太陽を守った化物
第二話~主を持たない獣~
施設に引き取られてから一ヶ月半が過ぎた。
百十八番にとって、施設での暮らしはとても有意義な時間だった。
三食昼寝付き、勉学に励むこともできて、更には敵の殺し方まで教えてもらえる。今まで手に入らなかったものが一変に手に入る、そんな夢のような場所だった。実験として大量の薬を飲まされるのと変な男どもが突っかかってくることを除けば、とっても幸せな環境。
(今までの地獄が嘘みたい)
この頃になると、やせ細っていた体は膨らみを取り戻し、ボサボサだった髪はある程整えるほどの余裕を持つことができ、濁った目には光が宿っていた。
体力も十分取り戻し、やる気に満ち溢れる。特に気合を入れたのは人を殺すための授業。実験に成功した個体は、サデス公爵直々の私兵団に入隊、もしくは裏の暗殺者になることが決まっている。いざ戦うことになったとき、何も知りませんでしたじゃ意味がない。子供の内に人を殺すことに慣れておけば、最強最悪の兵力となるだろう。
特に、百十八番は殺しの筋がよかった。初めての人殺しも躊躇なく喉を切り裂き、ニタァと笑ったそうだ。そのおかげで孤立しているところがあるのだが、本人は全く気にしなかった。むしろ静かになったからそれでいいとまで思っている。
そんな冷徹人間に見える彼女も、微笑ましい笑顔を浮かべるときだってある。
ご飯を食べる時なんかいつもそうだ。
お昼の時間、百十八番は山盛りのご飯とたくあん、贅沢にも小魚が乗った和風定食をお盆に乗せて席に付き、せっせと食べ始める。
「白いご飯ってなんでこんなに美味しんだろう。噛めば噛むほど甘いのって不思議だね」
口に入れたご飯をほどよく噛んで咀嚼する。そのあとにたくわんを口の中に放り込んでポリポリ噛んだ。余りにも美味しかったのか、思わず笑が溢れる。
百十八番にとって一日で最も幸せな食事の時間。だけど最近邪魔するものが多い。まだ実験が行われていないのだが、他の子供たちより優秀だ。だから妬み、もしくは将来を考えて今から手懐けておきたいと考えるものが増えていた。
今日もまた、百十八番を囲う子供たちが現れる。
リーダーっぽい少年とそれに従って近づいてきた複数人の少年少女。
彼らは全員実験の成功体。リーダー各の少年はハルダーといって、数少ない第一種危険生物の適合者だ。その周りの者たちも第三種か第四種危険生物の適合者である。
実験に成功した哀れなエリートたちが百十八番という小さな少女を囲む光景は、何ごとだと注目を集めるに十分だった。
「おい、百十八番。お前いつも一人ぼっちだな。俺たちが遊んでやるぜぇ。ほれ、いれてくださ~いって言ってみな、キャハハ」
ハルダーの笑いに合わせて、周りのものが笑った。ハルダーがいじめを行うのはこの施設ではいつもの日常だ。元々は気の弱い優しい少年だったそうだが、実験によって強い力を得てから変わってしまった。
強い力を持てば、誰も抵抗できない。強いものこそが偉い。その思考は、どこぞのゴロツキと一緒だ。
実験の成功者にはハルダーのような考え方を持つ者が多い。幼いながらも力を持ってしまったが故に自分は特別だと感じている。だからといって、あまりいうことを聞かないような獣ならばすぐに処分されるのだが、ハルダーが第一種と適合しているから困ったものだ。まだ利用価値があるために処分を免れているのだが、本人は知ってか知らずか暴れまわって迷惑極まりない。
この施設の子供が将来どのようになるのか知っているハルダーは自分の身に宿った力をもって配下を増やそうと考えていた。進むべき道がみんな同じなら、今から使えるコマを作ろうと思いついたからだ。
将来の栄光を夢に描きながら取り巻きを作っていく中で、ハルダーが今回目をつけたのが百十八番。強力な危険種と適合率が高いのは非常に魅力的だった。危険レベルが高ければ高いほど適合できた後には、普通では考えられないような力が手に入る。それをハルダーは知っている。自分も同じだから。強力な力を扱えるやつが増えるほど、サデス公爵の役に立てられる。そうなればきっと偉くなれるとハルダーは思っている。
だからこそ、百十八番を確実に配下に加えたい。
ハルダーのそんな考えとは裏腹に、百十八番は平常運転でご飯を食べ続けていた。まるで周りに誰もいないかのように、微笑みながら白いご飯を頬張る。
「むふふ、ご飯は美味しいな~」
「おい、てめぇ。無視してんじゃねえよ。殺すぞ」
「へへ、この小魚。私大好きなんだよね」
「いい加減にしやがれ!」
ハルダーは、百十八番の食事が乗っている机をひっくり返した。小魚や白いご飯が宙を舞って地面に落ちる。床は清掃されているものの、大量の人が土足で踏み荒らしている場所なので、落ちた食事はすでに食べられなくなる。
百十八番のご飯は生ゴミに変わってしまったのだ。
その光景に、ぷるぷると震えだす。ハルダーはそれを面白そうに見て、笑った。
それに釣られて取り巻きたちも笑う。
そして百十八番を中心にハルダーたちが囲んだ。
これでこいつを手に入れられたんだとハルダーは確信した。だけどそれは間違いだった。
この場にいる誰もが知らなかったのだ。百十八番の本性を。知っているものは一部の研究者たちだけ。これはある意味で実験のせいと言えるかもしれない。
百十八番に投与されている薬には、これから適合させる予定である危険種の一部が含まれているのだから。
それが原因なのか不明だが、百十八番はすでに牙と狂気を身につけていた。
震えはいつの間にか止まっており、ニタァと狂気の笑みを浮かべる。
それにハルダーたちは全く気がつかない。
百十八番は手に持っていた箸をハルダーに投げた。まるでクナイを投げたかのように飛んでいく。
危険種が混ざったことにより強力な体を手に入れたとは言え、全く変わらない部分も存在する。
例えばーー
「ぎゃあぁぁぁぁああああ」
「あっれぇ、どうしたのかな、ハルダー?」
「目がぁぁぁぁぁあ、クッソったれ、殺してやる、絶対に殺してやるぅぅぅぅぅ」
「あっそ、あんたは私からご飯を奪った。私から何かを奪うやつは全員敵だ。敵は誰であろうと皆殺しだ」
百十八番の狂気が、ハルダーたちに襲いかかる。一方的な虐殺。まだ適合できていない少女が化物になった子供たちを問答無用で殺していく。ただ力を持っただけの少年少女たちは抵抗も虚しく殺された。力がどれだけあろうとも、技術という武器を持たない少年少女達では百十八番を止められない。あたりは血に塗れ、研究者たちが止めに来るまで虐殺劇は続いた。
◇
「百十八番、お前はやりすぎだが、ハルダーを殺してくれたことにはありがたいと思っている。アイツは第一種という強力な危険生物に適合したのだが、言うことを全く聞かない失敗作だ。研究材料としてぐらいしか使い道がなかったが、まぁそれはいい。いずれ使い潰す予定だったものが壊れたに過ぎん」
暴走が止まった百十八番は白衣の男に呼び出された。ハルダーはまるで化物でも見たかのような形相で死んでいたという。
やってしまったのは百十八番なのだが、まさか感謝されるとは思ってもいなかったようだ。
どうやら失敗作は必ず死ぬ運命にあるらしいことを学んだ百十八番は従順に生きようと誓う。自分の主となる人の道具として命を使い切ることを。
「ところで、私の実験っていつ行われるの?」
「それはもうすぐ行われる。貴様に投与している薬が十分馴染んできたしな。これなら絶対に成功するだろう」
「そう、それは良かったわ」
「この際だ、貴様と適合した危険生物について教えてやる。そのほうがやる気出るだろう?」
「ちょっと気になるから教えて頂戴」
白衣の男は語った。今も伝説として語られている、太陽を奪った白き獣の物語を。
それは遥か昔の話。この土地には太陽の紋章を掲げる強大な国がありました。
その国は太陽帝国と呼ばれ、誰もが幸せ暮らせる夢のような国。
民は国のために、国は民のためにという言葉を掲げ、千年以上も繁栄しました。
ある日、一匹の白い獣が現れます。狂気にまみれた凶悪な獣に人々は恐れました。
太陽帝国の宰相は、獣を討伐するために軍を動かそうとしましたが、それを現皇帝であるハクレイ皇帝が止めてしまいます。
ハクレイ皇帝はたった一人で白き獣の元に行きました。そして目にしたものは傷を負って今にも死にそうな白き獣の姿だったのです。
心優しいハクレイ皇帝は獣に手を差し伸べました。
傷を癒してくれるハクレイ皇帝の優しさに白き獣は心打たれます。そしてある欲求が湧き出てきました。それは、独占欲だったのです。
白き獣は強大な力を使い、ハクレイ皇帝を隠してしまいました。
国の太陽というべき皇帝を失った民は、白き獣の行いに憤怒し、現状を嘆きました。ただ、白き獣の力が強大であることを知っているため、誰も助けようとしなかったのです。
そんな中、一人の少年が立ち上がりました。
その少年とは、神により祝福されし、金色を纏った勇者様でした。
勇者様は一人で白き獣を討ち滅ぼしましたが、ハクレイ皇帝が帰ってくることはありませんでした。国の太陽は白き獣によって殺されてしまったのです。
太陽を失ってしまった帝国は暗闇に染まってしまいました。
「だから、金色の勇者は新たな太陽として国を照らしました。そして、その国は永遠の繁栄をしていきましたとさ。貴様に適合した白き獣をモチーフにしたお話だよ。タイトルは『太陽を奪った白獣と金色の勇者』だったかな?」
「でも、それはおとぎ話なんでしょう。白き獣なんてどこにもいないと思うけど、それが私に適合したってどういうこと?」
「この話は実話なんだよ。詳しいことは解明されていないが、王都ルーデシアから少し離れたところにあるハーレリアという町に碑文がある」
「碑文?」
「ああそうだ。碑文にはこう書かれていた。太陽暦1032年、ウランダリアの記念日である6月7日。太陽を奪った白き獣を金色の少年が討ち取って、世界を新しく照らした。つまり白き獣は実在するのだよ。それに、白き獣はとある宗教では聖獣として扱われていたこともある」
「扱われていたってことは、今はないの?」
「まぁな。そんなものはとっくに滅ぼしている。そいつらから奪った聖遺物が白き獣の遺骸だ。お前はそれに適合したんだよ。喜べ」
「わ~い」
適当に喜ぶ百十八番を前に、白衣の男は呆れて苦笑した。だけど、胸の内では歓喜している。
この少女がどのような化物になるか、研究者として血が騒ぐのだ。
(さて、このクソガキは見境なく殺す化物になるか、それとも従順な犬になるか……実に楽しみだ)
そして、白衣の男はニヤリと笑った。
百十八番にとって、施設での暮らしはとても有意義な時間だった。
三食昼寝付き、勉学に励むこともできて、更には敵の殺し方まで教えてもらえる。今まで手に入らなかったものが一変に手に入る、そんな夢のような場所だった。実験として大量の薬を飲まされるのと変な男どもが突っかかってくることを除けば、とっても幸せな環境。
(今までの地獄が嘘みたい)
この頃になると、やせ細っていた体は膨らみを取り戻し、ボサボサだった髪はある程整えるほどの余裕を持つことができ、濁った目には光が宿っていた。
体力も十分取り戻し、やる気に満ち溢れる。特に気合を入れたのは人を殺すための授業。実験に成功した個体は、サデス公爵直々の私兵団に入隊、もしくは裏の暗殺者になることが決まっている。いざ戦うことになったとき、何も知りませんでしたじゃ意味がない。子供の内に人を殺すことに慣れておけば、最強最悪の兵力となるだろう。
特に、百十八番は殺しの筋がよかった。初めての人殺しも躊躇なく喉を切り裂き、ニタァと笑ったそうだ。そのおかげで孤立しているところがあるのだが、本人は全く気にしなかった。むしろ静かになったからそれでいいとまで思っている。
そんな冷徹人間に見える彼女も、微笑ましい笑顔を浮かべるときだってある。
ご飯を食べる時なんかいつもそうだ。
お昼の時間、百十八番は山盛りのご飯とたくあん、贅沢にも小魚が乗った和風定食をお盆に乗せて席に付き、せっせと食べ始める。
「白いご飯ってなんでこんなに美味しんだろう。噛めば噛むほど甘いのって不思議だね」
口に入れたご飯をほどよく噛んで咀嚼する。そのあとにたくわんを口の中に放り込んでポリポリ噛んだ。余りにも美味しかったのか、思わず笑が溢れる。
百十八番にとって一日で最も幸せな食事の時間。だけど最近邪魔するものが多い。まだ実験が行われていないのだが、他の子供たちより優秀だ。だから妬み、もしくは将来を考えて今から手懐けておきたいと考えるものが増えていた。
今日もまた、百十八番を囲う子供たちが現れる。
リーダーっぽい少年とそれに従って近づいてきた複数人の少年少女。
彼らは全員実験の成功体。リーダー各の少年はハルダーといって、数少ない第一種危険生物の適合者だ。その周りの者たちも第三種か第四種危険生物の適合者である。
実験に成功した哀れなエリートたちが百十八番という小さな少女を囲む光景は、何ごとだと注目を集めるに十分だった。
「おい、百十八番。お前いつも一人ぼっちだな。俺たちが遊んでやるぜぇ。ほれ、いれてくださ~いって言ってみな、キャハハ」
ハルダーの笑いに合わせて、周りのものが笑った。ハルダーがいじめを行うのはこの施設ではいつもの日常だ。元々は気の弱い優しい少年だったそうだが、実験によって強い力を得てから変わってしまった。
強い力を持てば、誰も抵抗できない。強いものこそが偉い。その思考は、どこぞのゴロツキと一緒だ。
実験の成功者にはハルダーのような考え方を持つ者が多い。幼いながらも力を持ってしまったが故に自分は特別だと感じている。だからといって、あまりいうことを聞かないような獣ならばすぐに処分されるのだが、ハルダーが第一種と適合しているから困ったものだ。まだ利用価値があるために処分を免れているのだが、本人は知ってか知らずか暴れまわって迷惑極まりない。
この施設の子供が将来どのようになるのか知っているハルダーは自分の身に宿った力をもって配下を増やそうと考えていた。進むべき道がみんな同じなら、今から使えるコマを作ろうと思いついたからだ。
将来の栄光を夢に描きながら取り巻きを作っていく中で、ハルダーが今回目をつけたのが百十八番。強力な危険種と適合率が高いのは非常に魅力的だった。危険レベルが高ければ高いほど適合できた後には、普通では考えられないような力が手に入る。それをハルダーは知っている。自分も同じだから。強力な力を扱えるやつが増えるほど、サデス公爵の役に立てられる。そうなればきっと偉くなれるとハルダーは思っている。
だからこそ、百十八番を確実に配下に加えたい。
ハルダーのそんな考えとは裏腹に、百十八番は平常運転でご飯を食べ続けていた。まるで周りに誰もいないかのように、微笑みながら白いご飯を頬張る。
「むふふ、ご飯は美味しいな~」
「おい、てめぇ。無視してんじゃねえよ。殺すぞ」
「へへ、この小魚。私大好きなんだよね」
「いい加減にしやがれ!」
ハルダーは、百十八番の食事が乗っている机をひっくり返した。小魚や白いご飯が宙を舞って地面に落ちる。床は清掃されているものの、大量の人が土足で踏み荒らしている場所なので、落ちた食事はすでに食べられなくなる。
百十八番のご飯は生ゴミに変わってしまったのだ。
その光景に、ぷるぷると震えだす。ハルダーはそれを面白そうに見て、笑った。
それに釣られて取り巻きたちも笑う。
そして百十八番を中心にハルダーたちが囲んだ。
これでこいつを手に入れられたんだとハルダーは確信した。だけどそれは間違いだった。
この場にいる誰もが知らなかったのだ。百十八番の本性を。知っているものは一部の研究者たちだけ。これはある意味で実験のせいと言えるかもしれない。
百十八番に投与されている薬には、これから適合させる予定である危険種の一部が含まれているのだから。
それが原因なのか不明だが、百十八番はすでに牙と狂気を身につけていた。
震えはいつの間にか止まっており、ニタァと狂気の笑みを浮かべる。
それにハルダーたちは全く気がつかない。
百十八番は手に持っていた箸をハルダーに投げた。まるでクナイを投げたかのように飛んでいく。
危険種が混ざったことにより強力な体を手に入れたとは言え、全く変わらない部分も存在する。
例えばーー
「ぎゃあぁぁぁぁああああ」
「あっれぇ、どうしたのかな、ハルダー?」
「目がぁぁぁぁぁあ、クッソったれ、殺してやる、絶対に殺してやるぅぅぅぅぅ」
「あっそ、あんたは私からご飯を奪った。私から何かを奪うやつは全員敵だ。敵は誰であろうと皆殺しだ」
百十八番の狂気が、ハルダーたちに襲いかかる。一方的な虐殺。まだ適合できていない少女が化物になった子供たちを問答無用で殺していく。ただ力を持っただけの少年少女たちは抵抗も虚しく殺された。力がどれだけあろうとも、技術という武器を持たない少年少女達では百十八番を止められない。あたりは血に塗れ、研究者たちが止めに来るまで虐殺劇は続いた。
◇
「百十八番、お前はやりすぎだが、ハルダーを殺してくれたことにはありがたいと思っている。アイツは第一種という強力な危険生物に適合したのだが、言うことを全く聞かない失敗作だ。研究材料としてぐらいしか使い道がなかったが、まぁそれはいい。いずれ使い潰す予定だったものが壊れたに過ぎん」
暴走が止まった百十八番は白衣の男に呼び出された。ハルダーはまるで化物でも見たかのような形相で死んでいたという。
やってしまったのは百十八番なのだが、まさか感謝されるとは思ってもいなかったようだ。
どうやら失敗作は必ず死ぬ運命にあるらしいことを学んだ百十八番は従順に生きようと誓う。自分の主となる人の道具として命を使い切ることを。
「ところで、私の実験っていつ行われるの?」
「それはもうすぐ行われる。貴様に投与している薬が十分馴染んできたしな。これなら絶対に成功するだろう」
「そう、それは良かったわ」
「この際だ、貴様と適合した危険生物について教えてやる。そのほうがやる気出るだろう?」
「ちょっと気になるから教えて頂戴」
白衣の男は語った。今も伝説として語られている、太陽を奪った白き獣の物語を。
それは遥か昔の話。この土地には太陽の紋章を掲げる強大な国がありました。
その国は太陽帝国と呼ばれ、誰もが幸せ暮らせる夢のような国。
民は国のために、国は民のためにという言葉を掲げ、千年以上も繁栄しました。
ある日、一匹の白い獣が現れます。狂気にまみれた凶悪な獣に人々は恐れました。
太陽帝国の宰相は、獣を討伐するために軍を動かそうとしましたが、それを現皇帝であるハクレイ皇帝が止めてしまいます。
ハクレイ皇帝はたった一人で白き獣の元に行きました。そして目にしたものは傷を負って今にも死にそうな白き獣の姿だったのです。
心優しいハクレイ皇帝は獣に手を差し伸べました。
傷を癒してくれるハクレイ皇帝の優しさに白き獣は心打たれます。そしてある欲求が湧き出てきました。それは、独占欲だったのです。
白き獣は強大な力を使い、ハクレイ皇帝を隠してしまいました。
国の太陽というべき皇帝を失った民は、白き獣の行いに憤怒し、現状を嘆きました。ただ、白き獣の力が強大であることを知っているため、誰も助けようとしなかったのです。
そんな中、一人の少年が立ち上がりました。
その少年とは、神により祝福されし、金色を纏った勇者様でした。
勇者様は一人で白き獣を討ち滅ぼしましたが、ハクレイ皇帝が帰ってくることはありませんでした。国の太陽は白き獣によって殺されてしまったのです。
太陽を失ってしまった帝国は暗闇に染まってしまいました。
「だから、金色の勇者は新たな太陽として国を照らしました。そして、その国は永遠の繁栄をしていきましたとさ。貴様に適合した白き獣をモチーフにしたお話だよ。タイトルは『太陽を奪った白獣と金色の勇者』だったかな?」
「でも、それはおとぎ話なんでしょう。白き獣なんてどこにもいないと思うけど、それが私に適合したってどういうこと?」
「この話は実話なんだよ。詳しいことは解明されていないが、王都ルーデシアから少し離れたところにあるハーレリアという町に碑文がある」
「碑文?」
「ああそうだ。碑文にはこう書かれていた。太陽暦1032年、ウランダリアの記念日である6月7日。太陽を奪った白き獣を金色の少年が討ち取って、世界を新しく照らした。つまり白き獣は実在するのだよ。それに、白き獣はとある宗教では聖獣として扱われていたこともある」
「扱われていたってことは、今はないの?」
「まぁな。そんなものはとっくに滅ぼしている。そいつらから奪った聖遺物が白き獣の遺骸だ。お前はそれに適合したんだよ。喜べ」
「わ~い」
適当に喜ぶ百十八番を前に、白衣の男は呆れて苦笑した。だけど、胸の内では歓喜している。
この少女がどのような化物になるか、研究者として血が騒ぐのだ。
(さて、このクソガキは見境なく殺す化物になるか、それとも従順な犬になるか……実に楽しみだ)
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