚えてろよ。バッソ隊長。ちょっと身だしなみを整えてくるっ!」
「そろそろグランディとデルが来る頃だからさっさと済ませろ」
「うへ~い」
ルーイエはトボトボとまるで全財産を叩いたのに賭けに負けた残念な人のように部屋に戻っていった。あの変態がいなくなって安心したハクレイは「ふぅ」と安心のため息を吐く。
「大変だったね。あれは面倒だから適当にあしらって爆発させれば大丈夫だよ」
「爆発……いいな」
「お、爆発の良さが分かるのか! いいやつじゃない。今度一緒に悪戯しない? あの変態を陥れよう。ニシシ、考えただけでワクワクするよ」
「うん、あの変態は一回痛い目に遭うべき」
「確かにね。あ、そうそう。ハクレイにはちゃんと説明しなきゃいけないことがあるの」
「ん? 何?」
「私たちはこれからリーナス領に行くでしょう。普通なら二週間かかる距離。だからこそ旅の支度をしてきたのよね。だけど残念。リーナス領には今日中についちゃうのよ。だからそんな食料も水も必要ない」
ハクレイは言っていることがわからず、首を傾げる。そんな姿にやれやれという仕草を取りながら、手を出して何もないところを爆発させる。威力は控えめで、被害は出ていないが、音的にクラッカーがパーンと鳴った時に似ているので、ハクレイがガクブルと震えてしまう。
「獣か! いや、そうなんだけど、そんなに怯えられると悪いことしたみたいになるじゃない!」
「だ、だって……爆発……」
「大丈夫よ。ルーイエ以外にはしないから」
「なら良し!」
ハクレイの震えが止まり、拳を握って天に掲げた。テンションが高いのか、顔がちょっとだけ赤い。むんふーと鼻息を荒くして喜んでいる姿はまるで犬だった。
「おーい、もってきましたよーっと」
「うふふ、団長に褒めてもらわなきゃ、いや、今日中にベッドインしないと、ぐふふふふ」
「デルは相変わらず気持ち悪いっすね……」
「なによ、男が男に恋をして何が悪いの。恋っていうのはね、自由なのよ!」
「うへぇ、そうなんっすか~」
何やら大きな鉄の塊を持って、デルとグランディがやってくる。よく見ると、馬車に似た形状をしていた。
馬車と違うところは、もちろん鉄でできていることだけじゃなく、鉄の筒のようなものが後ろと呼べる場所に取り付けられている。更に、下から覗くと、人が一人だけ入れられそうな、棺桶のような場所があった。
「これなに?」
「お、白いワンコちゃんはこれに興味深々っすか。いやあ、誰もこれについて語ってやんないんで、きっとびっくりするだろうなーって思ってたんですよ~」
「うん、ビックリ、した。これ、何?」
「それは私が説明するのっ! グランディは黙ってて頂戴」
「パルミナが? できるっすか?」
「むぎぃぃぃぃ、できるに決まってるでしょ! 私をなんだと思っているのよ!」
「爆発幼女……っすかね?」
「幼……女…………?」
「おや、怒ったっすか。俺的には、悔しがって泣いているのもそそるな~とか思ってたんすけど、なんか憤っているだけっぽくて、萎えるっす。リテイクいっすか?」
「もうお前は黙れよ!」
肩を上下に揺らして、息を荒くさせるパルミナ。うっすらと瞳に涙を浮かばせて、歯をギシギシ鳴らしている。
グランディはパルミナをからかって遊んでいるようだ。傍から見たら楽しいと思うけど、実際にやられるとうざって思っちゃうよ…… と、ハクレイは呆れ気味に思った。
ここは爆笑しておいたほうがいいのか? とも思ったが、実際にやらなかったのは、パルミナがギッと睨んできたからだ。
「くううう、爆発させたい。けど……いい。もういいの! ハクレイ! これは鉄車って言って、私の爆発力とバッソ隊長の瞬足による操作によって高速移動が可能になった、乗り物よ!」
「おお? おお~~、お?」
「なんか反応が鈍いわね……」
「高速移動なんてしたら、その鉄車というやつから放り出されるんじゃ……」
「そこはほら、下にあるの棺桶にルーイエを詰め込んで、横の穴から触手を出すの。それで体を支えてもらうか大丈夫よ」
「私……これに乗りたくない」
ハクレイは拒否した。それはもう凄まじい勢いで拒否した。兵舎にある机の下に隠れて威嚇する始末。パルミナは「余計なこと、言っちゃった?」と冷や汗をかき、デルとグランディは腹を抱えて笑いだした。
そんな光景にずっとイライラしていたバッソの限界がきてしまったようだ。
「クソガキ! てめぇ、何わがまま言ってやがる! これは仕事なんだよ! なんだてめぇ、これの何に不満がありやがる。俺が納得できる理由を言って見やがれってんだ、クソッタレが!」
怒鳴り散らすバッソ。
それに対してハクレイは。
「だって! ルーイエの触手なんてしょ! 絶対に体をまさぐられて、変なことされるに決まっている! いやだ、そんなの……いや……ぐすん」
その言葉は納得させるに十分な言葉だった。ハクレイは、自分自身に降りかかりそうな、淫靡な悪戯に肩を震わせて、瞳に溢れんばかりの涙を浮かべる。
いつもイライラしてり、クソッタレが口癖のバッソでさえ狼狽えるほど、恐怖という感情が篭った言葉で、それと同時に、ルーイエならしかたないな、という結論に至るのだった。
ルーイエを止めるにしても、あれは頭がおかしいレベルの変態だ。バッソですら何度も注意しなければいけないほどの……それはそれは、手の付けられない変態なのだ。
バッソはハクレイに近づいて、肩をポンッと優しくたたく。そして。
「諦めろ」
「う、うえええぇぇぇぇぇん」
「ちょ、ま、泣くな!」
白獣の適合者であり、その想いを継ぐ者だとしても、ハクレイはまだ少女なのだ。
当然と言えば当然の反応だろう。
だが、こればかりは仕方がない。ハクレイがなんと言おうと仕事なのだ。なんとか我慢をさせるか、ルーイエをどうにかするしかないという選択に迫られたバッソは頭を抱える。
そこに、やつがやって来た。
「えっ、ハクレイちゃんが…………泣いてる!」
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