太陽を守った化物

日向 葵

第四話~醜い主と新たな仲間~

 実験による疲労を回復させた百十八番は、サデス公爵の元に呼び出された。
 これから新しい部隊配属と名前の授与が行われるらしい。
 普段の様子から考えると、人を殺すことに特化しがちな百十八番は暗殺部隊に配属されるかもしれないと白衣の男は言っていた。
 白衣の男に連れられて来たのは、大きな屋敷。まるでお城のようだ。中に進んでいくと、大きな広間にたどり着く。
 周りには部下らしい者が並んでおり、広間の奥には玉座のようなものがあった。そこに一人の男が座っている。

「よく来たな。貴様が百十八番か」

 ほどよく太っているように見えて、かなり鍛え上げられた肉体が、服を着ているはずなのに理解できる。眼力も鋭く、油断ができない相手だ。
 そんな男がニチャリと笑いながら百十八番を品定めをするかの様に見てきた。
 百十八番はサデス公爵の視線に恐怖を感じる。

(あれはダメだ。私の中にいる白い獣も言っている。あれは絶対に太陽になれない。あれはただの化物だ……)

 百十八番は直感から主にしてはならないと感じるが、今は力が足りない。
 百十八番にはこの場を乗り切るために従順になるしかなかったのだ。

「はい、私が百十八番です。お会いできて光栄でございます、サデス公爵様」

「ふむ、なかなかに礼儀を弁えている。いいじゃないか! それに、見た目もわし好みだ。わしの雌犬にでもしてやろうか」

 ゲスな笑みを浮かべるサデス公爵を百十八番は気持ち悪いと思った。こんな主、ゴメンだと。いつか必ず殺してやる。こいつは絶対に害悪になると本能が囁いているような気がした。

「実験に成功した百十八番には新しく名をやらねばならんのだったな。うむ、そうだな……。ハクレイ、ハクレイにしよう。『太陽を奪った白獣と金色こんじきの勇者』の中に出てくる太陽帝の名だ。白獣に適合したお前にふさわしい」

「ありがたき幸せ。これからはハクレイと名乗らせていただきます」

「それから、貴様にはわしのもとで……」

「サデス公爵様。恐れながら進言させていただきます」

 いやなことを言われる前に、白衣の男が割り込んできた。ハクレイはありがたいと思って白衣の男を見るが、これまたゲスい顔をしていた。こいつはこいつで信用できない。

「ハクレイのやつはこれで殺しの才能があります。一時的でもいいので、あの部隊に所属させる方がいいかと」

「ふむ、こやつは実験に成功したばっかであったな。好みすぎて忘れていたわ、ははははは」

「はは、そうでございましたか。ですが、この才能を埋もれさせるのはもったいないですよ。私はバッソの部隊に配属させることを推薦します」

「そういえば、そんな申請があったな。あのイカれた集団か。それはそれで面白いな。誰か、バッソを呼んで来い」

「はっ」

 兵士が一人どこかに飛んでいった。それからしばらく待ったあと、兵士と一緒に一人に男がやってきた。

「なんだよ、サデス様。明日から次の任務があるっていうのによ」

「そう荒れるな、バッソ。貴様の部隊に新人を入れることになった」

「あぁ、新人だぁ。クソッタレめ。もしかして、そこのガキとか言うんじゃねぇだろうな」

「そのとおりだ。貴様、もう少し口の利き方をどうにかできんのか。お前以上に仕事ができる奴がいないから逃してやっていると言うのに」

「しゃぁねーだろ。俺はずっとこのままだよ」

「はぁ、お前と話していると疲れる。新しく入れるのは、白獣の適合者だ。それに、殺しの才能もあるらしい」

「それはそれで楽しみだな。おい、クソガキ」

「はい……」

「俺と一緒に来い」

 ハクレイはバッソという男に腕を掴まれて、その場をあとにした。



「ここは?」

「俺たちの部隊の兵舎だ。ここが俺たちの拠点となる。まぁ、お前は適合したばっかりだからな。当分は碌でもない研究所から通う事になる」

「そうなんだ。それで私はどうしたらいいの?」

「ここで待っとけ。明日の作戦について、今日話し合うことになっている。そろそろみんなが来る頃だ」

「一体誰が……」

 ハクレイが聞いた時、ガラリと扉が開いた。
 現れたのは、金髪とハゲと黒髪ツインテールに幼女だった。

「ニシシ、なんか知らない人がいるね。殺していいの、殺していいのかな! はは」

 幼女がいやらしい笑みを浮かべながら近づいて来た。ハクレイはこの幼女が気に食わなかったので、とりあえず殴っておいた。

「いってぇな、この***野郎が、ぶっ殺すぞ」

「口が悪い幼女ね。死んだら黙るかしら?」

 ハクレイと幼女がにらみ合う。幼女は武器らしいものをなにも持っていないのだが、両手からあやしげな気配を漂わせる。ハクレハは警戒度を上げて、隠し持っていたナイフをいつでも出せるようにした。
 そんな二人に、げんこつが降り注ぐ。

「いったぁぁぁ、何すんのよ、ハゲ!」

「バッソ隊長……痛い……」

「よくやったぞ、デル。このバカ共が、じっとしてやがれクソッタレ。この白いのは新人だ。名前は……」

「ハクレイ。白獣の適合者なの。だから死んで、死んでくれないかな、この幼女」

 幼女を敵と認識したハクレイはそれはもう、死ねという言葉を繰り返し続ける。
 そこに再び拳が落ちてきた。やったのはバッソだ。

「少し黙れ、新入り。そこの幼女は俺たちの部隊の仲間だ。喧嘩をするな。任務に支障が出るし、最悪の場合は俺たちも死んじまう。クソッタレ」

「ちょと、バッソ隊長! それは酷すぎでしょ! こんな可愛いレディーに向かって幼女はないでしょう。ま、私が喧嘩を売っちゃったからその子も荒れているんでしょうけど。仕方ないよね。初対面だし。私はパルミナ。毒と爆薬を生み出す第一種危険生物の適合者よ。暗殺とか、大爆発とかチョー得意。破壊して欲しいところがあったらいつでも言ってね。毒殺するよりも、大爆発を起こして派手にやったほうが面白いから! ね!」

「うん、それじゃあ、今すぐにあなたの頭を爆発してくれないかしら。それで気分が紛れるかも知れないし」

「ちょ、それって死ねって言っているのと同じでしょう!」

「そうとも言う」

「うがあぁぁぁっぁぁ、こいつ殺す。やっぱ殺す」

 同じような流れを繰り返して、ほかのものが呆れた表情をする。そしてまたハクレイとパルミナはゲンコツをくらった。痛みには耐えたが、瞳にはちょっぴりと涙を浮かべる。いくら危険種に適合したからといっても、痛いものは痛いのだ。

「うう……」

「バカやってんじゃねぇよ白いの。とりあえず自己紹介だ。ハゲ、お前からやれ」

「ちょ、隊長。ハゲって言わないでくだせぇ。ったく、隊長ったら……っぽ。いい責めよ」

 ハゲは顔を赤くして体をくねくねとさせる。どうやらそっちの趣味があるらしい。バッソの額に青筋が浮かぶ。

「俺はデルっていうの。もちろん、バッソ隊長を狙っているわ。そこの白いの。ハクレイだったわね。バッソ隊長を誘惑したら許さないんだから」

「そんなことするわけ無いでしょう。気持ち悪い……」

「気持ち悪いって、バッソ隊長に失礼じゃない!」

「……いや、あんたが気持ち悪い」

「ん~、その言い方、気持ちいわぁ」

 このハゲ頭のデルはドMでホモな巨漢のようだ。ハクレイは吐き気を感じた。
 気持ち悪くて口元を押さえていると、黒髪ツインテールが近づいてきて、胸ぐらを掴みかかってきた。抵抗しよとしたハクレイに、息を荒くして顔を近づけてくる。

「ヒャハ、てめぇ、マジイカしているじゃねぇか。白くて艶のある髪、ルビーのように綺麗な赤い瞳、小柄でほっそりとした白い肌。マジでうまそうだな、おい。私はルーイエってんだ。糞豚野郎共なんて放っておいて私と一緒に遊ぼうぜ。男だと味わえない、女同士の快楽ってもんを教えてやんよ。キャハ、キャハハハッハハ」

「……や」

「おいおい、つれねぇな。もっと楽しくイこうぜ。私なんてお前を見てから上も下もヨダレが止まんねぇんだよ。なぁ、そこにベッドがあるからさ。激しくヤっちまおうよ」

「……死ね!」

 ハクレイの渾身の拳が炸裂するのだが、触手のように変質した黒い髪がそれを止める。
 滑りとした感触に寒気がしたハクレイはバッソの後ろに隠れた。

「おっと、言い忘れていたが、私は触手の化け物の適合者だ。近づいたら美味しく頂いてやんよ、キャハハハ」

「……パルミナ。いつものを」

「は~い」

 パルミナはルーイエの触手を掻い潜って、首に「ふ~」と息を吹きかける。

「ひゃぁぁぁぁあぁぁぁ」

 するとどうだろうか。ルーイエは可愛らしい悲鳴をあげて、その場に座り込んでしまった。
 一体どうしたのだろうかとハクレイはバッソの後ろから様子を伺う。そんなハクレイに対して、パルミナが説明してくれた。

「こいつ、極度のレズで女とあれば襲いかかってきそうだけど、かなりの敏感体質なんだ。触手の影響らしいけど、私はよく知らないし。あと、これは意気地なしだから夜這いの心配はない。だから安心して」

「い、意気地なし言うにゃぁぁぁぁ」

「はいはい、あんたはずっとそうしてなさい。じゃないと安心してこの場所に入れないじゃない。いつ味方に襲われるか……考えただけでぞっとする。ハクレイ、私と手を組まない。こいつが襲いかかってきたら二人でぶっ殺してやろうぜ。ヒヒヒ、盛大に爆発させてやんよ」

「っち、クソッタレどもが。あんまり新人をビビらすんじゃねぇ。クソが……。グランディ、お前も自己紹介しやがれ」

 バッソに言われて金髪ことグランディが大きなため息を吐いた。ハクレイはビクビクしながらバッソの足にしがみつく。こいつもどうしようもない変態だと思いながら。

「やっと俺の出番っすか。バカ共が暴走するから待ちくたびれてしまったじゃねえですか。はぁ、俺はグランディ。普段はちょっとやんちゃなお兄さんだ。よろしく!」

「よ、よろしく……」

「ちなみに、俺はかなりのサディストだ。痛めつけることに快楽を感じる特殊なやつでな。拷問とかは任せろ。大得意だ。あと、痛めつけられたくなったら俺んとこにこい。最高の痛みを与えてやる」

 やっぱりロクでもないやつだった。ハクレイには主を見つけるという目的がある。だが、来てしまった場所はイカれた奴らが集まる場所だった。これでは主どころか身の危険すら感じる。
 警戒を強めるハクレイにバッソの大きな手が頭の上に乗った。

「そんなに怯えなくていい。最後に俺の自己紹介だ。俺はバッソ。暗殺兼殺戮の任務を専門に行っている部隊、フェルシオンのリーダーだ。俺の言うことはちゃんと聞けよ」

「う、うん」

「お前もここのルールを絶対に守ってもらう。俺たちは怪物を埋め込まれた人造の化け物だ。化け物は化け物らしく、命令に従い敵を殺す。任務は絶対に完遂させる。だが、それよりも大切なことがある」

「それは?」

「絶対に生き残ること。俺たちはクソッタレな場所に運悪く生まれちまったクズだ。だけどな、同じ境遇にあった仲間なんだよ。俺は仲間を見捨てねぇ。サデスのクソッタレやあの研究所の頭のおかしい連中を仲間だとは思ってねぇ。だが、この部隊の連中は違う。共に戦う仲間だ。一緒に過ごす家族だ。だから守れ、そして自分も守れ、その上で敵を殲滅しろ」

 バッソはハクレイの頭から手を離した。そして、その手をハクレイの元に差し出した。

「ようこそ、地獄の底、フェルシオンへ。俺たちはお前を歓迎する」

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