家族に愛されすぎて困ってます!

甘草 秋

49話 文化祭前日!



 月日は流れ、楽大高校校内文化祭前日。
 俺達のクラスの出し物は喫茶店。教室の5分の4を客が座るテーブルエリアにし、5分の1を調理場にした。
 メイド服も貸出済みだ。都内にあるメイド喫茶に申し込んだところ、快く貸してもらえた。
 文化祭前日とあってクラスの雰囲気は高く、みんな明日が楽しみなようだ。誰一人として準備を苦労と思わず真剣に取り組んでいる。
 女子とキャッキャッ騒いでいる男子もいれば、隅っこで一生懸命準備しながら女子との会話を楽しんでいる男子もいる。こういうイベントは恋が発展しやすい。あまり接しなかった異性と触れることで、「あれ?なんかこいつ可愛くね?」と思ったり、「なんか俺にだけ笑顔を向けてくるし、もしかして俺の事好きなのか?」と思ったりする。だが、期待してはいけない。女子にとって、笑顔で話すなんてことはただの優しさに過ぎないのだから。勘違いしてはいけないのだ。
 そんな異性との会話には一切参加せず、俺は俺の仕事をする。といっても、今することは終わっているので何もすることがない。だからこんなどうでもいいことを考えてしまう。
 なんか亜紀斗は明日が楽しみすぎて熱出して早退したし......子供かあいつは!

「はぁ......」
「あら、仕事がないの?」

 手ぶらな俺に話しかけてきたのはクラスの委員長、伊藤 奏さんだ。

「いや、あるよ」
「何の仕事をしてるの?」
「ぼっーとする仕事」
「え?......はぁ」

 俺の返答に心底呆れたようだ。

「近衛君。じゃあ......その、私の仕事手伝ってくれない?」

 何だかぎこちない頼み方だ。伊藤さんらしくないな。......ん、待てよ。伊藤さんらしいってなんだ?
 まあいいか。

「いいよ」
「あら素直。近衛君らしくわね」
「なんだよ俺らしいって」
「いつもぼっーとしてて、何考えてるか分かんなくて、人の頼み事なんか聞いてくれないかと思った」
「酷い偏見だな。俺の事をそう思ってるなら、頼み事なんかしてこなければよかったのに」
「そ、それは、その......」

 最近の伊藤さんはおかしい。この前の順位表で勝負したあたりからおかしかった。なんだか俺を避けているようで避けていないような、不思議な感じだ。

「とにかく!手伝ってもらうわよ」
「へいへい」
「私の仕事はこれ、メニュー表のデザインよ」
「デザイン?そんなの適当に花びらでも描いとけばいいだろ」
「駄目よ!全てを完璧にしなくては......!」
「そうですか」

 彼女はいつだって全力だ。

「近衛君。何かアイデアをだしてくれない?こう......1ー3のイメージにあう何かを」
「アバウトだな......」

 こういうのは俺には向いてないと思うが......。
 まあやることないし、考えてみるか。
 1ー3のイメージか............。
 俺は周囲の1ー3教室を見渡してみた。

「騒がしいとか?」
「イメージとしては合ってるかもしれないけど、それをどう描くというのかしら?」
「ですよね」

 意外と難しいな。

「でも、別に1ー3のイメージじゃなくてもいいんじゃないか?」
「どういうことかしら?」
「俺達の出し物はメイド喫茶店だ。ならそれに合うデザインにした方がいいんじゃないか?例えばメイド服とか、ティーカップとか」
「なるほど......でも、それだけじゃ物足りなくない気がするわ」
「なら、[いらっしゃいませ!]とか[ようこそ!]とか描いておけばいいだろ」
「......なかなかいい案が出るじゃない」
「お役に立てて光栄です」
「気持ち悪いわね」
「一発右ストレート頂きました」

 オブラートに包むとかそういう概念はないらしい。伊藤さんとの会話は難しいな。

「近衛君。その......ありがとう」
「どういたしまして」

 頬を赤らめながらお礼する伊藤さんに少しドキッとしたのは内緒だ。
 明日の文化祭が楽しみだな。



「家族に愛されすぎて困ってます!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く